すやすや眠るみたくすらすら書けたら

だらだらなのが悲しい現実。(更新目標;毎月曜)

日記;2022/09/01~12/31

 2022年の最終クールの日記です。美味しいところ{「オモシロ2時間ドラマは、"あるある"として笑われがちな断崖での事件解明にきちんと意味をもたせたり、"解決編"パートも犯人と現在時制で向き合う緊張感(犯人が口封じに探偵を殺す可能性)がちゃんとあったりするんだな」とか。ゲームプレイ日記とか}は通常更新サボリ期間中に抜粋をアップしたり、個別の感想記事として膨らませたりしちゃったんですが。

 ほかのの大きめの文章としては、首が痛くてしゃーなかった記録、円城×大樹(前島)ゴジラトークイベント見た感想(さすがにこれは配信公開中にアップすべきだった……ちなみにイベ等で話題が出た「季節の風物詩的に怪獣が訪れる世界での青春モノ」は円城氏が掌編としてカクヨムで発表したよ)、pdfとして公開された判決文に添付されたご当地アイドルの契約書・仕事スケジュール/プロデュース(法的にどうあれ、たしかにつらいな……/ビジネスよりか部活の部員&顧問的な関係なんだな)とかがあるかな。

 

 

 

8月末~9月半ば

 ■身体のこと■

  首の痛みとその対処(パソコンの高さを変え、背筋を伸ばすようにした)
   ▼現在はほぼ解消された

 9月末くらいには痛みもやわらぎ、解消されました。

 

    ▽翌23年1月半ば現在、問題が再燃しつつある

 ……と思ったが、自室のマクラを変えてみたり、勤務体制的にやむをえない職場仮眠室での連泊などにより、首や背骨にまた継続的な痛みを感じ始めた。

 

   ▼症状の経過と対処の記録

 8月末か9月頭くらいから、首とか背骨がいたい。

 はじめはてっきり、寝違えたり寝床のセッティングがうまくいかなかったり(週1~2度、職場に泊まる仕事をしている)しただけだと思いました。あるいは眠りすぎたとか。

 痛みとしてはあざとかの痛みという感じよりかは、寝違えたときの痛みだったんですよ、神経が圧迫されて傷ついているみたいな印象の痛み。

 姿勢をよくして、痛みをがまんしながら日中すごしているとだんだんと痛みがやわらぎ、寝ようとするころには元気になっていることがその印象をつよめています。

 

 でも、さすがに毎日就寝に失敗するってことは考えづらい。「これは寝違えとはさすがに違うんじゃないか?」と鈍ちんのzzz_zzzzでも思うようになりました。

 ねむりから覚めて、ベッドから上体を――というか枕から首を――離そうとすると痛みが走る。

 さいしょの数日はそれでもふつうに腹筋の要領で体をおこしていたのですが、痛みがつよくなってきて、最近(9月初め)では起こしたくなさが勝っています。

 クルリと回転してうつぶせになり、腕立ての要領で体を起こすと、痛みは軽微で済むので、最近はこの方法をとっています。

 

 枕の角度によっては、寝床についた段階ですでに痛い

「まさかヘルニアというやつなのか?!」と思いつつも「でも仕事の内容的に、いまは休めないんだよなぁ……」とポヤポヤ過ごしています。

 首を重力から解放せねばならないのでは、ということで、(足裏を壁につけて補助する)倒立をしました。これまで出来たためしがなかったんですけど、はじめてできた。

「おれに足りなかったのは、ちゃんと壁にぶつかるほどの勢いだったのか……」

 と感動しつつ、

「地面と平行に顔を向けるのは圧迫をつよめるだけじゃないか? 地面と鉛直にしよう」

 と頭を伸ばしたら、顔全体にすごい圧迫感がやってきて、「いやこっちのほうが首しぬのでは?」という思いがつよくなり、やめました。

 

 8月末

 メモり忘れたので症状を覚えていない。程度は不明だけど首の痛みをここではすでに感じていたと思う。

 

 0901~02

 とにかく首が痛い。日中も痛みをひきずっている。痛いので上体そらしどころか天を向きたくない。俯いたり横を向くのも痛みがはしる。

 猫背でパソコンにむかっているだけで痛いので、パソコンの高さを変えた。

 

 0905~06

 首と第七頸椎のあたり?が痛い。ひざ元のスマホを見ると皮膚(肉?)がつっぱる感じ。日中もだいぶ痛みをひきずっている。

 寝ているとき、横向き(地面に対して鉛直)になると痛みがやわらぐ箇所があるけれど、そうすると下敷きにした側の肩へ圧迫の痛み。アザ方向の痛みに加え、しびれる感じもある。

 

 0906~07

 0時過ぎに寝て、4時以降2度以上何度か中途覚醒した。首と第七頸椎のあたり?が痛い。起床時・仰向けのまま状態を起こすと痛み。

 

 0907~08

 0時過ぎに寝て、6時以降2度くらいは中途覚醒した。起きるたび、枕のかたちや背中のつっぱり感を覚えないようセッティングしながら寝た。

 首も第七頸椎のあたり?は痛みがやわらいだ。スマホをのぞいたときにつっぱる感じもすくない(。猫背になると、第七頸椎の頂点にテンションがかかる感じで、違和感はある。全体がつっぱる感じはない)。痛みを引きずっていない。肩の筋肉(=三角筋)の側面がじんわり違和感があるけれど、しびれなのか筋肉痛なのかわからん。

 中途覚醒時は仰向けの状態からそのまま上体を起こせるときもあったが、本起床は反転してうつぶせで起き上がった。

 

 0908~0909

 かなり快調だった。復活の日は近い。

 

 0909~10

 夕食後、ソファの手すりを枕にして20~23時過ぎまで寝てしまい、首が痛くなった。

 

 0910~11

 かなり痛い。日中寝たりして、夕方からふつうの頭痛。バファリンを飲んでその痛みは即やわらぐ(プラシーボか?) なんか首まわりもそこまで痛くなくなって、よくわからない。

 

 0911~12

 03時就寝~06時起床。すっと起き上がれ、にぶい痛みはある程度。ほぼ復活と言っていい。がそもそも就寝時間が短すぎるからなんだかわからない。

 

 0912~13

 01時就寝~07時起床。すっと起き上がれた。夜ごろスマホを見ると第七頸椎あたりがつっぱる感じ。ラジオ体操で状態をぐるぐる回すくだりをやったら背骨がぽきぽき鳴る。痛くはないがこわい。

 

 0913~14

 5,6時間くらい睡眠。仰向けから起床しようとするとちょっと痛い。起床後はたいした痛みなし。

 

 

 20230110

 自室のマクラを変えた。縦横3*3に区画分けされたマクラで、各区画の内容物を調整することが可能である。

 これは良いのではないかと思ったが、間違いだった。

 こちらが思い描く理想としては、頭をのせる中心を最底辺とする、なんかいい感じの凹型のかたちを求めたい。でも実際には3*3の9つの凸がならぶ焼き立て食パンの頭みたいな感じにしかできない。

 

 また、マクラの中身も厄介である。

 中心部を空洞とした円筒型の柔らかいプラ性ビーズで、手で押す分にはふにゃふにゃと良い感じなんだけど、じっさい頭をのせてみるとビーズは柔軟性をうしない、思いのほか固い

 仰向けで目をつむった段階でも、なんか血流がわるくなってる感というか、息が詰まる感じがあるのだけど、夜を明かしてみるともう、後頭部が正座を終えた素足みたいに痛い。(シビレ系とか、アザ系の痛み)

 

 マクラとマクラカバーの間に布製パッドをかませることもでき、それによってクッション性能をたかめることができるんだけど、そのパッドはもともとマクラの全体的な高さの調節用の代物。頭をつきだすように眠ることになる

 たぶんその結果だと思うんだけど、背骨の一部が妙に痛い。おそらく、頭を突き出すような形になったことで、体の中央がベッドに突出して沈む「く」の字型の姿勢で寝ているんじゃないか? 素人考えだから正解かどうかは不明だけど、なんにしても違和感と痛みがある。

 

 起床後も頭や首、背骨に違和感があり、とくに背骨は気になる。

 両腕を前後左右に開いたり閉じたり前屈したり胸を張ったり色々するとちょっとやわらぎはするんだけど、慢性的に「一個べつのテトリミノが挟まっちゃった」感「つっぱってる」感がある。

 デスクから立ちトイレまで歩くわずかな間でも、「骨と骨とが接触し神経が置かれてる位置を、いっときだけでも変えられないか」と体を左右にひねってみたりしてしまう。

 34歳になるキモータがいきなり『き★すた』のOPアニメの神社まえを歩くかがみんのマネをしでかすんである。それも頻繁に。いろんな意味で心配になる日々だDADADADA★。豚骨の神経系がBON-BONしないか心配だぜ。

 

 20230114~16

 勤務変更で、職場へ2泊3日のショートステイとなった。頭~背骨がさらにひどくなった。

 

 

0904(日)

 ■読みもの■

  岡田索雲『ようきなやつら』読書メモ

www.amazon.co.jp

 鎌を背負って東京を駆け抜け、一仕事おえれば家に帰ってきれいな奥さんと寝る充実した鎌鼬ライフを送っていたある日、家からいなくなった奥さんの後を追いかけてみたところ……ツイッターで話題となった鎌鼬(この日記を書いたときはまだwebアクションで全編無料公開中だった)……

comic-action.com

 ……にはじまり。

 クラスメイトの誰とも会話せず顔すら合わせず、休み時間を机に突っ伏してやり過ごす少年。かれのまえに椅子がことりと置かれた。担任教師が悩みを聞こうとやさしく座ったのだった。「放課後にわざわざ残ってもらってありがとうございます。今なにか困っている事はないですか? サトリくん」……グロテスクでシニカルながら、ちょっとコミカルな耐サトリくん」

 "おれ"は悩んでいた。一言に河童といえど劇画調の父、『黄桜』画調の艶やかな母と色々といるけど、頭に皿もなければ甲羅もない、頬にエラの生えたおれは、さすがに河童じゃねえんじゃねぇか?……ひとりだけ違った見た目の河童の「おれ」の思春期の悩みを描く血」(この日記を書いたときはまだwebアクションで全編無料公開中だった)……

comic-action.com

 ……ある日とつぜん箱に入ってしまった猫に対する「あるある」な無理解と反発を「私」が眺める欠」、このblogで過去に絶賛した告白劇落」(※ただしこの本収録バージョンは注意書きページ無し)

zzz-zzzz.hatenablog.com

「昔って言ってもそんな昔の話じゃねぇ」

 おじいとなった提灯小僧が、蚊取り線香がほぼ灰になった夏の夜長に聞かせる昔話・web配信限定の燈」、そしてコミックス書下ろしで収録作いくつかを束ねるかのような表題作うきなやつら」の7編を収めた短編集です。

 円城塔田辺青蛙トークイベントの田辺氏絶賛により取った『マザリアン』が面白かったので買った本です。いやはや……あと読者が一次ぶん広まれば、大森望編ベストSFアンソロジーに岡田索雲作品が収録されたにちがいない奇想SFで、すばらしかった。

 

 これまで物語の主役となる機会になかなか恵まれてこなかった者やものごとにそっと耳をすませる題材選択がすごい。

 ……なんて評判を見ると眉につばつけたくなるじゃないっすか。「いやぁ、あれとかこれとかもそう褒められてたけどさ、実際みてみたら、ただ取り上げただけにおわっている生焼けの代物だったじゃん」と。今作についてググってみると「作者の主張が云々」というようなその不安をいだかせるようなレビューも見かけます。

 でもzzz_zzzzとしては「すぐれた漫画作品としてきちんと料理されている」と思いました。

 

 今作へ難色をしめされた声として、「前半の作品はユーモア作品として読めたけど、後半の作品は重い・思想が前面に出てきびしい」というようなものがありますが、こういった声からして、「今作がいかに一冊の本として調整のきいた仕上がりとなっているか」がうかがえますね。

 『ようきなやつら』は、読み進めていくうちにとあるアクションやリアクションについてどんどんと深化や多層化が進められていく連作短編集なんですよ。

 たとえば箱の中に閉じこもってしまうもだれにも理由を言えず、溜め込みに溜め込んだ「猫欠」を読み終えたさきに、「ヤマンバ」マサリの告発から山が動く物語「峯落」が来ます。

 「峯落」は単体で読むとマサリについて「漫画的な表現・設定として体格にすぐれた豪傑」と思えこそすれ、とても妖怪だとは読めないわけですが、この作品のあとあきらかに現実の一時点・特定の舞台での特定のできごとをえがいた「追燈」がくることで、いよいよ「はたして今作で言われる妖怪とは何なのか?」ということがクローズアップされるわけなのです。

 

 各編に登場する妖怪たちは、『マザリアン』の混ざりものたちがそうであったように、この短編集に登場する妖怪はわたしたちの生きているのと同じ世界に足をつけている存在であり。

 そして妖怪とくくってしまうくらいに「わたしたち」から遠い異物/マージナル/少数派な存在であることもあれば、「わたしたちはこういった人も妖怪とみなしてきたのか」と反省するような存在であることもあり、さらには異物だということさえ隠されようとするような存在であったりもする。

 

 未読作のなかでとりわけすさまじかったのは「追燈」

 多量の文字/言語情報を、マンガという視覚優位の芸術においてどのように消化/昇華するか、という点で圧倒されました。

 ゼーバルト襲と文学』の議論を思い起こさせるような誠実さでもって題材にせっする作品なのですが――つまり現実をおもしろおかしく装飾するのではなく、現実のおもしろおかしさを直視するような作品なのですが――それでもなお、創作者・漫画家の創意の余地はあるのだと驚かされました。

 

 

0911(日)

 ■試し読みもの■

  『ファイトクラブ』俳優が現実の火付け役となった、人のモノ化(Uber

 qntm『Lena』と氏の自作解説を読んだことで、Uberのシステムがすごく面白いらしいと知り、積読本をくずしたり、あらたに本を試し読んでいます。

 

 Uberについてぼんやり「スキマ時間で小遣い稼ぎ」/「Uber専業としてやるのは大変」程度のイメージでいたのですが、なるほどそういうことなのか~となりました。

 行ける人がその時だけ手をあげる方式ということは、たとえばタクシー会社が正社員に支払う待機コストを無しにできるということであり、さらには週休2日などの休暇コストもまた同様で、年次有給休暇もブッチできる。

 Uberマッチングアプリを用意しただけで、Uberドライバーさんは個々に自主的にそのお客さんとやり取りしている個人事業主あつかいであり、つまり社会保険とか雇用保険、福利厚生もUberが用意する必要はないと。

 なかなかえげつない悪魔的なシステムですが、でもぼくがそうほんわか思っていたように、登場当初「旧態依然として汚いシステムを壊す、無駄がなく自主的で素晴らしいものだ」とみなされていました。

2012年、ロサンゼルス進出時の乗客第1号は、俳優エドワード・ノートンだった。ノートンは、「ウーバーの快適なライドのあと、シャービンと。ウーバーは天才だ。未来はここにある。世界で最悪のニューヨークのタクシーども、終わりの日は近いぞ」とツイートした。

   東洋館出版社刊、アダム・ラシンスキー著(小浜 杳訳)『WILD RIDE ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』kindle版試読ページにて

 WILD RIDE』の試読ページによれば、Uberの火付け役は俳優のエドワード・ノートン氏だったらしい。

 ググってみましょう。かれはUberを『Business insider』紙や『ニューヨークタイムズ』などで絶賛、人気TV番組『ジミー・キンメル・ショー』でUberをつかった企画にも参加したそうな。

www.businessinsider.com

www.nytimes.com

 市民社会への関心をふまえたうえで、Uberが都市にあたえた影響をいかがお考えですか?

  Given your interest in civic society,5 what do you make of the way Uber has affected cities?

 都市環境下にある車両ベースの交通様式は、渋滞や環境汚染や雇用体系といった課題に取り組む必要があるんじゃないかと? もちろん。でもニューヨークのタクシー・メダリオンシステムは明日にでもキャンセルされるべきでしょう。あれは平等主義じゃない。ドライバーにとっておそろしいまでに経済的です。空車をはしらせ、都市を汚染し混雑させます。「Uberは既存の交通機関の問題を解消しない」という考えはばかげてますよ。良くなる必要はあると? 絶対にあります。あなたも「ニューヨーク・タクシーに比べてライド・シェア・サービスの乗車体験が劣っている」だなんてけっして言わないでしょう。

  Does any form of car-based transportation within urban environments need to grapple with the challenges of congestion and pollution and the nature of employment? Of course. But the New York City medallion system should be canceled tomorrow. It is not egalitarian. It is terrible economically for the drivers. It drives empty cars around polluting and congesting the city. This notion that Uber is not an improvement off of where we were is absurd. Does it need to get better? Absolutely. But there is no way you can tell me that the experience of riding in a New York taxi is anything other than debased compared to ride-sharing services.

   ニューヨークタイムズ刊、David Marchese『The Disruptive World of Edward Norton (Published 2019)』{役は引用者による(英検3級)}

 閉塞した現代社会に生きる若者が現状の打開/自己破壊を目指す……というようなチャック・パラニューク氏の小説ァイト・クラブ』の映画版のメインキャストとして知られるノートン氏が、Uberについて喧伝したのは、なんともはや。

 

 

0910(土)

 ■読みもの■書きもの■英検3級■

  「訳文;qntm『Lena』」をアップしました。

 チャールズ・ストロス氏が最近のblogでほめてた、ウィキペディアのページ風短編小説を勝手に訳しました。2000ワード未満日本語にして6000字/15分で読めるサイズの作品として、中々おもしろかったです!

zzz-zzzz.hatenablog.com

 ウィキペディア風につづられても違和感のない、SFとしてもっともらしい世界構築のなされた文章を読み、そしてさらには『Lena』が参照したウィキペディアのページや情報をあたることで、現実のウィキペディアがおかしく見えたり、ひいては現実のみょうちくりんさに気づかされたりしていく作品でした。

 

 09/12現在すでに英単語や熟語、専門用語や固有名詞で勘違いや知識不足から来る間違いがあり、いくつか訂正しております……。

 ただ、精神的にはそれよりも、「てにをは」がおかしかったり誤字脱字があったりという、ただたんに自分が頭わるいがゆえに生じたシンプルな作文ミスに気づく瞬間がキツい。そんな瞬間がすでに多々おとずれました。ひどいもので、翻訳と関係ない、記事冒頭の時候の挨拶さえ誤字脱字がありました。

 

   ▼なんか「らしい」と思える社会設定ってあるんだろうな

 qntm氏の自作解説をよむに、Uberやらギグ・エコノミーなどによる一部のひとへの搾取にたいする問題意識が『Lena』執筆の動機のひとつだったようなのですが、なんか、「らしい」と思える社会設定ってあるんだろうな、という風なことを(いまさらながら)思いました。

・自主的に楽しい人生を送りたい

 ……というのがまず全員の目標で、階級の上のひとから順に叶えられる⇔叶えられない比率を変えて、各人の希望を達成したりしなかったりさせる構造ができれば、なんかそれっぽいものができるのではないか?

 

    ▽自主性(の称揚の陰の社保の省略)

 Uber――や、あるいは少し前の日本で「良いものである」として話題になった、契約社員派遣社員・フリーターなども?――素敵なワークライフを提示してくれます。たとえば「じぶんの好きな時間・形態で仕事ができる!」「残業など押しつけられた仕事はしなくていい!」のだと。

 でもそれは、安定した労働形態がないことの裏返しであったり、たとえば「いえ、あなたはわたくしどもが雇っている社員ではなく、対等に提携をむすばせていただいている個人事業主様じゃないですか」と法定時間を超える労働量にたいする割増賃金や年次有給休暇や産休育休などの社会保障・福利厚生をカットされたりする諸刃の剣であったりする。

 

    ▽効率化(による公私の領域/生活サイクルの変化)

 Uber的な労働について、労働時間が始業終業その長さなどが不規則であることによる生活リズムの変化があると思うのですが、ここについてzzz_zzzzはむかし読んだィクトリア朝時代のインターネット』で取り上げられた電信登場によるビジネス/生活リズムの変化をおもいおこしたりもしました。

 電信網完成時代の商人の愚痴は、生活サイクルが一変したのだということがよくわかってハッとさせられました。

 電信登場以前であれば数ヶ月に一ぺん出港帰港する自前の船の積み荷を確認すればよかったのが、電信があればその場その時で逐一確認できてしまうし、港に着く前から転売さえできてしまえる。(p.168)じぶんが可能であるということはほかの人も可能であるということで、夕食の一家団欒どきも顧客から商取引の連絡が突然入って対応しなければならない(p.169)……とか。

 

    ▽さまざまな「楽し」い「人生」

 「楽し」「人生」

 いろんなバリエーションが考えられますね。

 「やりがいがある」ということかもしれないし、「一度おぼえてしまえばずっとそれを生かしていける、楽である」ということかもしれない。

 仕事それ自体に「楽しい人生」を見出すひともいれば(仕事の幅がひろく学びがいのあるとか、部下を育てる手ごたえがたまらないとか)。仕事外にある「楽しい人生」が、この職形態なら可能である、というひともいるでしょう(余暇時間で家族とふれあえるとか、仕事でのツテが趣味に活かせるとか、仕事をすることが徳を積むとか次のステージに進めるとかなんか個人的信条を満たしてくれるとか)

 この辺の細部の揺れを組み合わせると、「らしい」世界ができあがる気がする。

 

(2023/03/28追記)

 訳文にたいしてアレコレ言う感想パートを書くにあたって、京自転車節』という、日本でuber配達員となったかたのセルフドキュメンタリー映画を観たいと思ったけど、公開終了して鑑賞叶いませんでした。それがいまなんと……

 配信開始されたとのこと。せっかくこうなったのだから観ようとおもいました。

 

 

 ■ゲームのこと■

  『十三機兵防衛圏』をプレイした(~0918完了?)

 『十三機兵防衛圏』は、評判のよいノベルゲームです。9月18日あたりまでで44時間プレイし、クリアしました。評判のとおり大変おもしろかったです。

 詳しいプレイ日記は以下の記事にまとめてあります。(ただしネタバレをおそれて、そんな突っ込んだお話はしてないです)

zzz-zzzz.hatenablog.com

 

 

 

0913(火)

 ■ネット徘徊■

  宣伝しないことが宣伝に;ニンテンドーUKの生配信中止が生んだバズ

 ゲームソフト・ハードメーカーである任天堂が、自社ハードの製品を直接コマーシャル・動画配信するンテンドーダイレクト」。9月13日の回は、NintendoUKだけ「国喪の時期を尊重して」英国圏での生配信を延期しました。

 それにかんしてさまざま疑問や批判、皮肉(「UKでしなかろうが、おなじ英語圏ニンテンドーアメリカで観りゃいいわけだが……」という)、はたまたコラージュ揶揄や……

 ……他ゲームハードとの対立煽りの薪となったり……

 ……していたようで、これらにぶら下がったリプライ欄を見るのは精神衛生上非常にわるい。

 今回の『ニンテンドーダイレクト』では、人気シリーズ《ゼルダの伝説》のなかでもとりわけ評判のよい『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』、その直接続編の正式タイトルと発売日が発表されました。

 『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』の発表ツイートは、たとえば日本の任天堂株式会社アカウント(@Nintendo)のもので直接&引用合計6.76万リツイートの9.7万いいねゼルダの伝説公式アカウント(@ZeldaOfficialJP)のもので計6.4万リツイートの12.1万いいねニンテンドーアメリカ(@NintendoAmerica)のアナウンスで計7.6万リツイートの18.4万いいねがなされました。

 これだけ話題となる情報を発信できなかったニンテンドーUK(ひいては任天堂は、おおきな機会損失をしてしまったのではないか?

 ……というと、実はそうでもないのかもしれない、と思わせるツイートを見かけました。

「待って任天堂がUKで『ゼルダ』新作をアナウンスしなかったってそんなの当然じゃん。

 『テ ィ ア ー ズ オ ブ ザ キ ン グ ダ ム(王国の涙/裂け目/分断)』だぞ無理」(私訳)

「マジか。ゼルダの副題『ティアーズ オブ ザ キングダム』が任天堂がUKで生配信をひっこめた理由か? 聲でたわ」(私訳)

kotaku.com

 新作のサブタイトル名とニンテンドーUK生配信中止をからめた個人のツイートが、なんと計1.27万ツイート18.8万いいね等を獲得しているのです。いいね数だけ見たら、公式発表より多いぞ!?

 で、なんか最初にツイートを見たころは公式よりちょっと少ない"いいね数"だったんですけど、書いた頃には超え、18:26では18.8万だったのが19:00では18.9万と、いまもなお数十分ごとに千単位で伸びてるっぽい。

 

 さすがに「不謹慎である」とかの批判をおそれたための真摯な中止だと思うのですが(まぁ、新作ゲームへ期待しただけで「うおおお王国の涙とか最高にクール! 興味そそられるわ!」とか「王国の裂け目が待ちきれないよ!」とか「王国の分断をはやく遊ばせ(プレイさせて)せてくれ!」とかになっちゃうんで居たたまれないですよね……)、その結果としてなんだか、現代の錬金術師として知られるかもリバー師が以前まとめてくれたような、現代SNSバズマーケティングのあらたな事例みたいになっているのが興味深いなぁとおもいました。

xcloche.hateblo.jp

 

 

0916(金)

 ■体のこと■衰え■下の話■

 ※閲覧注意※

  水に溶かした絵の具バケツ程度の、薄色サラサラの

 起きたら、上述のとおりの排泄状況となっていました。

 前日のかるい肉体労働により内臓の機能が落ちてたのか、それともスポーツ飲料水を(1本さえ普段のまないのに)2本飲んでその水分がおしりからでたのか、よくわかりませんが、日中もきゅるきゅるプスプスと(液体というか)ガスがおなかのなかを動いている感はあります。

 べつに、「がにまたとなって臀部の肉を寄せ、括約筋を締めに締めねば決壊する!」みたいなことはなく、その意味ではふつうの固形の排泄状況のほうがこわいのですが、

「オナラだと思って開いたらそうではなかった」

 という実績をついに解除しました。まじであるんだ……。

 前述した"最大瞬間風速の高くなさ"が、ぎゃくに真の危険性について誤認させる事態となりました。

 

 被害は自分の衣服内で完結したのが不幸中の幸いでした。

 

 

 ■考えもの■

  体系的な知的基盤・コミュニティに即していれば常識であることが(すぐ)得られないことは、独学の難点である一方、独学が快楽である理由でもあるのでは?

 たしかに初歩的で簡単なことであっても他者から適切な教示を得られず袋小路で立ち往生してしまうことは独学のつらい点ですが、それはそれとして独学がたのしい理由でもあるのではないかなぁと思いました。

 体系だった知識を積んだうえで、その最先端で正当に悩める人ってごくごく少数だと思うんですよ。望月新一さんの理論の正否とか。

 その一方で、因数分解で「こことここを括ると良い」程度のことは自力で思いつけたりするかもしれない。体系だった知識の所有者がなんの感慨もなく「当然」こなせる常識的・低難度の問題に、独学者は悩めたり解けたときに驚き喜べたりする。

 巨人たちが開拓し研鑽してきた「既知」の「当然」へどうにかこうにか地道によじ登って、スタートラインに立つ……そのアカデミアの人間にとっての修行の日々を、周囲の山が見えてないうえ足元に轍があることにさえ気づけない独学者はじぶんがパイオニアとして「冒険」する日々としてとらえられ、そこから「手ごたえ」や「生きがい」を得ることができる。

 テリー・ライス氏のblogで言っていたような覚えがありますけど、独学者はその快感にどうしてあらがえるというのでしょうか?

 

 

0921(水)

 ■書きもの■

  3ヶ月以上ためこんだ日記記事をアップしました

 5月半ばから溜め込んだ日記記事を、とりあえず夏の終わり8月ぶんまでアップしました。トゲトゲ鬱々した話が多くなってしまいましたね……。ネガティブな話題を出さないか否かについて判断がゆるくなっているからこそこういった感じになっていると思うので、まだ元気がないのでしょうね。

 

 いろいろ忘れて全く書き落としたことがあり、また書いたこともいろいろ抜けがあり、元気が出たらちょこちょこ加えていこうと思います。

{とくに全レビュー(的なもの)、聞いたポッドキャストの書き起こし/タイムスタンプ作成日記からほぼ順繰りに書いていったために、「あ、zzz_zzzzはここで力尽きたんだな」というところが明白で非常にはずかしかったので、アップ後もアップ翌日も追記・改稿しました}

 

 鯨井作品について文章を書いていたときは「紹介文を書くぞ!」みたいなつもりでおり、結果だいぶ迂回したお話になりました。なんか作者のツイートなど読むさいの補助線になりそうな周辺情報は記しているのに、肝心の作品については簡単なあらすじさえどこにもない……というすごいアンバランスな仕上がりに。すごい。

 空舟作品について文章を書いていたときはだいぶそういう目的意識が抜けており、結果として未読者の興をそぎそうな感想文的なものとなり申した。

 斜体でしるした(序盤の)あらすじは、基本的に元文章を抜粋コピペする感じでつくっているのですが、今回はだいぶこちらで弄ってしまったというか、色々すっ飛ばしてアクションの起こったところを起点にしたりしました。

 

 ■ゲームのこと■

  『デス・ストランディング』再プレイした(~1012完)

 序盤数時間プレイして積んでた『DEATH STRANDING』を再プレイしはじめました。

 115時間くらいプレイしてクリアし、10月12日に全施設の親密度をMAXにしたところで満足してやめました。

 たいへん面白かったです。不満がないわけではありませんけど、高い志とそれを実現する確かな手つきには感服するほかありません。

 作品に世界を丸々詰め込んでやろうというような「大長編SF」らしい大長編SFでした。

 詳しいプレイ日記は以下の記事にあります。

zzz-zzzz.hatenablog.com

 

 

0928(水)

 ■動画■

  vtuber『配信中に名前が出た食べ物しか食べられない3日間【1日目】』

www.youtube.com

 エニーカラー社の運営するバーチャルYoutuber団体にじさんじに所属する清楚な学級委員系vtuber月ノ美兎さんの動画です。

 なんでも、朝昼夕の各10分間のあいだに、同じにじさんじvtuberライブ配信をザッピングし、そのさい話題にでた食材や料理だけで生活する企画とのこと。

 

   ▼先行するオモコロの類似企画にくわわったゲーム性

 ネットの反響をあさってみると、「オモコロのパクリ」と下に見るひともいるもよう。しかし比較してみると「イヤけっこうちがくないすか!?」ってzzz_zzzzは思います。

 委員長の企画にあったような、食べ物について食事者にある程度の選択権と限界があり、その選択にリスク・リターンをあらかじめ想定できるようなゲーム性がある企画って、ざっと振り返った限りオモコロの【(任意の食べ物)しか食べられない】シリーズでは実はほぼ無いんですよ。

 委員長がオモコロファンであることは永田氏をゲストとして呼んで雑談したりなどしたことも記憶に新しいとおり、疑いようがありません。「ライバーにならなかったら、オモコロへ就活していたかもしれない」といったお話をされたこともあります。

 『【36種類】マブラに登場する「たべもの」ウマそうだから全部食う』がぼくには印象深いですけど、最近だとブンイレブン以外のブリトーを食べる日』のようなオモコロの【(任意の食べ物)しか食べられない】シリーズって、コレクション性・コンプリート性がつよいものなんですよね。

 オモコロのほかの「食べてみた」企画だと100面ダイスで焼肉食べ放題の食べるメニューを決めてみた』のようなランダム性があるものもありますが、ランダム性とゲーム性って似ているようでけっこう遠い。ダイスになってしまうと、食べる人の意志の介在する余地はありませんからね。(もちろん「1・6」の面が横になるようにして、「2・3・4・5」のライン)

 最新の企画『【画で食べていく】漫画に登場する食べ物だけで一週間生活チャレンジになると「どの雑誌を選ぶか?」など掲載漫画から予想を立てたりなどゲーム性がでてきますが、この記事の初出は10月7日と、委員長の動画公開(初回9月28日公開)とほぼ同じ。パクりようがないし、むしろ先んじてさえいる。

 

   ▼前後にひろがるライバー/配信の輪

 さて動画のリアルタイム視聴チャットでは、ごまやらが出たとき「あ~あの時の!」という旨の声がちらほら拝めます。

 どの時だよ? この時ですね。

www.youtube.com

 じつは委員長は先日、にじさんじのスタジオ内でホラーゲームを実況プレイしていた新人ライバー・海妹四葉ぴの配信スペースへ照明をカチカチ入り切りしながらサプライズ乱入、そこで「どうぞ」と有機いりゴマ(開封済み)を差し入れした……という、謎の接触をしてたんですね。

 文章にすると不審者声掛け通報事案と変わらないこの差し入れの正体、なぜほぼかかわりがない四葉ぴへ奇行をしでかしてしまったのかが、委員長のこの企画動画でついに明かされるかたちとなったわけです。まさか四葉ぴがじぶんで撒いた種(ゴマ)だったとは……(そうか?)

 ほかにも動画内で取り上げられたライバーさんが当時をふりかえっていたりするのですが、このへんの波及性はストリーマータイプの配信者ならよくあることで、なんならご近所の井戸端会議で十数年単位で行われていることですけど、そちらと違って追いかけやすいのは、ひとくぎりついた動画だからこそって感じがしますね。

zzz-zzzz.hatenablog.com

 委員長の最近の動画群については23年1月に個別の記事にしました。なので省略!

 

 

1001(土)

 ■ゲームのこと■

  『デス・ストランディング』再プレイ記⑦(~1012完)

 序盤数時間プレイして積んでた『DEATH STRANDING』を引き続き再プレイ中。

 10月12日まで計115時間くらいプレイしてクリアし、10月12日に全施設の親密度をMAXにしたところで満足してやめました。

 詳しいプレイ日記は以下の記事にあります。

zzz-zzzz.hatenablog.com

 

1003(月)

 ■ネット徘徊■知ったこと■

  中国では雲に雨は要らないらしい?

 「云彩」で「雲」のことを指すそう。へ~となった。

 

 

  vtuber受容層、まじで若返ってるっぽいぞ

 にじさんじも早5年。幕張メッセでの大規模イベント『にじフェス』も大盛況でおわったみたいです。

 光がつよければ影もまた色濃くなるもので、5ちゃんねるでもごにゃごにゃ色々なおしゃべりがなされています。

vtuber-matomeruyon.blog.jp

 まとめサイトでまとめられたレスの流れ、「厨房乙! 何が面白いの?!」AAまんまのシチュエーションで、「こんなまんまなシチュエーション、あるんだ……!」とワクワクしたのですが……

riceballman.fc2web.com ……それを言う人が5ちゃん内でさえ居ないっぽいのはすごいことですね。

 ワイらオッサンがvtuberのメインリスナーだった時期ってたぶん、バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさんのねこますさんが話題になっていた辺りだけで、メインの受容層はまじで若返ってるんですな。すごい。

 

 

1006(木)

 ■そこつもの■

  ケータイこれやはり壊れたのでは

 ここのところケータイのディスプレイ表示があやしかったのだが(真っ暗⇒電源入れ直し⇒バックライトの光量45%くらいが最大になったが使える)、ケータイを再起動させたら画面が黒画面から復帰しなくなってしまった。(視覚情報の出力がうまくいかないだけで、OS自体や入力デバイスは生きてるっぽい?)

 

 

1009(日)

 ■見た配信■

  Lateral/円城塔×大樹連司ゴジラ小説を書いてみて」(ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』刊行記念トークイベント)のネット中継をアーカイブで観ました

lateral-osaka.

 『ゴジラS.P』のシリーズ構成・脚本をつとめノベライズも著した作家の円城塔さん、ライター前島賢であり(『GODZILLA怪獣惑星』シリーズの前日譚)小説『GODILLA怪獣黙示録』シリーズの作家である大樹連司さんという、ゴジラ小説作家ふたりによるトークイベント。

 こちらがネット中継配信されていたので、チケットを購入しアーカイブ視聴しました。

 イベント前の宣伝的ツイート群で、怪獣とからんだドラマの難しさや怪獣小説の難しさを語ったうえで……

 ……と、大樹『怪獣黙示録』シリーズの美点を述べた円城氏。

 いっぽう大樹氏も、円城ノベライズ版『ゴジラS.P』について独自の美点を見出します。

 イベントでもこれらのお話が持ち寄られるんですけど、当日ではそこから、実はそれぞれアプローチの仕方が別角度であっただけで、おなじ関心事にたいする取り組みであったことがおぼろげながら見えてきます。その関心事とは……?

 イベントでのタイムスタンプとしては0:33:51~、「怪獣小説を書くには?」というお話をチェックしてみてください。

(そんな話だったかな? でもたとえ全然そんな話じゃなかったとしても、面白いイベントだったので、ぜひぜひネットチケットご購入してご覧ください)

 

 イベント中のほかにでた話題として、伊藤計劃ゴジラ FINAL WARS』を、はてなブログ伊藤計劃 第弐位相』当該ページをプロジェクタで映しながら語り合う……とか。(「プロットは『シン・ゴジラ』と重なってきもしますが、東京に核兵器を用意し落とすのがだれか、という点で正反対のものとなっている」)

 あるいはアメリカンコミックとしてさまざま出ている『ゴジラ』の紹介が円城氏からなされ、さらには……

「日本では、第一作の発表年代より遡れないレギュレーションが存在するのですが。

 一方、アメリカでは正規許諾シリーズでも、ゴジラが各時代の混乱に現れたり、ゼウスと戦ったりとちょっと緩そう」

 ……彼我のレギュレーションなどから考えられる、日米のゴジラ物に見られる違いなども話題に出されたり。また、チラッと小説版『モスラ』のお話なども出たりしました。

 『モスラ』についてトークで出たのは3人の競作で制作経緯が気になる、みたいなお話で以下のくくりには入らないんですけど、「日本のゴジラは政治性を帯びてくる(その色がより強い)」というようなお話が目立ちました。

(また『モスラ』も、劇中のデモとベ平連運動に注力した原作者のひとりとをつなげて考えるひとがいるくらいには政治的であったりする……というのを、円城氏が読んでいた『モスラの精神史』で知った)

 そこでzzz_zzzzは『ゴジラS.P』について「どうだったんだろう?」という疑問/円城塔ゴジラをやるという話から想像していたものとのギャップにたいする想いが再燃したりしました。

 主人公のひとり神野銘は大学院生であったり、もういっぽうの有川ユンは未踏事業の研究者であったり、さらには主役のひとりリー博士はTED的とも言いたくなるようなプレゼンを披露する巨大企業の研究者であったりなんだりするわけですが……

www.jstage.jst.go.jp

 ……円城氏がいぜんに専門誌で概観したような、現代の(といってもしばらく前の話題になってしまったが)研究者ほどにはツラそうではない

 あれだけユニークな『ゴジラS.P』の脚本仕事は、話を聞くかんじ、監督の指し示したこと(発注)に沿うよう物語を整えるイチ歯車としての色が圧倒的に強そうですが、「そうした方面で自分の色を盛り込もうという気持ちはもたげなかったんだろうか?」みたいなことを思いました。

 いや銘の道程は僻地に行ったり外国を転々としたり根なし草過ぎるフレキシブルなもので、

「銘が愚痴も言わず世界を行脚するのは、不安定な研究者生活で慣れっこだったからだよ」

 という背景があったりするのかもしれませんが……。

 

 円城氏による『ゴジラS.P』周りのトークは、複数の関連書籍・イベントで何度かお話しされた既知の情報を幹としつつ(鉄板トークと化した「『ゴジラ』は『メッセージ』にはならないですよ」、このトークイベント初出であろう未知の枝として、放送中に本職の科学者のかたがたからいただいたご意見のお話、最終話の「揚力を稼ぐ!」秘話などがちょっと具体化されてました。

 

(03/28追記)

 このトークイベントでも、過去のインタビューのどこかでも、円城氏は『ゴジラS.P』製作当初のブレストのなかで、「台風のように定期的に訪れる災害として怪獣をあつかう世界の青春モノ」を提案されたとお話しされているのですが……

kakuyomu.jp

 ……円城氏が小説投稿SNSカクヨム』で連載した掌編オムニバス『通信記録保管所』の44回獣の夏」において、その実作化というべきものを読むことができます。

 大きな大きなディエーゲーシスから、最後にふっとミメーシスへ。小説ならではの構成ではありますし、ぜんぜんちがう話だというのに『ゴジラS.P』を観ている感触にもかなり通じるものがありますが、たしかにこれはこれで観てみたかったな。

 

 

1013(木)

 ■本のこと■

  祝・パラニューク未訳作の初邦訳

 

 

1017(月)

 宿直明け日。

 

 ■観た配信■

  にじスプラ祭り

 大会主催の本配信もつけつつ、チーム18「ジェネギャ~」を中心に応援鑑賞しました。

 「ジェネギャ~」は、『スプラトゥーン』は前作からプレイのにじさんじ一期生のでろーん先輩こと樋口楓さん(ヒッセン遣い。中級者)にじさんじ3期生相当のにじさんじseeds出身の社畜vtuberの社築さん(ウデマエSの上級者で、今チームのインゲームリーダー)、夜見さん(中級者)にじさんじでは一番デビューが若いヴォルタクションのセラフくん(他FPSがうまく、『スプラトゥーン』は『3』が初プレイながらすでに強い)という、プレイヤースキルもついでにデビュー時期(ジェネレーション)も万遍ない(笑)、穴という穴がないメンバー。

 ウデマエ最高位であるXないしS+の超・超々上級者のいるチームにたいして総合力で挑むような、熱い試合が毎回おがめました。

 勝敗数こそ、8勝以上したチームが大半である今お祭りでは下から数えたほうが早いチームでしたが。でも、勝った試合も負けた試合もほんとうに最後までどっちに転ぶかわからない面白い試合ばっかりで、勝率のズバ抜けている四強とたたかって3チームに勝てたのがその証拠でしょう。

 20余のチームのうち十数チームの実力が拮抗している(と言うのが甘い観方だとしても、もっとシビアに見ても「一発勝負なら全然ワンチャンある」)バランスになっているイベントは珍しい。

(もっと負けが込んでるチームを応援していたかたからするとまた違った印象をもたれるのかもしれませんが……)

 

 なかでも、長時間練習した「ひきにく組合」とのラストバトルが熱かったですね。

 「ひきにく組合」は、シリーズ前作でウデマエS+の超上級者で社さんと同期のにじさんじseeds出身・花畑チャイカ氏をリーダーとして、既プレイヤーで箱内大会でも活躍してきた中級者・にじさんじ二期生の夕陽リリさん、前大会で紆余曲折ののちオフロとしてがんばったレヴィさん、他FPSの上級者だけど『スプラトゥーン』は初プレイのKR出身ハユンくんというメンバー構成。

 先日の段階では、ハユンくんがまだ持ちブキも決まっていないどころか初プレイするルールもあり、連携がまだ噛み合わず、とくに序盤は負け越しが多かった。それも終盤では光明が見えてきたけれども……という感じだったのが、お祭り本番では「ひきにく」が終始押せ押せの大熱戦!

 

 

1023(日)

 ■書きもの■読みもの■

  実際アレなことを言ってたらしいブラッカイマー;Brad Elward『TOPGUN THE LEGACY :The Complete History of TOPGUN and Its Impact on Tactical Aviation』の映画トップガン関連部分読書メモ

 アメリカ海軍のエリート戦闘機パイロット養成機関トップガンの通史書です。

 映画『トップガン』の制作・公開についても一項あり、そこを読みました。

 だいたいはビデオの特典映像と、撮影に参加したトップガンのひとりデイヴ・バラネック氏の回想記、ググれば出てくるネットへアーカイブ公開済みの各メディアの記事をソースにしてたり重なったりする内容でした。

 

 さてzzz_zzzzはトニー・スコット監督『トップガン』の感想記事を以前書きました。

 その記事内で、既存の『トップガン』評もある程度ふりかえって総括したのですが、そのとき……

岡田斗司夫

「格納庫とか戦闘機をここに並べるのはなんでかっていうと、"観客ってのはバカなんです"と。"ハリウッド映画を観に来てる観客ってのは知能指数60くらいだと思ってください。だから、これがなんの映画かときどき見せないと忘れます"(略)って(映画スタッフから)言われて、もう海軍はびっくりですよ。"えぇそんなんなの!?"っていう風に驚くわけですね。

 まぁ"それがヒット映画のつくりかた"と。(略)"観客の知能指数――100だとか――上げれば上げるほど観るひとの母数が減ってくんだけど、下げれば下げるほど移民でまだ英語を話せないひととかそういう人もふくめて映画を観に来てくれる。だから大ヒットしたければこういうことを絶対わすれちゃだめです"と言ったんです」

   Youtube岡田斗司夫アナと雪の女王2とトップガン オタキングの10倍面白くなる映画講座 岡田斗司夫ゼミ#418(2021.11.14)0:36:23~(略は引用者による)

 ……オタキング岡田斗司夫さんによるレビューを引用紹介し、

  • 「IQが云々」と関係者が言及したものをzzz_zzzzは見つけられなかった。
  • (少なくとも無料公開部分においては)岡田氏の発言についてソースが未提示。
  • 「脚色」を「ウソ」と言うセンセーショナリズムがある。

 について触れました。

 いまだに「IQ60」云々といった言及をzzz_zzzzは拝めてないのですが、それらしい情報を見つけられました

 TOPGUN THE LEGACY 』p.258で、映画のテクニカルアドバイザーをつとめたピーター・"バイパー"・ペティグルー退役少将へ2014年2月2日に取材した(=p.611脚注より。)Brad Elward氏は、かれから以下のような証言を得たのだそうです。

ペティグルーは言った。「(zzz_zzzz注;トップガン用の教室があるというのに、マクギリス演じるチャーリーが格納庫で講義する)現場に立ち会って見た教官のだれもがこう言いました。"俺たちが見た中でも一番ばかげたシーンだ"と。」455「けれどジェリー・ブラッカイマーはこう言うんです。"いや、いやいや、このシーンを教室で撮ることはできないよ、だってオクラホマの"ママとパパ"は教室シーンが嫌いなんだ。格納庫(ハンガー)のなかで、それも大きな星条旗F-14が背に見えたり、A-4が前に見えたりするところで撮らなきゃならない。そこであれば彼らもまだマシだと思ってくれ、このシーンを受け入れてくれる"と」456

  Pettigrew said, “All the instructors are standing around and looking at it and they are going, 'This is the stupidest thing we have ever seen." 455 “But Jerry Bruckheimer said, 'No, no, no, we can't do it in the classroom because ‘mom and pop' in Oklahoma hate classroom scenes. We've got to do it in the hangar and show a big American flag behind them, an F-14 behind, and an A-4 in front. So while we gave them a classroom scene, they will think it is still fine and they will accept it.”456

   Schiffer Publishing(2021年刊)、Brad Elward『TOPGUN THE LEGACY :Ther Complete History of TOPGUN and Its Impact on Tactical Aviation』p.285、「PART Ⅲ THE LEGACY EVOLVES」CHAPTER 9 The 1980s: The Heyday of TOPGUN、「Top Gun...the Movie」より

 ということで、追記しました。

 時代をくだった現代での回想でこれなので、岡田氏がそう言った根拠となるソースもありそうな気がします。見つけたらさらなる追記をしたいと思います。

 

 

1025(火)

 宿直明け日。

 

 ■観た配信■

  vtuber『性癖食わず嫌い王【月ノ美兎 VS アンジュ】』

 エニーカラー社の運営するバーチャルYoutuber団体にじさんじに所属するバーチャル学級委員長・月ノ美兎さんと、錬金術師系vtuberのアンジュ・カトリーナ氏が『性癖食わず嫌い王』で対決する動画を公開したので、観ました。

 フジテレビ往年の人気番組んねるずのみなさんのおかげでした』の定番企画「食わず嫌い王決定戦」。

 ゲスト2人がそれぞれ食べながら紹介する「大好物の料理」のなかには実は、食べるのも嫌な代物が一品だけ紛れ込んでおり、相手の「食わず嫌い」料理がなにかを推理し当てる……というトーク&グルメ企画です。

 『性癖食わず嫌い王』は名前のとおり上述の人気企画をオマージュした企画で、料理の代わりに今晩のオカズで対決します。

「バキバキ童貞です」

 のインタビューで知られるタイタン所属のお笑いコンビ"春とヒコーキ"ぐんぴぃ氏ら発案・アップした同名の企画を、月ノ委員長とアンジュ氏がやってみたのが上の動画。

zzz-zzzz.hatenablog.com

 委員長の最近の動画群については23年1月に個別の記事にしました。なので省略!

 

 

 ■読んだもの■

  福島鉄平『放課後ひみつクラブ』1・2話読書メモ

shonenjumpplus.com

 掛け合いがとにかく楽しく、スラスラと読めてしまうすごい作品。

 

 登場人物たちの行動的な意味で言えば、「動いているけど動いていない/動きがすくない」、オフビートな感じに思えるんですよ。

 2話最後の猫田くんによる気づきからすると、この劇中世界にはなにか大きなひみつがありそうなのですが、もし今作の焦点がそこにあるとすれば物語には遠回りや足踏みがある。

 数十ページあった第1話の最初に提示された謎がいったん(まるで無かったかのように)棚上げされて、第1話後半は別の問題(=新聞部の報道内容が一極集中過ぎる問題)が大きく取り扱われ、第2話で数十ページかけて最初の謎について再言及・一問目が紐解かれて……みたいな進行となっています。

 

 1話・2話は、世界のひみつへなんとなしに向かっているらしい主役ふたりの掛け合いが大部を占めるわけなのですが、そのやりとり自体は読者(つまりzzz_zzzzぼくのことです。お前にとってどうかは知りません)の想像を超えつづけるところがあって、大枠の雰囲気はゆったり優雅なのにきびきびと新鮮であり続けるような魅力があります。

 

***

 

 メモを取らないまま月日が流れ、体験したはずのものごとについて記憶がどんどん抜け落ちていく今日この頃。

 最近感銘をうけた一言は、にじさんじ所属の内気でまじめな皇女系バーチャルYoutuberのリゼ・ヘルエスタ殿下から「(箱内の巨大イベントでリゼさんだけが指名をうけた)実況解説、二人でいっしょにやりましょう」(ネタで)誘われた椎名唯華さんが、「当日になったけど連絡こんなぁ? おかしいな?」と自身の雑談配信で(ネタで)首を傾げたさい、リスナーから出た「社交辞令やぞ」にたいして、「くっそ~」とうなだれながら言った、

「社交辞令かよ~……社交あったんかよ(リゼに)……」

 なzzz_zzzzです。ショックなポイントそっちなの!?(笑) 面白い人は何気ない会話さえ面白いな……と隔たりを感じましたわ。

 

 今回の話題は、BS12で再放送してた2時間ドラマ。(このシリーズの再放送がおわった翌週から、黒沢清の『勝手にしやがれ!』シリーズを流してて驚いた。そちらも録画し忘れた)

 火曜サスペンス劇場の一作で、水谷豊主演だというのにどうにも未DVD化作品らしく、再放送される機会があったら逃さず録画してみたいし、有識者の感想とかを聞いてみたいので、未投稿の日記記事から抜き出しました。

 

1027(木)

 ■観た映画■

  ドラマとして/映画として面白いロジックやトリック;(TVM)森崎東監督『朝比奈周平ミステリー4 木曽路殺人事件』最後30分くらいチラ観する

 それは何ですか;

 火曜サスペンス劇場枠のTV映画。原作小説などはない、番組オリジナルシリーズですが、同枠の内田康夫原作【浅見光彦ミステリー】シリーズと制作陣(制作;近代映画協会、脚本;岡本克己、音楽;佐藤允彦や主演(水谷豊)など重なるところが大きいんだとか。ルポライターのアサミにたいして今作のアサヒナはフリーライター……なるほどたしかになぁ。

 『木曽路殺人事件』が4作目で、1~3作目を監督した出目昌伸さんから森崎東さんへ移って最初の作品。森崎監督の、というか、朝比奈周平シリーズはこれを最後に続編こそ無いみたいですが、最後30分観るかぎりかなり面白かったです。

 トリックも推理劇も楽しみましたが、zzz_zzzzは何事にも疎いので、オリジナリティについてはわかりません

「いやこれ、ミステリ界の後発は使いたくても使えない、黄金期の金字塔が活かして見せた王道も王道なんだけど……」

 みたいなことは十二分にありえそう。

 

 記憶をたよりに書いているので、実際の原版と著しくちがう点もあるかと思いますが、ご了承ください。

 

 観た感想;

 スタジオシステムなんて崩壊して久しいと聞く、90年代初頭のテレビドラマ。それも、「チャララッ! チャララッ! チャ~ラ~~ッ!!!」というあのメロディでお馴染み火曜サスペンス劇場ですよ。

 すべてのものごとを斜に構え、なにごとも舐めてかかるzzz_zzzzは、この枠についてもやはり「数十分たつごとに"これまでの顛末"振り返りシーンがあるような、"ながら見"できる番組なんでしょ?」と鼻でわらって偏見たっぷりに敬遠していたのですが……

 ……いやはや、食わず嫌いはよくないなと反省した30分でした。

 最後の30分しか観れてませんが、その限りにおいてはかなり面白かったです。

 

 たまたま見た探偵仕事シーンが、「おっ!」と"映像として面白いアクション"だったんですよ。

 意味深ななぞの言葉をのこして死んだ被害者の所持品だろう新聞紙をよく見ると、ごく小さな枠が切り抜かれている。同じ号を取り寄せて、切り抜かれた記事を探す。すると真相究明の糸口が……!

 という探偵仕事シーンを、今作『木曽路殺人事件』では、遺品の新聞紙を虫眼鏡(というか覗き穴)にしてキレイな新聞紙を見やり、欠落個所と突合させる……! というかたちで映します。

 もっともっと言語に頼って当然だろう展開はどうでしょうか? 過去おこった混沌にたいして、一定の法則を見出す探偵・推理シーン。

 これもまた、劇中現実外の編集作業で分かりやすい見取り図やテロップなどをつけたりするのではなくフリーライターである主人公が劇中世界のパソコンでテキストアプリをひらいて、そこへ時系列順にできごとを直接タイプしたうえで、被害者の「意味深なことば」もまたタイプする。そのことばをひとつの法則としてとらえたうえで、それに則りできごとを書き直す……という、劇中現実での光景となっていて、なかなか好きな演出でした。

 

 大ネタのトリックも、きわめてシンプルなロジックで説明できるうえに映像として映えるもので、しかも明暗のきいた事件現場のビジュアルと噛み合って、とてもよかった。

 名作ミステリと云われるもののなかには、zzz_zzzzが楽しむには難しいタイプのものもそれなりにあるんですよ。いわゆるパズラーと称えられたりする類のなかの一部の作品がそれでして、自分のペースで好きに読める文字媒体でさえややこしく思えてしまったりする……。

 作り手やそれを名作と捉える読者が力を入れているであろう、複雑な論証の数々について、ぼくは「なんか複雑で凝ってるらしいのはわかるけど、あまりに複雑すぎてどうでもいいや~!」となってしまう(苦笑)

 今作のトリックはそういった気持ちにならず楽しめて、スッキリと非常に良いなとおもいました。

 

 さてぼくにとって2時間ドラマの3大舐めポイントをあげるとするならSE、ここまでの物語振り返り説明シーン、そして断崖絶壁なんですよ。

 

   ▼映像映えするトリック

 『木曽路殺人事件』もまた、"2時間ドラマといえばココ"という「落としてくれ」「身を投げてくれ」と言わんばかりの断崖絶壁であやしい人物と会話したりするのですが、そこはぜんぜん興ざめする要素ではありませんでした。むしろ興奮しました!

 今作ではそうしたロケーションに物語的必然性がきっちり設定されていて、逆にドラマへのめり込む一要素となったくらいです。

 

※ここから犯人や被害者などを全部ネタバレしていきます※

 

 犯人は土木会社の一代社長で、学生時代は陸上選手として有望だったけれど、同級生の小細工によって負傷、走るのはおろか歩くのもぎこちなくなるほどの後遺症がのこり、夢を絶たれた過去がある。

 土木会社はなかなか立派だけどいばらの道で、甘い汁を吸う別会社のインテリなどもいる。社長は過去にじぶんが受けた小細工を転用した「事故」でインテリを排除していくことにした。

 警察も探偵でさえも意図に気づけない「事故」は、ひょんなことから破綻する。

 新聞でなつかしい名前と証言を読んだ同級生が(過去に自分がしでかしたことなので)「事故」の真相に気づいてしまったのだ。

 同級生は社長へアポイントを取る。社長へ、過去に対する謝罪と、現在に関する説得を試みるために……

 ……というのが前~中盤のゴタゴタの真相として、終盤の事件解決パートで語られます。

 犯人の重用するトリックとは?

 「このさき崖・足元注意!」の看板をズラして置くことで、そこを通る歩行者の目を欺き、高所からの滑落を誘うというものでした。

 道などをつくる土木業界で働く人物がおこなうトリックとして妥当だし、映像的におもしろくって、そこが感心しました。

 発端となった、ランナーであった少年時代に被害者として体験した「小細工」、その木漏れ日さす昼の野山のもようも。大人になった社長が、こんどは加害者として他者を嵌める、夜の工事現場でのもようも。どちらもそれぞれ単体で完成されているうえに、全体を*1かんがみたとき両シーンは昼夜でコントラストをなしていて、そこもまた素晴らしいのですが。

 なにより迫力ですね、迫力。

 ロケーションの作りこみがしっかりしていて、落ちる人の驚愕する顔のアップなどを挿しこまず、引いた位置からとらえる演出が素晴らしく、背筋の凍る叙事的な迫力がありました。

 黄色い工事用照明が点滅する夜道を、スーツを着た人が歩いていき、看板を見て進路をすこし変えつつ更に直進をつづけていくと、ふと真っ黒の夜の闇に吸い込まれて見えなくなる……

 ……けっこうな高所のカメラでもって俯瞰する構図によって映された、ドラマのセットにしてはかなり大きい、現実のロケ撮なのではないかと思われる(文字通り)奥行ある「街並み」から、人の姿が足から頭まで丸々すべてカットを割らずに暗闇へ落ち消えていくさまは、事故映像の質感にちかく、無常感に満ち満ちてゾッとします。

 

 そして設定として妥当だし、映像的にも面白く、そしてさらには、「ランナーが滑落する」というログラインの面白さにとどまらない、物語の背骨となるような連関を築いていて凄まじい。

 とりわけすごかったのが、文字どおり「道を踏み外した」「足をひきずり歩くようになった」犯人が、”アスリートとして正道を進みつづけていたら、もしかしたら自分がそうなれたかもしれないな"って反実仮想として採用されたイメージの妙。元ランナー・現土木会社社長である犯人が、憧憬と悔恨をそそぐ表舞台「東京オリンピック」の光景は、ひとびとが整然と歩く開会式の入場シーンなんですよ!

 ふつう想像する「挫折したアスリートの憧憬先」って、「1位のゴールテープを切ったりワールドレコードを記録したりするアスリートの躍動」じゃないですか。今作はそういう月並みな展開に頼らないんですね。

 上のシーン群は映画的・ドラマ的に映えるうえに、(映像的技巧のためのムリヤリ展開ではなく)もっともらしい筋道でもあって、犯人が夢を絶たれたあと土木へ進んだ経緯を、

「アスリート一本で勉強は得意でなかった、そのため土木業界しか就職先がなかった」

 と告白するところは、役者の熱演もあってつらい。

「選べないなんてことは無いのでは?」

「そりゃ今はそうなのかもしれないが、あの当時は学歴実績だけが物を言っていたんだ。土木の世界だって、陸上しか知らず右も左もわからない馬鹿につとまるものじゃない。先輩や親方から怒鳴られどおしだ。いまこうして社長としてここに立っているのだって、決して平坦な道ではなかった……」

 回想が明け、老いた社長は街並みを見やりながら、建設途中のビル現場で声を荒げる。社長の見やる現代の街並みは夕日で赤く染まって、整然と歩くひとびとのスーツがあたり一帯を赤く染めたあの思い出の開会式にも似た色合いだが、工事中の枠組みがフレーム・イン・フレームとして彼我を分かつ。

 この経緯単体ではクリシェとみなすかたもいらっしゃるかもわかりません。

 ですが、ほかの物語と密接に絡んだ映像として見せられると、そう軽くとらえられないすごみがあります。

 

   ▼謎を解き犯人に近づくことがむしろ距離を混沌を生む

 探偵の推理はすすみ、同級生と再会・密会した近過去について社長が告白します。

 同窓会の時分に社長と密会した同級生は、かれに謝罪と説得をします。

「やってしまったことが重くないとは言わないが、でも自白すれば罰は軽くなるはずだ」

 説得は実利的で具体的な検討となっていきます。

「どのくらいの刑になるかは受け取られ方次第だな、つまり"未必の故意"となるか……」

 この説得自体、ただただ素朴に良心へ訴えかけるものではない、犯人にとって益を提示するような面白いものだと思うんですけど、上のバックグラウンドとからんでより一層おもしろい方向へ料理されていきます。

「未必とは?」

「"未だ必ずしも発生するわけではないが、起きてしまったらしまったで構わない"というようなことだ」

漢語か。おまえは昔から得意だったな」

 懇切丁寧に説明されたがゆえに、彼我の隔たりが如実になる。勉強のできない自分がこの道しか進めなくなってしまったのは、いったい誰のせいなのか?

 過去にやられたことの転用だから、素直に受け取れなくなる。

「おれのやったことが"未必の故意"だと。……すると、お前がおれへ仕出かしたあれも、"未必の故意"だというのか!?」

 同級生は、激高した社長の手で、故意に断崖絶壁から落とされてしまう……

 ……という具合に、説得劇は転がっていってしまう。

 

 さて、伏せられていた謎が解き明かされていくカタルシスは、ぼくには十全に味わえません。

 それは作品の出来不出来に起因するものではなく、鑑賞者の問題で。つまり、zzz_zzzzが最後30分しか見ていないために、通し鑑賞者であれば積まれているべき布石が積まれていない……という単に物理的な問題に起因しますが、そんなぼくだというのにそれでも『木曽路殺人事件』からまったく目を離せませんでした。

 前述の同級生vs社長がそうだったように、探偵vs社長でもまた「謎の解明」以外のドラマが展開されているからです。

 ふたりの問答が行なわれている建設途中のビルは、目隠しのフェンスをくぐって、「足元注意!」の標識を横にズラして奥へ進んださきにある高所なんです。その高さは、一点透視的アオリ構図で天までつづく骨組みが映されることによって強調されもしていました――そう、それまで語られてきた犯行現場と同様に。

 そして探偵が対面しているこの社長。かれ殺した相手は、会社にむらがるハイエナ的なインテリとか、逆鱗にふれたあの同級生とかだけじゃないんですよ。社長は、そのあと第三者を口封じで手にかけています

 つまり木曽路殺人事件』の真相解明パートは、べつに探偵をここで突き落としてみせたって全然おかしくない殺人常習犯とふたりきりで行われるわけなんですね。そして真相が解き明かされていくごとに、

この探偵って、理に訴えかけるインテリであり、育ってきた環境もちがって認識に隔たりがある……つまり社長が悪意を募らせてきた被害者と似てるじゃん!」

 ということが分かっていき、事件が解決に向かうどころか新たな混沌への道がどんどん敷設されて緊張がキリキリひりひり張り詰めていくという、事態がどう転ぶのかなおも読めない、活きたドラマとなっています。

 

 ただただ素朴に謎を解き明かしたところで、同級生がそうであったように、社長を止める手立てにはならない。そんな八方ふさがりの状況で、どうすればいいのか?

 

   ▼「犯人と断崖絶壁で会話する」。お約束じゃなく、一人の人間の取る選択として

 社長が同級生を手にかけた近過去を聞いた探偵は、ここでそれについて「待った」をかける。

 そして自分がつきとめた推理を、同級生の足跡を、もういちど検討します。

「ぼくはさっき、同級生の意味深な言葉からこう読み解いてあなたを犯人と決めました……しかし改めて考えてみるとそれは早合点でした。パズルのピースは同級生の事件も含まれるんですから。

 その時点では起こってない事件、しかも加害者となる人物でさえそうするつもりのなかった構図。その構図を見出したこの同級生とはなんなのか?

 ……そう考えていくと、同級生は説得するためにあなたと(あそこで)会ったんじゃないのではないか。より正確には、あなたに殺される(かもしれない。殺されるなら殺されるで、それはそれで構わないという)つもりで"あそこ"で会ったのでは? そちらのほうがしっくり来ます」

 探偵の推理によって、あの「落としてください」と言わんばかりの断崖絶壁でおこなわれた説得劇が、まさしく呼び出した当人もそのような舞台と承知のうえでそこを選んだ懺悔劇・未必の自殺劇として再解釈されます。

 社長の意図を読むこと=社長の作為や殺意をあばくことによって社長と同級生の断絶さえをも掘り起こしてきた作劇は、ここにきて、同級生の真意を読むことへと視点をずらし。そして、ともすれば冷たく聞こえもした同級生の真意はなんだったのか、社長に対する歩み寄りの真実性を見出します。

 

 探偵の推理をきいた社長は、うなだれ、ビルを後にする。階段を降りようとして足をもたれつかせるも、探偵に支えられた社長はかれへはにかみ、そのまま肩を抱かれながら下っていく…… 

 ……と、そんな具合に事件は収拾がつけられます。

 欺くためのブラフでもなければ口だけの建前でもなく、社長がじしんの罪や不幸な境遇を受け入れたことをこのちょっとしたアクションによって描いてみせていて、非常によかった。

 

***

 

 こんな具合にとても楽しんだわけですが、未DVD化作品なのは悲しんでいいものか喜んでいいものか。

 

 終盤の、事件と関係のうすいサブキャラかなにかのドラマはともかく(こちらも探偵と犯人同様、隣り合い連れ立って歩く姿で〆られてた)、シリーズ物の味だろう部分には「う~ん……なんだろうな?」ってピンとこなかったんですよね……。「最初から観てたり、シリーズを追ってる人には面白いところなのかな? いやそれにしたって……」って。

 なので、「たまたま面白い部分を見ただけで、前半はつまらんかったのかもしれない……」という可能性はなきにしも。

 

 あるいは、「面白いは面白いけど、ジャンルのなかの相対評価ではそうでもない」って可能性もまたあります。

 ぼくがこのジャンルにうといだけで、二番煎じ三番煎じのひどい出涸らしであったのだと。

 そうであるなら、ぼくが見過ごしてきた無数の2時間ドラマはすごい鉱脈だったということで、今作とまた巡り合うのは難しいとしても、希望が持てます。

 はたしてどれが正解なのか? ミステリーもいろいろ読んだり観たりしてみて、是非たしかめてみたいところです。

 という話を、あまりに更新をしなさすぎなので12/19に抜粋投稿した。

 

 

 ■観た配信■

  vtuber月ノ美兎『お邪魔しまぁす!』

www.youtube.com

 エニーカラー社の運営するバーチャルYoutuber団体にじさんじに所属する清楚な学級委員長系vtuber月ノ美兎さんによる動画です。

 ふだん不特定多数を相手にする配信者が、個に向けたドラマチックなシーンを提供するシチュエーションボイス配信。有料無料長短いろいろバラバラですが、vtuber登場初期からおなじみのコーナーを、今回の委員長はちょっと面白いかたちで提供しています。

起立きをつけ、こんにちは月ノ美兎です。本日はわたくし、あなたの家にお邪魔させていただきます

 動画再生メディアにケータイ電話などをおすすめした委員長は、浴室まで向かうよう指示、浴室に再生機器を置かせ、それを聞くリスナーについては浴室から出てドア前で待機するようお願いします。そして……

すいませ、アッごめんなさい、あのわたくしのタオルと着替え、外に置いてもらってもいいですか?

 ……動画と動画の視聴環境とが一致した、面白い時空間を出現させます。

zzz-zzzz.hatenablog.com

 委員長の最近の動画群については23年1月に個別の記事にしました。なので省略!

 

1028(金)

 ■観たTV■

  金曜ロードSHOW!『君の名は。』を観た

 新海誠作品TV放映時の、ただ作品をTVチャンネルで流すだけでよしとせず、関連CMがドバドバ投入されたり、その投入タイミングが考えられていたりなどの、

「この枠自体を、独自のTVコンテンツとして盛り上げよう」

 という力の入れ具合がすごいなぁと思う。

 『おおかみこどもの雨と雪』あたりからの細田守作品で、ハウス食品などのタイアップCMが流れたときも「うおー!」となったけど、なんか力の入れ方がさらにすごい。

 

 

1031(月)

 ■ネット徘徊■

  非モンティホール問題なのは分かるが、モンティホール的問題へ変えること/確かめることがぼくには難しい

b.hatena.ne.jp

 野村総研の研究員で名翻訳者・山形浩生さんがblogを更新されていたので読みました。

 

   ▼モンティ・ホール問題

 あなたの前にABC3つの扉がある。そのうち一つだけ扉をあけたさきには宝がある。

 あなたがひとつの扉に手をかけると(この記事では話を簡単にするためにAのドアノブに手をかけたことにします)、宝のある扉を知っている司会者が、あなたが選んでない2つの扉のうち、ハズレである1つを開ける。

「これで扉は2つになりました。あなたはそのまま手にかけた扉を開けてもいいし、もう一つの扉に変えてもいい。どうしますか?」……

 ……モンティ・ホール問題として知られるこんな感じのクイズ。

 3択から1つ選んで当たる確率は1/3で、それ以外の2つに当たりが含まれる確率は2/3。自分が最初に選んでない2つのドアからハズレをひとつぜったい削除してくれる司会者の操作によって、「それ以外の2つ」がひとまとめにされるので*2。、賭けるなら最初に選んだドアでなく、残った「それ以外」のドアのほうが当たる確率が高いよというお話ですね。

 考えられる状況とそうなる確率とを見てみれば……

自分が最初に選んだAが当たりで(3択を経た)、のこりの扉のうちBが開かれCが残る(さらなる2択=1/6)

自分が最初に選んだAが当たりで(3択を経た)、のこりの扉のうちCが開かれBが残る(さらなる2択=1/6)

×自分が最初に選んでないBが当たりで(3択を経るが)、のこりの扉のうちAが開かれBが残る(司会者はAを開けないのであり得ない。Bが当たりの場合は直下のケースにしかならない)

自分が最初に選んでないBが当たり(3択を経た)、のこりの扉のうちCが開かれBが残る(1択=1/3)

×自分が最初に選んでないCが当たりで(3択を経るが)、のこりの扉のうちAが開かれCが残る(司会者はAを開けないのであり得ない。Cが当たりの場合は直下のケースにしかならない)

自分が最初に選んでないCが当たり(3択を経た)、のこりの扉のうちBが開かれCが残る(さらなる1択=1/3)

 ……たしかに最初に選んだほうが[1/6+1/6=]1/3なのに対して、選んでないほうに変えれば[1/3+1/3=]2/3だ。うんうん、変えたほうがいいっすね。

 

   ▼モンティ・ホールにハギーワギーくん問題(山形記事)

 解答者がAを選んで、司会者によりCがハズレだと分かったとする。そのままAだと1/3で、Bへ変えると2/3ね。ふんふん。

「ではそこへ、Bを選んだハギーワギーくんがいたらどうなる?」

 というのが上の記事の疑問。選んだ扉が当たる確率は1/3で、そうじゃない扉は2/3ということは、ハギーワギーくんにとって最初に選んだBは1/3で、選んでないAは2/3になるってこと、だよね……? え、Aを選んだ人と矛盾してるぞ、どうしてこうなった!?

 

***

 

 一時期の知識人みんなへそんな印象を抱いているとおり、ぼくにとって山形氏といえば、経済関係にかんする論戦やおそろしい「恩田陸『図書室の海』解説」自己解説など、理知的で怖い人というイメージがどうしてもあるんですけど。

 他方で山形氏は、キリ番踏んでしまってスレ住人にうながされるまま新たな能登麻美子スレを立てたり、若人による同人誌モガワGブックスVol.3 〈未来の文学〉完結記念号』へ寄稿したりなど、たいへん物腰やわらかいかたでもある。

 

 この記事ははたしてどっちのモードで書かれたものなんだろうなぁとか疑問がよぎりつつも、それ以上にハテナがいっぱい浮かぶトピックだよなとなりました。

「山形先生が愚民の苦悩を見て遊ぶという記事?

 3つの扉から2つずつ選ぶ問題も、2つの扉から1つ選ぶ問題も、どちらも"ハズレ扉開け人"が開けられない場合が出る、(モンティ・ホール問題の設定とは)まったく別の問題じゃないですか?」

 はてなブックマークコメントをつけたさいは、こんな具合のことを書きました。

 この時点ですでに、問題文をちゃんと読めてない勘違いが含まれていますね。

(言い訳すると、後半の問題は記事後半でじっさいに出てくる問題で、ハギーワギー君問題をそっちの類題へと勝手に改変してしまっていたんですね)

 

ぼくは「モンティ・ホール問題」がよくわからない。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」

"場合によっては司会者がBのドアを「ハズレでした」と開けてしまう場合もある。"ってんだから、私もHWもハズレなら司会者はHWを開けるルールなんだろ?そりゃハギーワギーと私は全然違う立場じゃんか!何言ってんだか

2022/10/31 00:09

b.hatena.ne.jp

 山形氏の記事をちゃんと読むと、ハギーワギーくんの選んだBがハズレ扉としてあけられてしまうことがあってもいいのだと書いてあります。

 つまり、司会者がハズレ扉を開けるのは依然として、(Aを選んだ)「わたし」だけが基準である。ということで今回のケースでは(ハギーワギーくん主観だと、上の場合分けから大幅に変わる/ごっちゃごちゃになって頭こんがらがるので、Aを選んだひとを「自分」として表記させてもらうと)……

△自分が最初に選んだAが当たりで(3択を経た)、のこりの扉のうちBが開かれCが残る(さらなる2択=1/6。Bを選んだハギーワギーくんは最後の選択まで生き残れない)

・自分が最初に選んだAが当たりで(3択を経た)、のこりの扉のうちCが開かれBが残る(さらなる2択=1/6)

×自分が最初に選んでないBが当たりで(3択を経るが)、のこりの扉のうちAが開かれBが残る(司会者はAを開けないのであり得ない。Bが当たりの場合は直下のケースにしかならない)

・自分が最初に選んでないBが当たりで(3択を経た)、のこりの扉のうちCが開かれBが残る(1択=1/3。Bを選んだハギーワギーくんはこのケースでは最後の選択にのぞめる)

×自分が最初に選んでないCが当たりで(3択を経るが)、のこりの扉のうちAが開かれCが残る(司会者はAを開けないのであり得ない。Cが当たりの場合は直下のケースにしかならない)

△自分が最初に選んでないCが当たりで(3択を経た)、のこりの扉のうちBが開かれCが残る(さらなる1択=1/3。Bを選んだハギーワギーくんは、最後の選択まで生きのこれない)

 ……ハギーワギーくんがそもそも最後の選択まで生き残れないのが1/2で、あとは1/6で当たりであるAと1/3で当たりであるBとの対決なので、Bのままのほうが良いということになります。(ってことで良いんだよね? ぼくでは大分ツラくなってきたよ……)

ぼくは「モンティ・ホール問題」がよくわからない。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」

ハギーワギー君は変えないほうが良い。司会者がハギーワギー君の選んだ扉を開く確率は50%なので、司会者が別の扉を開いた時点でハギーワギー君は既に半分賭けに勝っている。そこから扉を変えるのはリスク増やすだけ。

2022/10/31 00:52

b.hatena.ne.jp

 homorara氏がおっしゃってるのは多分そういうことで、ハギーワギー君はzzz_zzzz家よりもhomorara家へもらわれていくと幸せになれる。達者に暮らしてね……。

 

     ▽「"わたし"の問題とハギーワギー君の問題は独立してるよ」が正直ピンとこない

 「Aを選ぶ"わたし"の問題と、Bを選ぶハギーワギー君の問題はそれぞれ別々の独立した問題ですよ」というお話が、山形記事の知人やはてブの反響にある。

 そこについてzzz_zzzzは、「独立とは?」と頭がこんがらがってしまう。

 たぶん、

「さっき色分けしてゴチャゴチャした書いた場合分けのうち、ハギーワギー君にとって"自分が最初に選んだAが"云々って文章いらなくね?」

 ってお話をされているものと思います。以下の通り、それはたしかにそうなんですよね。

 

 上の問題を、ハギーワギー君視点で整理してみると……

 ABCみっつの扉のうちどれか1つに当たりがあり、ハギーワギー君が最初ドアノブにさわれるのは二つだけ(この記事では話を簡単にするために、「BCだけを触れるよ」ということにします)。ハギーワギー君が選んだあと(簡単のため、「Bを選んだよ」ということにします)、司会者が(先ほどハギーワギー君におさわり許可の出た)二つのドアBCのどちらかにあるハズレ扉を開ける。司会者がどちらを開くかは半分半分で、ハギーワギー君がドアノブを握っていようがいまいが関係なく、Bを開けたいときはBだって開ける。

 司会者がドアを開けたあと、ハギーワギー君がまだ生き残ってたら、

「いま握っているドアか、それとも残されたもう一つのドアか、好きなほうを開けていい」

 と言われる。さあどうする?

 ……という問題になる。

 たしかに「わたし」がいようといまいと関係ない、独立した問題だということになりそうだし、お話としても上のほうがすっきりしているんでしょう。でも、こんな具合でごにゃごにゃ言語化しなければぼくにはピンとこないし、でも正直こう書けたはいいけど、なんかまだしっくりこない。

「最初になにかを選ぶ"私"は、この話の流れからすると重要そうに見えるけど、実際はぜんぜんそうじゃないんですよ。騙し、とは言わないけれど、無駄な情報をごにゃごにゃ増やしてるだけの賑やかしなんですよ」

 というお話なんだと思うんですが、

「"私"あってのこの問題なのに、"私"が重要じゃないわけないじゃない。なんか騙そうとしてませんか……?」

 と正反対の感覚におちいる。

(で、おれが無根拠にそう感じるだけなので、「しっくりこないンすわ~」といくら言ったところで、聞かされた赤の他人のひとさまとしては困るだろうとも思う)

 

   ▼山形記事をナナメ読みしたzzz_zzzzの勘違い問題

 山形氏によるハギーワギー君参加問題はうえのような具合なのですが。

 ぼくzzz_zzzzがはてブコメで言った例だと、3つの扉から「私」とハギーワギー君が1つずつ選び、司会者がそれらとかぶらずハズレの扉を開ける問題になっちゃう。

 その場合……

A当たり(3択を経た)、Cが開く(さらなる1択=1/3)(ただし、もしハギーワギー君とカブっちゃダメなら、そのままAにする以外選べない)

B当たり(3択を経た)、Cが開く(さらなる1択=1/3)(ただし、もしハギーワギー君とカブっちゃダメなら、そのままAにする以外選べない)

C当たり(3択を経た)どれも開かない(さらなる1択=1/3)(orもし過程で司会が絶対ハズレの扉を開けなきゃいけないなら問題不成立)

 ……の3択。

 この場合は、

・Cが開いたら(2/3でこのパターンになり)(2通りの抽選の結果が)Aであることをお祈りする(それしかできない。正解率1/3)

・Cが閉じたままなら(1/3でこのパターンになり)Cを開けるほうに変える(変えれば100%正解)

 の2つの選択をとることで、正解率2/3まで上げるというのが最適解になると思います。

 モンティ・ホールっぽいようで全然ちがう問題ですね。

 はてブコメで言ったもうひとつ、山形記事後半でも言われた問題ではどうでしょうか?

 2つの扉のうち一つを選ぶと、ハズレ扉を司会が開ける。それを受けてどうする? という問題では……

A当たり(2択を経た)、Bが開く(さらなる1択=1/2)

B当たり(2択を経た)どれも開かない(さらなる1択=1/2)(or過程で司会が絶対ハズレの扉をあかなきゃいけないなら問題不成立)

 ……の2通り。これは言わずもがなですね。

 ということで、問いとして失敗してるかモンティ・ホールとは別の基準で選ぶ必要があるよなぁと思ったわけですが……

 

   ▼開扉者2人でモンティ・ホール的問題(へどうすればできるか、頭がこんがらがる)

「……じゃあ開扉者2人版のモンティ・ホール的問題ってどんなかんじの設定になるのか?」

 と考え始めたら、頭がこんがらがりにこんがらがって、よくわからなくなってしまった。

 単純に、司会者がぜったいハズレ扉をひけるように扉をふやすというのはどうか?

 はてブコメントを最初に書いたときはそれで良いと思ったんですよ。

 

 4つある扉のうち一つが正解で、開扉者2人がそれぞれ1つ別々の扉のノブをにぎり(簡単のためひとりはAをえらび、もうひとりはBをえらぶとする)、司会者は残りの扉のうちハズレのものを開く。

 司会がハズレ扉を開いたあと、開扉者はひらくドアを選び直していいものとする。どうすれば当たりをより確実に引けるだろうか?

 ……この場合はどうなるか。

 

 Aが当たるのが1/4で、Bが当たるのが1/4で、「それ以外の2扉」が当たるのが1/2[=1/4+1/4]。司会者はそれ以外の2扉のうちハズレひとつを消してまとめてくれる。だから変えたほうがいい。

 詳細をちゃんと考えてみると……

・Aが当たりで(4択を経た)、Cが開いた場合(2択=1/8)そのままが正解

・Aが当たりで(4択を経た)、Dが開いた場合(2択=1/8)そのままが正解

・Bが当たりで(4択を経た)、Cが開いた場合(2択=1/8)そのままでも変えても(Dにしても)不正解

・Bが当たりで(4択を経た)、Dが開いた場合(2択=1/8)そのままでも変えても(Cにしても)不正解

・Cが当たりで(4択を経た)、Dが開いた場合(1択=1/4)変えると正解

・Dが当たりで(4択を経た)、Cが開いた場合(1択=1/4)変えると正解

 ……の6通りで、たしかにそのままは1/4で正解し、変えると1/2で正解するっぽい。やっぱり変えたほうがいいっすね!

 上の詳細で正しいと思う(し、モンティホール問題っぽい感じになったなぁと思う)んですけど、ナカナカすぐポンと出てこなかった。

 すぐ出てこないだけなら良いんだけど、日中は、場合分けまでして、「え、全部1/4じゃん。どれ選んでも変わんなくね?」と呆然とするなど、もうそんな具合に頭が溶けていました。

 ある程度の型がわかってるものを、「考えてみよう!」と考えてみてこのありさまだから、

世の中にさまざまあるヤヤコシイ問題について、その場で適切な知識をひっぱって判断したり応用を考えたりすることは、ぼくには無理なんだなぁ

 と改めてわかり、悲しくなりました。

 

 また上の問題の計算にしたって、それが成り立つのはBを選んだひとに変更権がなかったり、かぶっても一緒に正解できたりする場合だけで。

 かぶってはいけない場合、どうすればいいのかよくわからない。

 両方に変更権があり、かぶったら失敗な場合、けっきょくそれぞれ自分の回答を変えないで1/4の取り分で満足し合うのが一番しあわせな状態な気がするのですが、うーん、どうなんだろうな……。

 なんかこう、ゲーム理論? とかいうやつの知識もまた必要になってくるんじゃないか?

 なにかいい本ないかな。実証的なやつだとよさそうだ……

ゲーム理論は近年の経済学に大きなインパクトを与えているけれど、これももともとは戦争の戦略立案から生まれた理論だ。先日ノーベル経済学賞をもらったトマス・シェリングも、核抑止をゲーム理論的に根拠づけたのが大きな業績でもある。軍事産業は典型的な寡占市場だ。では市場構造の議論をするのに、これを使わない理由はなかろう。軍隊は大きな雇用主でもある。労働経済を語るのに軍は絶好の見本となるじゃないか。正規軍と傭兵の使い分けは、現在の各種民営化議論とまったく同じものだ。そして軍関係のデータは入手しやすい。だから実際のデータを使ってこれらを全部やってくれる。

   山形浩生書評「戦争で経済学を勉強しましょう! Paul Poast, The Economics Of War (Irwin Professional Publihing, 2005)」

 ちょうど山形氏が良い感じの本の書評をしているぞ! Paul Poast氏の『The Economics Of War』。洋書か。日本語訳は出てないのかな……

basilico.co.jp

 ……おお出てる! ありがたい! ありがとうバジリコさん、ありがとう訳者のかた!

「戦争が経済を活性化する」は本当か? 徴兵制と志願兵制ではどちらがコストパフォーマンスが高い? 軍需産業にとって実際の戦争にメリットはあるか? 核物質闇取引の実際の価格は? 自爆テロはコストにみあっているか?……などなど、戦争についての見方がガラリと変わる、戦争という一大プロジェクトを題材にした、まったく新しいタイプの経済の教科書。図版多数。

訳者・山形浩生による付録「自衛隊イラク派遣の収支分析」も必読。

 

 ……やっぱり昨晩のあの記事は、愚民の苦悩を肴にしたかっただけなんじゃないかなぁ?

 そんな疑問がつきまとって離れてくれない一日でした。

 

 

 

1103(木)

 祝日で仕事休み日。

 ■買ったもの■

  NSwitch『成歩堂レジェンズコレクション』

store-jp.nintendo.com

 言わずと知れた人気シリーズですが、買うタイミングを逃したきりプレイすることないままずるずる来てしまった作品群であります。

 定価6,990円が4割チョイ引きされて3,984円。

 『逆転裁判GBアドバンスのオリジナル版に、『1』『2』をつなぐエピソードを追加してDSで出し直した、ファンには『蘇る』として知られる版)』『同2』『同3』に加え、時代を変えたリブート(? スピンオフ?)大逆転裁判』『同2』の5作が収録されたお得版で、1本800円はすごいことですね。

 販売ハードのとおり、5作とも据え置き機用PS4ニンテンドーSwitch)に再調整したものなのですが、PS4ニンテンドーSwitchどちらの画質もそこまで違いがなかったので、出先でできたりするかもしれないSwitch版を購入しました。

 

 夏だったかもっと前だったか、かもリバー師ないしその沿岸のTwitterスペースへ寄ったところ、

「面白い」

「時代を19世紀末に移した『大逆転裁判』では、"今では証拠として認められてる科学的な現場検証で得られた知見がその当時の価値観では通用しないなか、どう法廷で勝利へ導くか?"みたいなトピックが出てきて、そこもまた」

 といったお話を聞きまして。

zzz-zzzz.hatenablog.com

 zzz_zzzzは上のリンク先記事のとおりドイツ近代刑法の父フォイエルバッハ氏による実録事件・法廷本を楽しんだりしている人間なので、こちらもきっと楽しめるだろうと。そういうなりゆきです。

 

 

  PS4『サブノーティカ』プレイメモ①(~1114完了)

store.playstation.com

 11/18までのセール価格で6割引き1200円だったので買いました。

 11/14(月)までプレイし、プレイ時間84時間でクリアした。大変おもしろかったです。

 詳しいプレイ日記はリンク先にあります。

zzz-zzzz.hatenablog.com

 

 それは何ですか;

 『サブノーティカ』は2018年1月に発売されたオープンワールドアドベンチャーゲームです。

 消火器をしまい脱出ポッドから出てみると、崩壊と虚無が広がっている。

 ついさっきまで乗っていた母船は、炎と黒煙を上げて大破し横たわっており。そしてその混沌なんて些細に見えるくらい、さわやかな青空と青い海がどこまでも果てしなく広がっている。

 他の人の安否がどう、というよりもまず、生きていけるかがそもそも分からない。

 ポッドを出る直前にはハッチを横切る何かが見えたし、生き物がいないわけではないだろう。宇宙服を潜水服代わりに踏み出してみよう。食べ物は、飲み物はどこだ……

 ……というゲームです。

 

 『サブノ』の翌年2019年5月に発売された「『Outer Wilds』が面白かったなら」と様々おすすめするなかで次点にあげる声を聞いたり「『OW』も良いんですけど、オープンワールドゲーTOP3を決めようとなると別腹の作品になっちゃうんですよね……」と『OW』を次点にあげ・今作を傑作オープンワールドゲーとしてイチオシする声も聞いたりと、気になっていた作品でした。

 

 プレイ初日のきょうは仕事休みということで、とりあえず13時間50分やったんですけど、面白いっすね……!

 

 プレイしてみた感想;

   ▼何を獲ればいいのかから手探るサバイバルが楽しい

 『Outer Wilds』のイントロダクションシークエンスを終えたプレイヤーは、異星での探検仕事がどんなものか想像したと思うんですよ。

 そこでぼくの想像したリアリティラインでのサバイバルが『サブノーティカ』という感じですね。

 見渡す限り海が広がる異星に不時着したプレイヤーは、息を止めている間じゅう逐一減っていく酸素量と相談しながら潜水し、海のなかのさまざまな資源を取ったり、同じように不時着した母船オーロラ号の残骸や脱出ポッドを探しつつ、故郷へ帰る手立てを考え・整えていきます。

 プレイヤーには酸素量のほかにも、体力・餓え・喉の渇きという3つのゲージが設定されておりまして、これが探索をより楽しくしてくれます。

 

 海を泳いでいくことで、採れる水棲物と採れない水棲物と、採れないどころか近づけば体力をうばわれる危ない水棲物との違いについて、身をもって覚えます。採れる水棲物も千差万別、一味も二味も……

「こちらは腹がふくれるけど塩気がありすぎて逆にノドが渇く魚」

「あっちはポッド内のファブリケーターにかければ飲料水となる水気の多い魚」

 ……文字どおりちがうのだと記憶していきます。

 

 そうしているうちに脱出ポッド付近の明るく鮮やかな浅瀬に馴染んできて、酸欠死(ブラックアウト)や飢え死に・渇水死などとの縁がだんだん遠くなってきます。

 鉱石を手に入れ自然物にまじって点々とする残骸を拾い集めて、未来のハイテク3Dプリンタ"ファブリケーター"にかけ、より長く潜るための酸素ボンベを作ったりより速く泳ぐためのフィンを作ったり、万物を調べるスキャナを作ったり、ポッド内の故障設備を直せるリペアツールを作ったりして、生きるに困らない日々を手に入れました。

 通信設備が直る。

 救難信号が届く。

 ヘッドマウントディスプレイに表示された救難アイコンは浅瀬の外のはるか遠くで、その針路上には、背の高い水草が立ち並ぶ緑の海や、水深何百メートルあるかわからない真っ暗な海底洞窟といった存在が見えてくる。

「地球での類推をすれば触ると毒がありそうな気がする、あのクラゲ性の動植物はさわっていいものだろうか?」

「ここは一見ふつうだが、火山性のガス流が噴出して危なかったな」

 憶測や経験則を駆使しながら未知の世界へと冒険していきます。

 

    ▽スキャンの楽しさ;事典的知識を得るのが目的・報酬かと思いきや、実物へ触れる時間の増加による実体験的知見の拡充もある

 新天地に向かうことで新たな問題に直面するのなんて「(ちゃんとレベルデザインされてる作品であれば)そりゃそう」ではあり、以下もまた「そりゃそう」かもしれませんが、素朴に「良いなぁ」と感じたので特記します。

 いったんルーチンとして定まったふるまいや関係性が、装備設備の充実によりガラリと変わってくる作品でもあるところが、13時間超プレイして楽しかったところ。

 

 とりわけ「おおっ!」となったのは、スキャナを開発できたあと。

 とにかく泳いで近づいて採る(Xボタンをワンプッシュ)だけだったあの魚に、追走してスキャナの光を当てつづけ(R2ボタンを長押しし)、その詳細を知る。

 すぐ腹に入れられたり物品へ加工できたりする「主役」的な魚や植物はもちろんのこと、背景のにぎやかし・障害物に思えたオブジェクトさえ、スキャン対象であり。

 そうして得られるスキャンデータには、何か特定のアクションで素材を採れる有用性がわかったり、ゲームプレイには無関係であるフレーバーテキストを読めたりなど……様々な情報が詰まっています。

 とはいえ、辞書をただただ読んでいって楽しいかといったらそうでないように、最初は楽しかったスキャニングも、慣れればマンネリ化した作業と化す可能性はあります。

 とりあえず13時間やったくらいでは飽きが来ない。

 なんといいますか、上の説明を聞いたかたは、簡単な図式として……

①スキャンする(=一定距離を保ちエイムし続ける面倒・死の危険を背負う)

②スキャンデータというフレーバーテキストを得られる(=ゲーム内ヒントを得られる)

 ……というリスク&リターンを想像されると思います。

 たしかに概ねそういう仕組みですし、これはこれで面白いんですけど*3、プレイしてみるとそこからはみ出る部分があって面白いんですよ。

 

 とにかく遠巻きにするだけだったあの危険物について、詳しい情報を得るためスキャナ片手に近づいて(近づき続けて)みる。そうして初めて見えてくる世界がある。

 このシークエンスでとくに好きなのは"ストーカー"という肉食魚。

「危険なアレは、有害ってだけじゃなく、なにかクラフト素材になるらしい」

 スキャニングすればそんなデータが得られるんですけど、そこは実は(ゲーム序盤である今のところはまだ)どうでもいい。

 ここで面白いのが、事典的データを得るために"ストーカー"を密着追跡してみることによって――点ではなく線や面で触れあってみることによって――事典的説明では省かれた"ストーカー"の具体的な生態をプレイヤーは自主的に学べるんですよ。そうすることによってぼくはこの"ストーカー"を「近づくとプレイヤーの体力を減らすお邪魔キャラ」じゃない、「こういう習性・生態である魚」だと思えるようになる。

 "ストーカー"にしばらく付き合ってみましょう。

 するとその鋭い牙の餌食となっているのが、プレイヤーだけでないことが見えてくる――NPCである小魚などもストーカーにより血煙を海に浮かべさせられている

 ここについては(正直この時点ですごいと感じちゃうんですが)「肉食動物ならそうか」「今のAAAタイトルの凝りようは異様(らしい)し、よくプログラミングされてるゲームならそのくらいは当然やるものか」と思わなくもないもので(いや『サブノーティカ』はAAAタイトルではないんだけど……。その辺を比較対象として認識している時点で、ぼくが今作をどのくらい気に入ってるかがわかりますね)、まぁスキャンデータの記載から想像できるものとも大差ありません。

多くの捕食者と同様に、飢えたストーカーに餌を与えると一時的に注意をそらせる可能性がある。

 さらに付き合っていきましょう。

 なんと"ストーカー"が上げさせるのは血煙だけでないことさえ見えてくる――砂煙をあげて海底をいじくるその長い口のさきには、宇宙船の残骸(!)が咥えられて転がされている

ストーカーはチタン鉱床へ惹きつけられるようで、キバに負荷をかけ鋭くする傾向がある。

 「住処がチタンの産出しやすい地質なのかな」みたいに考えるのが妥当そうなスキャンデータの情報と、海底に落ちたチタン混合の船殻をころがすことでキバを研ぐ実態とには大きなギャップがありますよね。その「実態」に出会うだけの時間や機会を、スキャン行程が作ってくれたかたちになります。

 知識欲が満たされるのはけっきょく変わらないのですが、満たされかたが意想外の角度で楽しかったです。

 

 直近で述べた"ストーカー"の驚きの姿は、プレイしていくうえでも有益な情報なんですけど*4、それ以上に「すげえ習性を見れたわ」と、動物番組を見たりなどして得られる類いの素朴な感動がじんわり湧きます。

 

 ただまぁ、ストーカー以外でそういう驚きが得られてないので、ンスターハンター:ワールド』におけるジュラトドス戦(リンク先、自blog日記に置いたプレイ日記)のカービィ ディスカバリー』における1-1「草原のビルディング」(リンク先、自blog個別感想記事)が自分にとっての驚きのピークだったみたいに、これもまた序盤にちょろっとあっただけの"外れ値"的事象だったりしないか不安はあります。

 『サブノーティカ』はあくまで資源採集・クラフトによる装備充実系オープンワールドアドベンチャーゲームであり、『OW』のような謎解きパズル系アドベンチャーゲームではないから、「こういう水草の森ほかの地域でも見なかったけ」とか「あれ、この沈没船、ぜんぜん違う方角でも見たような……」といったデジャヴに、すでに襲われてはいる。

(「このドアはふさがってるな。周囲を360度ナメ回してみよう……アッこのクラックから船内へ入れるぞ!? 水中遊泳できる3Dゲーならではの謎解きだな!」

 という驚きが、

「このドアもふさがってるな。周囲を360度ナメ回して……エッこの船体もここにああいうクラックが空いてるの……?」

このドアはふさがってるけど、船体のどっかにクラックがあるんだよね

 という作業に変わっていってしまう感覚といいますか。コンパスなしで動いたがために、再訪であることに気づかなかっただけかもしれませんが、たぶん違う場所の違う船だと思う)

 でもストーカーみたいな体験があったおかげで、以降スキャニングする気持ちもぜんぜん違っているんで、偶然であれ意図的であれこの出会いに感謝したいと思います。

 

   ▼通信で小耳に・痕跡で窺い知るそれぞれの物語

 『Outer Wilds』ファンへおすすめするかたがいるのも納得の感触で、時折まいこむ通信を頼りに、海上や海底さまざま散らばる母船同乗者の記録や他脱出ポッドを探して、事態や世界の輪郭を徐々に徐々にはっきりさせていく(ことになるのだろうと思うのですが)過程が楽しいです。

 

 うえで「はっきりさせていくことになるのだろう」と言ったとおり、物語の大枠は今のところはまだまだ全然わかりません。

 サバイバルもひと段落ついてくると、作業的な時間(の長大化)が気になってきます。

・キロメートル台の遠くで光る、深い深い信号発信地点をめざすことによる、移動・潜水時間の長大化

・「探索時間を確保するための送風ポンプ&パイプの設置・するための材料集め」時間の増加

 ……といった部分が面倒くさくなってくる。

 この辺はたぶん、乗り物が手に入ると改善されるんでしょうし、乗り物の進歩に合わせて探索地である自然も険しくなり、乗り物の快適さをそこなうほど自然が強大になったときには更なる便利アイテムが作れるようになり……って具合に、革新とマンネリを続けていくことだろうと思うのですが。ダレるっちゃダレる部分ではある。

 

 それでもなお興味が持続して探索をつづけられているのは、通信などから窺い知れる各船の人々のようす一つ一つが、掌編的にまとまっていて短期の物語的充足がえられるうえ、次に何が出てくるのか気になるくらい各記録のバリエーションがけっこう豊かであることに起因する*5んじゃないかとおもいます。

 巨大な宇宙船なのでかなりの数の脱出ポッドがありそうなうえ、その船の外のこともあれこれあるみたい。

 

 たとえば機材をととのえたプレイヤーのもとに、救難信号を受けた他船の船長からの通信が序盤も序盤で届きます。

こちら貿易船サンビーム号のアベリー・クイン。オーロラ号、聞こえているか? 以上。

応答なし、か。アルテラの船だからな。どうせ、エンジングリスが切れたとかの救援要請だろ。援助の申し出なんて無視してるんだ。

オーロラ号、こちらはそちらの恒星系から離れている。そちらの座標に到着するまで1週間以上かかるだろう。それでも本当に救援は必要か? 以上。

 いらだちを隠さず疲労もにじませ疑念をぶつける他船サンビーム号船長の声には、日本でも総務省/消防庁が、増加する救急搬送と搬送者のうち入院しなかったひとがどのくらいの割合かを述べたうえで「タクシー代わりに救急車を常用することは控えてください」と発表したことなどを思い起こさずにはいられません。

(万国万星系共通のトピックなんだなぁときょうみぶかかった)

オーロラ号、サンビーム号より再度連絡する。先ほど周辺で大量の船体破片が拡がってた領域を発見した。

状況はこれほど酷いのか…一体何人が犠牲に…知らなかったんだ…

 ゲームを進めていくと、このサンビーム号船長から続報もきます。くだんの船長は事故現場へ近づいたことで詳細を知り、事態のあまりの深刻さに当初の態度を恥じ入り、言い訳をしつつこちらに向かうわけなんですね。

 この船長の顛末は、時間差のある一方通行の通信ゆえに生まれる時限式ミッションの登場など、この作品ならではの語り口をふくんだりするものの、そこを抜かせば筋書き自体はさほど複雑じゃないかもしれません。素朴な物語・人物造形といえるかも。

 ですが、「身に覚えがあるような、思わずわが身を省みてバツが悪くなるような」という、良い意味での素朴さだとぼくは思います。

 

[惑星の大気圏に突入]

カサル:我が創造主。世界を慈しみ、かつ維持する者よ。我が喜びを求めるものに、今日という日、我に日々の喜びを授けたまえ。

[外部温度が危機的レベルに近づいています]

カサル:人生、真実、愛、我に道を示したまえ。我に力を、我は一つ。断続的に繰り返したまえ。

 不時着/墜落直前の記録のなかには、あるいはこんなものもあります。

 自身の信仰に則りただただ述べて、ただただ祈るだけのそれは、ゲーム攻略に何の利点もなさそうに思えます。紋切型の筋書きという声もあるかもしれません。

 でも、実際ゲームをプレイして立ち会ってみると、なんだか妙に心をざわつかせるものがある。

 映像作品のなかで大画面にうつされたら「紋切型だ」と思ってしまいそうだし、かといって群衆ショットのいち人物にされたら、そんな紋切型の背景さえ思いを馳せない。

 そんな存在が、ゲームというメディアのサブストーリーとして・読まれるかわからない環境ストーリーテリング的一断片として置かれたとき、妙に心をざわつかせるのはなぜなんだろう。

 

 ゲーム(における環境ストーリーテリング的な事物)は、プレイヤー自身が情報を勝手にフレーミングしたり編集したりさせる力をはたらかせやすくて、その結果、大写しでありつつも群衆ショットでもあるような、なんかいい塩梅の「物語」が立ち現れるのかもしれません。

 

   ▼酔わないけど、目の疲労度は大きそう(翌1104起きたら目が真っ赤)

 そんな感じで楽しく13時間超プレイしたわけですが、翌朝おきたら目がちょっとゴロゴロしてます。両目ともめっちゃ血走っている!

 いちばんオーソドックスな魚でもすぐ視界から消え、捕まえるのにけっこうグリグリ視点移動しますから、意外とけっこう目に負担がかかっていたのかもしれません。

 

 

   ▼PS版はセーブ破損系バグがあるとかないとか

 この日記へリンクを張るために関連記事を読み直してから気づいたのですが、PS版にはセーブデータが破損する深刻なバグがあるんですって。ただ……

 ……「現行バージョン1.12ではセーブ関係のバグに対応しました」というお話もあり。じゃあ大丈夫なんじゃんと思いきやPSstoreできょうDL・インストールしてみたソフトのバージョンを見てみるとver.1.11(えぇぇ……?)、21年1月以降も「データ壊れた~」という声もあり。

 けっきょく直ってるのか直ってないのか、よくわかりませんでした。

 

 

 

1104(金)

 ■blogのこと■

  仮記事をアップし、廃墟じゃないアピールをする

 音信不通すぎるのとPSstoreセール品という水物ということで、3日のプレイ日記をちょっといじくったものを仮の更新としてblogにアップしました。

 ようするに古のネットで言うところの生存報告というやつですが、なんか急に「"生存報告"は大仰しすぎるし、まぎらわしい」という気持ちになってきました。良い言い回しがないものか。

 

 

1119(日)

 ■ゲームのこと■

  『ポケモンSV』をプレイする(~1124クリア)

 『ポケモンSV』をプレイしました。11/24にクリアしました。

 2022年にプレイしたゲームのなかでもかなりアガった作品でした。圧巻のクライマックス。

 ポケモン赤緑』から数作やって飽きた人(=ぼくなんですけど)こそオススメしたいです。良い意味でびっくりしました、めっちゃ面白いゲームになってますよ『ポケモンSV』。

 詳しいプレイ日記(?)は以下にまとめてあります。

zzz-zzzz.hatenablog.com

 

 

1211(日)

 ■買いたいもの■

  ケリー・ライカート(ライヒャルト)の映画が(西部劇含め)配信セルにきてる

 itunesの新規追加映画欄をみたことで、ケリー・ライカート(ライヒャルト)監督の映画が、配信セル/レンタルに色々きていることを知りました。

(※こんかい話題にするラインアップは、映像サブスクリプションサービスU-NEXTにて22年1月から見放題対象として来ていたのと変わりませんから、ただ観るだけならそちらを加入のかたであればそちらを利用するのが良さそう)

 シネフィル方向の映画ファンからとにかく評判がよい監督でイト・スリーパーズ ダム爆破計画』イフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』がしばらく前から流通していましたね。(いまだにAmazonで配信あるの、なかなか凄いことだと思う。無くなるまえにこっちもさっさと観る/買うべきなんだろうな……)

 

 itunesに追加されたのは、ールド・ジョイ』バー・オブ・グラス』

オールド・ジョイ (字幕版)

オールド・ジョイ (字幕版)

  • ケリー・ライカート
  • ドラマ
  • ¥2037
リバー・オブ・グラス (字幕版)

リバー・オブ・グラス (字幕版)

  • ケリー・ライカート
  • ドラマ
  • ¥2037

 Amazonプライムビデオの有料セル・レンタル商品棚をみてみると、そちらではこの2作に加えてさらに、ェンディ&ルーシー』ークス・カットオフ』が並べられています。

(1219追記;とか言ってたら、itunesにもその二作も追加されてた*6

ウェンディ&ルーシー (字幕版)

ウェンディ&ルーシー (字幕版)

  • ケリー・ライカート
  • ドラマ
  • ¥2037
ミークス・カットオフ (字幕版)

ミークス・カットオフ (字幕版)

  • ケリー・ライカート
  • ドラマ
  • ¥2037

 

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 『ミークス・カットオフ』は、オレゴントレイルにある同名の道の由来となった、スティーブン・ミーク氏が移民をガイド中におきたできごとにならった映画なんだとか。

 気になってたけど、日本ではBlu-Rayなどの流通がなく、いままで観ること叶わなかった作品です。

 これを機会に手を出してみたいですね。

 

1214(水)

 ■買ったもの■

  『狩りの季節(異形コレクションLII) 』

 ご長寿アンソロジーシリーズ【異形コレクション】でこのたび電子書籍化された内の一冊、伴名練さんが寄稿している巻であるりの季節』を購入しました。

 いっしょに電書が出た『ギフト』『超常気象』は紙書も今年出版の本なんですけど、『狩りの季節』は1年越しの電書化ということで、「【異形コレクション】は電書が出るかもしれないし、ちょっと待ってもいいのかなぁ」という思いが強まりました。

 光文社の本なので、伴名氏の初参加巻ーク・ロマンス』が今そうなっているとおり、そのうち電書5割ポイント還元セールの対象になるのではないかと思いますが、ぼくはンヴェイジョン・ゲーム1978」一作ですでに元をとった気分ですね。

 

 ※以下ネタバレ※

 

 非常におもしろい能力バトル物でした。

 インベーターゲームの筐体がならびスピーカーからはピンクレディの『UFO』が流れ、雑誌では異星人に寄生されたスケバンたちが記事をうめる1978年。「あるスケバンがカチ込みを受けた、しかもその現場には別のスケバンの得物が」という報が舞い込み……というお話です。

 既読のかたから「続編を」やら「これを序章とした長編を」やら求める声が漏れ聞こえていたのでちょっと心配していたのですが(上品なかたがたがすごく好意的に言ってるだけで、「これだけじゃ説明不足で意味不明な、雰囲気だけの作品」とか「エンジンがかかった直後に終わってしまった物足りない作品」とかなんじゃないか? って危惧)今作だけで風呂敷を大きく広げそしてきれいに一度たたんでいる作品でしたね。

 文庫本換算37ページの分量で、これだけの人数のキャラを出しつつその生い立ちも眺め、劇中特殊事象の原因や思惑を明らかにしたうえで、それを受けた人々の行動と事象の(一旦の)収束まで描けてしまうのは凄まじいことだと思います。

 語りの経済効率の高さがまた一段と高まっている気がしますね。とにもかくにも無駄がない。

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 登場人物を手短に概観すること自体は、先行例が色々あると思うんですよ。『ウルトラ怪獣大百科』とか、ベシュテル&カリエール『万国奇人博覧館』とかの事典・列伝系とか。創作のなかに挿し込んだ例だと、タランティーノ監督『イングロリアス・バスターズ』の「ヒューゴ・スティーグリッツ」シークエンスやらガイ・リッチー監督『スナッチ』の登場人物にかんするナレーションやら。

 ぜんぜん端的じゃないけどティーン時代に観て以来zzz_zzzzの心の一作となっているのは、アラン・レネ監督の1980年公開映画アメリカの伯父さん』です。

 行動生態学の科学者で哲学者のアンリ・ラボリ(himself!)がスキナー箱にいれたマウスの行動様式を解説するシーンと並行して、労働者と管理職・役者を夢見る女性といった男女3人の人物がナレーションたっぷりにその半生が眺められていく。

 いかにもレネらしい――アニメオタクはシャフト作品などを連想しそうな――(別世界の窓みたいなものというよりも)映像であること・作り物であることに自覚的な編集によって冷たく皮肉っぽく見えもする物語は、マウスの生態と3人の人物の心理・行動とが重ねあわされていることが明らかになるとなおさらおそろしく見えるのですが、3人のドラマが熱を帯びていくにつれマウスの実験内容もその映しかたも苛烈になり、ラボリがなぜこういう実験や研究をしているのか? ラボリは科学者だけでなく哲学者ともいわれるのか? もまた見えてきて……という作品です。

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 「インヴェイジョン・ゲーム1978」がすごいのは、そういうザザザッ! と端的に語る文章を、劇中現実に存在するとある事物への参照としたうえで、その読み手聞き手を変え複数回登場させて(たとえば「そのひとがそれを読んだ経緯は?」とか「読まれるものに対してどう思っているか?」とか)「その説明を呼び水にした読み手聞き手の反応」それぞれのドラマへと展開させているところ。

 概観された内容じたいも面白いし物語のなかで重要だし(『ゼロ年代の臨界点』・『解説――最後のレナディアン語通訳』の作中作の端的な解説や『ひかりより速く、ゆるやかに』の乗員点描など、一口サイズの満漢全席は氏の得意とするところなのかもしれません)、それを媒介にした化学反応も同様にナカナカのものです。後者は映画オタクがマクガフィンと言ったりするやつに感じるものと似ていますが、「箱があれば中身はどうでもいい」「空白で(も)いい」ってのがマクガフィンである一方、今作は中身がかっちり詰まっているのが相違点。

 中身だけで既にじゅうぶん読み物として成立していることで、箱の持ち方や中身を詰めたり箱を作った経緯に話題がうつったり中身を取り出したりなんだりされたさいに「これって劇中のドラマで活かされるものだったんだ!?」「それだけで終わりじゃなかったんだ!」と素朴に驚けてしまう。

 

 さてだいたいの映画オタクってこんな体験してません?

 映画を観たあと「けっきょくここって何だったんだ……?」とモヤモヤする。そのモヤモヤをはらすために他者の感想をめぐっってみたら、

「いやそこってマクガフィンであって、重要なのはそこじゃないんだよね。"思わせぶり(のくせして何もなかった)"と批判するひとは、勝手に"何かある"と見当違いの期待をしてただけ」

 みたいな映画に詳しい人の批評とぶつかって、「なるほど、そういう技巧もあるんだな……」と学びを得て、以後そんなかんじのことを自分でも訳知り顔で言うようになる……みたいな経験を?

 "訳知り顔で"言うようになったのはzzz_zzzzだけかもしれませんが(笑)……でも、そこで止めるべきではなかったなと思いました。

いや中身も詰まってれば一粒で二度おいしいじゃん?」

「そうであることが当然なんだけど、でも、中身が詰まってないマクガフィンなんてセル塗りされてそのうち動くことがバレバレの偽背景みたいなものだったりしない?」

 などと反駁すべきだったんだ。「インヴェイジョン・ゲーム1978」の読後感に出会って、ようやくそんな反省ができるようになりました。

 

 さて今作は、読むものと読まれるものとのあいだの非対称的構造(上下構造)について、そこにまつわる暗さ・気持ち悪さについて明示されている作品でもあり、「伴名氏の短編集がまた出版されるとしたら、やっぱり赤い本のつぎはその同系色じゃなくって黒い本が出てほしい」という気持ちが強まりました。

 どうしてそんな期待をするかといえば、伴名氏が「エモの人」「閉鎖的なボーイズクラブの価値基準でだけ愛される井の中の蛙、若年の伝統工芸作家」(※)として決定づけられてしまうのは惜しいと思うし(※『なめらかな世界と、その敵』感想で書いたとおり、zzz_zzzz自身はあの本の収録作だけでもそれにとどまらない味を提示していると思うのですが、パブリックイメージとしては現状そう見る向きがつよいですよねという意味)(ぼくら世代だと『ライフ』とか湊かなえ作品のブームなどのとおり)べつに「厭」方向もふつうに売れ線だと思うからなんですけど。でも、個人短編集未収録作品はどちらの色だって組めるくらいの質と量が貯まっていそうですから、出版のひとは非常に悩ましそうですね……。

 

 伴名氏の別作『全てのアイドルが老いない世界』でも関係性やらなにやらに自覚的な登場人物が登場していて「TLのオタクみたい……!」と思ったものですが、あちらがある種のほほえましさに回収されていったのに対して、「インヴェイジョン・ゲーム1978」のそういった一部の語りはニヤケ面を許しません。

 劇中で言及される「スケバンという存在がどのように生まれ、どのように見られてきたか」も含めて、ノンポリとは言い条(男尊女卑的な)現状をただ受容しているだけのヘテロセクシャル男性である萌えオタクとしては、自然と「おれって本当にこういう、少年時代からの精神性を引きずったまんま、というかより一層悪化させながら、この先も生きてくのか? さすがにミリ程度は変わらなきゃいかんくないか?」と眉間にしわが寄る作品でした。

 伴名氏はその実力について界隈でとっくの昔から認められてきたオーサーズ・オーサー*7ですけど、「そんな氏でさえ伸びしろがあるのだな」と思わされたのは小道具のつかいかた。

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 劇中年代の小道具として往年の名作ゲーム『スペースインベーダー』の筐体を出し、そのゲームの内容を劇中の登場人物の造形やらにからめる。というのはもちろんのこと……

 ほんの数か月前までは完璧な店だったのに、テーブルを全てインベーダー台に変えたあたりから雲行きが変わった。UFO(ピンク・レディーなんて流行りの曲を流す店じゃなかったはずだ。

 確かにアスカも、インベーダー台が来たばかりの頃は、コインを何枚も使ったが、サナエほど上達はしなかったし熱を上げることもなかった。だが、今なおインベーダーに嵌まっている客はサナエだけではないし、この店にもたまにトラックで売上金を回収しにくるほど、コインを吸い上げているらしい。

   光文社刊(光文社文庫)、『狩りの季節 ~異形コレクションLII~』kindle版56%(306/543ページ、位置No.7259中 3994)、伴名練「インヴェイジョン・ゲーム1978」(太字強調は引用者による)

 ……「そのゲームがどのような商構造にあるものなのか」が窺い知れる(さらっと読み流せて気にも留めないけど、記憶に残る)細部(※)を劇中に掬い上げていて、それがまたちゃんと物語の主筋と重なってくるんですよ!

 キャリア初期の『美亜羽へ贈る拳銃』において識者から指摘された、一部の「間テクスト性の弱さ」は今作になるとだいぶ解消されているんじゃないでしょうか。

(※とかく映像化作品が観たくなることの多い伴名作品ですけど、「でも実際どうやるんだろうな?」と首をかしげる書き味だとも思います。

 この細部だって、映像作品では実景として描くと悪目立ちしてしまうだろうし、セリフのなかでだけ済ませればそれはそれで目立たなすぎる気がするんですよね。

 「けっこうに具体的な描写」を「余談」扱いにしてさらっと流せるのが、小説という媒体の強さの一つだったりするのかな~なんて思ったり)

 

 少女たちにとって完璧な空間の内外には、和を乱す何者かの足跡がちらついており、一見それの対抗となる「少女たちが自主的にはぐくむような連帯」もまた、エモがられたり関係性に萌えられたりといった俗情を満足させる見世物として消費され得る。

 そうした八方ふさがりのなかで取りうる道なんて一体あるのだろうか?

 長編でも扱うのが難しい問題です、解決しきれたとは言いませんけど、糸口は確実に見えたと思える結末でした。

 

 

1221(水)

 ■観た動画■二次創作■

  多面性の表現としてのマッシュアップ;炭素スプーン『ぼっち・ざ・ろっく! OPENING』

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♪エピローグはまだまだ先 語る気ないぜ

 はじまりのこのビートに耳立てろ

 ヒップホップ系音楽やらなにやらいろいろ歌うバーチャルYoutuberアーティストKMNZさんの楽曲OPENING』

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 『【間限定公開】KMNZ 3D新衣装お披露目 SPECIAL MUSIC LIVE』でもオープニングアクトに選ばれたあの歌のビートやメロディに合わせて、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』劇中の会話を奏でる炭素スプーン氏によるマッシュアップ

 すっごいカッコいい……!!

 

 ***

 

 ラップ調音MAD、好きなんですよ。

 と言っても、あのCourage to tell a lie』のサブ垢MADの人さんによる作品くらいしかよく知らず、このタイプのMADがそう呼ばれるのも今知ったくらいなんですけど。(なんて読むのかも正直よくわからない。ラップ/調音/MADなのか、ラップ調/音MADなのか?)

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 Courage to tell a lie』エミネム氏Love The Way You Lie ft.Rihanna』のビートに合わせて調音された、アニメ化物語劇中の八九寺真宵のセリフが滔々と奏でられる音楽MAD。ニコニコの本動画の再生数こそ数万なんですが、Youtubeへいくつか転載され、それらの再生数が計400万を超えているという妙な人気を誇るMAD。

 源流はなにかは存じませんが、今もなお色々なかたが様々なMADを発表されていて……

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 ……tofubeatsの同名の歌のビートに合わせて、アニメ22/7』劇中人物のモノローグを韻を踏むようなかたちで並べる影莉央さんのMADLONELY NIGHTS feat.滝川みうなんかも耳気持ちよくてエモくて好きです。ザ・声優さんの発声とはちがったナマっぽい少女の喉から出てくるナマっぽい不安や不満は、次第に劇的な転換を見せ、風だって吹いてくる*8。〆の切れの良さもかっこいい。

 

***

 

 直上2つのMADにざっくり言えるのが、もともとがエモい素材(アニメの会話内容/音楽のメロディ)同士をかけあわせた相補的な仕上がりだということですね。

 

 炭素スプーン氏『ぼっち・ざ・ろっく!OPENING』が面白いのは、KMNZ『OPENING』原曲の日本語歌詞と『ぼっち・ざ・ろっく!』の日本語の会話劇とで掛け合いをさせ、原曲からまた違った意味合いへと化学反応させてるところです。

(『OPENING』原曲SE。「ドゥーン」ってやつ)

ぼっち「現実がつらくても大丈夫~」

(『OPENING』原曲SE。「ドゥーン」ってやつ)

ぼっち「私の居場所はネットだけ」

KMNZ「♪永遠に~?」

(『OPENING』原曲SE。「ドゥーン」ってやつ)

ぼっち「ちがう! 絶対コミュ障治して、ギ、ターヒーロー、の、私、として、の力を発揮するんだ」(『OPENING』原曲SE。ファンファーレ的なやつ)

  ニコニコ動画、炭素スプーン『ぼっち・ざ・ろっく!OPENING』1:16

 内に籠ろうとするぼっちちゃんの内向きなモノローグに自然な形でさしこまれ、また外に踏みだし頑張る起点となるKMNZ「永遠に?」は、『OPENING』原曲だとべつに疑問の意味合いは薄く、否定的な意味も特段ないんですよ。

 ほんらいは「KMNZを聴きなベイビー 永遠に? 聞き逃すなベイビー」という一連の歌詞の一節で、『OPENING』全体のノリとしても、

「KMNZみたいな最高のサウンド"ずっと、待ってたんでしょ? 残念。もうにげられない"よ、"今日の獲物はキミ、私らのエモの虜になって"

 という旨の、主体的でイケイケな曲なんですね。

 KMNZの歌詞はその前段、おなじ高校にかようドラマーの虹夏ちゃんから「無理なおねがいしてごめん」と言われたぼっちちゃんが「ぜったい無駄にしちゃだめだ!」と踏み出した(0:31~)でも挿入されています。

 そしてこうした二作のマッシュアップは、その後、路上ライブを喜んでくれた方々から褒められて「はい、頑張ります」と言った直後(1:43~)、場面転換したライブハウスでの演奏シーンで元アニメではとうぜん結束バンドの曲と演奏・ドラマが披露されたところを音声はいっさい採らず)『OPENING』サビが引用されたところで最高潮を迎える……

 ……『ぼっち・ざ・ろっく!OPENING』は、ひとりぼっちでいたい性分と、結束バンドとしていっしょに音楽をやりたい初期衝動・いっしょに音楽やってみた喜びみたいなものとのあいだで揺れ動くぼっちちゃんの心を、作中の会話KMNZの歌とで表した(そしてそれだけじゃなくって、「その物語を小気味よく流すためのKMNZ原曲のリズムとは、『ぼっち・ざ・ろっく!』であったら何にあたるのか?」というもう一つのドラマも並走させてもいる)ひとつの作品に仕上がっていて非常に良かった。

 

 『ぼっち・ざ・ろっく!OPENING』の「べつにアニメのセリフをメロディの音階へあてはめる必要はなくね?」という姿勢――「アニメ(の音声)を主・メロディやビートにつかう音楽を副とする関係性を一貫して維持する必要性ってあるのか? 原曲のサビ(歌詞)を流したっていいじゃん」と――ラップ調音MADの型にしばられず歌MADへも自由に往復するようなつくりは、聞いていて楽しいうえに意味のある構成で、大変よかった。

 今作の発明かは知りませんけど(たとえば "ネタMADが、ネタにしたキャラの声を調教した人力VOCALOIDによって背景で流している歌をうたう音MADになる" タイプのMADは、不可逆褐色さんの『配信世紀エヴァンゲネイオン』とか、『ノラトレイン』とその派生とか、寡聞なぼくでもあれこれ思い浮かぶ)、なかなかコロンブスの卵をおがんだ気分。

 

 ■漫画のこと■

 2022年も残すところあとわずか。そんな時分になってなお、ちはやの最終巻やら(菫ちゃん……!)メダリストの大会一区切り巻やら(いのりさん……!)なにやら凄い新刊が色々出ていて、年間ベスト漫画を挙げたりするかたがたは大変だろうなぁなんて思いながら読んでいます。

 ぼくは『鬼ゴロシ』最新9巻を閉じて、イリヤ・レーピンの絵を開いてじっと見てたりしてました。こうやって息をのみ、なんとも言えない気持ちで本を閉じる漫画本が、実はこの一冊だけじゃなかったりするからこの12月はおそろしい。

  (完)okama『Bまで恋はAiまかせ…』最終3巻までの感想

www.akitashoten.co.jp

 さてみなさん、まで恋はAiまかせ…』最終3巻を読みましたか……?

 以前の日記にも書いたとおり、正直いって1巻はそこまでピンとこなかったし。以下は日記に書きそびれていますが、1巻で恋人候補として出てくる"くもみゅん"より、2巻に出てきた子のほうが魅力的だとさえ思っていたんです。

 さて1巻時点では「まるで映画のプリンセスみたい」(step3「光のプリンセス」より)な存在であった"くもみゅん"。3巻ともなると色々ふみこんだ関係に発展し、その額縁の奥のバックボーンを覗けるようになり、読者としてもくもみゅんを(主人公が当初そうしたような)その写真をアイドルのポスターみたく壁に飾ってしまうような対象としてだけでなく、人としての肉感を感じられるようになります。

 ミステリアスなヴェールが晴れた結果、等身大の"くもみゅん"のたいがい妙ちくりんな個性が拝めるようになり、さすがにここまで来ると、好きにならざるをえませんわ……。

 

 1巻の読書メモでは、「情報提示の都合上、なにか裏事情を匂わせながら"相性ピッタリ"とAIから提示されたヒロインとのかかわりが、本命ではないひととの消化試合に見えてしまう」ことを不満として挙げましたが、3巻まで読んでみたら、そのように見えてしまうことは(作り手が想定していたのはもちろんのこと)劇中現実においても重々承知のうえでこのようにしたのだとわかりまして。

「AIによる人類コントロール物としてえらい出来だ……!」

 と感動しつつ、

「そうと分からず、ナマ言ってすみませんでした……」

 と昔に書いた感想を恥じました。

 

 さて以前の日記では1巻のティーンエイジャー男子の性欲のすさまじい自然さにばかり言及した記憶があります。ひどくしょうもないことで勃起し、呼吸をするように自慰する自然さ。3巻収録エピソードから大きく取り扱われるとある事象もそれに輪をかけてリアリティがあって、凄かったです。

 3巻の事象にかんする具体性は、作品をより良く機能させるもので。これまでの物語にもよく馴染んでいて、あらためて1巻から読み返せば「けっこう無軌道に思えた設定やシチュエーションも、ここに至るための周到な積み重ねだったんだな……」と納得して余りある描写・展開だったのですが。

 それにしたってその事象は、読んでるだけでつらくなってくるくらい独特かつ肉感的な「感覚」についてつづられた描写で真に迫る異様なもので、「何だろうな?」と思っていたら、巻末の作者後書きまで読んで納得と同時によりおおきな動揺が。そうだったんすかokama先生……。

 

 

1222(金)

 ■ネット徘徊■

  ご当地アイドル裁判の判決文から契約書・仕事スケジュールを読み「ツラすぎる」となる

 ご当地アイドル「愛の葉Girls」メンバーの自死にまつわる各訴訟(地裁で被告側が勝ち、げんざい高裁や最高裁で控訴棄却)について、公開されていたいくつかの記事を読みました。

 旅立たれたかたのご冥福をお祈りするとともに、関係者のかたがたの心の平穏を願います。

 公開情報をまとめましょう。

 まず、事務所の責を問い損害賠償をうったえた遺族ら原告がそうするにいたった経緯や、うったえられた被告である事務所の反論が各ゴシップ誌サイトで掲載されているほか。第1訴訟第3訴訟判決文pdf遺族側弁護士日本エンターテイナーライツ協会の公式サイトで公開されていて。

 また遺族側弁護士の提出した関係者陳述書について「不当だ」とうったえる被告側アイドル事務所から、原告側関係者陳述書の署名にかんする現場の録音資料・文字起こしが、事務所公式サイトにて発表されています。(「これはちょっと……」と思わされる内容)

 

 判決文pdfが公開されているのは、自死当日の行動を主として注目する第1訴訟地産地消イベント(スーパーでの売り子+土日開催であればミニライブ)を労働とするか否かに注目した第3訴訟について。

 前者は12月に高裁から上告棄却がなされたが原告は上告も含め検討中後者は9月に最高裁から上告棄却がなされた話題ですね。

(2024年4月25日追記;第4訴訟の詳細についても現在は、日本語版ウィキペディアに判決文をもとにした詳細なまとめが掲載されています)

 zzz_zzzzは「地方アイドル訴訟(のひとつ)が上告棄却された」という報でこの一連のできごとを知り、つづいて各陣営がゴシップサイトへ送った声明を読み、そこから原告側弁護士が、じしんに有利な「証言」への署名を「うながした」その実際のやりとりを読んでそのやり口に反感をいだいた状態で、判決文などへ手をつけました。

 そんなぼくからしても「事務所側もそれはそれでちょっと……」となってしまった。

 

 裁判所がまとめた「認定事実」をzzz_zzzzが読むかぎり、当該アイドルが親が事前に事務所へ相談したアイドルの生活態度{16歳の通信制高校の生徒で、22時の門限をやぶるなどしていた(※ただし、アイドルのレッスンは夕方~夜おこなわれ、線引きが難しそうな気がする)について、親への事前確認・承諾のうえで事務所が(親同席のもと)お灸をすえる小芝居を打ったところ、誤解が生じ最悪の方向へころがり、悲劇へつながったように見えます。

 簡単にまとめられた文面を読むだけでつらい。

 遺族がうったえた最初の印象とちがい、事務所はアイドルの親族ともけっこうに連絡を取り合っており、親側から相談をもちかけられたりそれに応えたりする関係であったというのは驚かされました。

 考えれば当然っちゃ当然ではありますよね。未成年が芸能活動するには、保護者からの理解やバックアップが必要でしょうから。

 でも、たとえば「活動の舞台裏に潜入する」というていのアイドルドキュメンタリーなどだと、一番にフォーカスされるのはスター個人の才覚や頑張り(自主性)であって、親御さんの姿は見えないじゃないですか。外向けにパッケージングされた様態とのギャップはやっぱり感じました。

 大人たちがどんなやり取りをしているのか? 裁判の判決文から転記された具体的なログを覗き見たかんじでは、アイドル事務所とアイドルとその家族の関係は、ビジネスライクな関係というよりもむしろ、部活動の熱心な顧問と部員と部員の家族みたいな姿が想像されました。じっさい「職業活動ではな」(p.16)「体験学習やアマチュアスポーツに近いもの」(p.16)という事務所側からの表現(とそれを肯定した裁判所の認定)もあります。

 

 そのほかゴシップ誌などで問題化されたあれやこれやも判決文で評価がされ、「法的には問題ない」とされたわけなんですけど……

 ……たしかにそう評価したのも分からなくもないいっぽう、心情的に反発したくなる部分もかなり大きい。すくなくとももし自分に家族がおり娘がこのアイドル事務所にスカウトされたとしても、どうにか断れないか道を探るでしょうね……。

 

 そもそも、高校を転学させる他人ってなに? というのが引っ掛かりますね。

 

 ゴシップ誌などで話題にされたLINEの文面についても判決文内でふれられています。

 顔文字の付与や、前後の文章(アイドルへどのような行動をしてほしいか具体的な説明の提示)などから、

「ハラスメントではない」

 という認定となりました。

 もちろん当人の年代や性格、二者の関係なども色々でしょうから、外野にあずかり知らない部分は当然あります。ただそれでもzzz_zzzz個人としては、ある種の雇用関係にある目上の男性が、おそらくアイドル活動とのバランスを加味して定時制高校にかよっているのだろう16の少女へ言っていいものとは、ちょっと思えませんし、判決文に載せられた情報はダブルバインドでじぶんがそういう状況に置かれたら困ります。

 アイドル本人がマネージャー相当のひとへイベントを休みたいと申し出ると、長から「学校と親御さんの判断の結果をそれぞれ教えろ。」と返され、じゃあアイドルの家族がイベントを休みたいと申し出ると、「本人からのものでないと聞くことはできない」旨返される……そんな状況、いったいどうすればいいんすかね?

 しかも裁判所も「多少乱暴」なだけであるとか、本人にイベント参加を強く求めたわけじゃない「一般論」であるとか評価する……こんなん最初っから関わらない以外の避けかたを思いつきませんよ、ぼくには。

 原告らは,被告の従業員であった■■■■(以下「■■」という。)が,平成29年10月4日に,同月8日に学校に行きたいので同日のイベントを欠席したいという(略)の申出に対し,「お前の感想はいらん。学校の判断と親御さんの判断の結果をそれぞれ教えろ。」などとメッセージを送り(甲23),イベント欠席の理由を厳しく問いただしているのは,イベントへの参加・不参加について被告から厳しい指揮監督が及んでおり,(略)に諾否の自由がなかったことを根拠付けるものであるとも主張する。

 しかしながら,証拠(甲23,乙33,証人■■)によれば,■■は,上記やり取りにおいて,(略)に対し,被告が(略)の出演計画を立てることにもかかわることなので,学校の事情などについて情報を整理した上で,この問題については,権限のない■■ではなく,被告代表者に相談するように指示したことが認められる。表現は多少乱暴とはいえるものの,上記のような指示をしたからといって(略)のイベントへの参加の自由を制約しているものとは認め難く,上記のようなやり取りがされたことをもって,(略)の諾否の自由がなかったと認めることはできない。

 原告らは,原告■■が,被告従業員であった■■■■(以下「■■」という。)に対し,平成29年11月17日に同年12月2日のイベントを欠席させたい旨を申し出たのに対し,そのような相談は(略)本人からのものでないと聞くことはできないと返答したことや,同年11月29日に元旦に休みを取りたいと申し出たのに対し,「全国区のタレントを目指していく上で元旦のように世間的に特別な日こそ,活動すべきではないかと思います。ご家庭の事情はおありでしょうが,ここはお母さんとしても応援してほしいところです。」と返答したこと(甲24の1・2)も,(略)の諾否の自由がなかったことを示していると主張する。

 しかしながら,平成29年11月17日のやり取りは,イベントへの欠席については(略)本人からの相談がないと聞くことができないと答えたものにとどまり,これをもって,被告において,(略)に望まないイベントへの参加を強制していたものと認めることはできない。また,同月29日のやり取りは,■■がタレント活動についての一般論を伝えたものにすぎず、(略)に元旦にタレント活動をすることを強いたものとまでは認めることはできない。

   口頭弁論終結日令和3年7月6日・令和3年9月7日判決言渡し・同日原本交付、『東京地裁 令和元年(ワ)第23219号 未払賃金請求事件』p.30~31、第3 当裁判所の判断、「1 認定事実」2(2)より(名前がそのまま書かれた部分を略したこと、一部会話を太字強調したのは引用者による)

 

 地産地消イベントにまつわるギャランティや、判決文にしるされたそのほかの契約も、たとえ違法性がないと裁判所が言ってようとぼくは「うわぁ……」と思いました。

 土日もいくらか絡みつつ月3ないし6回、お店に立って食材を買ってくれるよう呼び子をし、ミニライブも行なう……

 ……それだけやって2000~3000円は、さすがに何かおかしいんじゃないか? 各2000円じゃないですよ。各月のギャラが2000~3000円ですよ。

 判決文では、月に1回だけしかイベントのなかった月なんてノーギャラだったように読める。小学生だったぼくが夏休みに神社で舞をやったさいにもらったお駄賃のほうが文字どおり桁違いに多いよ!

 

 ショッキングなのは、あとは罰則ですね。とくに「"指定オファー”をいちど欠席するとその月のギャラ半分カット・2回で全カット」は、「たとえ直接言ったりやったりしてなかったとしても、受ける以外ない強制力がはたらくのでは?」と思うひどさです。

 スキャンダルについて50万円以上の罰金というのもすごい。「恋愛禁止」って口約束じゃなくって、契約として結んでいる(ところもある)んだ……!?

 

 でもこれ、実際には「あまりに目に余る場合はそうしますよ」という名目上の契約のようで、当該アイドルはとある指定オファーを断り欠席しているし、それによる前述ペナルティだって課されてもいないようです。

 スキャンダルについても、事務所がすすめた転学先には当該アイドルの彼氏がいたとのことで。表でどうだったかはアイドルについて無知なのでわかりませんが、舞台裏ではだいぶ大らかだったのだろうなぁという風に映ります。つまりこの判決文を読むかぎりにおいては、「恋愛禁止」というよりも、

「恋愛すっぱ抜かれ禁止」

 というかんじ。

 そういったところもこのアイドル活動について「契約にのっとるビジネスではなくて、部活動じゃん」と思う一因なのですが、それはそれとして、そこまで大鉈がふれるよう設定されている契約はあんまりにも怖すぎませんか? こわすぎるよ。

 

***

 

 ゲーム『アイドルマスター』プロデューサーの仕事ぶりについて、「大人(社会人)としてどうなの」みたいな感想を抱いたり他者から聞いたりしますが。

{いわゆる"パイタッチ"など、触ってはいけない箇所へボディタッチできるし反応がはいってくるシステムとかについてではなく。

 アイドルプロデュース(マネージング)の是非について。

 たとえば『シャニマス』のたしか田中 摩美々シナリオにたいしてぼくがムカムカしたことなんですけど。

 ダウナーな田中さんを町で見かけたプロデューサーは彼女に光るモノを感じてスカウトするわけですが、その田中さんがスカウトしたそのままの性格で仕事に乗り気でなかったときに、「おまえはプロ意識がないのか」「そんなんで仕事やっていけると思ってるのか」みたいに叱咤するんですよ。

「仕事に対してすり合わせを何度かしたうえで、それでもこういうシチュエーションが繰り返されてしまったならともかく、初手でそれはなくね? じぶんでスカウトしておいてさ?

 とzzz_zzzzは思いました}

 (地方)アイドル業界がこんな具合であれば、あれはあれでそうおかしいモノでもないな、とか思ったり。

 

 

1224(土)

 クリスマスは出歩かず漫画を読んで過ごしました。1巻収録エピソードがジャンプ+で無料で読めるThisコミュニケーション』、1~(2巻後半)3巻の3割にあたる1~(13話途中)15話までがコミックDAYSで無料で読める国大魔境』の話題。

(2023/04/03追記;無料公開範囲がふえてました)

 

 ■読みもの■

  六内円栄『Thisコミュニケーション』1~8巻読書メモ

shonenjumpplus.com

「パンと塩漬け肉。それだけがあれば俺は……

 世界がガスで埋もれようと、化け物を殺す仕事につかされようと構わん……」

 人類は20世紀後半、地球に突如わいた生物「イペリット」とそれがふりまく有毒ガスにより住処を追われた。国連軍も結成されたが、少ないパイを取り合い内部分裂、地表の都市は廃墟と化した。

「なぜみんなああなのだ……」

「所長! ちょっとこっち来たらいいんじゃない?」

 生き残りがいるとすれば、彼らが現れるもっと前から、高い極地に完全な施設を作っていた者たちだけである……

 ……「長野県松本市の高地には、旧日本軍がさきの大戦で作った実験施設がある」、そんなまことしやかな噂にすがったデルウハは賭けに勝った(建物を目にした)。デルウハの目にうつったのは建物だけじゃなかった。そこには人物もいた。

 少女だ。

 イぺリットを膂力で屠る少女――旧日本軍の実験体だ。

 

***

 

 今日の研究の成果によりますますその色をつよめる、「モノでしかない人間」観によるSFだった。

 思春期のこどもの感情といったウェットなものも含めたさまざまな事物を作戦の一変数としか見なさないデルウハの乾いた計算が魅力的。

 さまざまな方角の既読者から「ひとでなしだ」「ひとでなしだ」と評判でしたが、ここまでとは思わなかったレベルでひとでなしで、傍流とはいえジャンプ系列の連載レースをよく勝ち抜いているものだとおそろしい。なんという綱渡りだ。魅力的にうつる非道とそうでないものとの線引きがうまいのだろうなぁと思う。

(0427追記;

「そういやこの日記はまとめ終わってた気がするな、投稿するか」

 とアップしてから、「そうだったこの読書メモが書き途中だったから蔵に入れていたのだった」と気づきました。

 グルメ漫画要素はたいして無く、デルウハという変な人vs無知だが怪力の少女たちのコンゲーム物が大きな要素を占めているので、そちらにフォーカスしたあらすじにすべきなので、そのうち気が向いたら書き直したい)

 

1225(日)

 ■読みもの■

  石黒正数『天国大魔境』1~8巻読書メモ

comic-days.com

 石黒正数国大魔境』が、コミックDAYSで1~(13話途中)15話まで無料公開してますね。コミックス(2巻のおわりのほう)3巻の3割まで収録。

(2023/04/03追記;無料公開範囲がふえてました)

 子どもたちが暮らし学ぶ清浄なゲーテッドコミュニティにおけるドラマと、その子どもの一人に顔つきが似たティーンエイジャーくらいの少年とそれより年上の女性が荒廃した世界をうろつくロードコミック。この2つのエピソードが並行して描かれていく作品です。

 4巻が出たころにいちどこのblogでも読書メモをのこしました。その時に言ったのは……

 第2話の廃墟探索で、ティーン側主人公コンビが見せる(知識経験を感じさせる)"常習"ぶりと(それでもなお未知の領域がままある)"慣れ過ぎなさ"に「おっ!」となったかたなら、既刊すべて買っていいと思います。

 先日読んだぼほぼほろびまして』もそのシチュエーションについて膨大な思考の跡を感じさせる地に足の着いたサバイバル描写が魅力的でしたが、今作もまたすばらしい。

 ティーン側主人公コンビが訪ね歩く、世界に点々とする小さなコミュニティがそれぞれ素晴らしいんですけど、情報提示がやっぱりすごいですよね。ミステリ的な楽しみがある。 

 ファースト・インプレッションからして読者に「なるほどこういう世界なのか/人物なのか/クリーチャーなのか」と納得させて余りある事物を提示してくれるんですけど、それがその場限りの出オチに終わらない、さらなる層がある。

 キテレツな化け物であったり、いかにもモブっぽい暴徒であったりなんでもいいのですが、たとえどんなものであろうと終末(後)世界でなおも存続しているシロモノです、廃墟や死体となってない*9だけの理由が存在するはずですよね(大なり小なり程度はあれども)。そういった厚みがきちんと存在する作品なんですよ。

 主人公らは、終末世界を生き延びてきた人物らしい嗅覚でもって、セリフであったりコマ内に描かれたキャラの動きであったりから漏れ出た痕跡を嗅ぎ取って、その第一印象のしたにある実態をつまみ出していきます。

   弊blog、「日記;2020/06/09~06/15」より

 ……たとえば惜しくも2巻打ち切りで終わった日本舞台のゾンビ漫画・吉沢緑時ぼほぼほろびまして』みたいに、舞台などを活かした登場人物の考察力と行動力にドキドキわくわくするサバイバル活劇としてたいへん魅力的だ、そしてそれがミステリのようにページをめくるたびに発見があるような巧みな情報提示で処理されていて一層すごい、というお話でした。

 当時の日記で言った感触は、無料公開ぶんでも味わえるのではないかと思います。

 

 また……

open.spotify.com

 ……zzz_zzzzの聞いてるネットラジオんなん読みましたけど』では、最新8巻まで読んだポッドキャスターさんによる紹介がなされています。

 それを受けてぼくも続きを読んだんですけどマジで正解、日記で話題にしたときとはまた違う種類の面白みが出ていました。

「"今作をこのマンガがすごい! 2019オトコ編』1位となったときに手を取ってみたけど、そこでいったん寝かせてしまった"~というひともいらっしゃるかと思うんですよ。

 結果発表時はまだ序盤も序盤(ようやく3巻が出た程度)。その頃はまだ本題に向けて、人物関係や世界について謎・布石を置いている時分でしたから。

 8巻まで出たいまは、点々と散りばめられた布石が次々に開かれていって道となり、ついに別々に展開されていた2編がかなりつながり始めた!

 というような具合の紹介が上述ポッドキャストでなされていたんですけど、5~8巻はまさにその通りの展開でして、不透明だった部分がだいぶ晴れてきたことで「こういう話だったんだ!」という満足感ある驚きに満たされました。

 ある程度情報が出そろってきたからこそ「……ということは、この先どうなるの!?」とより一層気になりもして、たいへん良い塩梅です。

 既読分でもそんな感じはしましたが、

「本当にがっつりしっかり風呂敷を畳みきる作品っぽいぞ!」

 と拳に力が入る内容で、畳みきるまであとどのくらい巻数がかかるのかわかりませんが、新刊が出たら今後も買い続けて、作り手の意図する結末にたどり着く一助になりたい。

 無料公開ぶんや4巻くらいまで読んでピンと来なかったかたも、8巻まで読んだらまた違った印象をいだくかもしれません。

 

 また『こん読み』では、「今後の展開などについて、実は扉絵にほのめかしが」というお話がありましたが、8巻までの内容をふりかえった国大魔境公式コミックガイド 「天国」の秘密と「魔境」の歩き方』でもいくつか明かされていました。

kc.kodansha.co.jp

 Amazonでkindle取り扱いがあるなど、電子書籍化されているのも嬉しい。

 オフィシャルガイドはそのほか、8巻までのエピソードを時系列順にならべなおした歴史年表や、各キャラの特徴と不可解な点をまとめたもの、各エピソードのあらすじと見どころ紹介、作者石黒氏とインタビュアー氏によるいわば漫画版オーディオコメンタリー(=一巻一巻くわしく振り返り掘り下げるロングインタビュー)、各人各地のデザイン絵やプロップの実写紹介など盛りだくさんの内容でした。

 まぁ「当該タイトル 扉絵 伏線」などでググるのも安上がりで済むうえ――考察勢のかたがたはすごいもので――さきのさきの領域まで(既に情報を整理すれば「ここはこうだろう」と論拠を提示できるかたちで)掘り下げた推察がころがっているんですけど、さきへさきへ真実をさぐりたいかたがたによる開陳であるから、「いやぁこれは今の段階でぼくが知らなくてよい領域だったな……」と後悔したりもする。(その点でオフィシャルガイドは、よい塩梅のネタバレ具合だったなぁと思います)

 ググるまえに、物語の今後について思いを馳せてみたり、これまで出てきたものについて一通りおかわりしてみたりしても一層おいしいかもわかりません。

 

 

 

 

*1:といってもぼくは最後の30分見ただけなんですど……

*2:って捉えていいのか? よくわからん……

*3:たとえば今作と同年同月に発売したンスターハンター:ワールド』"痕跡あつめ"は、一定量採取するとゲーム内攻略本がつくれるシステムですが、クエストをやってれば採取するしそのうちアンロックまでポイントが貯まるという、積立預金的なシステムで。

 『サブノーティカのスキャニングはそれと比べると、もっとちゃんと駆け引きのあるシステムという感じがします。

*4:船の残骸をひとつ取得・分解すると、チタニウムが一気に4つ手に入る。フィールドの地面にぽこんとできた自然物石灰岩をひとつ採掘して得られるチタニウムは0~1つで、しかも小さいし背景と同系色だしで見つけるのが面倒くさいから、いろいろ楽チン。

*5:さいしょ「因(よ)る」と書いたんだけど、しばらく経ってから読み直したら「困(こま)る」と誤認して「え? どういうこと???」と自分で書いたくせに文意が取れずフリーズしちゃったので改めました。こういうタイプの悪文もあるのか……。

*6:この時間差追加はなんなんだろう?

*7:で良いんだっけ? なんかあるじゃないすかそういうカッコイイやつ。ライターズ・ライター?

*8:ただし、サンプリングされた『風は吹いているか?』は、『Lonely Nights』のサビのメロディへと整えられている

*9:あるいは、いままで存続していたものが、今のタイミングでそうなった