すやすや眠るみたくすらすら書けたら

だらだらなのが悲しい現実。(更新目標;毎月曜)

巨人の肩で跳ねる;月ノ美兎の企画の面白さ

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 去年のお正月は寅年にちなんで虎の字で1ページの大半が埋まったりするマンガの感想記事を書きました。

 卯年のことしは月ノ美委員長の動画・企画の面白さについて話をします。

(埋め込みリンクを動画25・ツイート3・他サイト5くらい張ったから、重いかも……)

 

 

記事要約

 ・活動を本格再開した月ノ美兎委員長がより一層おもしろい。

 ・にんげんにも創作にも充電が必要である。

 ・委員長のいまの主軸は、端的で面白い編集と演出の動画。

  ・その動画はしれっと音声と正反対の字幕をつけられたりなど、目も耳も離せない。

   ・邪魔しまぁす!』は、この方向性をさらに進めたすてきな奇想短編。

 ・企画じたいはYoutuberの御多分に漏れず、既存の面白メディアを参考にしたものも結構ある。

  ・ただし参考もとは、ちょっと変わり種で新鮮味がある。{そこまでメジャーじゃない(けど面白い)ものだったり。ある層からすればポピュラーだけど、自分のような拗らせオタクじゃ食わず嫌いしてノータッチの別分野だったり}

  ・しかも単なるコピーではなく、ゲーム性やらが+αされた発展形となっている。

 

 

記事本文

 月ノ美兎がパワフルな土産を抱えて帰ってきた

 いま「オススメのvtuberは?」て聞かれたらぼくは月ノ美兎委員長と答えます。

 上の文を読んだかたがいだきそうな疑問(ツッコミ)をぼくは2点ほど思いついてて、「いまさら言うまでも無くね?」というのがまず1点。

 たとえばPerfumeのっち氏が"おもしれー女"と太鼓判を押していたりなど、委員長が面白いなんてこたぁ古今東西さんざん言われてきたことです。でもぼくはむしろ今だからこそって思うんですよ。半休止状態を明けて本格再始動した現在はいっそう面白いってお話をしたいんスよ。します。

 

  そもそも委員長って誰?

 エニーカラー社が運営するバーチャルYoutuber*1団体にじさんじの一期生であるバーチャル学級委員・月ノ美兎

 清楚な見た目やそれに合ったプロフィールからすればギャップがある、独特のセンスやオタク版ゴンゾ・ジャーナリストと言いたくなる妙チクリンな事象への体当たり面白体験レポなどが魅力的なvtuberさんで。その存在感といったらもう、社員3人の学生起業いちから時代の立ち上げスタッフで元COOの岩永太貴さんだって上述ツイートのようにまとめるほどのインパクトでした。

 「この人まじ深いオタクだから」っつって内輪でもちあげられた実体が浅瀬でチャプチャプしとる井の中の蛙だった~なんて例は枚挙にいとまがありませんが、でもさすがに委員長みたくクリオネを食べたりシャチに丸呑みされたりする人はそうそう居ないんじゃないでしょうか。

 

   ▼にじさんじvtuberやこれまでの委員長の一般的な配信スタイルって?

 2021年の春から秋まで1クールほど(約束済みの配信などを除いて)個人チャンネルでのライブ配信をしない半休止状態にあった委員長が、今のスタイルに切り替えて活動再開してからもう1クール経ちました。

 

 委員長や彼女の所属するにじさんじといえば、ストリーマータイプのvtuberを広めた立役者的存在であります。

 キズナアイさんが3DCGモデルと白を基調とした3D空間にこれまたモデリングされたモニタやらをもちこんでメジャータイトルを実況プレイする動画をアップロードしている横で。

 委員長は、洗濯機の上やご学友の家にパソコンとスマホを持ち込み、キャプチャした顔にレイヤ分けされた複数の画像を反映するLive2Dモデルで配信画面に登場。そして、ライブ配信を視聴するリスナーとやり取りしながら、劇団ヨーロッパ企画の個性派FLASHゲームに代表される(当人の趣味が反映されているであろう)マイナーゲーの実況プレイを、機材不足のためじしんの姿を配信画面から消失させつつライブ配信したり。あるいは配信画面にうつせないのも気にせず食事をとり就寝をとる、生活音垂れ流し配信をしてみたり……

www.hayakawabooks.com

(↑『裏世界ピクニック』著者・宮沢伊織が、vtuberの質感の衝撃について語る2018年のインタビュー)

 ……などなど、vtuberの看板とそこからハミ出たなまの「質感」*2とを混淆した時空間をリスナーへ提供・共有。いまのvtuberがよくおこなう様式のはしりとなりました。*3

 

 ストリーマータイプのvtuberさんが登場して以後、ゲーム実況なども長尺化し、大人数かつ長期間の大会化もしました。

 チーム顔合わせから練習をへて、大会本番をむかえるその過程は、大枠こそ既存メディアのタレント(ないしその卵)による挑戦企画が思い浮かびますけど*4、放送枠の都合により週1・月1くらいで進捗映像が数十分ながれる先達にたいして、数時間・数十時間とかさねられる練習スクリムマッチ配信を、楽しいときも苦しいときも(長い配信中、ガチで喧嘩して泣き出す局面に遭遇して、めっちゃ居心地わるい空気を味わったりする)ノーカットで付き合ったうえで迎えるゴールは、既存の企画を見るのとはまたちがった情感を呼び起こします。

(この記事では後段でもいろいろTV番組を挙げますが、ぼくがTV観てた頃の例なんでゼロ年代前後に放送されたものばかりです。話題にした番組はどれも、酒が呑める程度のバーチャル16歳である委員長が参考にできた可能性の低い時代の番組ですが、たぶん同趣向の後継作があることでしょう。

 年上のかたも若いかたも、ご自分が観てきた番組へ適宜おきかえながらお読みいただければ幸いです)

 

  現在の委員長は動画投稿勢。ライブ配信は雑談中心

 活動再開した委員長は、動画投稿がひとつの主軸になっています。

 ライブ配信は企画と雑談配信が中心で、個人でのゲーム実況プレイの配信は少なくなるかも、やるとしても(ライブ配信じゃなく)動画になるかもとのこと*5

 

 ぼくはこれまで委員長がライブ配信でおこなってきたリスナーとのやり取りや、あるいはゲームの内容にたいして何らかのブックを持ちこんだ委員長がおこなう即興劇的なものが大好きなので、さびしい気持ちが無いと言えばウソになる。

youtu.be

↑動画後半、『アマガミ』登場人物であるゲーム内世界の学級委員・絢辻さんにたいして、同職でvtuber活動をつづけてきた月ノ氏が勝手に張り合いプロレスし、ゲームシナリオと同時並行で独自の物語を走らせるもようがまた楽しい)

youtu.be

{↑さまざまなキャラの物マネをしながらFall Guys』*6を実況プレイする委員長(のファンによる切り抜き動画)。漫画イドインアビス』の登場人物ナナチになりきって、『FG』の独特なキャラ"ガイズ"がうごめくようすを「なれはてだらけじゃねぇか」と漫画『MiA』内の異形にたとえたりしながら奮闘するもようは、ライブ配信中に原作者つくしあきひと氏からスパチャが飛ぶなどの好評を博した}

 配信って結構――前も言ったことあるんだけど――敷居が高いというかね、さっきも言ったけど「賭け」みたいなもんですからね。

 で、動画をよく見てて……そういう自分がよく見てたかたちに「自分がなりたいな」と思ったし、でも配信の面白さっていうのもライバーをやって気がついたから、それも続行したいと思った次第で。

 配信のなにが良いかってやっぱり、「みなさんとコミュニケーション取れることかな」と思ったから、その配信~んぬぁにが言いたかったんだっけな……(笑)

 っで! だから雑談を中心にしようかなって思った。

 配信の強みというかメリットみたいなのは、「ゲームとかよりも配信(ざつだん)のほうが活かされるかな~」とわたくしは思った次第ってかんじですね。

   Youtube月ノ美兎『配信活動が超久々ということで皆様いかがお過ごしですか』15:06~(さいごのくだり、当人は配信と言ってるけど、話の流れとしては「雑談」が正しいと思うので丸カッコで補足した)

 でもそう言われて振り返ってみると、絢辻vs月ノの学級委員対決にしてもナナチロールプレイ委員長にしても、リスナーとの双方向的なやりとりに起因する面白さって実はうすいのかもしれない……なるほど委員長の方向転換は、よく考えたうえでの選択なのだなぁと感心しました。

 

 げんざいの活動スタイルは、にじさんじ・ホロライブ台頭以前のオールドスクールへの先祖返りという感もただよいますが、そもそも委員長がバズった要因の一つは(上でもひとつ動画埋め込みリンクをはったような)じしんで編集したセルフ切り抜きまとめ動画なんですよね。むしろ原点回帰と申し上げたい。

 映画研究部でつちかったセンスや経験の賜物や、配信活動をはじめてから出会った知己などをもっと活かす方法に舵をとった、よりよい再出発だと思います。

 

 

 名監督、月ノ美兎

  演者ならではの編集と演出で面白い

 委員長の動画はおもしろい。

 Youtuberさんの動画のように、会話会話の間を切り詰めたテンポよい編集がされていて(そしてたぶん情報量のすくないvtuberゆえに、「間」を削除した前後のギャップが見えづらくて違和感がない)、しかも、描画されないことには無がひろがるだけのvtuberだと準備が大変・弱くなりがちな「情景がわかりやすい映像素材」「画面構図」も潤沢で、さらにはなんか妙なセンスが発揮された演出もあったりするんですよ。

www.youtube.com

 『性癖食わず嫌い王【月ノ美兎 VS アンジュ】』は、そんな「ふつうに面白い」動画の好例。

 フジテレビ往年の人気番組んねるずのみなさんのおかげでした』の定番企画「食わず嫌い王決定戦」。

 スト2人がそれぞれ食べながら紹介する「大好物の料理」のなかには実は、口に入れるのも嫌な代物が一品だけ紛れ込んでおり、相手の「食わず嫌い」料理がなにかを推理し当てる……というあのトーク&グルメ企画をオマージュした企画が性癖食わず嫌い王で、こちらでは料理の代わりに今晩のオカズを持ち寄り対決します。なんて過酷なゲームなんだ。

 「くせや習慣、性質や行動」を意味する性癖を、「性的な嗜好・(偏った趣味としての)(ヘキ)」としてとらえがちなオタクたちによる遊びですね。

 委員長の公開お知らせツイートでもピックアップされた、それぞれのライバーが「性癖」を最初伏せたうえでひとつひとつ開示していく場面の字幕なんて、ひとヘキひとヘキが驚きの対象となること、そしてヘキのなかにも違いがあるんだということをよく把握したもので、「この動画で見てこそ!」という面白味があります。

(例題→類題ときてオチで飛躍する、4コマ漫画や集団大喜利を観ているかのよう)

 テンポがいい・まとめかたのセンスが光るってだけなら、配信の面白モーメントを第三者のファンが切り抜きピックアップ・ハイライト化した「切り抜き動画」の上澄みだってナカナカですけど、「端正な整形」を超えて編集者の個性が見えるくらいもっと踏み込んで面白おかしく弄ってるタイプの動画ってあんまり見かけません。

(意にそわなかったり「盛った」りした切り抜きを作らないよう、あるいはリスナーによる過度ないじりチャットを控えるよう意思表示している配信者さんもいますし、そういった動画は自然とすくなくなるんでしょうね。

 所属vtuberにたいする悪質なふるまいを見かけたファンのために、エニーカラー社は誹謗中傷通報フォームを設置しています)

 

   ▼「大問題でしょ」を「当たり前でしょ」に;正反対な音声と字幕

www.youtube.com

 じさんじライバーの嫌いな食べ物だけで1日過ごします』昼食編10:50~のやり取りみたいな字幕は、コラボ相手とも親交のある当事者ならではの編集・演出だなぁと思います。

 上述の該当モーメントは、音声だけ聞くと、委員長&葛葉さん(同じにじさんじ所属の、石油王のヒモになりたい吸血鬼系vtuberのディスコードグループからの電話へ後輩ライバーが応えなかったことに対して、企画の対戦相手である葛葉さんが「委員長いると身構え(て受話器とることを尻込みす)るというのはあると思います。挨拶させてるんスもんね新人にと誹謗し、委員長が「(気後れする原因はじぶんでなく貴方にある。だって)葛葉さんお金徴収してるんでしょ?」とおなじく中傷し返したので、葛葉さんが「してないっスよ、大問題でしょ(苦笑)」とやわらかくツッコむというもの。

 これだけ耳にしても、たとえば人気漫画チェンソーマン』パワー&デンジが延々してくれそうな罵りあいと虚言をふくんだ責のなすりつけ合いで、じゅうぶん楽しくおいしい雰囲気なのですが。画面もいっしょに見てみると、葛葉くんの最後の言に(後輩からお金徴収)「してますよ 当たり前でしょ」と正反対の字幕がつけられているという、動画アップロード主であり編集者である委員長の毒気がフルスロットルな映像になってて素晴らしい。

 

    ▽奇想視聴覚作品『お邪魔しまぁす!』

 委員長がそういう突っ込んだいじくりの対象とするのは、配信者仲間だけじゃありません。

www.youtube.com

 10月27日にアップロードされた邪魔しまぁす!』は、前述のような茶目っ気やらなにやらが十二分に発揮された奇想ドラマ。

 ふだん不特定多数を相手にする配信者が、個に向けた何かしらを提供するシチュエーションボイス配信。有料無料長短シナリオの有無ドラマか雑談かその内容はいろいろバラバラですが、vtuber登場初期からおなじみのこのコーナーを、今回の委員長は遊び心たっぷりに提供しています。

起立! 気を付け! こんにちは月ノ美兎です。本日はわたくし、あなたの家にお邪魔させていただきます冒頭でもあった通りこの動画はスマートフォンで、そしてスピーカーで聞くことを推奨します

 この動画の再生機器としてケータイ電話をおすすめした委員長は、浴室まで向かうよう指示、浴室に再生機器を置かせ、それを聞くリスナーについては浴室から出てドア前で待機するようお願いします。そして……

すいませーん。ああっごめんなさい、あの、タオルとわたくしの着替え、外に置いてもらってもいいですか?

 ……配信環境と受聴環境とが地続きの、面白い時空間を出現させます。

 

 「ヴァーチャル」と聞くと「仮想的」って変換したくなりますが、第一義は「実質上」「実体的」あたりになるらしい。

「洗濯機の上から配信してます」

 とバーチャルYoutuberから言われたリスナーは、「なるほどそうは見えないけど、実際にはそのようなかたちでこの配信されているんだな」と画面の向こうの実質を補完して捉えたりする。

 そうやって考えれば、なるほどこういうプレゼンスもたしかにアリ!(そうか~?*7

booth.pm

 さて想同人音声評論誌 空耳』木澤佐登志さんの寄稿「胎内回帰ASMRについてお話させていただきます」では、上述した語義の揺れを確認しつつ、凝った音作りコンテンツがもたらす「virtual」な体験について――モニタやヘッドフォンの向こうにオルタナティブな世界が広がって、視聴者が実質上そちらにいるかのような体験について――語られていて。その評論の末部では、避難所(アジールとして胎内回帰ASMRを希求する(オギャる)現代日本の疲弊した男がゆくゆく辿りつくかもしれない新世界の可能性が考えられていました。

 米国の議会議事堂襲撃事件のQアノンやらの思想的基盤とも、厳しい就職戦線やその先の永い労働人生を憂う「大学院生の病」*8ともいわれる暗黒啓蒙やら加速主義やらについて紹介してきた木澤氏らしいヴィジョンなのですが*9……

 ……そんなASMRファンのひとりzzz_zzzzがこの評論を読んでて思うのは逆に、現実という地盤の強固さであって、「その実質的な没入をもたらすのは、あくまでその凝った音作りが活かされる状況に限られちゃったりするのかな?」て不安でした。

(たしかに、それだけ凄いならトべそうな気がする! でもそれ以外の雑音四感に注意がいったら、どうなるんだろう? 媒体の特性/限界って本当に無視できるものなの?)

 同誌の別論「成人向けバイノーラル作品の本懐」で羽海野渉さんは、ASMRシナリオ仕事を受注したさい(聞き手が言ってもなければ思ってすらないことを「言った」ことにさせられる可能性が大きい)オウム返しゼリフについて注意された経験や、音声作品「主人公の男性器に触れる」シチュエーションに突入した瞬間そのアクションが(「男性器を刺激している」という聴覚情報はあるいっぽう触覚情報が伴わないゆえに)「自分ではない誰かにやっている」他人事のように感じられて萎えてしまった経験を例に、成人向け音声作品の困難について語っています。

「奇想同人音声作品レビュー88連発」を読むと、「ただ音声を聞いてるだけの、向こうの人々にアクションを起こせない聞き手自身」についてエクスキューズのうかがえる作品は少なからずあるらしい*10。また、音声作品と聴者との断絶は悪いことばかりともかぎらないようで、変化龍・龍変化「今から考えるASMR」は、その断絶によってむしろ、「安心感」というASMR反応に重要なトリガーをメタ的に得られるのかも~との旨で*11前向きにとらえている}

 もちろん世の中にはコンテンツと連動してうごめく電動オナホールなどもあるわけですが、このblogで過去に使用感をちらっと語ったとおり、それにも色々な問題がある。

 一例としてはオナホを駆動させるモーターの灼ける臭いによって

「おれはいったい何をやってるんだろう? ミニ四駆を走らせてた子どものころ思い描いてた将来はこんなんじゃなかった」

 郷愁に駆られたりします。つれえよ。救いはねえのか? 天使の舞う天国はどこにある?

cyclone.co.jp

 

 『お邪魔しまぁす!』の委員長は、境をはさんだ不可視の「向こう」の存在としてリスナーと一定の距離を維持することで、その辺のジレンマをうまく解消しリアリティを保っています。

 ただそもそもこの状況は、「月ノ美兎(のこの動画)は様々なメディアで再生可能なYoutubeコンテンツにすぎない」って舞台裏を自他ともども認めなければ振るえない類いの大ナタによって自身をいじくり土台作りしたうえでのことで……

www.youtube.com

 ……ドライヤー中に動画を観たいひとのための動画やら。Twitterで見かけた情報商材アカのプレゼン4枚画像ツイートのノウハウを一日で一気にクリアした先に見える景色を確かめにいく動画やら……

www.youtube.com

 ……妙な思いつきをじっさいに形にしてきた委員長らしい、肩の力をぬいてヘラヘラ楽しめるお遊び動画にゃ間違いないんですけど、当人も実験動画とおっしゃるとおり、ここにきてその遊び心は言語遊戯とか前衛の領域に踏みこんでおり、月ノはウリポで韻がふめる。*12

 潜在的文学工房ウリポの一員ジャック・ルーボー氏への好意を公言した作家で……

 旅の間にしか読めない本があるとよい。

 旅の間にも読める本ではつまらない。なにごとにも適した時と場所があるはずであり、どこでも通用するものなどは結局中途半端な紛い物であるにすぎない。

 そいつは屹度、『逆立ちする二分間に読み切る本』のような形をしており、(略)平時に開いて字を追うことはできるのだが、実際に逆立ちして終えた場合の読後感とは比べものにもなりはしない。頭にのぼる血流を巧みに利用したお話なのだ。これを応用することにより、『怒りの只中で開かれる啓示』などが容易に作れる。

   講談社刊(講談社文庫2015年2月1日発行)、円城塔『道化師の蝶』kindle版2%(位置No.1747中 )、「道化師の蝶」1

 ……妙ちくりんな本(と読書環境と)の可能性に思いをはせて始まる化師の蝶』芥川賞を受賞した円城塔さんはその後、右・左それぞれの耳のためのピアス大の小説やら、やくしまるえつこ氏との共作として)ゲノムによるタンパク質の合成時に発生するポリペプチド鎖の立体折りたたみ構造めいたテキストやら妙ちくりんなもんを著しました。

www.theatreproducts.co.jp

wear.jp

www.youtube.com

 円城氏の近作字渦』の一篇でとらえられた、戦争にやぶれ本文を逐われ、そのあいだの小さな狭所ルビに安息地をもとめ逃れた文字たちの奇態みたいに、委員長の『お邪魔しまぁす!』も「こんな妙なとこに妙なもんが住みつけるもんなんだなぁ」という点で同じく楽しい。

 いや、ヴァーチュアルを――「実質上」と「仮想的」を――ふてぶてしいまでに自由に行き来し現実世界を占拠する委員長は、そして大前提のうけいれられず境を土足で踏み入れようとするへそ曲がりの不信心者も見据えたうえで視聴者へおまえもインターネット型の手足を生やしてみせろ別世界へジャンプしてみせろと煽る委員長は、もしかするともっともっと妙ちくりんかもしれないと思いさえします。

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 名登人家、月ノ美兎

  既存企画を参考にしたモノも結構ある。でもだからこそ凄さがわかる

 ぼくが「委員長がひとまわり大きくなって帰ってきた!」と思ったのは、9月末からアップされた信中に名前が出た食べ物しか食べられない3日間』シリーズでした。

www.youtube.com

 朝昼夕の各10分間のあいだに、同じにじさんじvtuberライブ配信をザッピングし、そのさい話題にでた食材や料理だけで生活する……という企画です。

名無しのV : 2022/10/20 00:49 ID: M0MTE3OTg
>>3
面白かったのは事実だけどアイディアはパクリだしなあ
〇〇に出たものしか食べれない企画は委員長の大好きなオモコロに既にある

   『日刊バーチャル』2022年10月19日掲載、「委員長の飯縛り動画、基本食わず嫌いしないからこその企画やったな『さすが面白かった』」コメント22より

 ネットの感想をあさってみると、「オモコロのパクリ」「オモコロの下位互換でしかない」との旨の口さのないご意見も聞きます。

{ちなみに引用元のページをさらに下ると、上のコメント22に対してバチクソ煽りまくるトキシックなzzz_zzzzのリプライ27(ID: g0MDIzNzk)を見ることができます}

 たしかにオモコロにも似た企画がありますし、委員長はオモコロファンです。オモコロの一員であるARufaさんダ・ヴィンチ・恐山さんのネットラジオに呼ばれたことも、逆に委員長が永田智さんをじしんの配信のゲストとして呼んだこともあります。

 既存の企画や先人の知恵を足がかりとした可能性はたかいでしょう。

 

 新雪の野の発見は、現代ならなおさら価値があることでしょう。

 ただ、もう数千年におよぶ人類史です、前人未到の領域ってそうそう無いもので、どこへ行っても誰かの手垢がついており、月まで飛んだって足跡があるくらいです。完全オリジナルの斬新なものってなかなか無いっスよね。

 先達の見つけた地をいかに開拓し いかな建築を打ち立ててみせるかもまた素敵なことなんじゃないでしょうか?

 「パクリ」だの「似ている」だのよりも、「いかに違うか」にも目を向けたい。

名無しのVtuber : 2022/10/20 11:15 ID: E3NjU5MTQ
>>27
長いなけど言いたいことはわかる
創作したり理解があれば安易にパクリなんて言えないんだよね
巨人の肩に乗る意義をわかってるしむしろ細部にどんなアレンジを加えているかを見る
委員長だとランダムかつ食べ物が出る確率もあやふやな配信という素材を狩場として見るのが面白いし、同時視聴のように視聴者が引き込まれる構造になってる

   『日刊バーチャル』2022年10月19日掲載、「委員長の飯縛り動画、基本食わず嫌いしないからこその企画やったな『さすが面白かった』」コメント30より

(このかたが反応した27番のレスがぼくのトキシックなリプライ。内容はこの記事の「▼付与されたゲーム性」で言ったこととおなじです)

 たとえば12世紀の哲学者シャルトルのベルナールが述べて以来いまではオアシスのアルバム名になったりまとめblogのコメント欄でもさくっと出てきたりするほど人口に膾炙した「巨人の肩の上に乗る(小人)」。

 この言い回しだって見る人が見れば、時代の変化や人々の価値観のちがいを読むことができるのだと云います。

ダンの五つの顔』のマテイ・カリネスク曰く、中世ルネサンスの当初は、モダンに対する進歩と自己卑下とが相まったアンビバレンスな譬えであった*13のが、幻影とうつろいやすさの普遍性を自覚したバロックを生きたモンテーニュが用いれば憂いを帯び*14、さらに下った17世紀では典拠もテケトーな単なるお決まりの修辞にかわるが*15、同じ世紀でもニュートンが言えば過去への称賛を込めた誇張の色が濃くなり、同じ17世紀の同じ科学者でも哲学者パスカルが言えばモダンに対する反感も無くなった似て非なる表現に変化する*16んだって)

 おもしろいですね。ぼくもなんかそういう面白い見方をしてみてえよ。

 月ノ美兎さんは、高名な登人家でもあります*17。帰ってきた委員長が、巨人の肩でいかように跳ねているか、このさきで見ていきましょう。

www.youtube.com

(↑標高326mmの間田山を登人・ぶじ登頂する月ノ氏頂きは空気が薄いのか、呼吸が激しく乱れ、せきこむようすも見られるものの、多幸感に満ちあふれ、まぶしい

 

  チョイスがよい

 委員長の企画はまずですね、チョイスがよんですよ。

www.youtube.com

 委員長のチャンネルでいちばん再生回数がおおいのは約460万再生の読が付く前に取り消せ!誤爆撤回チキンレース【月ノ美兎 VS 剣持刀也 /にじさんじ】』なんですけど、最近の動画もそのくらい回ったって不思議じゃないくらい面白い。

 

 動画や動画概要欄そしてtwitterのリプライなどから、前述の動画は劇団ヨーロッパ企画とその冠番組の1コーナーが、じさんじライバーの嫌いな食べ物だけで1日過ごします』パパラピーズさんとその動画が。癖食わず嫌い王』はフジテレビ『とんねるずのみなさんのおかげでした』食わず嫌い王決定戦とそして、タイタン所属のお笑いコンビ"春とヒコーキ"ぐんぴぃ氏らのバキ童チャンネル『性癖食わず嫌い王』シリーズが。じさんじロボット大会』は、vtuberおめがシスターズのtoioロボット相撲動画がそれぞれの参考元であることが確認できます。

 

 ヨーロッパ企画による誤爆撤回チキンレースの再生数は3万6千で、おめシスのtoio相撲は12万、『性癖食わず嫌い王』は20万再生台という、"人気だし面白いけど、おなじ趣味人だって見てない人はいるだろう”知名度のもの。

 パパラピーズさんの動画はそれぞれ633万108万再生の大々大人気企画ですが、二次元のオタクなら見たこともなければ見ようとさえ思わない界隈のもの。

 おもしろいけど定番になってないものを見つけて輸入する、たしかなキュレーションが委員長の企画にははたらいています。

{上の文を読んだかたがいだきそうな疑問(ツッコミ)として、

ヨーロッパ企画を無名扱いとか(笑)」

 というのをぼくは1つ思いつきました。この記事をここまで読んでくれるようなかたは、ヨーロッパ企画が四半世紀ものあいだ活動をつづける「ふつうにすごい」劇団だとご存じであり、20年の映画シーンならあの実験的な傑作ロステのはてで僕ら』絶賛が漏れ聞こえるTLを形成なさってるタイプのオタクでしょうから当然の嘲笑ですけど、ただ誤爆撤回チキンレース」ってまじで知名度ひくいんスよ……。

 その証拠に、委員長が動画をアップした2ヶ月後に*18、若手芸人コンビ・令和ロマンさん(のちにM-1グランプリ ’22』敗者復活戦2位となった実力者です)オリジナルに思いついたものとして同趣向の企画動画をアップした結果、かんそう氏によるYahoo!にも併載された『Real Sound』掲載コラム「企画モノの上手さも尋常ではない」「斬新で攻めた企画」の一例として手放しで絶賛されるに至ってます*19 *20

 

  チョイ足しがよい

 そしてただそのまま輸入するだけでなくて、料理がまたよい!

 ちょっとだけ食べやすくなるよう美味しくなるよう加えられた、チョイ足しがよいんですよ。*21

 

   ▼付与されたゲーム性

 ゲーム・クリエイター桜井政博さんのYoutubeチャンネルを委員長が見ているのは納得いくものです。桜井氏がゲームの大きな魅力として「かけひき」――「リスクとリターン」を挙げているように……

news.denfaminicogamer.jp

(↑桜井氏の論考テキスト。上でなされた話題のいくつかは、のちにYoutube個人chにて複数の動画として再構成・再話されてもいます

 ……委員長の企画もまた、そういうゲーム要素がチョイ足しされていることが少なくない。

 

    ▽食の臭いを嗅ぎ分け、狩り場をさまよう『配信中に名前が出た食べ物』

 たとえば『配信中に名前が出た食べ物しか食べられない3日間』なら……

  • 食事者(委員長)がどの配信を見るか、ある程度の選択権があり、
  • そのリスクやリターンについてある程度の見込みがたてられる

 ……といった具合にゲーム性や攻略*22がある

 おなじゲーム実況プレイ配信でも、餓死や料理がゲームシステムとして組み込まれている『MineCraft』実況プレイ配信ならば食べ物の話題が出やすいだろうとか。多人数バトルロワイヤル式FPSでありアイテムも銃火器ばかりで、一見この企画には不向きそうな『APEX LEGENDS』実況プレイ配信は、玄人がやると実は……とか、「じゃあ前回ここで大収穫だったから、こっちでもいけるっしょ」と思ったら……とか。

 委員長が企画のなかでよく考え、試行錯誤する過程は、ゲームやゲームプレイ実況のように面白い

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     ○コンプリート・ガチンコ耐久マラソン的な、オモコロの<食べられない><食べてみた>

 んで、類似性が話題にされるオモコロの先行企画をざっと振り返ってみると、こういうゲーム性ってオモコロの<(任意の食べ物)しか食べられない>シリーズでは実はほぼ無いんですよ。

 経過日数とともに体重や体脂肪率の推移がしるされる3日間ウサギの食べられる雑草とエサのみで生活したら地獄だった話』('15)*23とか、企画挑戦者が塔をのぼるたびに胃袋が膨れアルコールが回っていく『【ンテローザの塔】地下1階から6階まで居酒屋をハシゴしたい』('18)*24とか、人気バンドくるりの歌詞を網羅するンジャーエール、上海蟹、くるりの唄の食べ物全部食べたい』(’18)*25とか、最近だと『【36種類】マブラに登場する「たべもの」ウマそうだから全部食う』('19)*26とかブンイレブン以外のブリトーを食べる日』('22)*27のようなオモコロの<(任意の食べ物)しか食べられない><(任意の事物)だけで生活する>シリーズって、コレクション性・コンプリート性がつよいものなんですよね。{なので記事も、”食べられない”という縛り記事より、"(ぜんぶ)食べる"という主体的な記事が多い}

 オモコロのほかの「食べてみた」企画ならたとえば100面ダイスで焼肉食べ放題の食べるメニューを決めてみた』*28のようなランダム性があるものもありますが、ランダム性とゲーム性って、似ているようでけっこう遠い。ダイスになってしまうと、食べる人の意志の介在する余地はありませんからね。*29

 逆に古の記事Tポイントだけで1ヶ月生活してみた』('13)は、企画挑戦者の振るえる裁量があり過ぎてゲームとして成り立っていません。TSUTAYA系列店でお金のかわりにつかえる1万ポイントだけで1ヶ月生活することに挑戦したまきのゆうき氏は、2日目昼の時点で「他人におごってもらう」という反則に手を染め、常習化します。マクドナルドの飲食物だけで生活するドキュメンタリー映画ーパーサイズ・ミー』的に面白い方向へころがっていくPR記事ですな。よくこれにOKを出しましたねTSUTAYAさん!?

 最新の企画『【画で食べていく】漫画に登場する食べ物だけで一週間生活チャレンジになれば「どの雑誌を選ぶか?」など掲載漫画から予想を立てたりなどゲーム性がでてくるんですけど、この記事の初出は10月7日で、つまり委員長の動画公開(初回9月28日公開)とほぼ同じ。パクりようがないし、むしろ委員長の企画のほうが先んじてさえいるのでした。

{ゲーム性もふくめて、オモコロの企画(の大体)よりももっと近い先行企画がありますね。

 日本テレビ『進ぬ!電波少年』の「電波少年的懸賞生活」('98~)や、テレビ朝日いきなり!黄金伝説。』の「1ヶ月1万円節約生活・1ヶ月1万円節約バトル」(’00~です。

{前者は、なすび氏が雑誌などメディアの懸賞欄で得たものだけで生活する企画で。

 後者は、芸能人が指定期間を指定資金で生活し、最終的な出費の低さを競う企画。

 すくない食材や無駄ない調理でおいしく食事する料理自慢やタイムセールなどを把握した買い物自慢、あるいはチャリンコ通勤などによる正攻法で出費を抑える人もいれば、鶏を育て卵を採る・モリ片手に海を素潜りし自給自足生活をするパワープレイに走る人もいて、よゐこ濱口優さんが魚介をかかげて叫ぶ「獲ったど~!」は番組を越えてかれの代名詞になった。委員長がラジオを愛聴していたオードリー春日さんもサバイバル生活で活躍したコーナーでもある。

 また、先述したオモコロの古の記事『Tポイントだけで1ヶ月生活してみた』('13)のルール「1ヶ月1万ポイント」も、これにならったものでしょう}

 振り返ってみると「オワコン扱いされて舐められることもあるけど、やっぱりTV業界って立派だわ」と思うわけですが。委員長の当該企画は「配信・会話で出たもの」のおかげで、良くも悪くも突拍子ない代物が降って湧いてきて、この企画ならではの面白さもちゃんとある}

 

    ▽電話をかける前も、訊き出してからも駆け引きしつづける『ライバーの嫌いな食べ物』

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 にじさんじライバーの嫌いな食べ物だけで1日過ごします』にもまた、パパラピーズさんの面白企画からゲーム性・対決性が(意図的に・結果的に)チョイ足しされています。

 もともとの企画は、パパラピーズのおふたりがそれぞれ通話したい第三者をじぶんで選んでじぶんで掛けて、第三者の嫌いな食べ物計6食を聞きだし終えたら、どれを食べるかジャンケンで決める……というもの。実食の模様やジャンケンで手を出すたび刻一刻とおおきく表情が変わっていくようすは、3次元の体をもつリアルYoutuberさんならではの面白さがあります。

(zzz_zzzzはとくに、じんじん氏が食べた物のあまりのエグさに離席し画面外の流しへ去るさい勢い余ってゴミ箱のペダルを踏んでしまって、無人の部屋でゴミ箱のフタだけがゆっくり動いて閉じていくワビサビが好き。実写ならではの情報量の多さだ)

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 委員長の企画では、食事対決するおふたりがそれぞれ通話したい第三者をじぶんで選んでじぶんで掛けて、通話により聞きだした第三者の嫌いな食べ物をじぶんで食べる……というかたちに変わっています。

 昼食編ではそこから更に、食事対決をする両名が対戦相手と通話してほしい第三者を選んで相手に電話をかけさせ、その第三者の嫌いな食べ物を対戦者に食べさせる……という、もっと攻撃的なものとなっていました。

 

 もとの企画だと、だれに電話をかけるかやどんな食べ物が出てくるかはサラッと流される一幕です。最後のジャンケンでどうとでもなるので、食べ物を聞いたら電話は即切りされます。

 

 委員長版のルールだとそこについて多様なインタラクティブなかけひきが期待できるし、実際の動画でもなされるんですよ。

 委員長も葛葉くんもまず電話をかける前段階で推理・戦略をはたらかせることになりますし「水族館好きのこの人は、魚を食べる≒殺すのは可哀想で嫌いなのでは?」、電話をかけて食べ物を聞き出してからも食事者にとっても嫌いな食べ物だったら「なんとかその食材をおいしく戴けないか?」という思惑から意地きたない追加質問が添付されたり(それを聞いている対戦相手から「誘導尋問するな」とヤジを飛ばされたり)食事者にとって好きな食べ物だったら対戦者が「ほかには?」と追加質問をして、相手をどうにか苦しめられないか画策したりと……多彩にひろがっていきます。

 

 さらには委員長版昼食ルールであれば、相手の生殺与奪の権をにぎっているから、より一層のヒートアップが期待できるでしょう。*30

 とくに対戦相手間の会話も、今回では駆け引きの対象になりやすそう。*31

 じっさい動画でも(食材の品数がそっちはすくないから)ズルいっすよ!」との物言いがはいり、追加電話がなされたりしました。

 

    ▽準備タップリ企画立案者vs初見者たちのレイドバトル;『にじロボ大会・説明編』

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 そもそもがオリジナルロボ創作対決ゲームであるじさんじロボット大会』でも、いろいろなチョイ足しがうかがえます。

 

 参考元のおめシスのtoioロボ相撲動画では未言及だった、特定プログラムを覚えさせることで放てる必殺技や、舞台に貼ることでそれを踏んだロボの動きを左右する特殊地帯。この存在がにじロボ大会では明言されていて。

 そして対戦相手と技かぶり無しにそれぞれひとつずつ覚えさせたり、後半ラウンドでそれぞれ好きなところへ貼ったりするルールがくわえられています。

 

 もっとも、ここまでならtoioにプリセットされたものなので、「toioというプロダクトがエラい」ってだけの話なんですけど(実際エラい!)【説明編】と題された前編の動画でおこなわれた、企画紹介とロボットの仕様説明をかねたエキシビションマッチがアツいんすよ。

月ノ 「まず……り゛ り゛ む゛

りりむ「エッ なになになになに?」

月ノ 「りりむには、ロボットを速攻で作ってもらいます(略)

りりむ「1日かかるよ、だいじょうぶ?」(略)

月ノ 「1分以内に」

りりむ「1分!?」

一同 「笑」

月ノ 「これで戦うのは別のメンバーなんで」

一同 「エッ」

 紙コップやつまようじなど複数の素材をくみあわせ、漆黒の塗装まで済ませ、頂上に自身のアクリルスタンドを立たせたガッチガチの特製オリジナルロボを事前に用意してきた大会主催者・月ノ美兎委員長。

 そんな委員長にたいして、事情を知らない他参加者たちがその場でロボをレゴブロックで作成・操縦・改修など団結して立ち向かう……という、個人の特注専用機vs多勢の即席汎用*32機によるレイドバトル的マッチメイク*33になってるんですよ。

 

 2本先取の3ラウンドマッチで、初戦の失敗を分析、別メンバーがその知見を活かした改修をし、リベンジにのぞむ……というチームプレイの良い所がでた名勝負で、チュートリアルといえど、30分ちかい尺の【本選】に負けず劣らずおもしろいしぼくは好き。

 

    ▽浮遊感は落ちてこそ生まれる;『誤爆撤回チキンレース』のスリル

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 21年1月投稿の名作爆撤回チキンレース』も、ヨーロッパ企画の元ネタよりゲーム性の高いスリリングな内容になっていました。チキンレース失敗したときどんなツラい状況になるか(ペナルティ)が最初に映されたことで、リスクとリターンがくっきりしたためですね。

 

 チキンレーサー剣持刀也くんが同期のギルザレン三世へLINEをおくった第一レースの居たたまれなさたるや……!

 ギル様の敬称でリスナーから畏れられ、剣持くんと会えば毎度バチバチの罵り合いをしているこのライバーは悠久なる時を生きる吸血鬼系vtuberで。年間配信時間が1,000時間を超すvtuberが全体の1割ちかく居り、なかには約2,277時間なんて一年の法定労働時間を200時間くらい超す配信者さえいるにじさんじのなかで、年間配信回数たった1度くらいというマジで余人とことなる時間感覚で生きるファンタジックなvtuberです。

 そんなかれから誤爆メッセージにたいして秒で既読スタンプをもらい、しばらくの沈黙ののち、誤爆してますよ…」と腰の低い丁寧語の、一般社会に生きる小市民のマジレス*34を返されるというリアルに気まずい滑落事故から、剣持くんのチキンレースははじまるのでした。

 

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 誤爆撤回・LINE既読チキンレースを題材にした動画は、先述したとおり21年3月にでた後発動画として令和ロマンさんによる『【回でお蔵】「既読付いたら負け!先輩LINEチキンレース」【良い子は絶対にマネしないでね!】』がありまして。

 こちらの企画も、タイトルから窺えるとおり、アイデア面でも演出面のうえでも独自のカスタマイズや発展がみられるんですけど*35、じつは令和ロマン版でも「既読ついてしまったときどれだけヒドいことになるのか!?」無いんですよね。*36

 脚注で詳述したとおり主観的にも、「斬新な企画」と持ち上げたかんそう氏のReal Sound掲載記事Yahoo!併載のとおり客観的にもこちらはこちらで面白いんですけど……

 ……でもたとえば、前元号前々元号日本テレビスーパージョッキー湯コマーシャル」

 BIG3ビートたけし氏による前時代らしい暴力的で卑猥なあのお笑いコーナーから、湯気の沸き立つ浴槽のまえで尻込みし「押すなよ!」と恐怖しドタバタするくだりは残したいっぽう。実際その湯に浸かった反応や入浴後あかくなった裸体を氷で冷やすといったそれがどれだけ熱いかというリアクション芸がないまま入浴時間が加算されたり、あるいはタイムアップを迎えても脱衣室カーテンが開かれなかったりするような改変をくわえるのが令和のお笑いであるなら、「そんな時代こなくてもよかった、末永く健やかにお暮しください平成天皇……!」ってのが正直な感想です。*37

 

 委員長版チキンレースのゲーム性は、最初から意図したわけじゃないだろう(レース内容によってはこうならなかった)偶発的な拾いものであったわけですが。最近の企画だと、座組みの時点でけっこう意図的にそういう要素を盛り込んでいそうなのが大きな違いですね。*38

 

   ▼付与された物語性

 委員長の企画は、その物語性もまた魅力です。

 リアルYoutuberさんたちと違って、vtuberはノンバーバルな情報が少なくなってしまうのはすでにチラッと言いました。でもそれを埋めて余りある豊かな言語情報が、委員長の動画にはあるんですよ。

 

 『誤爆撤回チキンレース』の話をつづけましょう。ヨーロッパ企画の元ネタが2分の動画だったのに対して、委員長版は十倍の約20分の動画になっています。

 なぜそこまで長尺になったのかといえば(レース回数が3倍と単純に多いのもありますが)、メッセージ撤回まえに既読がついてしまった場合に誤爆メッセージを読んでしまった第三者が、どんな反応をよこすのか?」を見るドッキリ企画との二段構えの企画となっているからなんですね。

 

 同期、友達、じぶんを敬ってくれる後輩。性格はもちろんそれぞれ関係のことなる各ライバーが、「誤爆」を見てしまったときの十人十色のおもしろい反応。

 かまえたキャッチャーミットに寸分たがわずズバンと快音響かせボールが収まる「ドッキリ」冥利に尽きる反応もあれば、仕掛け人であるはずの委員長らが逆にドッキリさせられるような――それも、意味不明すぎて、定型の「驚愕」リアクションさえ取れず、ただただ困惑・フリーズさせられてしまうような――おもしれー反応をするライバーさえいる……

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 ……こうした展開はヨーロッパ企画の原版や前述したその他の派生版ではおがめなかったもので、委員長版の大きな魅力となっています。

 

 信中に名前が出た食べ物しか食べられない3日間』『じさんじライバーの嫌いな食べ物だけで1日過ごしますでは、ふだん追ってないvtuberやその配信がどんな雰囲気かちょっと覗ける、ハブ的な要素もあります。

 このシリーズを見ることで視聴者は、エルフのえるさんの突拍子のないコメントと小芝居にクスリとしたり、海妹四葉ぴの謎ゲーム感想から本配信を見たくなったり、地上に舞い降りた天使である叶くんが見せるとんでもない表情とそんな顔を浮かべるシチュエーションに委員長ともども眉をしかめたり。午前10時すぎの電話に「勘弁してくださいよこんな時間に!」と説教のテンションでかわいらしく怒るましろ爻きゅんや、おっとり清楚な自然体でほほえみながら吸血鬼vtuberにニンニクとネギを食べさせるシスター・クレアさんなど、とにかくいろんなライバーがおり、いろんな配信があることを知ります。

『嫌いな食べ物だけで1日過ごします』委員長版のオリジナリティとしてほかに、「通話相手が"なぜ"それを嫌っているのか」をテーマにして掘り下げる、トーク企画要素の強化も挙げられそうです。パパラピーズさんの原版では、嫌いな食べ物を聞いたら即切りで、話をそこから弾ませてはいなかったので)

 

 さらには、外国語をまなびたくもなります。

 JPライバーの配信が見当たらない前者の最終日や、「あまり関わりのない人ともコミュニケーションをとってみよう」という向きのつよい後者の昼食編では、海外にも所属ライバーがいる大きな団体である利点をいかして、英語圏にじさんじvtuberの配信を観たり・交流をはかったりするワールドワイドな展開をみせます。

 「ライバーの嫌いな食べ物を食べる」という企画は、ここにきて、

「英語にうとい日本語圏ライバーが、英語圏ライバーに"嫌いな食べ物はなに?"とつたえられるか?」

「嫌いな食べ物について返答をもらえたとして、それが何であるか理解できるか?」

 という別のジャンルへと転じるんですね。

 好意と情熱とでどうにかこうにか意思疎通をはかるさまが楽しくほほえましいですが、言語の壁は険しい。そんな窮地にバイリンガルvtuberがさっそうと現れ一件落着、かと思いきや……! その顛末もたいへん良かったです。

 

    ▽それぞれの者や物語にも跳びたくなる波及性

 また、他ライバーや配信に跳びたくなる、話題性・波及性も魅力です。

 委員長の企画についてググってみると、それにかかわったりまきこまれたりした他配信者による思い思いのリアクションや、それにたいする他配信者のファンによる切り抜き動画が引っかかったりします。

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(↑のように、委員長が動画をアップロードするまえ、詳細な内容をぼかしつつ委員長&葛葉の企画に出たことを話すにじさんじENのライバーさんのようすを、日本語字幕つきで切り抜いた動画などもある)

 

 や、だれかの企画にその関係者が反応すること自体は、べつに委員長の企画にかぎったことじゃありません

 でも、企画のゲーム性ゆえに「もしボタンが掛け違えていたらどうだったろう?」といった比較や……

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 ……不条理モノの域にふみこむ企画実行の妙ちくりんさ故に、「巻き込まれた側はどういう心境だったんだろう?」といった思いを馳せやすい部分はありそうです。

 

     ○ライバーじゃなくてもライブ配信じゃなくても巻き込まれる波及性・ライブ性

 委員長の奇行に振り回されるのは、なにも配信者(vtuberにかぎりません。

 委員長が配信をしていない時分の、ぼくたちリスナーだってその対象になるんです。

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 不穏な文言とともに制限時間5分のクイズを提示、知恵をあおぐ委員長。

 このツイートの正体は、のちに動画としてアップロードされるイズ▶みとオネア』の実況プレイ中での一幕でした。

 小説原作の劇映画ラムドッグ$ミリオネア』のモチーフにもなり、日本でもみのもんた司会の輸入版が人気を博したイズ$ミリオネア』。その様式を、問題や趣向を月ノ美兎に特化したかたちで踏襲・オマージュした同人ゲームが『みとオネア』です。

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 晴れてYoutubeチャンネル登録者数100万人を達成した月ノ美兎。しかしある日とつぜん、登録者数0の暗闇におとされてしまう。

月ノ美兎という『存在』は、私が完全に奪い取った。返してほしければ、この月ノ美兎にかんする問題を完答してみせ、お前がこのチャンネルの主・本物の月ノ美兎であると証明してみせろ……」

 闇から現れた謎の人物は銃を片手にそうささやく。月ノ美兎によく似ているが、ポリゴン数の異様に多いこの人物は謎ノ美兎。月ノ美兎チャンネルで投稿された配信のなかでながらく再生数1位だった動画の主で、このチャンネルの真の主と噂されもした異形だった。登録者奪還・本物の座をかけたクイズ対決が、いまはじまる……というゲーム。

 『クイズ$ミリオネアでは、回答者が各1回だけ使えるお助けコマンドとして「テレフォン」(=会場外の支援者に電話で知恵を借りるコマンド)、「オーディエンス」(=会場の観客に多数決をとるコマンド)、「50:50」(=四択の選択肢を半分に減らすコマンド)という3種類用意されていて、ゲームみとオネア』では、そのうちのひとつ「50:50」だけが採用されています。

 つまり委員長は、ツイッターの投票機能による「オーディエンス」を独自に発案・使用することで、ソロプレイ用ゲームという意味でもライブ配信ではない)動画配信という意味でも一方通行のはずの配信を、ちょっとこちらとそちらで時差的なもの(ラグ)があるというだけの視聴者参加型のライブ感をそなえた通信にかえたわけなのでした。

 

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 新衣装にぴったりだし、新衣装お披露目配信みたいなシチュエーションのゲームだし、委員長のウクレレでその主題歌が聞けたら最高な{んだけど。他方で、世界設定に忠実なシステムのためダレ場が絶対うまれるうえ、詰まるときは分単位どころか時間単位で詰まるんで配信対象にはならないだろう(でもなんか配信外でひっそりやってくれたらめちゃんこ嬉しい)傑作オープンワールド宇宙冒険アドベンチャーOuter Wilds』

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(↑一向に発売されないswitch版の告知トレイラー。PS4でも一部重くてフリーズ強制終了するゲームが、switchでやれるワケなくね?」って個人的には思います。にじさんじvtuberだと、JPだと黛灰さん、海外だとエリーラ・ペンドラ氏と狐坂ニナ氏が実況プレイしてくれました)

 いよいよ私たちはトランスメディアストーリーテリングの世界に暮らしています。作品が個別に独り立ちして自己完結することよりも、各作が貢献し合ってひとつのより大きな物語経済を成すことによって語られる世界に。

   Increasingly, we inhabit a world of transmedia story-telling, one which depends less on each individual work being self-sufficient than on each work contributing to a larger narrative economy. 

  web.mit.edu『Henry Jenkins blog』、ヘンリー・ジェンキンズ「GAME DESIGN AS NARRATIVE ARCHITECTURE」{訳は引用者による(英検3級)}

 その『Outer Wilds』にも影響をあたえた*39論考GAME DESIGN AS NARRATIVE ARCHITECTURE』の著者ヘンリー・ジェンキンズ氏は、当該論考や別著ンヴァージェンス・カルチャー』などで、メディアをまたいでひとつの大きな物語を成すような語り口「トランスメディアストーリーテリング」の重要性を説きます。

 ざっと適当にまとめると、たとえばスター・ウォーズのゲームはオリジナルの映画そのものではない(しオリジナルのクリエイターが関わってるわけじゃない)けど、でもそうやって別のアプローチから掘り下げられた視差が『SW』世界をより豊かにし、ファンをより深くその世界に没入させるのだ~みたいな感じっス。(『GDaNA』*40

 そしてさらには、『SW』人気の拡大とともに成長したファンコミュニティに注目、創造主ジョージ・ルーカス氏らがファンメイド作品のコンテストを主催したり、ときに二次創作者をオフィシャルな一次創作の脚本家にスカウトしたり(『SW』世界の帝国兵士の日常仕事を『全米警察24時 コップス』風にえがいた二重パロディ多重二次創作自主映画『帝国兵士24時 トループス』が当のルーカス氏の目にとまり、そのまま公式コミックスの脚本をまかされた……というケヴィン・ルビオ氏)したこともだよ~と。(『CC』

 事物とそのファンコミュニティとの関係についてさまざま言及されていくなかで、ぼくがとりわけ惹かれたのは、素人さんのなかから一番のアイドルを視聴者投票により選出する視聴者参加型リアリティ番組『アメリカン・アイドル』{'02~。アメリカ版『ASAYAN('95~)と言われたりもするけど、未見だから実際は知らん}をたのしむご家庭や寮生たちの姿。

 寮の共有スペースで『アメリカン・アイドル』を視聴する学生を観察した研究者たちも、似たパターンを発見した。学生たちは様々な出演者に対してそれぞれ異なった種類の感情的投資を行ない、個々の出演者の相対的な長所を毎週議論していた。出場者たちのキャッチフレーズが皮肉として会話の中に自然と現われていた。何回か放送を見逃しても、番組のルールと出場者についてある程度知っているので、友人の助けを借りて番組の視聴に復帰できる。番組を見るつもりなしに共有スペースに入り込んで、結果的に番組を見続けた人もいた。番組を見ることが寮のコミュニティの社会生活の中心になるにつれて、熱心な視聴者は週ごとに増えていった。面白いことに、最終回は期末試験とスケジュールが重なっていたので、学生たちはテープに録画しておいて、すぐには見ずに[試験が終わったら]皆で一緒に見る約束をした。

   晶文社刊、ヘンリー・ジェンキンズ著『コンヴァージェンス・カルチャー ファンとメディアがつくる参加型文化』kindle版26%(位置No.9746中 2435)、「第2章 『アメリカン・アイドル』を買うこと――私たちはリアリティ番組でどのように売られるか」あなたたち同士でお話ししてね。 より

 イニシアティブ・メディアとマサチューセッツ工科大学比較メディアプログラムの研究チームが調査した、ゼロ年代アメリカン・アイドルに盛り上がるゼロ年代のお茶の間の活気や学生寮の熱気。

 これって現代だとSNSでトレンドワードをクリックすれば、さまざまな事物にたいして拝める空気なんじゃないでしょうか。

 ジェンキンズ氏の書籍では、アメリカン・アイドルは番組が「家族の娯楽」となれるよう、10代20代が主である番組出場者に加えて、ゲスト審査員やコーチとして親や祖父母世代に訴求する年齢のポップスターを起用していると考察されてもいます*41。人気コンテンツは、多方面で認知され話題にされるからこそ人気であり、その人気は多方面とつながるための戦略があってこそのものなのだ……ということでしょうか。

 ジェンキンズ氏はそんなあれやこれやを、現代にあらたに現れたカルチャーなのだとまとめます。

 コンヴァージェンス文化へようこそ。ここは古いメディアと新しいメディアが衝突するところ。ここは草の根メディアと企業メディアが交差するところ。ここはメディアの制作者とメディアの消費者の持つ力が前もって予見できない形で影響し合うところだ。

(略)

 私のいうコンヴァージェンスとは①多数のメディア・プラットフォームにわたってコンテンツが流通すること②多数のメディア業界が協力すること③オーディエンスが自分の求めるエンターテインメント[以降、エンタメ]体験を求めてほとんどどこにでも渡り歩くこと、という三つの要素を含むものをいう。

   『コンヴァージェンス・カルチャー ファンとメディアがつくる参加型文化』kindle版26%(位置No.9746中 269)、「イントロダクション 「コンヴァージェンスの祭壇で祈ろう」――メディアの変容を理解するための新しいパラダイム」より(略は引用者による)

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A NEW MAGICAL EXPERIENCE

(略)

僕らは、テクノロジーで、エンタメを変える。
もっと自由で、もっと多彩で、もっとディープなコンテンツを送り出し、
魔法のような新体験を世界に届ける。

そして、その先に見つめるのは、新たな「エンタメ経済圏」だ。

近い将来、人々の生き方や働き方が大きく変わり、
よりクリエイティブなものに時間を注ぐ時代がやってくる。
それは同時に、ユーザーとクリエイターの垣根がなくなる時代で、
消費と創作の新たなサイクルのもと、
「エンタメ経済圏」が加速していくだろう。

僕らは、そんな新時代の切り込み役として、
世界の人々の日常に魔法をかけていく。

    エニーカラー社、「当社について」より(略は引用者による)

 こうした論考を読んでいると、

「なるほど、にじさんじとか*42の、無数の者物が織りなす"関係性"ドリブンあるいはファンコミュニティによる"推し"活ドリブンの事物の魅力ってこれか~!!」

 ととびつきたくなっちゃうわけですが、

「でも、"でかい網目をなせる体系"って、ジェンキンズ氏が『GDaNA』などで言うほど強いか? そうでもなくね?

 とも思うわけです。

 単につながるだけですごいなら、近所の町内会でもよさそう行事の来賓の紹介とかね。もちろんそっちはそっちで強大で広大ですけど、ことぼくが、そっちは面倒くさくて没交渉にしちゃってるのはなんでだろう? 運動会・文化祭の式で「議員さんの起立礼着席うおおおお!」とかなること無く、すやすや居眠りしちゃうのはなんでだろう?

 あるいは宣伝やらタイアップやら協賛やら、つながることを目的として行われるダイマステマ古今東西さまざまな活動のなかで、平常心で無視してCMスキップボタンをクリックしちゃうものと、実物を手に取って製品表示欄まで確認したくなるものとがあるのはなんでだろう?

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 そこを考えていると、ジェンキンズ氏とは正反対の見解をいだいてしまう。

 むしろ、それ単体ですごいやら面白いやら思える、強い存在があってこそなのではと。

 おおもとの一次源が、なにか語らずにはいられなくなるほど、あるいはだれかと感覚を共有したくなるほどパワフルな存在だからこそ、その反響がしぜんと二次三次とひろがる大きな網目に育つのではと。

 たとえば自社発案物のみで40年間独立独歩しその世界を統一してきたレゴブロックが、はじめて外部とライセンスをむすび他社著作物スター・ウォーズをレゴ化したのは、『SW』が多方面へ展開する越境コンテンツだったから以上に、創業者一族の3代目社長が大ファンであるくらいそれ自体が強い引力をゆうする巨星だったから*43でしょう。

 委員長にも同じようなことが言えると思います。

 

 委員長のげんざいの配信スタイルは、いまとなってはにじさんじの「ふつう」からちょっと違ったものになっているかもしれません。

 でも、いろんな界隈に踏み入れて良いものや妙なものを見つけ、巣に持ち帰って楽しそうに披露する心根はそのままに、その収穫をいったん手元に置いて、より映えるかたちでより妙ちくりんなかたちで練り上げてから披露してくれるようになった現在の委員長は、一躍知名度を得ることとなったであろう活動初期よりももっともっと面白い。

 

 

     ○そもそもおまえ誰?

 いま「オススメのvtuberは?」て聞かれたらぼくは月ノ美兎委員長と答えます

 上の文を読んだかたがいだきそうな疑問(ツッコミ)をぼくは2点ほど思いついてて、「いまさら言うまでも無くね?」というのがまず1点、そして「どちら様ですか? そんなこと聞かれるような有識者なんですか?」というのがもう1点。

 そうなんすよね。そもそもzzz_zzzzにたいしてそんな話を振る他人様なんていないから、こんなん虚無の想定なんですよね。へへ……。でも言いたくて仕方ないんですよ。

 だれにも聞かれなくたって、いろいろ語らずにはいられなくなる。そういう立派な肩を、委員長はひっさげ帰ってきたんですよ。

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更新履歴

(誤字脱字修正は適宜)

1/25 アップ 3万3千字くらい

~2/06 追記改稿 3万9千字

 ・現代社会論ぶりたくなったので色々追記改稿した。

  (初アップ時から載せていた『空耳』掲載論考、これと木澤氏の過去の単著との重なりを記し。ジェンキンズ氏の論考も、コンヴァージェンス文化について追加引用し。それらと語句・考えがいくらか重なるエニーカラー社の「当社について」を追加で引用した)

 ・オモコロ記事について参照数と説明を増やした。

 ・図表を4点追加した。

2/10 追記改稿 4万1千字 Live2D体のvtuber登場まわりの昔話をもう少し詳しくした。

 

 

 

 

*1:公称はバーチャルライバーYoutubeにとどまらずさまざまなメディアで「配信をするバーチャルのひと」ってことですね。

*2:しかし「「「質感」」」て言い回しもめっきり聞かんくなったな。時代の流れ、はやすぎる……。

*3:もちろん、にじさんじ活動以前にも「ガワにおさまらない存在感」によって人気をあつめたvtuberさんはいました。

 かわいらしい狐耳美少女の姿と語尾に「のじゃ」をつけて喋るガワをかぶって、じしんの世知辛いアルバイト生活を語ったり自作ゲームを実況プレイしたりする、オタクな成人男性そのものの声色をしたバーチャルのじゃロリ狐耳Youtuberおじさんねこます氏は、バーチャルYoutuberを世間に知らしめる大きな存在でした。キズナアイさんの人気にしても、かわいらしいハイテクAIの姿から出てくる「ふぁっきゅー!」のギャップが受けたところは大きいでしょう。

 (意図してかせざるかはzzz_zzzzには分かりませんけど)個々が踏み入れつつあった「なまの質感」の領域について、さらに突き進もうとしたひとびとは複数いて、「そのなかでにじさんじがちょっと早かったり目立っただけ」という言い方がたぶん穏当でしょう。

 にじさんじ活動開始と同月末2月28日、カバー社の0期生ときのそら氏の配信『【子2人実況】ホラゲで親友を絶叫させてみたのそら【ホノボノ】』友人Aちゃんが「誕生日なので特別に」ということで、声ありで大々的に登場しました。

 Live2Dのvtuberの登場はどうでしょうか。にじさんじ活動開始から2ヶ月後にカバー社がスマホ用Live2D配信アプリ「ホロライブ」を4月にプレスリリースし、配信者のオーディションも告知。Live2Dの肉体をもつvtuberアマリリス組(BitStar運営)が4月末から活動開始{9月末に解散。期間こそみじかかったですが、黒ギャルvtuber皇牙サキぽよがデビューして2度目の配信で摩義士伝』を1時間超かたり出版社がツイッタートレンド入りを受け期間限定無料公開をするなど大きなムーブメントを起こしたり、由持もに氏(の姉)によるインディゲームが2作累計12万セールス突破と人気を博したりなど、濃い集団でした}、カバー社からもデビュー当初3Dの肉体をもたないホロライブ1期生が6月にデビュー、にじさんじを運営する旧いちから社から技術協力をうけた他社vtuber団体「有閑喫茶あにまーれ」が6月(DLSiteで自作ASMR音源が2作累計10万セールス突破した周防パトラ氏らの所属する)「ハニーストラップ」が7月にYoutube活動開始……という盛り上がりを見せていきます。

*4:パッと思いつくのは、ぼくがテレビ見てた時代の番組なんで一昔まえの例示になりますが、たとえば日本テレビウッチャンナンチャンのウリナリ!!('96~)の、芸能人が水泳やダンスに励みおおきな目標に挑む「ドーバー海峡横断部」「ウリナリ芸能人社交ダンス部」といった<芸能界サークル活動宣言>シリーズや、『ザ!鉄腕!DASH!!('95~)のアイドルバンドTOKIOらがその道のひとの知恵をあおぎながら農作や建物をつくり文明を築く「DASH村」('00~。にじさんじvtuberグループROF-MAOによる畑仕事企画などは、十中八九こちらを参考にしているでしょう)『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』の高校の吹奏楽部を密着取材する「日本列島 吹奏楽の旅」に代表される<日本列島 部活動の旅>シリーズ、ボクサー育成企画「ガチンコファイトクラブ」やラーメン職人育成企画「ラーメン道」などのTBS『ガチンコ!』('99~)モーニング娘。やケミストリーらが誕生・活動するようすに密着したテレビ東京ASAYAN('95~)など。

*5:ライブ配信での実況プレイをまったくしないわけではなく、復帰後もケットモンスター スカーレット』実況プレイをライブ配信で複数回おこない、本編ストーリーをエンディングまで完走されてました。

(笑いアリ感動アリのすてきな冒険で、とくにゲーム最終盤、旅の仲間たちのことごとくが倒れたり息もたえだえになったりする絶体絶命の状況で委員長を悲しませまいとパンティがもちこたえ、さらには猛然とインファイトする場面に胸があつくなりました)

 ただ、そのクリア時の感想で、今作のライブ配信はレアケースなのだという旨が語られてましたし。

 同時期にプレイしたイズ▶みとオネア』――委員長に関連するクイズゲームという、いくらでも雑談やゲーム進行の中断がはさまれても良いだろうゲームであっても――その実況プレイは編集済みの動画投稿としてアップロードされていました。

*6:『Fall Guys』=『風雲! たけし城』を参考にした多人数バトルロワイヤルゲーム

*7:与太もたいがいにしてクレメンス~

*8:

他方で、ベンジャミン・ノイズはランド的加速主義を「大学院生の」と総括している。これから厳しい就職戦線に放り出され、そして死ぬまで労働の奴隷となる運命の大学院生たちに、加速主義は一種のイデオロギーストックホルム症候群を与える。つまり、終わりなき資本主義ホラーを疎外と消尽の享楽へと変容させるのである。これは、マッケイの「加速主義は鬱病に効く」とは一見真逆のようでいて近い立場といえる。

   星海社刊(星海社新書、2020年11月1日発行)、木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う<ダークな思想>』kindle73%{191ページ中 139ページ(位置No.2701中 1946)}

*9:論考内で特に言及はなかったと思いますが「胎内回帰ASMRについてお話させていただきます」は、「欧米だと暗黒啓蒙やら加速主義やらといったかたちであらわれたものが、はたして日本だとどう表出しているか?」の一検討として読めます。

 ひとつまえの脚注で、加速主義が就職戦線その後の永い労働人生を憂う「大学生のだとする見地を木澤氏があるていど妥当なものとして取り上げたことを述べました。

 ニック・ランドの研究所に在籍経験があり『資本主義リアリズム』などを著した、加速主義の重要人物マーク・フィッシャー氏。木澤氏はかれをこんな風にまとめます。

 マーク・フィッシャーは、このディストピアな「現実」に抗う唯一の方法はオルタナティブな世界を欲望することであると信じていた。オルタナティブな世界は、たしかにそれが欲望される時点ではいまだフィクションでしかない。だが、それはいつか「現実」を侵食していき、そして「現実」になる。だから、幻視を、空想を、思弁を、欲望を諦めてはいけない。それ自身を現実化させるフィクションとしてのハイパーステイションを革命の基盤に据えること。

      『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う<ダークな思想>』kindle版90%{191ページ中 170ページ(位置No.2701中 2414)}

 「胎内回帰ASMRについて~」で木澤氏は現代日本サブカルについて、たとえば環境音に凝った同人音声作品マーフォーリー』等の聴取体験を以下のように述べ……

キャラクターではなく、生身の人間の、生きた呼吸を表現すること。虫の音ひとつ、指の動きひとつ、吐息ひとつ、何ひとつとして疎かにせず、音の空間的密度を極限まで高めることで、ヴァーチャル(virtual)な聴覚空間とでも呼ぶべきものがそこに立ち現れる。リスナーはその空間で、生きた時間と体験を共有する。今や自分の体はモニターの前から消え去り幼なじみのヒロインたちとともに縁側で瓶ラムネを片手に、田舎における夏のひとときを過ごしている。

   空耳制作委員会刊(2022年9月16日DL版発行)、『奇想同人音声評論誌 空耳』p.13、木澤佐登志「胎内回帰ASMRについてお話させていただきます」

 ……vtuberによってさまざま行われる胎内回帰ASMRと、そのリスナーのチャットを分析し……

もっとも、ヴァーチャル(略)本来のニュアンスは「本物に極めて近い何か」や「実質的には同じもの」といったものである。そこには、フィクションや虚構性を伴ったものというよりは、むしろ本物と代替可能な実質や本質を備えたもの、といったニュアンスが込められている。

   『空耳』p.15(略は引用者による)

人は本当に「成熟」など望んでいるのだろうか。現に、胎内回帰ASMRという、ヴァーチャルに構築された胎内という究極のフィルターバブルの中で、男たちは今日もオギャり果てる13胎内回帰ASMR、それは近代的な個人であることに疲れ果てた男性たちにとっての一時的な避難所(アジールであり、聖域なのである。

   『空耳』p.20

 ……こうとらえます。

 フィッシャー氏らもASMRオギャらー氏も現代資本主義社会という「現実」にたいして近しい悩みと解決を模索した、出発点をおなじくする同志としてzzz_zzzには映ります。

*10:『奇想同人音声評論誌 空耳』p.113、114、130、131、155、167、169あたりのレビュー参考。

*11:『空耳』p.187あたりのお話。

*12:委員長の持ち歌のひとつ、日本語ラップの先駆者いとうせいこう氏作詞による「NOWを」は1stアルバム『月の兎はヴァーチュアルの夢をみる』に収録されてます。

*13:

 ベルナールの直喩は、明確で、視覚化が容易なので、それが直接、想像力に訴えたであろうことは想像に難くない。(略)この点から見ると、進歩とデカダンスとは、確かに密接に結びついているように見える。新しいものたちは、はるかに進歩しているが、同時に古いものたちよりも価値がない。かれらは、学問の累積的な蓄積によって、絶対的な関係で見れば、より多くのことを知っている。しかし相対的な関係で見れば、学問に対するかれらじしんの貢献はあまりに僅かなので、かれらをピグミーに譬えることも可能となるのだ。

   せりか書房刊(1989年11月5日第一刷)、マテイ・カリネスク(富山英俊&栂正行訳)『モダンの五つの顔』p.26~7、「Ⅰ モダンの観念」古代の巨人たちの肩に乗った近代の小人たち(略は引用者による)

*14:

ルネサンスの自己確信が、幻影とうつろいやすさの普遍性を自覚したバロック的な意識に取ってかわられた一六世紀末、ミシェル・ド・モンテーニュはこの古いイメージをふたたび甦らせた。ここでは小人と巨人という対照的な姿は見られない。しかし相手の肩に乗った人間の姿によって象徴される、連綿と継続する世代という本質的な部分は残され、さらに発展させられた。モンテーニュはこう主張する。(略)新しいものたちが(略)進歩という尺度において、高い場に位置しているのは、その個人的な努力や長所によるというより、むしろ自然の法則の結果に依るからである。(略)「われわれの見解はたがいに接ぎ木されているのだ。第一番目の見解は第二番目の見解の親株となり、第二番目の見解は第三番目の見解の親株となる。こうしてわれわれは階段を一歩一歩昇っていく。かくしてもっとも高みに昇ったものが、分不相応な栄誉をしばしば手にするという事態が、すくなからず起こる。ひとつまえのものの肩に乗っているということは、大麦一粒分背丈が高いだけであるのに(8)」。

   『モダンの五つの顔』p.27~8(略は引用者による)

*15:

 一七世紀の初頭、ロバート・バートンは『憂欝の解剖』の助言(略)のなかで、同じくこの比喩を用いている。(略)当時までに、一般に著者が学問の領域でじぶんの意図を正当化しようとするさいの常套手段となった。バートンは、典拠として、ある無名のスペイン人作家で神秘主義者のディエゴ・デ・エステラ(略)のことばを引く。しかし、一風変わった博識に彩られたその一節全体は、たんなることばの綾以上のものではない。先人に対する称賛も、小人を著者じしんのシンボルとする自己卑下的な意味づけも、実質的効果に欠けている。

   『モダンの五つの顔』p.28(略は引用者による)

*16:

 この中世的なアナロジーのもっとも重要な変身のひとつは、一七世紀の中頃のパスカルの『真空論序言』(略)に見いだされる。(略)デカルトと同様、パスカルは古いひとたちの保証もない権威に対抗して、新しいものたちの研究の自由および批評の自由を強力に擁護した。(略)しかし、デカルトとちがい、パスカルは新しい科学や哲学が第一歩から出発するとは考えなかった。

 このようなかたちにおいてこそ、今日われわれは、古代人を貶むことなく、感謝をもって異なる感性と新たなる意見を採り入れることができる。なぜなら、彼らがわれわれに与えた最初の知識は、われわれの跳び石となり、われわれが彼らに対し優位を保っているのは、この点で、彼らの御陰だからだ。そして彼らの助けによってある程度引き上げられることにより、われわれは僅かな努力だけでさらに高みへと昇ることができ、より少ない苦痛と、当然、より少ない栄誉とをもって、彼らの上に自分たちがいることを発見するのである。こうして、彼らが知覚できなかったものを、われわれは発見できるのだ。われわれの視野はさらに拡大されている。彼らも、われわれすべてと同様、自然界で観察したものの本質を知っていたが、充分に知っていたとは言えない。われわれのほうが彼らより多くのものを見ているのだ。(12)

 この一節を書いたとき、パスカルの頭に件の直喩が去来したことは、まず間違いない。小人と巨人のきわめてグロテスクなコントラスト(略)は――知的洗練を要求する時代によって教育された――かれの嗜好には、あまりに野蛮で子供じみた譬えと思われたかもしれない。(略)パスカルは、パスカルは元のメタファーから一連の要素を借用して使っている。なかでも際だっているのは、高い位置への言及、そこからとうぜん出てくる、新しいものたちのさらに広い視野への言及である。だが巨人と小人は削除されている。中世の比喩には反モダンの傾向が見られるのに対し、パスカルではそれが完全に消えているのだ。

   『モダンの五つの顔』p.29~31(略は引用者による)

*17:過酷な登人のもようは性派ゲームフェス実況(9) full』0:34:16~ノ美兎・爆誕SP2020【ヨーロッパ企画実況・Wiki閲覧・凸待ち】』0:19:07~に記録されている。

*18:時系列としては……

18年09/02 プープーテレビ(デイリーポータルZの動画チャンネル)読がつく前に取り消すチキンレースの旅(プTV)』投稿。

21年01/11 月ノ美兎読が付く前に取り消せ!誤爆撤回チキンレース【月ノ美兎 VS 剣持刀也 /にじさんじ】』投稿。

21年03/23 Official令和ロマン【公式】『【回でお蔵】「既読付いたら負け!先輩LINEチキンレース」【良い子は絶対にマネしないでね!】』投稿。

 ……という順序。

*19:本文で前述したとおりもちろん「斬新ではない」し、「▼付与されたゲーム性」の項で後述するとおり「攻めた企画でもない」し、さらに言えばオリジナルに思いついたものかどうかは微妙なところです。

 3者の動画によるゲームのルール説明を、発表順に並べてみましょう……

石田「LINEでね、"送信取消"機能というのが最近ついたじゃないですか」

酒井「あの便利な」

石田「今からですね、ヨーロッパ企画のメンバーにですね、わざと誤爆メッセージを送って、既読がつく前にその誤爆メッセージを取り消す。"どっちが長い時間送れているか!?”というのを競うチキンレースです」

酒井「既読がついたら誤爆ということですね」

石田「あ~アウトですね」

   Youtube、プープーテレビ(デイリーポータルZの動画チャンネル)『既読がつく前に取り消すチキンレースの旅(プTV)』0:08~

月ノLINEを知ってるライバーっています?

剣持まぁまぁ、いますけど……」

月ノ「そうでしょう。で、その相手に対して、もう絶対見られたくないような"誤爆LINE"を送ります」

剣持「ほ~~うなるほど?」

月ノ「はい。で、"送信取消"というのを押せば今はLINEでこっから送ったメッセージを削除っていうのができるんですけど……

 ただ向こうからの既読が付くまでに、"どのぐらいの時間、文章を送った状態で("送信取消"を)耐えられたか!?" その分数で競うチキンレースということになります」

剣持「なるほど見られたくないからギリギリで消したいけど、その(耐えた)秒数を競うみたいなね」

   Youtube月ノ美兎『既読が付く前に取り消せ!誤爆撤回チキンレース【月ノ美兎 VS 剣持刀也 /にじさんじ】』0:10~

くるま先輩にさ、僕らってLINEするじゃない?

けむりまぁまぁしますよ、普通に」

くるま「今回LINEを使ったね、ゲームでございます。いまからですね、それぞれ先輩にLINEを送ります。で、LINEの送る文言をため口とか失礼な文言にしまして。

 今LINEに”送信取消”って機能があるんで、向こうが既読をつける前に"送信取消"をすれば相手に見られることはない訳ですよ。

 だから、相手が既読つけるギリギリまでのあいだ耐えて、"送信取消"を押してバレないようにするという」

けむり(耐えた)その時間が長ければ長い方が」

くるま「ポイントを稼げるっていうゲームを考えたんで、ちょっとやっていこうかな~と思います」

   Youtubeofficial令和ロマン【公式】『【今回でお蔵】「既読付いたら負け!先輩LINEチキンレース」【良い子は絶対にマネしないでね!】』0:22~

 ……すると、令和ロマン版に、ヨーロッパ企画のオリジナル版と似通いが見られるのはもちろんのこと、委員長版とも世間話的な導入(「LINEをやってる相手はいるか?」「まぁまぁ、いるけど」)誤爆LINEの修飾(ぜったい見られたくないものであることの強調こまごまとした補足語句などの類似が確認できます。

 そのほか委員長版とのより濃い似通いとして、レース中の映像演出対戦者を左右に置いて中央にLINE画面を配する3分割的画面構成、レース中のBGMとして(運動会でおなじみ)『天国と地獄』を採用}も挙げられるでしょう。本文でものちのち提示しますが、離れてるとわかりにくいのでここにも掲載。

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/z/zzz_zzzz/20230205/20230205134627_original.jpg

*20:余談ですが、かんそう氏は令和ロマンさんの「斬新で攻めた企画」として『先輩LINEチキンレース』のほか、おしゃべりひろゆきメーカーを利用した『ひろゆきとの漫才』、ーティストへのコメントを見て笑うな!「コメント欄にらめっこ」』(2021/08/06)を紹介しています。

 これまた彼ら自身も動画内で「新企画じゃない?」「ちょっと生み出したかも」自画自賛するコメント欄にらめっこ。こちらもまた独自の改良がある面白い企画ではありますが、やっぱり斬新と言えるほど斬新な企画ではありません

 YoutubeTiktokの奇抜なコメントをながめる晒し上げ動画や、それを真顔で耐える「笑ってはいけない」「吹いたら負け」企画はこれ以前にもあって、令和ロマンさんの当該動画(11万6千再生)より倍も十倍二十倍それどころか百倍も人気のものさえ既に存在するんですよ。

www.youtube.com

 ここまでのコメント欄晒上げ動画で対象とされたのは、(受け狙いか真正か不明な)セクハラコメント、ネタコメント、くせのつよい奇抜な外れ値コメントが目立ち……

www.youtube.com

 ……笑ってはいけないコメント企画で主軸となるのは、アンチコメント(配信者に対する非難コメントや当たりの強いコメント)のようでした。

{飲み物を口に含んだ対決としては、女性アイドルグループのおこさまぷれ~とさん(2018/12/19 『笑ってはいけないコメント欄やったら腹筋崩壊したw』など様々なかたがたが。そのほかの切り口としては、食べログを模した星取り品評として、にじさんじvtuberでびでびでびる君ら(2019/11/14ソマロたべログ~☆5は誰の手に~』がやっています}

 令和ロマンさんはそこへ、アーティスト(やその歌)にたいして(ネタではなく)ポジティブな気持ちを真剣に書いたコメントという新機軸を導入したかたちになります。

 

 アーティストの歌動画にたいするコメント欄を晒上げするムーブメント自体は以前からあり。令和ロマンさんが動画を発表する半年前、2021年2月初めごろから「Ado氏の『うっせぇわ』のコメント欄がイタい」まとめサイトや動画が無数にとりあげ、Vocaloid利用の解説動画2ちゃん系実況者のまとめなど3つがそれぞれ100万再生されていました。

{再生数は3桁台とごくわずかなものの(その再生数ゆえ「これを令和ロマンさんが参考にした」と言うつもりは全くありませんが)『うっせぇわ』コメント欄を題材にした「笑ってはいけない」動画も存在しています}

(また、「痛い」コメントを笑う動画じたいはそれよりはるか前から人気で、2018年に投稿された『【歴史】Twitterの「#普段の口調でうるさいです黙ってください」が痛すぎたwwwwww』シリーズは4動画合計740万再生を超えています。これらの動画をアップしたこーく‐不透明‐チャンネルさんは、くだんの"『うっせぇわ』コメント欄晒上げ動画"のひとつ『【歴史】うっせぇわのコメント欄にいる「本物」達が痛すぎる件wwwwww』をのちに投稿。これらはある程度おなじ層が楽しんでいたと見てよさそうです)

 ただ、令和ロマンさんのようにターゲットとなるアーティストや歌を、恋愛ソングからコミックソングまで陽キャ向けから陰キャ向けまで幅広く、それに付されたコメントもまじめなものからネタまで様々あつかった動画は、ざっとググった感じなさそうでした。

 ながめるコメントを上から10つ読みすすめるルールも良い。これにより思いもよらない暴投も採用されて、企画説明から想像される「痛いコメントを笑ってやろう」から外れた、射程の広いお笑い動画になっています。

*21:本文で書くと長くてページを圧迫するし、どこに差し込めばいいか置き場にこまっちゃったので、脚注に控えておくと、映像面の作りこみもえらいと思います。

 参考もとの様式にただならうのではなくて、時にはより面倒くさくなろうとも更に良いものを追求してるんスよ。

 癖食わず嫌い王【月ノ美兎 VS アンジュ】』なんて、委員長のそういう志の高さがよく窺える動画だと思います。

 記事本文でも言ったとおり、ゲームのルールや構成こそ本家とんねるずや直接の参照元バキ童チャンネル版と違いはありません。でも、だからこそ委員長の動画編集力・おおもとの企画・素材の力だけに頼らない創造性が見えてきます。

 

 たとえば記事本文でも最初に挙げた4「性癖」開示シーン。じつはここ、バキ童Ch版との相違点であったりもするんです。バキ童Ch版では対戦者がもちよった4性癖を一挙に同時公開していたのですが、委員長版ではそれぞれ1つずつ開示されるかたちに改められています。

 マイナーチェンジといえばマイナーチェンジですし、大元のとんねるず『した』版を踏襲したかたちとも取れそうですが、この編集方法のおかげで委員長バージョンの動画は、4性癖がサラッと並置されて流される「無いと困るけどそれ自体はめっちゃ面白い訳でもない」前提説明の時間でなく、もっとドラマチックな、例題"置き"にいった模範解答意表をつく飛躍……といった序破急やら一連の大喜利的な代物やらへと昇華されています。

 

 また、「性癖」語りのところでは、とんねるず『した』版の画面構成にならったものとなっていて、視認性が高い。

 じぶんの性癖の語り手が大きな画面で表示され、聞き手は小さく表示されるのはもちろんのこと、画面内のカメラ位置を見てみると、前者はそのひとだけを抜いたもので・後者は話者が見切れているツーショットになっているのが地味ながら丁寧。

 ここのパート、バキ童Ch版では両側にある性癖が誰の性癖なのか(当てるべき相手の性癖なのか? 守るべき自分の性癖なのか?)どちらのターンでどちらの性癖の話をしているのか少しだけ混乱をまねきそうな部分でした。

 

 ゴールデンタイムで毎日毎週活躍するようなかたでこそ無いとはいえ、メジャーな芸能事務所に所属するプロの芸人さんとその仲間による集団作業の成果らしいバキ童チャンネルの動画にたいして、「そのままでも楽しく観れるけど、でも、さらに良くなる余地のある部分」をきっちり見つけて、メスを加えているところ。そこが委員長の立派なところだなぁと思う次第です。

*22:攻略性=桜井政博さん曰く「リスクを抑えてリターンを得る工夫」の余地。

*23:3日間ウサギの食べられる雑草とエサのみで生活したら地獄だった話』=愛兎によりそいたいY平さんがタイトル通りの生活をしたという記事。本文にも書いたとおり、体重や体脂肪率の推移がしるされる耐久企画です。

 ZAWA氏による古の記事食系ビジネスマン必見!道草リアル食い』('09)などでもトピックになったとおり、もちろん「雑草などウサギのごはんをいかに美味く召し上がるか?」といった期待どおりの展開はあります。ありますが、Y平氏は……

「そもそも雑草といっても勝手に採っていいのか?」

 区役所にお伺いをたてなきゃならない、つまり味のよしあし以前に雑草を得られるか否か、そこからチャレンジしなきゃならないという予想だにしない位置からスタートしていて大変おもしろかったです。ここのトライアル&エラーはゲーム的だ)

*24:『【ンテローザの塔】地下1階から6階まで居酒屋をハシゴしたい』モンテローザ系列の居酒屋が大挙するビルが「バトルマンガとかに出てくる、敵が待ち受ける塔」に見えたかとみ氏が友人とタッグを組み、最下階から最上階(ラスボス)までを一夜で制覇せんとする企画。

 オモコロの呑み歩き企画としてはほかにからベロベロ!奇跡の早朝ハシゴ・コース!』('12)にはじまり池袋上野と断続するzukkini氏の<朝べろ>シリーズなどもありますが、あちらがふわっと始まりふわっと終わる楽しい呑み場紹介コラムだったのに対し、こちらのモンテローザの塔』は始まりから終わりまでしっかり決まった対決・冒険のレポとして物語的にきれいにまとまっています。

 企画のルールもしっかりしてるし、さながら現代の『ドン・キホーテ』といった道中で遭遇した光景や(弱音を吐いたり点滅したりする友人の姿など)タッグならではの危険域表現もあって、かとみ氏の記事じたいは非常に面白いのですが……

 ……ただ、自前の胃袋とアルコール耐性勝負のガチンコ耐久バトルで、フィジカルの差を埋め逆転する抜け道・裏ワザ的攻略要素はありません。「全階全クリ(コンプリート)できるか!?」が記事の焦点となります。

*25:ンジャーエール、上海蟹、くるりの唄の食べ物全部食べたい』=リックェ氏による、人気バンドくるりの唄に出てくる食べ物をぜんぶ食べる企画。

 ただ食べるだけじゃなくて、リックェ氏は歌詞の情景をたどろうとしたり、ある歌詞で比喩表現として使われた場合に「なぜその食べ物にたとえられたか?」考えてみたり……と、食べ物に注目してくるりの唄の良さを描いていく一風かわった音楽レビュー記事にもなっています。

*26:『【36種類】マブラに登場する「たべもの」ウマそうだから全部食う』=戸部マミヤ氏が、任天堂ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』に登場する「たべもの」だけを1週間で飲食しきる/企画中はそれ以外口にしない耐久企画に挑戦した記事。

 前編を〆る「計画性をもって進めていきたい。」が期待させるとおりの最終日を迎えるものの、オチから振り返れば「即興・創発的なゲーム的展開というより、意図的に組み立てた結末なんだろう」と思えます。

 やはり大きな武器は、「全部」食べるコレクション要素なんじゃないでしょうか。『桃太郎のコラボカフェを作ってみた』などで魅せてくれた工作・料理スキルはこの企画でも発揮され、戸部氏の料理はまるでゲームからそのまま出てきたみたいな高い再現率ですばらしい。

*27:ブンイレブン以外のブリトーを食べる日』=オケモト氏とカメラマンである編集長・原宿さんが、コンビニ商品以外のブリトーを一日にいっぱい食べ歩くという企画。

 耐久企画というよりグルメ記事と言ったほうが適切な記事で、味や食感・触感の感想といった文字情報や、喜びの表情やブリトーの断面アップショットといった豊富な視覚的情報によって各店のブリトーの魅力がたっぷり紹介されています。

 そしてグルメ記事というより旅レポ記事と言ったほうがさらに的確で、それぞれのお店がお出しするブリトーと合う別メニュー、近所のゲームセンターの懐かし筐体、地域の公共モニュメントといった「その土地ならではの魅力」もあわせてピックアップされてました。

*28:100面ダイスで焼肉食べ放題の食べるメニューを決めてみた』めいと氏が、『焼肉きんぐ』の100品ある食べ放題メニューを100面ダイスの出目におうじて注文する企画。一回目の注文からもう、確率のイタズラによって食事のバランスが乱れまくって楽しいですけど、さすがにこのルールだと読む側はもちろん企画挑戦者じしんも見守るしかできない記事であります。

 "高そうな肉を異常なほどに頼んで、店員さんから「器の小さい人間」と思われる"などのこじれた自意識から解放されるため編み出されためいと氏のより一層こじれた施策は、第2弾寿司食べ放題』編へとつづいていきます。

*29:もちろん、たとえば6面ダイスなら「1・6」の面が横になるよう軸回転をさせ「2・3・4・5」の安パイを狙うとか、「3・4」を横にして「1・2・5・6」のハイリスク・ハイリターンを狙うとかできるわけで、戦略がまったくないわけではないでしょうけど。

*30:委員長版の基本ルールだと、本人が意思をつらぬけば安パイを狙い続けられるけど、昼食ルールだとそれは不可能になる。

*31:「一緒に手をつないでゴールしようね」と言いつつ裏切ることもありそうですし。

 さきに通話できた側が相手に嫌いなものを食べさせられることができれば、対戦相手は「向こうがその気なら!」と血で血を洗う抗争に発展するかもしれません。

 とくに当たり障りないものを相手が食べることとなれば、「こっちはうまく融通したんで、そちらも……へへ……」とゴマすり三下命乞いムーブが見れたりするかもしれない。

*32:「没個性な大量生産品」がレゴブロックにたいする一般認識なのではないかと思います。だって……

 見よ、レゴのブロックを! 世界中の親たちが今日もどこかで素足で踏んで、痛い思いをさせられている、あの角張った形の、カラフルなプラスチックの直方体を。ブロックの一個一個は規格化されたプラスチック製品にすぎず、魂や生命を宿しているようには見えない。

   日本経済新聞出版社刊、デビッド・C・ロバートソン&ビル・ブリーン著(黒輪篤嗣訳)『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか 最高のブランドを支えるイノベーション7つの心理』kindle版3%(位置No.5094中 114)、「序章 ブロックがかちりとはまるとき」より

 ……デンマークの一大企業レゴ社の伝記『レゴはなぜ世界で愛され続けているか』でさえ、こんな書き出しから始まるんですから。

 誰でもマネできそうな――実際1989年あるできごとを境にコピー企業が世界中で生まれたし、そもそもレゴの創業者キアク父子による原初からして、イギリスの発明家ヒラリー・フィッシャー・ペイジ氏の発明のマネから始まった――くらいシンプルなレゴブロックは、実は「かちりという音を立てて、しっかり連結される」あのおなじみの構造ができるまでに約10年間トライ&エラーをかさねたイノベーションの産物であったりするんですが、ここではその見た目・印象から「汎用」という語を使わせてもらいます。

*33:厳密には、月ノ美兎&3ラウンド目操縦者vs他6人。

*34:にしか見えないもの

*35:令和ロマンさん版における一番の独自性は、送り相手を目上のひとにし・それに合わせたメッセージ(タメ口の舐め)にしたところでしょう。

 縦社会な芸人さんならではの厭さが盛り込まれておもしろいし、TVで活躍するようなビッグネームを出せる強みもあります。

 また、演出面では、芸人さんらしい感情表現ゆたかなリアルタイムの実況があったり。("撮って出し"/スマホ画面直撮りだったヨーロッパ企画さんのオリジナルに対して)人物のアップとLINE画面、経過時間が同時におがめるかたちで併載されるなど画面も作りこまれていたりするのも、動画を観ていて面白いところ。

*36:既読がついたレース自体はあるんですが、「なかったこと」にされ話も転がされず即打ち切りにされています。

*37:あくまで「リスクとリターンの設計が、令和ロマン版誤爆LINEチキンレースより熱湯コマーシャルのほうが優れてる」というお話です。

 もちろんひとつ前の脚注で言ったとおり、令和ロマン版には「TVで活躍するようなビッグネームを出せる」が強みがありますから、「既読されたらどのくらいひどいことになるか」についてファンが想像で補完できる部分はあるんでしょう。

 でも、(レースの舞台となった先輩芸人さんについて、名前は都度でてくる一方"どのような人とナリのかたであるか"や、"過去にどんなひどいことをしてきたかた事例紹介"といった)この動画発信の補足情報はないから、TVやお笑いを知らないひとがこの動画をクリックした場合なんかヤバいことになる"とされている"らしいな……?」とぼんやりした認識でレースの推移を見守っていくことになります。

{もちろん、お笑いに詳しくない(けどYoutubeをよく見てる人)であれば、「作るほうも見るほうも肩の力を抜いて向かうようなこんなちょっとした小品でさえ、"完全オリジナルネタだ"と言い張らなきゃいけない面子重視のマッチョな世界なら、なるほどたしかに先輩へタメ口はやばいかも」みたいな楽しみを見つけられないこともないのですが……}

*38:また、よりシッカリしてそうな企画になったからといって固執することはなく、企画実行中に転がったものを取捨選択する委員長の編集センスは、復帰後の動画でも確認できもします。

 たとえばにじさんじライバーの嫌いな食べ物だけで1日過ごしますなら「電話をかけました、でもつながりませんでした」と不発に終わる=撮れ高のない展開で閉じられることも多々あるなか、「じゃあこうすれば釣れるのでは!?」と葛葉くんが閃いた別ゲー展開などが拾われています。

*39:『OW』クリエイティブ・ディレクターであるアレックス・ビーチャムの卒論『Outer Wilds: a game of curiosity-driven space exploration :: University of Southern California Dissertations and Theses』参考。

*40:

 語としてのゲームに対して、イェスパー・ユールはこう提案します。「スター・ウォーズ』ザ・ゲームからスター・ウォーズを除くことが不可能なのは明白だ」が、小説の映画化作品(a film version of a novel)からプロットの大まかな輪郭(アウトライン)を描くことはできる。(13)

 これは翻案プロセスとして極めて時代遅れのモデルです。

 いよいよ私たちはトランスメディアストーリーテリングの世界に暮らしています。作品が個別に独り立ちして自己完結することよりも、各作が貢献し合ってひとつのより大きな物語経済を成すことによって語られる世界に。

 スター・ウォーズのゲームは映画版のストーリーを忠実になぞるものではないかもしれませんが、でも映画の素朴な再話はスター・ウォーズサーガ体験を拡張したり豊かにしたりするために必要なことでしょうか。

 ゲーム購入以前からすでにストーリーを知っていたら、そしてもし映画で体験したことを丸きりオウム返しされるだけだったとしたら、きっとイラつくことでしょう。

 むしろスター・ウォーズゲームの存在意義は、映画版と対話することにあり、その環境の細部(ディテール)について創造的な操作することを通じてあらたな物語体験をもたらしてくれることにあります。

 本や映画やテレビやマンガそのほかのメディアがそれぞれ最善を尽くし、それぞれがある程度は独立しているけれどしかしさまざまなチャンネルにまたがったナラティブを生みだす。それらを追ったひとが至る物語世界への豊かな理解をつうじた、物語の情報伝達による大きな物語体系(ナラティブ・システム)のなかでゲームが席につくことは想像可能です。

 Arguing against games as stories, Jesper Juul suggests, "you clearly can't deduct the story of Star Wars from Star Wars the game," where-as a film version of a novel will give you at least the broad outlines of the plot.(13) This is a pretty old fashioned model of the process of adaptation. Increasingly, we inhabit a world of transmedia story-telling, one which depends less on each individual work being self-sufficient than on each work contributing to a larger narrative economy. The Star Wars game may not simply retell the story of Star Wars, but it doesn't have to in order to enrich or expand our experience of the Star Wars saga. We already know the story before we even buy the game and would be frustrated if all it offered us was a regurgitation of the original film experience. Rather, the Star Wars game exists in dialogue with the films, conveying new narrative experiences through its creative manipulation of environmental details. One can imagine games taking their place within a larger narrative system with story information communicated through books, film, television, comics, and other media, each doing what it does best, each relatively autonomous experience, but the richest understanding of the story world coming to those who follow the narrative across the various channels.

    web.mit.edu『Henry Jenkins blog』、ヘンリー・ジェンキンズ「GAME DESIGN AS NARRATIVE ARCHITECTURE」{訳は引用者による(英検3級)}

*41:

アメリカン・アイドル』は、若者と大人の趣味の接点に位置し、誰もが何らかの専門知識を示すことができるので、家族の娯楽となるのだ。出場者のほとんどは10代か20代だ。番組のカバー範囲を広げるために、ゲスト審査員やコーチとして、バート・バカラックビリー・ジョエルオリビア・ニュートン=ジョンなどの、子供たちではなくその親や祖父母の世代に訴求する年齢を重ねたポップスターを登場させている。

   『コンヴァージェンス・カルチャー ファンとメディアがつくる参加型文化』kindle版26%(位置No.9746中 2430)より

*42:チョイ前ならAKBグループとか。

*43:

 親たちの支持があることがわかっても、首脳陣にはまだスター・ウォーズシリーズに難色を示す者がいた。最後には、スター・ウォーズの熱心なファンだったケル・キアクが、アンケート結果をふまえて、伝統にこだわる幹部の意見を退け、提携案を承認した。

   『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』kindle版14%(位置No.5094中 695)、「第2章 スター・ウォーズを受け入れられるか ――加速するイノベーションと試される理念」より