すやすや眠るみたくすらすら書けたら

だらだらなのが悲しい現実。(更新目標;毎月曜)

VRの戸を握る 良き入門、そして;『Horizon Call of the Mountain』感想

 前回は名登人家vtuber・月ノ美兎委員長について語りました。

 今回は名登攀VRゲーム『Horizon Call of the Mountain』をストーリークリア(&全レジェンダリークライム)した感想です。

 3万8千字くらい。

 特例的なパートでしたが、以下の動きを……(※画面揺れによる"酔い"注意!)

www.youtube.com

 ……左右スティック操作まったく無しボタン押下ほぼ無しのジェスチャ操作で体感的に、酔いもあまりなく経験できたのは、「PSVR1で見限らなくてよかった~」て点でした。(でもこれだけのために15万余は高い買い物だけど……)

 さきのプレイ動画では少なくとも2つ"酔い"対策を確認できます。それってなにかわかりますか?

 

※以下、『HCotM』等のネタバレした文章が続きます。ご注意ください※

 

書いた人のVRゲー経験・"酔い"耐性と、今回のプレイ環境・酔い状況

 VRゲームは、面白いか否か以前に「プレイできるか否か」って問題があり、VRゲーム評は「評者の"VR酔い"耐性はどれくらいなのか?」って謎がありますよね。

 

 ぼくは2D出力のゲームで"3D酔い"を体験したことは、30インチのTVでやる程度なら全くないです。

 ただし初代PSVRのシネマティックモード的なやつでプレイしたときは数分で酔いました。42インチのTV画面に買い替えてから、『Outer Wilds』をやったときもはじめちょっと挙動に気持ち悪さをかんじました("酔う"まではいきませんが)

 VR機器は初代PSVRを所持。『イーグルフライト』、『FAR POINT』、『リグズ』、『星の欠片の物語、ひとかけら版』、『エースコンバット7』をやりました。

 

 無印PSVRゲーは、だいたい投げ出してます(酔い止め服用ナシ)

 『イーグルフライト』は1時間2時間とプレイできるけどヘッドセットの重さで次第に頭がふわふわフラフラしてくるし。

 『Far Point』は軽い酔いと酔わないコツ発見とをしながら数日にわたって数回・数時間プレイ後、従来式FPSの立ち回りが必要となる、武器交換ができるようになった辺りで酔ってリタイア

 とくに10分ずつを2回合計20分やって酔って寝た初プレイが思い出深い。「一区切りついた気がするし終わりにしていいだろう……いいよな?」とゲームを終了したら、次回プレイで実際にはまだオートセーブ地点に辿りつけてなくて進捗がまるでゼロになったと知ったときはまじで気が遠くなりました。

 『リグス』は試合開始5分と立たず大いに酔い、寝て回復につとめました。

 このゲーム、MoguraVRのえらい人すんくぼ氏が2015年に記した"VR酔い"に対する各ゲームの工夫をまとめた記事では「気持ち悪いというほどまでの酔いではない」と言われてたんですけど、「評者の3DVR酔い耐性が高すぎて、そこはぜんぜん参考にならない記事だ……」と思いました。*1

 『エスコン7』も厳しかった。これも10分くらいで酔ってリタイアしました。

 

 PSVR2(『HCotM』)も初プレイで酔いはしなかったけど酔う気配を感じはしました。タイトルクレジットをおがむまでの1時間を酔い止めなしでしっかりプレイできたものの、頭がちょっとふわふわしたんですね。

 ということで以後毎度パンシロントラベルSP(推奨容量は小人1錠、大人2錠)を1錠飲み一日1~3時間、ストーリークリアまで計15時間ほどやりました

パンシロントラベルSP錠1箱12錠入りなので、買い足す手間/薬切れによる中断はなしに済みました。(1箱858円なので、426円の出費)

 結果はマチマチで、薬なしで1時間やって快適にプレイできたり、逆に薬をのんでも頭に軽いふわふわ感やヘッドセットの締め付けによるだろう物理的な痛みをおぼえたりしたので、正直なにが悪さをしているのかわかりませんが……

 ……とりあえず『HCotM』は、たまに頭のフワフワ感を感じた程度で済みました。「気持ち悪くて動けない・寝るしかできない」状態の酔いはいちども見舞われませんでした。

 

約言

 序盤とてもとても凄かったし面白かったです。

 広い間口の良いデザインで、だからこそ(酔いやすい)ぼくもゲームクリアまでたどり着けたんですけど、それが必ずしも3DVRで叶えてほしいことではないところに難しさを感じました。

 

 内容;

 一人称視点3DVRアドベンチャー。『The Climb』系冒険(登攀+移動)ゲー/移動簡易版FPS(ボス戦)

 自然豊かなポストアポカリプス世界アドベンチャーゲーム<Horizon>シリーズの(3作目となる)スピンオフで、時系列としては1作目『Horizon Zero Dawn』と2作目『Horizon Forbidden West』の間とのこと。ここまでの作品を手がけてきたゲリラゲームズに、VRゲーム製作経験のあるファイアースプライトが組んだ共同制作となりました。

 メディアのレビューなどのクリア時間平均は8~9時間*2作り手の見込みでは7時間くらいみたいですが、ぼくはざっとストーリー一周するのに15時間ほどかかりました。(これ以上長いとダレるから良い塩梅だと思いました)

 

 記述;

 お話は、内容も展開もけっこう無骨なミッション&クリア形式一本道ストーリー。

 とにかく印象に残ったのはゲームプレイの「快適さ」。

 ただイベントシーン・ゲームプレイ両面にほどこされた酔いにくい工夫は嬉しい反面3DVRでこそ味わいたい味を削いでるかも。

 操作は直感的

 視線トラッキング*3と、ジェスチャをかませた操作がいい仕事してます。腕の振りでキャラが歩くシステムのおかげでだいぶ"酔い"をふせげた*4

{欲を言えば、プレイヤーの腕の振りとキャラの移動幅・速度が、もっとちゃんと連動してくれたらうれしかった(『HCotM』は微速と通常速度の2段階かな。「視点移動は速度が一定であることが"酔い"をふせぐ」というのが定説で、増減速ができたりバリエーションが細かったりするとそれはそれで気持ち悪いんだろうけど*5、むしろ『HCotM』では腕をすこし動かしただけのつもりなのにそれより速い通常速度が出たりするのでギョッとする/不快感をおぼえることがある)}

 ボス戦はおそらく"酔い"対策でプレイヤーの移動範囲が1軸になるので、演出の凝った大縄跳び感がいなめず……。

 冒険パートでザコ機械獣ウォッチャーの警戒網を潜り抜けるくだりは、従来式のFPSの操作感なうえに「隠密行動するもヨシ戦闘するもヨシ!」と取れる行動にも幅があり、ここが――とくに序盤のそれが――一番楽しかった

 全体的に安定して面白かったのは、冒険パート・登攀

 かなりの楽チン仕様ではあるけれど、仕様による"慣れ"が作業・舐めプへ変わるギリギリくらいで、登攀具や登攀地の次バリエーションが来て楽しいです。静から動へ、物語的に自然な流れでエスカレートするデザインも魅力。

 『The Climb2』などの先行登攀VRゲーや、2Dタイトルの傑作冒険ゲーの操作や変数をお求めのかたには歯ごたえがないかもしれませんが、運動不足かつジェスチャ重視のVRゲー入門者には心地よい難易度設定。

 他3DVRゲーに挑もうと奮起できる、基礎体力・VR慣れを積めました。

 

 感想本文にうまく組み込めなかった面白ポイント;

 PSVR2は、PS4のメニュー画面の文字さえ潰れうるチャチなオモチャ*6だった初代より映像のクオリティや使い勝手は向上している*7一方*8{スクリーンドア問題というより、なんかもっと素材的な問題に感じられる(Mura Effectとかって呼ばれてるらしい)初代につづき依然としてPSVR2も、映像に一枚メッシュをかぶせたような「生地」越し感がある(画面が動き始めると気にならない)んですけど。

 『HCotM』ではゲーム本編開幕時にプレイヤー(キャラ)に「目隠しの布を被せる」ことで、ゲームハードのメディウム的特徴(限界)を、ゲーム内世界の現実(作品の意図的な表現)」のように誤認させる……というスゴい力技がおこなわれていました。

(この時点でぼくは「なんとも立派な作品だ」と感動した)

 

 ハード的制約に向き合った面はほかにもあって、VRゲームをやっていると、

「高精細映像・モーションコン・ハプティックフィードバックでそれらしい入出力をしてくれているとはいえ、やっぱり"ごっこ"遊び、パントマイムじゃん」

 なんて我に帰る瞬間がどうしても訪れてしまうものですが。今作ではプレイヤーキャラクターを山登りの達人と設定することで、

「プレイヤーであるあなたがこのような楽チン操作システムでサクサク動けるのは、プレイヤーキャラクターであるあなたが達人だからです」

 とポジティブな理由づけをし、その問題を解決しています。

 ……ただ、zzz_zzzzがそれに感心したのはゲームクリア後、スタッフインタビューを漁ってからのことでした。ゲーム本編でその理屈を明示する場面が少ない・弱いんですよ。

 仕組みについて自己言及することは、舞台裏を見せられ興醒めするリスクがありますが、これはもっと強く主張していい設定だと思いましたね。

 

 ゲームプレイ時のおすすめの設定;

 PSVR2全般について。

  はじめてVRゲーに触るかた、酔った経験のあるかた(で酔い止めを試したことないかた)は酔い止めを買っておくとよいです。

(※酔い止め飲んでみたけど利かなかったかたは、VRゲーム購入はオススメしません)

 2時間くらいで充電がきれるので、PSVRコントローラ両方を同時に充電しておける体制をととのえるとノンストレスです。(PSボタン押下でひらけるポップアップメニューのなかにあるコントローラ欄から、バッテリー残量や充電中か否かが確認できます)

 プレイエリアは2m×2m確保して、中央に(マットやガムテなど足裏で把握できる)印をつけとくと、気づかぬうちに変なところへ行くのを防ぎやすいかも。

 

 『HCotM』について。

 テクノエッジIttousai氏によるレビューの途中にある「操作のTIPSをいくつか。」がまとまってるのでこちらをお読みになるとよいです。

 立ちプレイが雰囲気でるしけっきょく便利なのでおすすめです。(座りプレイだと床にあるものに手が届きにくい)

 キャラの移動は、酔うひとであれば手ぶりジェスチャ操作がおすすめ。手にあわせ足踏みもするとさらに予防になるらしい。

 移動中などに視界の周囲が黒くマスクされるのは"酔い"対策演出で、設定で強弱や有無をプレイヤー側で変更できます。プレイしてて「うっとうしい」と感じたら、(「キャリブレーション画面」⇒「快適な環境」⇒)ビネット効果の強さ」をいじって、酔うなら再度オンにしたら良いと思います。

 

感想本文

 冒険パート序盤の、直感的操作によるFPSに興奮

 とにもかくにも、記事冒頭で埋め込みリンクをはった動き(が可能なシステム)ですよ!!

 

 こちらの気配を感じとって目のライトを黄色くして警戒中である敵機械獣"ウォッチャー"にたいして、モーキャプコンを*9前後に振りまくって走って近寄り*10遮蔽へしゃがんでHMDの高さによってプレイヤーキャラクターの高さも変わる)敵の射線を切りしゃがみ歩きで位置を変えつつ、モーキャプコンを肩まで上げ背中のほうへやり戻しとして弓と矢を各手にもち*11応戦する……

 ……という動きをこの間、右スティックの視点移動もしなければ左スティックのキャラ移動もせずボタン操作による立ち⇌しゃがみ切り替えなども全く行なわずにできちゃう感動。

 

 PSVR1『FAR POINT』ならぜったい酔っていた動きまったく酔わずにできましたが、ただ、このときzzz_zzzzは酔い止めパンシロントラベルSP(大人は2錠飲むべしとのこと)を1錠}飲んでいたので、ぼくが酔わなかったのははたしてハード性能なのかそれともゲームシステム的工夫なのかはたまた薬の力なのか? どれによるお蔭かは分かりません……。

 ただ、この間ヘッドマウントディスプレイは定位置におさまったまんまで、とくに視界がブレるとか無かったということ、こちらは確実に言えるでしょう。

(もっとも数十分、一時間とプレイを重ねていくと、ズレてくるので直す必要があります)

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 PSVR2ヘッドセットの重量は、初代PSVR(旧型610g、新型600g)から9%減の560g。数字以上に軽い・フィット感があるように感じられ、初代PSVRだと(頭の傾きでプレイヤキャラクタである鳥を操作する)ーグルフライト』を2時間くらいやったら頭がちょっとフラフラしてきたぼくが、上の動画みたく頭をおおきく傾けたプレイをするのも大丈夫。*12

 正立すると完全にからだが隠れる位置から、上体をかたむけて半身をさらし、その状態で射撃する「リーン撃ち」。これを自分じしんの体勢でおこなえたのも、『HCotM』をプレイできた楽しさのひとつでした。*13

 

 

  酔わせないシステム的工夫の良し悪し

 そして「酔いにくい工夫が利いている」という点において、『HCotM』はVRゲームの戸をはじめて握るに最適な、良き入門だなぁとも思いました。

   (昔話)初代PSVRで酔った操作と、VR酔い(原因と対策)の様々な研究

 初代PSVRの異星FPSゲーム『FAR POINT』とくに酔った動き(操作)はぼくのなかで2つあり。

 一番酔ったうごきは、ボタン操作による立ち⇄しゃがみの視点切り替えで。(エレベータ始動・停止時にしょうじる気持ち悪さが、上のアクションで起こる)

 次点として足の移動方向・方角(Lスティック操作)と、体や顔の角度(ヘッドマウントディスプレイによるプレイヤーの身体依存)とがバラバラな動き」がありました。

 カニ歩きとかバック走とかするとよりいっそう気持ち悪くなりますが、一歩目からLスティック全倒ししたりするとただの前進でも油断なりません。

(プレイしていくうちに、"酔い"を緩和するコツはわかってきたんですよ。

「これから右へカニ歩きするぞ(だから次の瞬間、視界が右へスライドしていくぞ)」「後ろへ退くぞ(だから次の瞬間、視界が遠ざかっていくぞ)」と心で念じ、次にお目見えする光景をあらかじめ想像したうえでLスティックを操作すれば、ある程度緩和されるのだと。

 でもそんな事前計算は、キャラ位置を動かしつつ頭もふりつつしたら複雑すぎて無理ですし、悠長にいちいちしていたら異星の虫型クリーチャからボコボコにされてしまうのが『FAR POINT』

 

「"慣れ"が大事です、ちょっとずつでも毎日さわっていけば数ヶ月後には自由にプレイできるようになります」

 なんて先達プレイヤーはおっしゃりますが、初代PSVRのロボットアクションゲームRIGS』なんてぼくはそもそも1分2分とプレイできませんでした。こんなんじゃ慣れるもなにもなくないっすか!?

 

 ぼくが酔ったこれらは、その道のひとが言うところの「感覚矛盾」の典型例っぽい。

 目からの情報(画面上のうごき)と、内耳などからの情報(加減速や揺れなど)とが矛盾しているがために気持ち悪くなっちゃう……ってわけですね。

 「VR酔い 論文」などでググってみると、その原因や対策についてさまざまな角度からおこなわれていることがよくわかります。

{とくに、2022年2月末に発表された映像メディア学会の一講演、速なオプティカルフローの追加提示による VR 酔い軽減の提案』(若山瑞季&三武裕玄&長谷川晶一)が、本題に入るまえの序文で、"VR酔い"の原因や過去におこなわれた対策について先行研究を端的かつ様々まとめてくれてはかどりました(この記事でリンクを張った論文はみんなこちらから知ったものです)

 研究のなかには「酔いゲー『RIGS』をプレイして、じっさい酔ってみよう!」という身近すぎる悩みにこたえてくれるものさえあります。

 そんな身近すぎる悩みから出発した2018年第23回日本バーチャルリアリティ学会大会で発表された一論文が打ち出した対策は……

「『RIGS』で酔ったVR映像上の動き、これを現実世界でおこなった場合に生じるであろう平衡感覚の変化を、前庭電気刺激によってVR映像観賞時に同期再現したら、感覚矛盾が解消されるのでは!?」

 ……という、ちょっと個人の処方箋はむずかしいものなんですけど(笑)、実験結果は上々らしい。

「一般家電への応用だって無理だろう(誤作動・悪用による健康被害の心配やら、実用面をクリアしても訴訟リスクはまぬかれないでしょうし……)、所詮は象牙の塔の研究か……」

 とあざ笑うかたもいらっしゃるかもしれませんが、この塔はもっと白いですよ。PS5のボディくらい白い。

 共同研究者をよくみてみたら、大阪大や東大バーチャルリアリティ教育研究センターの研究者につづいてソニー本社・ ソニービデオ&サウンドプロダクツ・ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズとソニー3連打。(この話題に肝心かなめのSIEのひとこそ居ないものの)ソニー関連企業のひとびとがこの『前庭電気刺激が VR 酔いに与える効果の検討』に名をつらねていて、「こちらが知らないだけで、とにかく色々な努力があるんだろうなぁ」としみじみしました。

 

   手振り=直進システムなど体性感覚をとかく喚起させる、『HCotM』の良い工夫

 げんざい考えられている"VR酔い"の原因とその対策。『HCotM』はその見本市のような趣があります。*14

 

 『HCotM』だと、ぼくが『FAR POINT』で耐えられなかった先述二大"酔い"アクションは、前者はボタン操作による「立ち⇄しゃがみ」アクション自体が無くなっていて、後者は操作設定をいじくれば再現できますが、それはあくまで「VR慣れした上級者向けの設定」。

 初心者・カジュアルゲーマー用基本設定としてのキャラ移動方法往年のバイオハザード>シリーズで有名になった操作系統に、ジェスチャ操作を噛ませたもの

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 左右のコントローラの親指でさわれるボタンをそれぞれひとつずつ押したうえで(コントローラの設計上、両手の握る手に力を入れる具合になります)「歩く/走る」ように前後に振るジェスチャーをする。そうするとプレイヤー(のかぶるヘッドマウントディスプレイ)が向いている方角へゲーム世界のプレイヤーキャラクターも前進します。*15

 つまり、Lスティックで移動しつつRスティックで視界をぐるんぐるん回して戦う従来式ゲームのFPSプレイヤーなら普通にやってしまう(のに、VRだとメチャクチャ酔う)カニ歩きなどは絶対にできない仕様になってるんですよ。

 さっきのプレイ動画もその観点からふりかえってもらうと、HMD正面方向への前進しかしていないことにお気づきになると思います。

(ちなみに小刻みな画面揺れは、ゲーム側が勝手につけくわえているわけではなくその場で手振り足踏み・立ったりしゃがんだりしてるプレイヤー自身の揺れを反映したものなので、"酔い"のトリガーにはなりません

 

 また、"歩く/走るさい行なうだろう手振り"ジェスチャーが良いですね。

 Jiwon LeeとMingyu KimとJinmo KimA Study on Immersion and VR Sickness in Walking Interaction for Immersive Virtual Reality Applications』(2017)は、VR上の空間移動を(足にジャイロセンサをつけた)VR体験者がじっさいに"足踏み"することで行なえる操作方法のプレイ感を検証、効果をたしかめました*16『HCotM』のこれは、PSVR2の操作環境で適用したかたちといえるでしょう。(これがプレイ動画でも確認できる"酔い"対策1つ目です)

 

 ほかにも記事最上ではったプレイ動画では、ある動作中(0:05~0:17がわかりやすいですね)、視界の四隅が黒くなっているのが確認できますね。

 特に説明なかったコレについて、ぼくはこの効果に気づいたとき「え、PSVR2の誤作動? 汚れ防止用の覆面が悪さしてる?」とワタワタしたんですけど(苦笑)これも"酔い"対策

www.youtube.com

 Ajoy S FernandesとSteven K. FeinerCombating VR sickness through subtle dynamic field-of-view modification』(2016)は、VR空間移動時の視野をせばめることで"VR酔い"が軽減されることをたしかめました。ビネット(『HCotM』でのシステム名称)や「トンネリング」というテクニカルタームのついたこの演出が『HCotM』でも行われているわけですね。*17

panora.tokyo

(これがプレイ動画でも確認できる"酔い"対策2つ目でした~)

 

 敵クリーチャの配置もまた、"酔い"を抑えてくれる良い塩梅になっていそうです。

 なぜ従来のFPSでLRスティックをぐりぐりしなきゃいけないか? 前後左右立ちしゃがみ自由に浮動するプレイヤーキャラクターに合わせて敵キャラもきちんと銃の照準を合わせたり近づき格闘してきたり自由に浮動し対処するので、「対処の対処」としてもっと自由に浮動しなきゃならないからです。挙動はどんどん複雑になり、反射的にとった予想外のワチャワチャしたうごきに認識がついていけずに気持ち悪くなる。

 『HCotM』の動画にした舞台では、クリーチャとプレイヤーキャラクターは物理的にべつべつの場所にいて、直接の格闘はできない配置になっています。プレイヤーは敵にたいして正面や背後などから回り込んであれこれ自由に戦闘をしかけられますが、向こうはそうじゃないので、そこまでプレイヤーキャラの動きはワチャワチャしません。

 

   酔わないけど、つまらないボス戦

 さてこの"酔い"対策は他にもさまざまあって、とくにボス戦はさらなる配慮をしてくれています。

 先述の『バイオ』+ジェスチャ前進(後退)システムじゃなくなって緊急回避として「平行ダッシュカニ歩きならぬカニ跳び)」が大小飛距離を変えて出来るだけとなります。そしてこのアクションは、ボタン押下にくわえジェスチャをしなければ起こらない(小回避は×ボタンを押しながら手にもつモーションキャプチャコントローラを横に振る。大回避は□×ボタンを押しながらモーキャプコンを両方とものばし一緒に引くワンクッション挟んだもので、それぞれ移動距離も短く一定。スティック操作時のぬるっと感はありません。

 舞台の中央にいるボス敵にたいして一定距離をとった不可視の円周上をカニ跳びで右往左往する衛星的存在がボス戦でのプレイヤーです。

 ただ、これは簡素化が効きすぎて、(仕様に慣れてくると)酔わない一方で戦闘しているというよりリズムゲー・大縄跳びをやってる気分になりますね。

 ボス戦仕様のキャラ移動については、初戦は仕様を飲み込むのに精いっぱいで違和感をおぼえませんでしたし、2戦目も舞台設定の巧さからさほど気になりませんでした。ただし3戦目になるとさすがにちょっと無理くり感を感じました。

 2面「巡礼の道」の機械獣「グリントホーク」は「」型の機械獣で、その戦況はプレイヤーが遠近方向にのびる橋を渡ろうとするも壊れ、水平方向に数歩分のびる崖に取り残されてところで機械獣が襲ってきた。機械獣はプレイヤーが物理的に接近しようのない「」にいつづけ、ヒット&アウェイを繰り出す……というシチュエーション。ここでプレイヤーが左右にしか動けないのは自然です。

 4面「天道の槍」の機械獣「グリントホーク」戦も上に似た戦闘舞台です。

 セーブポイントである暗く狭い小洞窟をぬけると、左右に数歩分のびる狭い崖があるだけの開けた空間が110°の視野角におさまらないほど広がっています。しかしその漠然とした広大さが、単なるヒトであるこちらにとって不利にはたらく脅威となる……

 世の大聖堂や大きな古い教会を訪れると、広大な室内へ畏敬の念を起こしてしまうのには理由があります。

 入った時には気づかないかもしれませんが、そうした場所の建築家は、訪問者の視界に本堂の巨大(モニュメンタル)な室内が現れるまえに、まず小さく狭い空間を通るよう強制しています。

 これはきわめて意図的に行なわれていて、そうして閉じ込められた小さな空間との対比効果が隣の部屋をますます劇的にしているのです。

   If you have ever visited a medieval cathedral or even a large old church, there is a reason the vast interior is so awe inspiring. What you may not realize when you enter, is that the architects of these places have forced you to enter the church through a small confined space, before revealing the monumental interior of the main church. This in done quite on purpose, and it is the contrasting effect of having been confined in a small space that makes the adjacent room all the more dramatic.

   Game Developper(2000年3月1日)、ドン・カーソン『Environmental Storytelling: Creating Immersive 3D Worlds Using Lessons』{翻訳は引用者による(英検3級)}

 ……ウォルト・ディズニー・イマジニアリングの主任(シニア)ショー設計者(デザイナー)として世界一の遊園地のデザインをつとめた経歴あるドン・カーソン氏がゲームデザインについてEnvironmental Storytelling: Creating Immersive 3D Worlds Using Lessons』でそう説いたのが四半世紀ちかくまえのこと。『HCotM』のそれはつまりセオリー通りの狭小な暗所から開けた明所へつづく舞台設計ですが、むしろこれが逆に違和感のもとともなっています。

 機械獣と対面したzzz_zzzzは小洞窟へ逃げたくなります。だって後ろへ数歩さがればすぐそこの筈なんですもの。洞穴の壁を遮蔽として利用しながら、なかからチクチクと安全に攻撃を試みたい。つまり上にアップした動画のような動きをしたかった自分としてはちょっとアレでした。

 

 違和感は3面「暁の門の上部」の「スクラッパー」戦や5面「戦の爪痕」の「サンダージョー」戦にして無視できないほど露骨になります。

 キャラの移動範囲は、舞台中央におわす大型機械獣を起点にした大きな円軌道。大型機械獣がたびたびこちらへ歩み寄ってくるとおり、プレイヤーの進行をさまたげるものはありません。なのに左右にカニ跳びすること以外できない。これにはさすがに見えないレールの存在を意識せざるを得ず、ちょっと無理くり感を感じました。

 画面中央のボスがそのうちその場でミサイルなどを撃ったり、あるいは近づいて格闘をしたりする(格闘を終えるとまた中央に戻る)。こちらへ迫る弾や尻尾などにたいして、タイミング良くカニ跳び(したり弓矢で弾を射潰したり)できればノーダメージ……

 ……シンプル化されたボス戦の仕様は、慣れてくるとだんだん、

ド派手な大縄跳びなんじゃないかコレ?」

 と思えてきて。ゲームが佳境をむかえ、ボス戦がプレイヤーとの小細工なしの実力勝負という色をつよめればつよめるほど、システムの味気無さが如実になります。

(円周には回復アイテム置き場や大ダメージを与える各種兵器・爆弾が配されているので、こまかく見れば、

「"どちら"に跳ぶとアイテムなどギミックに近づきやすいか?」

 など細かい駆け引きもあるんでしょうけど、けっきょくグイグイ跳ぶゴリ押し立ち回りになってしまいますね。

 当たり判定が小さいようでけっこう大きいから、マージンを取って二度三度とかさねて大きく跳ぶことが多くなってしまうし。回復アイテムをとるときなどは、一息でそれなりに跳ぶことがわざわいして最後の微調整が意外と面倒くさく、チビチビやっているうちに敵の攻撃をくらうので、とにかくダメージを食らわないことが優先事項となり、「よい塩梅の回避」の練習なんてしている場合じゃない)

 冒険パートで見たり動かしたりしたギミックが、その章のボス戦を有利にすすめるカギとなる……といったパート間の連関も、印象的なのは2,3戦くらいなので、物語的にもゲーム的にも味気なく思えてしまいました。

せっかく設定されている弱点も、冒険パートや戦闘中でそのヒントを得る機会はないから、「なんか適当に矢をはなってたらなんか装甲がはがれたぞ!?」みたいな感じになります。

(ノーリスクで連発できる△ボタンを押せば弱点を光らすことが可能なものの、それはヒントを通り越して「クリアをしたいひとのための救済手段」の色がつよく、使用に引け目を感じます

 せめて、倒した機械獣をこの手で漁り剥ぎ取り何かしらクラフト素材にできれば、また印象も違ってきたんですが。つまり……

ヴァンデンバーグ氏:
そうですよね(笑)。デモでは、通常の矢と弓でプレイしていましたよね。これまでのシリーズと同じように、ゲーム中にさまざまな機械と戦って、倒した後に機械部品を手に入れることができます。このパーツを使って、より良い矢や弓の弾薬、道具や他の武器を作ることができ、それらの武器はより大きなダメージを与えることができます。そのため、ゲームを進めるにつれて、より大きな機械とは、より戦略的で異なる戦い方ができるようになります。

   MoguLive(2022年9月14日掲載)、すんくぼんなレベルの高い戦闘シーン、VRでは初めてだ……!「Horizon Call of the Mountain」を先行体験で堪能」より、プロジェクト・アート・ディレクターのフェリックス・ヴァンデンバーグ氏の言

 ……メディア向け試遊会の取材にプロジェクト・アート・ディレクターのフェリックス・ヴァンデンバーグ氏が今作について答えたようなプレイがしたかったんですけど、(エレベータ復旧のためにNPCが使う物品を回収はした覚えがあるけど)zzz_zzzzにはそんな記憶がありません。

「なんか道中を進んでいたら突然あらわれて、なりゆきでバトルになり、倒れたあとは最短経路をふさぐ巨大な邪魔者」

 というイメージをいだくことが圧倒的に多かった}

 

   酔わないけど、臨場感や迫力に欠けるイベントシーン

 『HCotM』はとにかく色々な"酔い"対策がほどこされている。

 なかには、各地に配された「焚火」オブジェクトに近づくと自動的に着火され、セーブ処理がなされる/ということが効果音と共に視界中央にメッセージ表示される……という)小刻み配置かつその処理が分かりやすいオートセーブポイントという、『FAR POINT』にガックシきた昔のじぶんに聞かせてあげたい、ありがたい安心安全な仕様もあります。

(記事上でも言いましたが、『FAR POINT』は、初プレイで20分で酔い「一区切りついたし大丈夫だよな……?」とゲーム終了して即就寝、次プレイで前回の進捗がすっ飛んで、「オートセーブポイントはまだまださきだったんだ……」と気づかされる苦い経験をした作品です)

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 ……でも難儀なことに、そうした配慮は、じぶんが3DVRで味わいたいと期待するものと同じ方向を向いているか? というと実はあんまりそうでもないんですよね。

 

  たとえば頻繁におこるトンネリング――さきの論文でも指摘されたとおり――たしかに酔いはしないけど没入感をそこねるもので。360度上下左右に入り組んだ『HCotM』の凝った立体的で広い空間を冒険するさい、感情的あるいはゲーム攻略的にわずらわしく感じたこともいくらかありました。

先述したとおり、このトンネリング自体は、(「キャリブレーション画面」⇒「快適な環境」⇒)ビネット効果の強さ」の項をいじくることで、プレイヤーがその強弱や有無を自由に設定可能です}

 

 『HCotM』の立体感やVR表現は、空間把握能力にとぼしいひとには(つまりぼくzzz_zzzzですが)あまり面白いものではないでしょう。

 冒頭では、NPCが漕ぐボートに乗っての川上りというイベントシーンから始まります。

 ボートの前列に乗ったふたり(NPCが、プレイヤーキャラクターへの嫌悪をにじませながら、それでも連れ立っている敬意を説明している途中、ボートの前後左右をさまざまな機械獣がゆきかう。キリンに似た機械獣トールネックが、ボートを跨ぐでもなく跨いで、同乗者が頭上スレスレの歩みにあわてふためいたりしたが、基本的にはどの機械獣もこちらに興味がないか遠巻きにみるだけで、危険はない。

 そう思ってたら舟が揺れる。「スナップモウだ」獰猛なワニに似た機械獣が川面に白波を立てて近づいてきて、ついにボートと激突・転覆させる……

 ……という内容なんですが、まずNPCが慌てた(しプレイヤー・レビュアーのなかにはその迫力を褒めてるかたも複数いる)トールネックの足は実際その場に居合わせてみると、べつに「うわっ!」と反射的に顔をそむけてしまうような圧迫感・至近距離感は無いんですよ。

 一般家屋で座っているとき、その天井でなんかやっててもべつに怖くないじゃないですか。トールネックの足はそんな感じですね。

 ここについてはべつにそれで良いんですよ。トールネックは物語的立ち位置的にも、ここでの見せ方的にも――まず中景色の森よりも高くて、遠い空へつきでたその頭からお目見えしているとおり――むしろ空間の悠然とした広大さを印象づける存在とぼくはとらえました。

 21世紀の3D出力メディアの火付け役ジェームズ・キャメロン監督バター』が喧伝し作り手も観客ももてはやした、奥行き感を大事にした3D演出ってやつですね。

 

 じゃあプレイヤーらにたいする直接的な脅威となるスナップモウはどうか?

 これまた意外なほど圧迫感がありません

(プレイ動画の埋め込みリンクをこの少し下に貼ったので、くわしくはそちらをご参照ください)

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 過去記事でちらっと触れたとおり、アバターってただ奥行きがあっただけじゃないんですよね。ぼくにとって印象的だったのは、異星パンドラに降り立ったとき主人公の進路をふさぐ巨大な装甲車がうつされたことで反射的に頭を背けてしまった経験であり、見ているだけで息苦しさを覚えるクライマックスのアレの迫力でした。

 異星パンドラの広大さは、地球人の起こすアレコレがいかに高圧的で息苦しい蛮行かを際立たせるためにあったといっていいくらいです。

 『HCotM』は、イベントシーンでモノが接近しても体感0cmになるような表現がとられた覚えはなくて、ちょっと距離感のある1m以遠で展開されていたように思います。

 

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 また、スナップモウの一件は、その接触をうけたボート周りの演出についても悪い意味で印象的でした。

 スナップモウとの接触によってボートは揺れ(0:03~)、最後の一撃では船首が天をむくほど傾く(0:21~)んですけど、(画面下のプレイヤーの手や視点が不動なとおり)そのボートに座っているはずのプレイヤーの視点はこのとき揺れもしないんです。このときだけ、それまでの高さ・水平等を維持した幽体離脱現象がおこり、すぐ暗転。暗転があけると、穏やかで美しい水中へ瞬間移動、キャラはそのまま画面奥のはしごまでゆっくりゆったり真っすぐトラックアップしていきます。

youtu.be

(↑『ヒア アフター』の津波シーンの、おそらく一般視聴者による私的な切り抜きアップロード動画。11年の初投稿から1450万再生されても消されてないので貼ったけど、まぁご確認は自己責任で)

 さて、乗り物が丘を飛んだり川へつっこんだり横転したりクラッシュしたりするシーンにおいて、車内に置いたカメラによって慣性にゆすられるさまを撮るのは、それなりのアクション映画監督がおこなってきた手法ですし。激流に呑まれる者々を上下左右にはげしく揺れと回転をともない1ショット長回し的に追従する演出もまた、ア アフター』(映画本編で0:04:08~、上の動画で0:55~)やらァインディング・ドリー』(映画本編で1:04:01~、下の動画で3:07~)やら2D3D大人向けファミリー向け問わず描かれてきました。

{とくに『ドリー』は、(個の「顔」なんて無い)ちいさき魚らしい現実をつきつけられるシーンとして、左目右目映像をそれぞれ(目の離れた魚としてもっともらしいことに)意図的にブレブレにダブらせたうえで、キャラが外部由来のおおきな力によって天地左右に振り回され流されるようすを1ショット長回しで映すという、3D上映映画の利点を活かしに活かしたトンガったもの!!}

ユーザーによる⾃主的な制御
ユーザーからカメラの制御を奪ったり、ユーザーによって主導されたのではない⽅向にカメラを動かしたりすると、シミュレーター酔いを引き起こすことがあります。いくつかの理論は、体感する動きを予期して制御する能⼒が乗り物酔いを防⽌する役割を果たすことを⽰唆しており[5]、この原則はシミュレーター酔いにおいても同様であると思われます。

   Oculus VR(2015)、『Oculusベストプラクティス』25「シミュレーター酔い」より

*18

 対して『HCotM』は、そのまま映せば凄まじいスペクタクルとなるだろう劇的な展開――しかし3DVRで再現したらぜったい酔う原因となるだろう展開に――出くわしたとき、だいたいの局面においてプレイヤーキャラの立ち位置に左右されない幽体離脱・暗転・瞬間移動・スローモーションを駆使して乗り切ります。

 (エレベーターの動き始め/終わりに感じる気持ち悪さにちかい)『FAR POINT』などで覚えた無重力は、『HCotM』ではあまり感じないようになっています。プレイヤーキャラクターが跳躍(ジャンプ)する局面が『HCotM』では第1面からさまざまあるんですけど、1度か2度の例外をのぞくほとんどの局面で、ジャンプ頂点前後の速度・加速度が刻々とおおきく変化する上下軌道へ、スローモーションが(長めに)かけられています。

 いや、もちろん物語把握のうえではこのかたちでも問題ないし、こうした数々の配慮のおかげでぼくはゲームクリアまでたどり着けたわけなんですが……

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(↑『ファインディング・ドリー』の放流シーンの、おそらく一般視聴者による私的な切り抜きアップロード動画。16年の初投稿から127万再生されても消されてないので貼ったけど、まぁご確認は自己責任で)

 ……ですが、あらすじではなく3DVRでしか味わえない臨場感を求めてこのハードやゲームに手を出した自分としては、この快適さが逆に物足りなくもあるんですよ。(オタクってめんどくさいな~!)

 

 さて個人的に「3D映画がいまいち流行らなかった一因なんじゃないか?」と思うのが、(『ファインディング・ドリー』などのような「3Dだからこそ活きている演出だ」とハッキリわからせる作品が少なかったことのほか)奥行き重視の立体表現設定なんですよ。

 『アバター』が大人気だった当時、

「初期の3D映画はいかにも3D上映を活かそうとした悪凝りした、見ていて目が痛い見世物アトラクションだった。対して『アバター』は、"ドラマ"にしっぽり没入できる"奥行き重視映画"だ」

 という評価も結構よく聞いたじゃないですか。でもこれ本当かな~?

 スクリーンの奥に世界がひろがってる表現って結局、観客と表現物との間にそれだけ距離感を生んじゃうんじゃない?

 そしてモノの見え方は距離が遠くなるほど視差が少なくなってノッペリして見えるんだから3D出力する旨味が減じてしまわない?

「べつに2D上映と変わらんくない?」

 大多数のひとがそう感じたから、3D映画ブームは去ってしまったのだとぼくは思います。(たいていの最近の3D映画より、往年のB級モンスター映画『大アマゾンの半魚人』のほうが「3D上映ならではの光景が拝めた!」というお得感がありますからね)

 『HCotM』VR演出は、奥行き重視3D映画とは異なる理由でああなったんでしょうけど、けっきょく同じ轍をふんでしまっているんじゃないでしょうか。

 ゲームのおまけとして収録されてるゲーム内VRムービー「械探検」なんて、そういう方向でとてももどかしい。密林の川をNPCと一緒にボートですすんでいくのと並行して、四方八方を機械獣がどんちゃんする……という本編オープニングの別パターンで、船首ちかい席にNPCがでんと座りつづけるのもオープニングと同じです。

 なんでこの舟や同乗者がいるのかって、これもたぶん"酔い"予防なんですよ。視界のぜんぶがぜんぶ動くのではなく、(プレイヤーキャラクターと等速で動くため)見かけ上 不動の存在があると"酔い"抑制ができるんだそう。「VR ゲームを例にとってみると,コックピットなどにプレイヤーが乗り込んでいるという設定とし,コックピット内のフレームは視野内で一切動かず,コクピット外の映像のみが動いているという表現を用いる」*19

 そうした配慮をきかせた結果、客観的には巨大でありメインの被写体であるはずの機械獣が中景や後景へおいやられ小さくノッペリ平らかに見え船頭のNPCばかりが存在を主張する……という、本末転倒のシーンになってる。

 

 ここでぼくがクリアできなかった初代PSVRゲー『FAR POINT』の操作感を思い出しましょう。

 あれはたぶん「平面出力のFPSならクリアできるようなレベルデザインをしたところ、VRだとはるかに難度があがってしまった……」というだけで、プレイヤーへ以下のように感じさせるよう意図したものでは無いと思うんですけど、それはそれとして『FAR POINT』って過酷な惑星"取り残されサバイバル"らしさ2D出力ゲームなどでは味わえない稀有なかたちで体験できる作品だったんじゃないか、PSVRを買ってよかったなと思った要因のひとつだなぁと思います。

 

 ゲームの操作において、VR耐性の低い人・経験者それぞれの能力にあわせたフレキシブルな設定ができたように、イベントシーン/演出においても"VR酔い"対策版や臨場感重視の演出がえらべたら最高だったんじゃないかな~と思いました。

 

 初めてVRに手を出すのに最適な登攀

 といったわけで、戦闘は徐々にたのしめなくなっていったんですが(つってもべつに、不愉快なほどではありませんが)、それでも飽きずに15時間あまり、ストーリークリアまでプレイしちゃいました。

 それだけVR空間での冒険がおもしろかったんですね。登攀がたのしい!

 

  (昔話)シリーズ過去作、同時代作、遠縁作の登攀3つ振り返る

   『ゼルダBotW』の自由な登攀

 PS4Proでシリーズ第一作『ライゾン・ゼロ・ドーン』('17 ゲリラゲームズ)をやったとき、zzz_zzzzは「あ~……」とちょっと落胆したんですよ。

 

 2017年といえばNintendo Switch/Wii Uルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』('17 任天堂が出た年で、2月末に出た『HZD』3月初めに出た『ゼルダBotW』は両作とも話題をあつめつづけ、年末の祭典『The Game Awards』ではゲーム・オブ・ザ・イヤーの最終候補にそろってノミネートされました。

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 ゼルダBotW』は老舗ゲームメーカー任天堂の人気シリーズゼルダの伝説の一作で、三人称視点3Dアクションアドベンチャーゲーム(出力は平面TV*20

 デフォルメを利かせた(写実よりも分かりやすさを重視した)大胆なマンガ的演出もいとわない*21トゥーン調の世界には、「これをこうしたらああなるだろう」という期待に応えてくれる独自の化学エンジンがはたらいていて、プレイヤーキャラクターが斧を振って木が切り倒せば橋代わりにできたり、手に持った枝をたきびにかざしせば枝の先に火がつき、それを草むらに向ければ延焼し、上昇気流が発生するので、ジャンプして火の海のうえでマントを広げて凧のように舞い上がり……と、価格相応のミドルスペックでPS4らに劣るSwitchよりさらに劣る前世代機Wii Uとの併売タイトルとは思えないさまざまなモノとエレメントの相互作用が起こせます。

宮本氏:そうですね。「ゼルダ」の当たり前を見直す、壊すということですが、「風のタクト」が出て、「スカイウォードソード」に進化していったことで、「ゼルダ」がもともと持っていたアドベンチャーゲームとしての自由度が損なわれて、シーケンシャルなもの(規則に沿った遊び方)になりすぎたということで、それを元に戻そうと言うことです。

   GAME Watch(2016年6月15日掲載)、中村聖司取材『宮本茂氏、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」を大いに語る』、『ゼルダBotW』エグゼクティブ・プロデューサー宮本茂さんの言

 ゼルダBotW』をやって楽しかったのは自由度のたかい冒険で、くだんの作品にかんじた「自由」のよりどころのひとつは間違いなく……

―― 藤林さんはGDC(ゲームデベロッパーカンファレンス)で、「初代『ゼルダの伝説』(以下『ゼルダ』)が実現していた、広いフィールドを自由に探索し、スクロールさせるごとに新たな発見や出会いがあるゲームを現代に蘇らせたい」とお話しされていました。その実現に向け、まずはどこから考えられていったんでしょうか?

藤林 最初は「登る」「降りる」というアクションと、「オープンエア」で広々とした世界にするということをセットで考えていきました。

   『発売直後の『BotW』開発者インタビュー』より、『ゼルダBotW』ディレクター藤林秀麿の言(太字強調・文字色変えは引用者による)

 ……スタミナ(がんばりゲージ)と体力さえあれば大体どんなところも好きなように登攀できる移動の幅ひろさにありました。

 身の回りでできることを概観し、衣服をととのえ、各地の自然物をあつめて調理し、スタミナや体力を単純に回復できる飲食物や、移動速度をはやめたりスタミナの減りを抑えるステータスバフ飲食物を用意し、いざ実践。バフアイテムを飲むまえに試験登攀して、傾斜のなかに潜む(かもしれない)休憩地点を文字どおり手探りで捜し、登攀ルートにあたりをつけたうえで本番にいどみ、みごと「高みへ行けた!」と喜んだのも束の間、パキンと空気がこおって雪が降り、主人公リンクのからだがふるえ体力が削れはじめ……

 ……地形におうじてこまかく体力消費の高低が設定され、高度などに応じた気温変化と耐温の概念があり、それに対する回復・防護策があるゼルダBotW』の登攀。これにダンジョン以上の手ごたえをおぼえたひとは、絶対ぼくだけじゃないでしょう。

 解法がだいたい一様に限られたダンジョンと違って、どの山を登るも登らないもプレイヤーの匙加減。「登ろう」と決めたのはほかでもない自分自身であり誰に指図されたものではなく、その壁の攻略にはゲームデザイナーが明示的に設定した答えもあるわけじゃなく、果ての眺望だって――成功にせよ失敗にせよ―――じぶんだけの宝物です。

 3000万セールスをあげたと云う今作ですが、3000万人がプレイすれば3000万とおりの独自の冒険がくりひろげられていることでしょう。

――「ゼルダの伝説」は自身のボーイスカウト経験からインスピレーションを受けたと伺っていますが、それについて何かお話しできることはありますか?

宮本氏:そうですね(笑)。昔、最初の「ゼルダ」を作ったときの話ですが、子供の頃ボーイスカウトオリエンテーリングしたときに、山の上に登って、そこに湖がすっぽりあって感動したことを、「ゼルダ」を作っている最中に思い出しました。

   『宮本茂氏、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」を大いに語る』(太字強調・文字色変えは引用者による)

滝澤 実体験という意味では、開発現場では「裏山の冒険感」という話もけっこうしていて……。近所の裏山にのぼって探険したり、野生の動物に出会ったり、キノコ狩りをしたりといった、子どものときの原体験がよみがえるようなものにしたい、ということも、みんなでよく話していました。

竹原 そうですね、原体験については制作中もよく話をしていましたね。これは私が『BotW』チーム合流時に地形リーダーから聞いた話なのですが、ハイラル全土に渡って生えている草、これも原体験というところからの提案だそうで、「風になびく草」「草をかき分けて進む冒険感」、これがあることでこの世界に臨場感が出てくることと、厄災がおこったあとも「人の営みは関係なくただ美しい自然がある」という、ひとつの世界観を確立できるのではないかと考えたようです。

   任天堂、滝澤智(『ゼルダの伝説BotW』『TotK』アートディレクター)&竹原学(『Botw』地形デザイン建物担当リーダー・『TotK』地形デザインスーパーバイザー)&泉洋平(『BotW』北部エリア地形デザイン・『TotK』地形デザインリーダー)『Special Interview 人を楽しませることに情熱を』元記事削除済。リンク・参照もとはinternet archive蒐集版)

 

   シリーズ第一作『HZD』登攀のがっかり感;リニアな立体版「点つなぎ絵」としての登攀

 『Horizon Zero Dawn』は、『キルゾーン』などを手掛けたオランダの気鋭メーカー・ゲリラゲームズの一作である、三人称視点3Dアクションアドベンチャーゲームです。

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 ファン・ビークのオリジナル・コンセプトは『Horizon Zero Dawn』の完成形を定義する要素がすでに多量にふくまれていた:ロボットの恐竜に、自然の美を取り戻したポスト・アポカリプス的世界、そして主人公アーロイさえ。

  Van Beek's original concept already had many of the ingredients that define Horizon: Zero Dawn in its final state: robot dinosaurs, a post-apocalyptic world reclaimed by the beauty of nature, and even protagonist Aloy.

 いかにして彼はこのコンセプトを思いついたのか? これまでスタジオが取り組んできたことから「必ずしも180度方向転換を試みようとは思ってなかった」とファン・ビークは答えた――それでも最終的にはそうなってしまったが。代わりに、チームの語彙で云うところの「ワイド・リニア・シューター(幅がひろい一本道のシューティングゲーム)」(=過去作<KILLZONE>シリーズが代表例)をゲリラゲームズだからこそ出来るかたちで超えるものの探求としてはじまった。

  When asked how he came up with the concept, van Beek says it "wasn't necessarily an attempt to do a 180" from everything the studio had previously worked on - even though it eventually became that. Instead, it began as an exploration of what Guerrilla could do beyond what the team calls "wide linear shooters" like Killzone.

 2010年(引用者注;KILLZONE3』完成間近で、ゲリラゲームズ全社員が新しいゲームデザインフランチャイズとなる作品を考えるよう言われた時分。30~35の案のなかの一案がファン・ビーク氏の『HZD』素案だった。)にさかのぼろう、2歳をむかえた『Fallout 3』はとくにアート・ディレクター(引用者注;ファン・ビーク氏のこと)の興味を惹いた作品だった。ベセスダによるこのポスト・アポカリプス的銃携帯RPGのスケールは、プレイヤーへはたらきかけ(エージェンシー)も自由も両方ともあたえる新たな道をもとめていたゲリラのチームにとって魅力があった。

  Back in 2010, the two-year-old Fallout 3 particularly intrigued the art director. The scale of Bethesda's post-apocalyptic gun-toting RPG appealed to the team, as they sought new ways to give players both agency and freedom.

「行動が封じ込められていないことに私たちは興奮しました」ファン・ビークは説明する。「一人称視点シューティングゲームをつくるとき、手品の全体はプレイヤーの一人一人の心拍数をコントロールします。とてもよく描き込まれた脚本(scripted)のとてもよく作り込まれた局面(crafted)であっても、でもそのモーメント(ひととき)が為されてしまえばジェットコースター・ライドはそれでおしまいです。ゲームは作るのに本当に費用がかかりますよ――150人のチームが6~8時間の体験の製作にかかわり、そこへ全力を注ぐのです」

  "We were excited about things that aren't as contained," van Beek explains. "When you're making a first-person shooter, the whole magic trick is controlling every single heartbeat of the player. They're very well scripted, very well crafted but the moment that it's done, the rollercoaster ride is over. They're really expensive to make - you have a 150-man team making a six to eight-hour experience, and that's where all the effort goes.

「デザインの観点から、私たちがより一層の興味をもったのは、それぞれが自由にインタラク(相互作用)する事柄を組んだ一種のシステマチックなゲームや、デザイナーの予期してなかった行動をプレイヤーが取ることの出来る もっと創発的なゲームプレイです。これはとても狭い経験をクラフトするより遥かに胸が躍ります。なので私たちはジェットコースター・ライド式デザインから遊園地(テーマパーク)式デザインへ確かにむかいました。私たちの胸の躍る方式のほうへ」

  "From a design perspective, we were more interested in these sort of systemic games where you set things free to interact with each other and there's more emergent gameplay, where the player can do things you didn't expect as a designer. That's much more exciting than crafting these very narrow experiences. So we've really gone from designing rollercoaster rides to designing theme parks, and that's what excited us."

   games Industry.biz(2017年11月15日掲載)、James Batchelor『Guerrilla Games: "We've gone from designing rollercoaster rides to theme parks"』、ヤン=バート・ファン・ビーク*22(『HZD』アート・ディレクター)の言

 PS4のハイスペックと(スタジオの過去作『KILLZONE』用ゲームエンジンを基にした)手製のゲームエンジンDECIMAを活かしに活かし、自然と機械獣が猛威をふるうファンタジックな未来世界を色相彩度の幅広く鮮明にえがきだした素晴らしいゲーム。その物量・技量たるや『ゼルダBotW』なんて遠く及びません。

 なんたって……

小島 そうですね。『ホライゾン ゼロ・ドーン』はオープンワールドタイプのゲームで、映像の密度もすごい。キャラクターはもちろん、環境の変化などもリアルタイムで制御されていて、そのテクノロジーの高さは世界中のスタジオを回った中でもナンバーワンでした。僕たちが目指しているものにいちばん近いなと。

   ファミ通.com(2017.05.25 09:00掲載)、『小島監督とゲリラゲームズのハーマン・ハルスト氏へインタビュー。ともに高みを目指すゲーム創りに迫る(1/2)』

 ……メタルギアソリッドシリーズで有名な小島秀夫さんもそう太鼓判を押したほどですからね。

 

 でもこと登攀においては『HZD』はかなり切ない

 登攀可能な特定のポイントでボタンを押してプリセットされた登攀アクションをおこし、次なる登攀可能ポイントを見つけてボタンを押し……という、「点つなぎ絵」あそびのフォトリアルな立体版に過ぎなかったんですよね。ほら小学生のときにやりませんでした、点と点をそれぞれにふられた数字の順番どおりに線でむすんでいくあの遊び? アレですアレ。

 PS3ンチャーテッド』などで有名なシステム*23で、その範疇では丁寧に設定されてるから違和感はないんですけど、映画の主人公を演じるような一本道(リニア)な作品ならともかく、自由度のたかいオープンワールドゲームでこうした選択肢の狭さがふと現れると夢からさめて楽屋裏を垣間みてしまう気分になっちゃうんですよね。

 道なき道をのぼることも出来なくはないんですけど、それは「ベセスダ式登山法」とかって言われたような伝統の無理くりなプレイングですね。写実的なプレイヤーキャラクターが一定モーションのジャンプを連発し、写実的な風景のなかに潜む"地形レイヤー設定のゆるみ"を突いてチョコチョコ座標を変えていくさまは、わるい意味でゲームらし過ぎて、現行ハード・ソフトが引いたリアリティラインから余裕でハミ出し、極めてなにか生命に対する侮辱を感じます。

 マシンスペックと製作コストとがあがって見かけが高精細化したりインタラクティブな部分が多様化したりすればするほど、昔ながらの様式化された平板な部分が悪目立ちして「所詮つくりものか……」と落胆が大きくなるような気もします。

 

   『デススト』の自由かつ過酷な旅;歩くのさえ大変/面白い、土地の高解像度

 PS4初出ゲームス・ストランディング('19 コジマプロダクション)は描画される世界の解像度の高まりに対して、キャラの動きも具体化・多様化させた良い例でしょう。

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小島 同じエンジンを使うとはいえ、僕たちとゲリラゲームズさんとでやりたいことはちょっと違います。『ホライゾン ゼロ・ドーン』はカラフルでアートな世界。僕らが目指すのはフォトリアル。だから、フォトリアルに適したエンジンやツールにするために、いろいろと改良を加えていきます。

   『小島監督とゲリラゲームズのハーマン・ハルスト氏へインタビュー。ともに高みを目指すゲーム創りに迫る(1/2)』

 小島氏率いるコジマプロダクションが、ゲリラゲームズ開発ゲームエンジンDECIMAを借り、技術協力も受けて発表した『デス・ストランディングは、伝説の配達人アポカリプスを迎え荒廃し分断されたアメリカの各地へ物資をはこび繋ぎ直す配達ゲーム。

 ゼルダBotW』をさらに具体的に面倒くさく(笑)したような地形とのふれあいが魅力的な作品で、『DS』となると登攀どころかとにかく歩くだけでも大変/楽しい

 凹凸や湿度などを反映して×と三段階に大別できる路面状態と積み荷とのバランスなどで、プレイヤーキャラクターである主人公サムの体勢は前後左右にこまかく変化し。プレイヤーもそれに合わせて、サムが右にかたむけばコントローラ右奥にあるR2ボタンを押して右手に力を入れてふんばり、左にかたむけば左奥にあるL2ボタンを押して左手に力を入れてふんばり。コケてしまえば胸に抱いたブリッジベイビーという特殊な赤ちゃんが泣きだすのでコントローラに付されたスピーカーから響く赤子の鳴き声、加速度センサの仕込まれたコントローラを前後へ現実の赤子をあやすように揺り動かしてゲーム世界の赤子をあやし……と、こまかく対処しながら歩みを進めていきます。

 

 発売まえトレーラー映像のなかには、上でリンクを張ったバージョンのように、プレイヤーキャラクターである主人公サムがゲーム世界のさまざまな土地をさまざまな体勢で――苔じみた草原と大小の石のころがる川辺を、火星じみた赤土の荒野を、腰まで水に浸かる滝のそばを、短草が点々とし小岩のころがる黄土色の急斜面の山肌を手をつきながら最初の川辺と似たような地形を積み荷をかえて左右によろめきながら雨降る廃墟の階段をあたりに気を配りながら胸まで浸かる深い河で足をすべらせ積み荷を水上に浮かべ地面の亀裂にとおした梯子を綱渡りの要領で崖をロープで垂直に――すすむだけのものさえあり。

 GDCゲーム・ディベロッパーズ・カンファレンスでは『DS』にまつわる講演として、複雑な地形を自然にすすむAIについて一席ぶたれたくらいでした。

www.4gamer.net

 

 山地での道のりもトガっています。

 とにかく、人生に迷っている人、下山を検討している人に、この小説を薦めたい。マイナス40度の大気、高度障害、強風、雪崩、落石、凍傷、飢えと渇き……地球上の生命活動として、これ以上の極限状態はない。容赦ないサディスティックな描写が、感覚がなくなるまで徹底的に続けられる。小説だとわかっていても、寒さや息苦しさ、痛みや震えに耐えかねて、「お願いだ! もうやめてくれ!」と大声で叫んでしまいたくなる。

   新潮社刊(新潮文庫、2019年12月6日刊)、小島秀夫『創作する遺伝子――僕が愛したMEMEたち――』kindle39%(位置No.3364中 1273)、「第1章 僕が愛したMEMEたち』すべてを捨てようとも、「それ」を続けるしかない。『神々の山嶺夢枕獏 より(2012年7月のコラム)

 トレイラーでもうかがえたとおり山部で落石が見られたり、積み荷を高く広く積んでいると強風地帯で煽られたり、寒い雪山では保温メカを余分に積まないと体力消耗がはげしくなったり、どこでも可能な「休憩」コマンドを雪山でとると永眠したり……

 ……雑誌のコラムで夢枕獏々の山嶺』を書評したさい、その登山描写の悲痛な面に注目した小島氏らしいエッセンスがふんだんに盛り込まれており。

 とくに、苦労してせっかく僻地に設置したハイテクお助け設備が風雪にさらされ早期に傷むも、設置場がピーキーすぎて利用者の誰もがメンテを拒んで結局じぶんが直すハメになったり、山岳での活動に適したハイテク強化外骨格やパワード手袋が電池切れしてただの重荷と化してしまったりする瞬間などは、この『デス・ストランディング』世界ならではの苦境で、大変/面白かったです。

 そりゃ見舞われたとき、思わず「あ゛~……」とため息はもれましたよ。でもそれは「面倒くさい事態になったな」という落胆だけじゃなくて、「この世界なら当然起こることだな」と画面の向こうの世界のもっともらしさへの驚嘆が入り混じったものでした。

 移動経路はプレイヤーの自由ですが、プレイヤーキャラクターが持ち運べる物資には重量的・積み方的限界があり。旅を安全・快適にするハイテク建築物は好きなものを好きなように建てられますが、そのハイテクはコミュニティ全体の共有財産なのでじぶんだけが独占できるわけではなく、折り合いをつけなければなりません。どちらへどう進もうか、『ゼルダBotW』以上に大変/楽しい局面が何度もおとずれます。

 96年にエヴェレストに挑んだ登山家ジョン・クラカワー氏は、回顧録「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日序盤でエヴェレスト登山史をざっと概観します。未踏の西稜ルートを開拓したホーンバイン氏&アンソルド氏のエピソードは興味深くって、クラカワー氏は難所踏破の偉業以上に……

 二人のアメリカ人は、頂上攻撃に出かけたその日の午後遅く、急峻でもろい岩の層――あの悪名高い<イエロー・バンド>を登った。この断崖を克服するには、とてつもない体力と技術が必要とされた。これだけの超高所で、技術的にこれほど挑戦的な登攀がおこなわれた例はこれまでなかった。ホーンバインとアンソルドは<イエロー・バンド>を登りきったものの、そこを安全に下っていけるかどうか自信がなかった。

 二人の出した結論は、次のようなものだった――この山から生きて帰れる可能性がもっとも高いのは、頂上を越えた向こう側の、ルートとして確立している南東稜を下降することだ。この目論見は、この遅い時刻と、未知の地形、急速に減少しているボンベの酸素の残量、こういったものを考え合わせると、きわめて大胆なものだった。

   山と渓谷社(ヤマケイ文庫、2017年10月31日発行)、ジョン・クラカワー(海津正彦訳)『空へ―「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日』kindle版8%(位置No.6155中 443)、「第二章 インド、デーラ・ダン」

 ……山頂へ登ったあと、生きて帰るために取った下山の選択をこそ称えます。現実の苦闘とならべるのは無神経かもしれませんし、考慮しなきゃならない変数や実行の大変さは比べるまでもないと思いますが、『デス・ストランディングをプレイしていると、これに近しい選択をせまられる局面に何度か出くわします。

 見栄はりました、実際には上述アメリカの英雄みたいな英断気分を味わえるのはごく稀で、ぼくじゃあキュメント道迷い遭難』など羽根田治さんが取材・記録してきた苦難みたいな具合になりました……。*24

 『デススト』発売から4年経った2023年、PS5の付属機PSVR2発売となりました。

 『HCotM』の登攀は、ハードをひと世代ずつすすめた時代のゲームとして、先行作が味わわせてくれたようななにかがはたしてあるのか?

 

  従来のシステムがモーキャプコン3DVRならとても楽しい;『HCotM』の登攀システム

 スピンオフタイトルである今作『HCotM』の登攀システムは、『HZD』にかなり近いものでした。でもとても面白かった!

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 2ⅮのTPSゲームだったころは微妙さもあった特定のオブジェクトにしか登攀できない従来の「点つなぎ絵」的登攀システム・ギミックが、VR2のシステムとFPS視点だとめちゃくちゃやり応えがあります

――デモでは、クライミングや弓の操作が印象的でした。調整にあたっては、かなり研究されたのでしょうか?

フェリックス PS VR2のプロトタイプを手に入れた瞬間から、現実感、没入感のある体験を実現しようと、ずっと調整を続けてきました。また、気持ちよさも重要視しています。ある意味超人的なパワーを持ったような体験ができることが爽快感につながると思いますので、クライミングや弓の体験には、非常に力を入れています。

ベン 主人公がクライミング、弓の達人であるという設定なので、ふつうの人間である自分なら登れないようなところを、いともたやすく力強く登れるというのが、非常に気持ちよさに寄与していると思います。また一方で、登っているときにふと下を見ると、非常に高い崖で、「手を離したらどうなるだろう?」という足のすくむような怖さも体験することができて、それはキャラクター性にもつながっています。

――クライミングや弓のモーションを制作するにあたっては、実体験を参考にされたりはしているのでしょうか?

ベン 資料を参照して研究することは、いつも開発において重要なことです。多くのクライミングのドキュメンタリー映像を研究したり、アーチェリーに関連する資料を読み込んだりしました。

   ファミ通.com(2022年9月14日21:00更新)、(取材者・筆者未掲載)『【PS VR2】すべてが想像を超えている! 世界の美しさも、機械獣のデカさも、クライミングやバトルの迫力も。『Horizon Call of the Mountain』プレイリポート』より、フェリックス・ヴァンデンバーグ氏(プロジェクト アート・ディレクター)、ベン・マコー氏(『HCotM』ナラティブディレクター)の言

 また『HCotM』だと登攀姿勢じたいはプレイヤー側で自由に変えられるので、「自分で登ってる」感がつよいです。プレイヤー(プレイヤーキャラクター)は手をブランと下げて(上げて?)密林をすすむ猿みたくずんずんスイングしながら突き進んでもいいし、崖をつかんでる手よりも上に顔をあげて、敵を警戒したり今後のルートを予習したりしながら一手一手慎重にすすんでもいい。

 

   先行VR登攀ゲー『The Climb2』ほど登攀テクを求められないようだが……

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Meta Quest 2などでもおなじみの「Climb」シリーズにも通ずる、崖の手で持てるところにギリギリ手を伸ばして登っていく体験がHorizonの世界で実現。

   MoguLive(2022年9月14日掲載)、すんくぼんなレベルの高い戦闘シーン、VRでは初めてだ……!「Horizon Call of the Mountain」を先行体験で堪能」より

 Meta Quest*25系列のVRやらをもっているかたが楽しげにやっていた『The Climb2』のような体験が、家庭用ハードでもついにできる!

 というわけですね。

 さて直上で引用したレビューですんくぼ氏は、弓矢操作についてもVRの先行作を挙げていて、そちらは「これまで体験したどの「VRの弓矢」よりも細やかで、矢を振り絞ったときの張り詰めた緊張感が伝わってくる」と彼我の優劣へとお話が展開されたわけなんですが、登攀システムについては筆はそこでストップ。両者の比較はなされていません。

 『HCotM』の評価をあさるとこんな具合に、ネットのやさしさにふれられます。

「メーカー傘下に近いファーストパーティのハード立ち上げ専用ゲームが、ライバルハードの既存作の縮小再生産なの!?」

 くらいの罵倒があってもおかしくないと思うんですが……まぁそれだけVRゲーマー層じたいがちいさいということなんでしょうね。*26

 というのも『The Climb2』は、登攀していくうちにそれぞれの手の握力がおちていくので、ボタン半押しで力を入れすぎないよう登ったり、両手で登っていくよう心掛けたり、あるいは手をふることでチョークの白い粉をふりかけグリップ力を高め直したり……と、いろいろな肉体的技巧を駆使して登っていく必要(たのしみ)があります。

 いっぽう『HCotM』ではそういった握力や"がんばりゲージ"的なものは無く、どんなかっこうであれ登攀可能箇所を片手が握ってさえいれば落ちる危険はありません。

 ここにかんしてはかなりシンプルな仕様で{、そして『HCotM』はほかにも、集落に放置された楽器オブジェクトが手に取れて、鳴らせもするけどそれ以上の展開がないという、まさに賑やかしが――「むかしバズってたやつをウチでもやってみました」というだけの周回遅れの後追いギミックが――あったりするんで}すが、zzz_zzzzとしては「これはなかなかよく考慮されたローカライズなんじゃないかなぁ」と思いました。

 

   数々の登攀具をつかう、VR空間で具体的につくる;<ホライゾン>シリーズらしい/PSVR2らしい素材採集クラフト要素

 上述した「身体能力・技芸としての登攀術」要素こそありませんが、人気シリーズのスピンオフである今作は……

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ゲリラゲームズは、デザインの基本方針の1つに「本物らしくあること」を掲げた。『Horizon Zero Dawn』に登場する武器は、見た目にも機能的にも現実味がなければならなかったのだ。限られた技術知識を使ってそれぞれの部族はどのように道具を作るのか――その想像を膨らませるのが、デザインの楽しみだった。どこかで見たようなデザインの武器は1つとしてない。戦闘中に機械の部位破壊によって入手して戦略的に使う武器など、使い捨て型のものもある。細々とした資源から強力な武器を作ることも可能だ。

   誠文堂新光社刊(G-NOVELS、2018年10月25日電子版発行)、ポールデイヴィス(江原建訳・大島陸翻訳監修)『ジ・アート・オブ Horizon Zero Dawn』kindle版16%(位置No.203中 32)、「NORA ノラ族」より

 ……各地へちらばる機材をあつめて登攀具をクラフトし、それを冒険・登攀に活用していくという、素材採集狩猟ゲームらしい味があります。

 たとえば指の引っ掛ける隙間もないツルツルの岩壁に対して、『HCotM』では手製のピッケルへ持ち替え、それを振りかざし穿ち引っ掛けながら登ることができ、ほかにもさまざまな特殊地帯と登攀具が登場し、登攀の過程にいろいろな彩りをくわえてきます。

 <The Climb>シリーズの登攀と比べてみると、登攀箇所にコンタクトしたときのエフェクトが『HCotM』は豊かです。たしかに、手で登攀箇所を掴んだときの小気味よい接触音や縄などをつかむと揺れたりするのは<The Climb>にならったものでしょう。

 でも、素手で岩をつかめば白い粉や砂の煙が舞い上がり、指が近くの苔をかすめればやわらかく揺れ、ピッケルで岩壁をたたけば火花がはじけ小石が砕け放物線をえがいて跳び落ちたりするのは<The Climb>シリーズでは見かけません。

 ピッケルでくだけた飛礫がプレイヤーの視界へそのまま迫ったとき、ぼくは思わず顔を背けました。安全に配慮された『HCotM』のなかでも屈指のスペクタクルです。

 この登攀だけは現実だ。いや現実以上に存在感を主張してくる、たしかな自然主義的迫力がある。

 ファミ通.com掲載のインタビューじゃあ「クライミングのドキュメンタリー映像を研究した」とクリエイターさんがたは語っていたものの、実際にプレイしてみてぼくが想起したのは、無酸素・無器具(エイド)による天然志向・超人志向がつよい最近の登攀家ではなかったりする。それというより、むしろ、

「何が何でも上へ登ってやろう」

 という熱意に燃えていた、もっと古い世代の冒険家のロマンチシズムがわきあがりました。

 かなり方々を一人で登り歩いた体験からして、二人または三人で登る場合には、なんでもないような場所も、一人で登る場合には、困難な場所となることを知っていただけでなく、一人で登る場合の弱点は、登るときよりも下るときに大きくなるということも分っていた。そこでこの弱点を補うために、いままで使われたこともないような、二つの小さな道具を工夫したのであった。一つは、長さ約五インチ、厚さ五分の一インチの鋼鉄製の鉤(一種の錨)である。

   岩波書店刊{2012年4月26日電子書籍版発行(底本は2008年4月24日第51刷改版)}、ウィンパー(浦松佐美太郎訳)『アルプス登攀記 上』kindle版50%(位置No.4297中 2100)、「第五章 マッターホルン登攀・再度の企て」

 マッターホルン初登頂をはたした19世紀の登山家エドワード・ウィンパー氏によるルプス登攀記』は、氏がいかに名峰へ何回も何年もいどみつづけたかを卑近な愚痴などたっぷりに、それでいて各章のはじめにホメロスシェイクスピアなどをエピグラフとして引きなぞらえ詩情もまたたっぷりに語った冒険の記録です。

 それと同時に、かれがいかに登攀具を改良・発明していったかの工作の記録でもあります。アイスアックスはもちろんのこと、L字というより鉤が二股にわかれたY字にちかいハーケンや、降下のさいにロープを通す鉄のリング、梯子、次世紀のエヴェレスト初登頂時もその後継タイプがつかわれたウィンパー・テントなどなど……ウィンパー氏は経緯から仕組みまで細かい説明に文筆にいそしみ、木版画家であった才覚を発揮しじしんの絵筆もふるいます。

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部族内での武器作りは、たいてい試行錯誤の連続だ。それぞれの部品がどのように組み合わさるかは誰にもわからない。適当に部品を選んで運よく噛み合えば、画期的な発明が生まれるかもしれない。

   『ジ・アート・オブ Horizon Zero Dawn』kindle版16%(位置No.203中 32)

 この登攀具をクラフトする模様も、ジェスチャ操作がふんだんに盛り込まれて具体的です。

 もちろんこれまでぼくがやってきたゲームでも、プレイヤーキャラクターがひとつひとつ凝った手仕事をする作品はありましたが。その過程をほかならないぼく自身がアナログ的におこなう『HCotM』のクラフトは、格別の手ごたえがありますね。

 べつにクラフト品はどれも、だれか仲間から譲り受けたとかいうバックグラウンドがあるわけでもなければ、またそれによってだれかを助けたなどの劇的な物語をことさら積んでいくわけでもないんですよ。

 ないんですけど、ゲーム世界内の設計図とクラフト素材実物とで視線を行ったり来たりさせながら、素材を両手でそれぞれ持って、それらしい位置や角度で素材同士を組み合わせ、あるいはこまかく紐を巻いたりして完成させると、「モノ」としての実体感が湧いちゃいます。

(クラフトの過程は、PSVR2の他作Song in the Smoke Rekindled』と比べても、より具体的なジェスチャをかさねる必要があります*27

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/z/zzz_zzzz/20230313/20230313184656_original.jpg

 ウィンパー氏はじしんの発明したテントについて語るさい、挿絵として全体像だけでなく、ロープの巻き方が見て取れるくらい支柱同士にフォーカスを合わせた部分像を提示します。

 また、氷斧について語らせれば、じしんのそれにたいして明暗のきかせた精密画を、しかも刃にたいする革袋(カバー)といった細部の差分と並べて、さらには一見便利な他者発案の斧も複数種・複数枚を寄せてみせます。その他の斧々の挿絵が、じぶんの得物よりもシンプルな絵柄であるところにご注目! 「公平な比較・紹介」とはちょっと言いがたいものとなっています。

 写真だって既にある(し、なんならウィンパー氏も使っているらしい)時代に自身で手書きしたそのさまは、もちろん登山志願者にとってありがたいガイドとなるだけでしょう。でもそれ以上に、ウィンパー氏じしんの熱や自負を見るかのようで、妙な実体感や臨場感をいだいちゃいます。

『HCotM』ではほかの旅人の目印として、石を特定の高さまで積み上げる「ケルン」というミニゲームが各所に用意されています。『アルプス登攀記』でも、マッターホルンに挑戦するライバルが、30分かけて6フィート(182cm)ものケルンを積みあげた話や、かつてある峰の頂上までのぼりケルンを積み上げた経験を誇りにしている山の案内人が登場します。そこもぼくが今作に「古きよき冒険」感をいだくポイントですね}

 

   システム的に楽チンだからこそ入門に適してる;『HCotM』等に歴として存在する「がんばりゲージ」

 とはいえ操作はかなり楽チン。

 さいしょ律義にRスティックを押しスティック操作して道具をもちかえて崖をのぼっていたぼくは、"それ"らしい壁へ十分に近寄りさえすれば――Rスティックでじぶんが手に持つものを選ばなくても――手をあげ背中へもっていき正面へもどす"取り出し"ジェスチャーをするだけで、(明確に固有のバックグラウンドをもち固有の性格と声をゆうする)プレイヤーキャラクターの判断で勝手にピッケルが取り出されてくれることに気づきます。*28

 

 プレイヤーの裁量をしぼった単純化されたゲームプレイは、"慣れ"を招き、ひいては"作業プレイ"や"舐めプレイ"を生む土壌となってしまいかねません。

 zzz_zzzzにとって今作の冒険/登攀パートは、"舐める"ギリギリ手前か当初で新たな地形や登攀具の出番がきてくれる良いレベルデザインのゲームだと思いました。

 作家チャイナ・ミエヴィル氏のいうところの「建築家が決して意図しなかったやりかたで建築の内臓の美を見る」「カンフー映画で濾した四肢の心理地理学」、「骨の折れる荒廃したバレエ」*29であるところのパルクール。これをあつかった事物は映像にゲームにとさまざまあって、先行VR登攀ゲー<The Climb>シリーズもそういった趣を取り入れているようですが、

「え、ここ登れるの!?」

 という、ファンタジックな異景のひろがる『HCotM』だからこそ得られる驚きもあるのではないでしょうか。

 

 そして別角度からも、この楽チン仕様でよかったと思いました。

 『HCotM』をやっているぼくの頭に、1953年テンジン・ノルゲイ氏とともに人類初のエヴェレスト登頂者となったエドマンド・ヒラリー氏の思い出がよぎります……

 一時間ほどペースを崩さずに登ったあと、この尾根で最も手ごわいと考えていた高さおよさ一二メートルの急峻な岩場のふもとに達した。すでに航空写真で、この岩場の存在は知っていて、タンボチェからも双眼鏡で見ていたわたしは、この岩場こそが登頂の成否を分ける最大の障壁だと考えていた。こうした手がかりのない岩場も、イギリスの湖水地方の熟練したロック・クライマーなら日曜日の午後のお楽しみ程度だろうが、この高所で衰弱しているわれわれにとっては克服しがたい障壁だった。

   エイアンドエフ刊(2016年8月10日初版)、ジョン・ハント(吉田薫訳)『エベレスト初登頂』p.264、エドモンド・ヒラリー「頂上」

 ……じしんの名のついた難所"ヒラリー・ステップ"について、氏は「ベテランなら"余暇の楽しみ"程度の難度だけど、衰弱した体には克服しがたい」との旨を回顧しました。

 もちろんヒラリー氏の例のつまさきにも及ばないでしょうが、ゲームも仕事も通勤も座位が基本の運動不足な猫背の30代が、皮脂防護マスクでふさがれた鼻で呼吸をし、2時間立って手振り(素足でフローリングを足踏み)して天を見上げたり辺りを見渡し、両手を上へぶんぶん振り続けるのはちょっとした運動です

 (Senseコントローラのギミック"アダプティブトリガー"を利用した)登攀アクションでモノにしがみついているときにそのボタンが重くなる(反発力が増加する)しかけだって、「そう言われて確かめてみれば、なるほど重くなってる!」と気づける程度のものなのですが、振り返ってみると「結構よい仕事をしているのではないか」と思わされます。

 

 PSVR2が出るまで待っちゃった自分にたいして、『The Climb』『2』を経ずいきなりその『3』くらいの複雑な操作を要求されたらどうでしょう?

 ゲームとして楽しめる範疇の複雑さを超えちゃっていたんじゃないかなぁと思います。

 やがて私たちは、プレ・ド・マダム・カルルと呼ばれる、大小さまざまの石で蔽われ、その間の無数の沢の流れている、谷間の平坦な場所を歩いていた。既に暗くなっていたために、石が穴に見え、穴が石に見えるといった状態で、おかげであっちへ転び、こっちへ転び、しまいには足も癇癪もくたくたになってしまった。私の友人は、二人とも近視だったので、ここを歩くのにすっかり閉口していた。ベルヴーから落ちた、家ほどもある大きな岩が見つかったとき、それがま四角な岩で、どこにも体を入れる場所もないのに、ムーアが夢中になって、「ああ、素敵だ。やっと見つかった。ここでお誂え向きの露営をしようじゃないか」といったのも無理はなかった。

   『アルプス登攀記 上』kindle版95%(位置No.4297中 4032)、「第九章 エクランの初登攀」

 ジェスチャ操作などによる負荷なんてあって無いようなもので、ちょっと肩回りの筋肉などが張ったり足の裏が痛くなったりする程度のもの。筋肉痛にもならず、次の日もたのしくプレイできます。でも、その日の終盤のゲームプレイに影を落とす程度には存在します。

 識者曰くPSVR2は映像がくっきり見える範囲(スイートスポット)が狭いのだそう。あまり大きくも頻繁にもズレはしないけど、ぼくも数時間のプレイ中何度かHMDを調整しなおしながらプレイしました。

 そうしていると、わかりやすく色分けされているはずの『HCotM』の"登攀ポイント"が「どこだ?」とふと見当たらなくなって手を止めたり、「あれ?」ただの雪の地形をそれだと思って手を伸ばすもただその場でグーパーするだけになったりする。

 「ピッケルの出番だな」、ざらざらとした岩肌を目にしたぼくは"ピッケルを取り出す"いつものジェスチャをする――したつもりが、手の"上げ"が足りなかったらしくて空を切り、あやうく滑落しそうになって心臓がたかなる。ちゃんと振ったはずが、ピッケルは壁をたたくだけでちゃんと刺さらず鈍い音を鳴らす。

 

 登山・登攀にまつわる本は、疲労や高山の薄い空気などによって起こるさまざまな錯誤の展覧会でもあります。

 とくに印象深いのは96年にエヴェレストに挑んだ登山家ジョン・クラカワー氏の記した、自身や仲間のヒヤリハット・インシデント。

 さきほどアンディ・ハリスは、軽い低酸素症におちいった状態のまま、わたしのレギュレーターのつまみを回して酸素を止めるかわりに、誤ってバルブを全開にした。それでボンベが空になってしまった。わたしは、最後の酸素を流れだすままに浪費してしまったのだ。

   『空へ―「悪夢のエヴェレスト」1996年5月10日』kindle版6%(位置No.6155中 318)、「第一章エヴェレスト登頂」

 「今度はしっかり肩まで手をのばそう」、ざらざらとした岩肌を目にした次の日のぼくは"ピッケルを取り出す"いつものジェスチャをもっとしっかり深くする――すると今度は、逆にHMDのセンサーがうまく反応しないあたりへ手をやってしまったらしくてまたまた空を切る。ハリス氏がバルブを全開にしてしまったのは、こういうボタンの掛け違いなのかもしれないとちょっと思う。

 

 そうして数分数十分とのぼった頂上で、機械獣と出くわしたらもう!

 zzz_zzzzはボス戦が単調だと感じてあまり楽しめなかったんですけど、こうやって振り返ってみるとその印象のいくらかは、ぼく自身のプレイが単調になっていたことに起因するのではと思わなくもありません。プレイ動画を見直して、「えっ、こんなに弓をもつ手がふるえていたんだ」と驚いたりする。

 

 キャラクターの(そして作り手が調整できる)デジタルな数値としてではない、不可視ながらもれっきとしてある自分じしんの"がんばりゲージ"と相談しながらの冒険は、"酔い"とちがってプレイ不能にはならず、ゲームの楽しさや冒険をする意欲は維持されつづけます。

「"慣れ"が大事です、ちょっとずつでも毎日さわっていけば数ヶ月後には自由にプレイできるようになります」

 と言う先達に「無茶を言うな」と思いましたが、いまは違います。

 ストーリークリア後の仕事休みの土曜日に、zzz_zzzzは各面のオマケ要素のコンプリートのため更に3時間プレイしました。酔い止めなしで3時間です。

 

 『HCotM』のプレイヤーキャラクターは、過去に罪をおかすも恩赦の機会を得て(このゲームのはじまり)、それをつかみ(このゲーム本編パート)、再出発します。

 その過去はわずかなセリフだけで説明され、どんなものか具体的な回想シーンはありません。贖罪や回心劇としてのドラマチックな情感は正直ない。主人公の名前さえなんだったかぼくは覚えてない。

 でも、ぼくにとって『HCotM』はたしかに回心のゲームでした。

 『HCotM』をクリアしたぼくは日曜日、他のVRゲーもダウンロードしました。

 記事でもちらっと名前をだした『Song in the Smoke Rekindled』です。

 そこで原始人となったぼくは、Lスティックで足を動かし、ボタン押下で丘を自由に跳び。視線トラッキングのきかない両手で、地面におちる木々を小石をあつめて、ナイフをつくり弓をこしらえ矢をつくりつがえて、シカを狩り、恐竜を狩りました。

 そして大きな石をいくつもあつめて円く並べ、火付石を岩でこすり火を点け、焚火を自分でおこし、そこまでの小一時間の冒険をセーブしました。

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 ゲーム機としてのPSVRを早々に放りだし、3D映画・FANZA再生機としてつかっていたぼくは、『ホライゾン・コール・オブ・ザ・マウンテン』によってたしかにVRゲーマーとして再出発をはたしました。

 今作はVRゲームの戸を握る良き入門であり、そしてかつてのVRゲームに挫折したひとがもういちど握りなおすための良き再入門であります。

 回心するに足るだけの、VR世界の住人としての耐性を意図せず育むに足るだけの、体をかたむけ弓で射るやりごたえが、目と鼻のさきで岩肌をたしかめ掴むと指を押し返す重みが、登攀具をふるう音と感触が、突き刺したピッケルが閃かせる火花と目前へ迫り落ちる小石のこわさが、登攀のたのしさが、たしかにあの山にはあったのです。

 

 

 

追記;とか良い感じにまとめたつもりが……

 3時間睡眠で一日労働したあとの3/14午前0時30分から1時まで、オマケ要素回収するためラスト手前ステージをおかわりしたら、30分でふつうに強めの酔いがきました。

 VRゲーマーの道はまだまだ遠そうです(トホホ)

 

 

周辺情報

 スタッフの言

 PS Blogスタッフ「『Horizon Call of the Mountain』試遊レビュー&開発インタビュー! PS VR2で体感する「Horizon」の世界とは?」

 SIE自営のPlayStation.Blog掲載(2022年9月14日UP)。記事前半にメディア向け試遊会体験版レポート、記事後半にナラティブ・ディレクターのベン・マコー氏、プロジェクト・アート・ディレクターのフェリックス・ヴァンデンバーグ氏への鼎談インタビュー記事があります。

 

 (無記名記事)「【PS VR2】すべてが想像を超えている! 世界の美しさも、機械獣のデカさも、クライミングやバトルの迫力も。『Horizon Call of the Mountain』プレイリポート」

 ファミ通.com掲載(2022年09月14日21:00更新)。記事前半にメディア向け試遊会体験版レポート、記事後半にナラティブ・ディレクターのベン・マコー氏、プロジェクト・アート・ディレクターのフェリックス・ヴァンデンバーグ氏への鼎談インタビュー記事があります。(上記事とは別質問・別回答)

 

 すんくぼんなレベルの高い戦闘シーン、VRでは初めてだ……!「Horizon Call of the Mountain」を先行体験で堪能」

 MoguLive掲載(2022年09年14日UP)。記事前半にメディア向け試遊会体験版レポート、記事後半にナラティブ・ディレクターのベン・マコー氏、プロジェクト・アート・ディレクターのフェリックス・ヴァンデンバーグ氏への鼎談インタビュー記事があります。(上記事とは別質問・別回答)

 感想本文で引用したとおり、戦闘についての話題が興味ぶかい。

 

 Chante GoodmanPS VR2『Horizon Call of the Mountain』の主人公、レイアスに迫る!」

 SIE自営のPlayStation.Blog掲載(2023年2月07日UP)。ゲリラ・ゲームズのコミュニティーマネージャーによるシナリオや登場人物のバックグラウンド紹介記事。ゲーム本編よりも分かりやすいまであります。

 

 Heidi Kemps発チームがPS VR2『Horizon Call of the Mountain』で取り組んだ5つのポイントを解説します!」

 SIE自営のPlayStation.Blog掲載(2023年2月18日UP)。同Blog特派員による取材に対し……

  • ファイアースプライトのアソシエイトゲームディレクターAlex Barnes氏がコントローラとヘッドセットのハプティックフィードバック演出について、
  • ゲリラ・ゲームズのスタジオアニメーションディレクターRichard Oud氏が機械獣のVR空間上で見るに適したリファインについて、
  • オーディオディレクターBastian Seelbach氏が、<Horizon>シリーズ作であることを意識したゲーム音楽について、
  • <Horizon>シリーズの原案者でスタジオディレクター兼スタジオアートディレクターのヤン=バート・ファン・ビーク氏が2D出力の三人称視点ゲームであった他シリーズ作から、3DVRの一人称視点ゲームになった意義について、
  • ファイアースプライトのアソシエイトアートディレクターRob Sutton氏が主人公レイアスの弓について、

 ……それぞれ作品の特色を語ります。

 

 ヤン=バート・ファン・ビークPS VR2『Horizon Call of the Mountain』が発売中! 「Horizon」の世界での新たな冒険をお楽しみください。」

 SIE自営のPlayStation.Blog掲載(2023年2月24日UP)。<Horizon>シリーズ原案でアート・ディレクターのヤン=バート・ファン・ビーク氏による作品紹介。

 

 ファイアースプライトスタッフ一同Team Interview: Horizon Call of The Mountain - Firesprite」

 共同制作会社ファイアースプライト自営サイト掲載(2023年3月9日UP)のチーム・インタビュー……とあるけど、なんか寄せ書きみたいな感じです。というか、拡大公開系映画の出口感想CMみたいでさえある(なんで?)

 「シリーズ/製作に関われて光栄です!」という月並みなものがほとんどで、そうじゃないものは「プレイして感動しました!」という受け手視点の言葉(なんで?)

 

 他者の評

 PS Blogスタッフ「『Horizon Call of the Mountain』試遊レビュー&開発インタビュー! PS VR2で体感する「Horizon」の世界とは?」

 SIE自営のPlayStation.Blog掲載(2022年9月14日UP)。記事前半にメディア向け試遊会体験版レポート。月並み。

 

 (無記名記事)「【PS VR2】すべてが想像を超えている! 世界の美しさも、機械獣のデカさも、クライミングやバトルの迫力も。『Horizon Call of the Mountain』プレイリポート」

 ファミ通.com掲載(2022年09月14日21:00更新)。前半が先行プレイリポート。

 冒険の途中でおとずれる廃墟となった拠点のオブジェクトについて、取材者氏がうかべる……

あちこちにあるオブジェクトは、今回の範囲ではあまり意味のあるものはなかったが、(略)思い切り銅鑼を叩くことができたが、「ゴワーン……」と威勢のいい音が響き渡るのみで、とくに特別なことは起こらなかった。製品版では何か仕掛けが加えられるのだろうか?

 ……期待をこめた疑問は、完成版クリア後に読むとせつない。{この辺の集落に置き去りにされたアイテム群、たんなる賑やかしの技術デモっぽくてツラかったですね……(こういう切り抜きプレイ動画がツイッターで話題になったの、何年まえだっけ……と郷愁にかられました)}

 

 すんくぼんなレベルの高い戦闘シーン、VRでは初めてだ……!「Horizon Call of the Mountain」を先行体験で堪能」

 MoguLive掲載(2022年09年14日UP)。記事前半にメディア向け試遊会体験版レポート。すんくぼ氏はMogura社長で、2015年の段階で"VR酔い"と各ゲームの対策を幅広くフォローした記事を書いている有識者です。

 登攀システムについて競合VR<The Climb>シリーズ、弓矢の操作について『Apex Construct』『Indeath』を挙げた氏は……

PSVR2のSenseコントローラーに埋め込まれた振動機能により、矢を振り絞ったときの両方の手に伝わってくる触覚は非常にリアルです。

これまで体験したどの「VRの弓矢」よりも細やかで、矢を振り絞ったときの張り詰めた緊張感が伝わってくる感覚でした。

 ……『HCotM』のPSVR2のハプティック演出によるリアルな感触を評価します。

 

  Minoru Hirota「PS VR2ゲーム「Horizon Call of the Mountain」体験版レビュー VRで体験するHorizonは、正直美しく、楽しかった【動画あり】」

 PANORA掲載(2023年2月1日UP)。VR初体験者向けの紹介をかねているだろう体験版レポートで、プレイ動画もあいまって記事に記された感動がよくわかりやすい。

 記事のさいごには競合VR<The Climb>シリーズや『The Lab』を挙げて、『HCotM』のメカニクスVRゲームのなかでどのような立ち位置にあるだろう作品か、パースペクティブを提示してもいます。

 それらとの比較はなされない(つまりそれらに対する『HCotM』の独自性などは示されない)ところを読むに、「『HCotM』は(パイオニアではないにせよ)ウェルメイドな優等生的作品になりそう」という評価なんでしょうかね。

 

 渋谷宣亮「PlayStation VR2」先行体験レポート コスパよくリッチなVRデバイスと不釣り合いなVR版「Horizon」

 IGN Japan掲載(初出2023年2月16日22:13、更新17日12:56)。前半がPSVR2の紹介・使用感レビュー、後半が『HCotM』レビュー。

 時系列は前後しますが、渋谷氏は電ファミニコゲーマーでPSVR2から紐解く“VRがこの7年で変化したこと”―「VRってどこまでやっていいの?」を7年間実験した結果、“見るVRから動くVR”へ変化していた』(2023年2月27日 12:14UP)という記事にて、PSVR時代とそれ以後のゲームハードの違いとそれによるゲームソフト・ゲームプレイ体験の変化を概観されています。そちらを読むと、

「なるほどぼくが『HCotM』をプレイして面白かった部分は、現世代のVRゲームでは標準的なものだったんだ~!」

 ということがわかります。

 くだんのIGN Japan評「そういったVRゲーム史をふまえたうえで『HCotM』を見た場合、その出来は?」というお話として読めます。

 記事冒頭で評者の利益背反的事項の表明(PS VR2本体標準セットとPS VR2専用ゲーム『HCotM』はSIEの提供だよという)をしたうえで、評者が悪いと判断した点も濁さず語りきった(そしてzzz_zzzzとしても指摘された点はほぼ妥当であると思う)適切かつ興味ぶかい評。

{異論は多少ありまして、手振りジェスチャによる「前進」操作は、感想本文で言ったとおり良い方法だと思いますし。

 視線トラッキングによるカーソル選択も悪くなかったと思います。

 モーションコントローラ操作のゲームについて(『FAR POINT』を片足だけ踏み入れたあと)『HCotM』から本格的に入ったzzz_zzzzとしては、今作のつぎにやった『Song in the Smoke Rekindled』の右手や左手から光線がのびるレイキャスト式オブジェクト指定のほうにこそ、「視点はあってる(視線式であればもう"選択済"の状態になってる)のにまだ取れない」「レイがいまいち合わせづらい」わずらわしさを感じたこと、レイがシステムシステムしすぎた記号で興をそがれたことは記しておきます}

 

 ギャルソン屋城「【PS VR2】『Horizon Call of the Mountain』先行レビュー。まさにVR作品のベンチマーク! 細かい設定とVRらしいアクション要素が楽しめる」

 ファミ通.com掲載(2023年2月16日23:35UP)。ゲーム序盤の詳細な体験ルポ要素のつよい語り口のなかで、プレイヤーがいじくれる設定画面、お助けコマンドの紹介など、間口の広さにフォーカスしたVR初体験者むけの実用的なレビュー。

 

 IttousaiPlayStation VR2レビュー 『Horizon Call of The Mountain』を遊んで費用対効果を考える #PSVR2」

 テクノエッジ掲載(2023年2月17日UP)。個人サイト記事的といいますか、評者である同メディア編集長の趣味や個性がでたレビューで、作品評価をしつつ、途中で購入者向け「操作のTIPS」がはじまったりする。(TIPSはタメになりました)

 感情が盛り上がりすぎてどこまで信用していいかわからない広告的なものとも異なれば、だからといって厳格な批評的なものともことなる、ちょっと距離を置いた平熱の語り口。

 

更新履歴

(誤字脱字修正は適宜)

3/13 アップ 3万8千字くらい

3/13 18:50 改稿  『HCotM』登攀具クラフトと、ウィンパー氏の登攀具図版についての図版について、紐まきつけ中のピッケルとテントとを並べたものから、氷斧など4枚追加・加筆したものへ差し替え、本文も改めた。

3/14 追記  じぶんがPSVRに抱いた不満と、PSVR2でそこがどう改善されたかを追記し、脚注へたたんだ。

3/14 19時40分 追記  「周辺情報」項を追加した。

3/17 追記  各社各ゲームの"VR酔い"対策について、脚注にあれこれリンクをまとめた。

7/17 改稿  「感覚矛盾」について、ちゃんと説明した文章がなかったので、「目からの情報(画面上のうごき)と、内耳などからの情報(加減速や揺れなど)とが矛盾しているがために気持ち悪くなっちゃう……ってわけですね。」の一文を追加した。(同日更新の『桜井政博のゲーム作るには』「3Dゲームで酔う場合 【企画・ゲーム設計】」を見て反省し、説明をパクった)

2024,3/3 改稿  『ゼルダの伝説BotW』の項へ、任天堂採用ページに過去掲載されたSpecial Interviewの「裏山の冒険感」言及を追加引用した。

 

 

 

 

 

 

*1:この記事じたいはさまざまな情報が紹介されて興味深い記事です。感想文で話題にするトンネリングも、ぼくは17年のGoogle発信の"VR酔い"対策情報などから知りましたが、それより年単位で早く紹介してくれています。この記事のおかげでぼくはOculusベストプラクティス』(2015)などの存在を知ることができました。

*2:一部メディアでは「10~12時間」と言っているところもある。

*3:カーソルのドットは、なんか微妙に「そのものズバリ!」の位置に行ってない気がするんですけど、誤選択は15時間のうちに数度あった程度で、体感よりも遥かに精度は良い。

*4:本文で補足するとおり、腕振りにくわえて「没入感がより出そうだから」とプレイヤー側で加えた"足踏み"による頭の(実際あるいた際に生じるような)揺れ(の再現/キャラ移動中のゲーム画面への、揺れた視点の反映)も、"酔い"軽減につながったっぽい

*5:

VRコンテンツの場合、加速の視覚認識は、不快の主要な原因です。これは、⼈間の前庭器官が加速には反応するものの、⼀定している速度には反応しないために⽣じます。頭や体への実際の加速が伴わない状態で、視覚的にだけ加速を認識することは、不快の原因となる場合があります

   Oculus VR(2015)、『Oculusベストプラクティス』18「動き」より

*6:ぼくが感じた初代PSVRの問題点は大別して3つあります。

 ① 解像度の低さによる出力映像自体のチャチさ。

 ドットが見える、ドットとドットの間の黒い格子が見える(いわゆるスクリーンドア効果)レベルの解像度で、あと、(Mura Effectとさいきん界隈で話題の)メッシュ越しに見るみたいなザラザラ感もありました。

 上記したハード面での問題はゲーム中はそこまで気にならないんですが、PS4ホーム画面の文字がつぶれてしまうレベルの画面はゲームをプレイするうえでも、3DBD、3D動画を見るうえでもどうしたって気になってしまう。

 

 ② いわゆるスウィートスポットの狭さ

 ヘッドセットの調整をミスったり・調整がしっかりできてても画面の中央からはずれたりした映像が、ダブってしまうこと・ぼやけてしまうこと・色収差も生じてしまうことがどうやったって避けられないこと。

 

 ③ ヘッドセットとプレイヤーとのマッチングにかんする「正解」の不明瞭さ。

 目と目のあいだの距離などを設定するなど映像出力について微調整もできた(じっさいプレイヤーの側でも設定した)ものの、設定したところでいったいどれだけ効果があるのか(どの状態が正解なのか?)イマイチよく分からないままでした。もともとスペックが低いというのはあるけれど。

 映像がうまく見えない原因が、自分の知識が浅くてやり方が悪くてダメなのか、それともスペック的限界なのか分からないため、延々試行錯誤してしまう

*7:PSVR2は、脚注ひとつうえで上げた初代の不満は全ておおむね解消されてます。

 ①´ 「画面感」は全くないわけじゃないんだけど、許容範囲内・好みの問題レベルになりました。

{(Mura Effectとさいきん界隈で話題の)メッシュ越しに見るみたいなザラザラ感は依然としてあるし。

 「たぶんコレ、起動前にみたフレネルレンズのあの多重円のミゾ機構なんだろうな」と思うクセがほのかに見える瞬間もたまにある。

 ただしスクリーンドア効果は、それを見ようと思って注目して、ようやく黒い点々があるのがほのかにわかるくらい。格子は見えない

 

 ②´ スウィートスポットは、位置調整さえきちんとできていれば、視界のキワ付近までかなりキレイに見えるようになりました。

(周辺視野の像のダブりぼけや色収差は全くないわけじゃないし、ゴーグルの調整をミスると画面中央でも色収差が目立って感じます)

 

 ③´ ヘッドセットとプレイヤーの身体のマッチングに対して、「正解」が示されるようになりました。

 視線トラッキング機能によって、プレイヤーの目の位置がそれぞれここである・ゴーグルの位置がそこである……とそれぞれリアルタイムで図示化され、(ゴーグルの傾きや、両目の幅を調整して)目とゴーグルが良い位置関係になればシステムの側からも「その位置が正解である」とOKマークをくれる(つまり、「じぶんのやり方が合ってるのか間違ってるのか? 正解がわからずモヤモヤする」という問題はPSVR2だと生じない)

*8:ただ、VR初体験のひとがPSVR2/『HCotM』のビジュアルを観て「おおっ!」「まるで現実!」と感嘆するほどのものかは最早ぼくには分かりません。

「PSVR2でも、まだ"こんなもんか~"と思っちゃうけど"作り物としてのクオリティ"としては感心できるレベルなんじゃないか? その域は、片目4Kずつの計8K画質の達成された次世代機以降なんじゃないか?」

 とあやしんでます。

*9:(左手の親指で□ボタン、右手の親指で○ボタンを押しつつ)

*10:(あと、これはする必要なく「雰囲気でるから」と勝手にやってるだけなんですけど、その場で足踏みもしているので画面が小刻みに揺れてます)

*11:(各手のL1ボタンR1ボタンを押しつつ前述ジェスチャーをすると判定がより楽だけど、一応ボタン押さずコントローラを握る握力を変えるだけでも出来る)

*12:もっともこの姿勢を2時間ずっとやったわけじゃないから、誇大広告的な比較ではある。

*13:『HCotM』のプレイヤーキャラクターの得物は弓矢で、これは両手にそれぞれもつモーションキャプチャ付きコントローラの特徴が活きる得物。「なるほどさすがだ!」と感心しました。

 背中へ片手をかざして弓をかまえ、もう一方の手で矢を背中から取り出し弓につがえて矢を放つ……このコントローラじゃないとできないアクションです。

 この弓や矢を取り出すしぐさも、地味にPSVR2の恩恵をかんじます。

 このジェスチャー操作って、初代PSVR+モーキャプガンコンァーポイント』では手持ち武器を切り替えるためのしぐさだったんですが、うまく反応しなかったんですよ。『anan』'22 6/29号Perfumeのっち氏のレビューを読むに、おそらくswitchルダの伝説スカイウォードソードHD』でも難儀するらしい。

 ですね。ずっとゼルダのことを想って進むんで、自分も熱くなってくるんですよ。「助けなきゃ」って。で、ようやくラスボスまでたどり着き…!

アンアン ゼルダはすぐそこですね。

 でも戦いが難しくて負け続け、私の冒険はそこで終わりました。

一同 えっ…?

あ~ちゃん(以下) ゼルダは?

 助けられなかった…。私には無理だった! とくに大変だったのが天に剣を掲げるやつ。コントローラーを上に上げると剣にパワーがたまるはずなんだけどうまく反応せず。

   マガジンハウス刊{2022年6月29日号(6月22日発売)第53巻第25号)}、『anan(アンアン) 2022年 6月29日号 No..2304』kindle版90%(位置No.125中 113)、「Perfume 新それってわからん!」のっちのイチブ、「動いて遊べる『ゼルダの伝説』で体力の限界に挑戦!?

けっきょくぼくは(従来式の)△ボタン押下での武器変更にたよらざるをえませんでした。

 今作『HCotM』はむしろこの動作じゃないとダメなくらいにやりやすい

 

 ただいっぽう、弓って射るのが難しいのと射ちかたの性格的に、一人称視点3DVRゲーム初体験でさわる得物としては銃器のほうが楽しかったかもしれません。

 従来のガンシューティングゲームでは、ボタン操作とシステム側のプリセットアニメーションで"カットを割る"ように切り替えていた「腰だめ撃ち⇌ガンサイト覗き撃ち」。これを、PSVR1+モーキャプ銃コントローラによるFPSァーポイント』で、全部じぶんの身体運動でもって行なったときの、あのすべてが地続きの"ワンショット"感のほうが、たぶん感動はおおきいと思います。(他にもスコープを覗けるのは片目だけだから、狙い撃ちしたときそれぞれ全然ちがう視界になるなどなど、銃ってわかりやすく「VRならでは」の体験ができる得物でした)

 矢をつがえた場所を目線ちかくまでもっていって狙い撃つんですが、そもそも「狙っても、意図どおりに飛ばすのが難しい」得物なので、最初はただただ難しさだけが印象にのこりました。

(照準みたいに覗き込むには、弓矢の羽が邪魔になってむずかしかったりする)

*14:感想文本文で話すこととリンク先とでいちぶ話題は重複しますが、"VR酔い"の原因とその対策についてゲーム関連の取り組みだけでも……

  1. OculusVRが自前のpdfを用意して2015年に無料公開したり
  2. 同年夏の『CEDEC2015』で講演(を4Gamer.netがリポート)したり
  3. 年末にMoguraVRすんくぼ氏が上記PDFも提示したうえでご自身でも実作に活かされた例をさまざまフォロー・考察されたり
  4. 2016年『VRDC 2016』でUbi soft『イーグルフライト』の工夫を講演(したのをMoguraVRがリポート)したり翌年『GDC2017』でまた講演(したのを4Gamer.netがリポート)したり
  5. 『CEDEC2019』でSIE『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』の工夫を講演(したのをIGN JAPANがリポート)したり
  6. NPO映像産業振興機構が『VR 等のコンテンツ制作技術活用ガイドライン 2020』を出したり
  7. Oculus VRが現在も『Meta Quest』についてクリエイター向け指南ガイド(2015年版よりますます詳細になったかたちで)ネットで無料公開していたり(Meta Quest Developer Center)

 ……と、とにかくいろいろあるらしい!

(Oculusによるお話としては⑦が最新だし、図表や作例も豊富になって詳しい情報が得られるのですが……話題が多岐にわたるうえ項目だてが小分けすぎて、読みにくいし逆にわかりにくくさえある。

 ②『4Gamer.net』さんがリポートをまとめたOculusによるCEDEC2015講演や③MoguraVRすんくぼ氏によるまとめでアタリをつかみ、①2015年版『ベストプラクティス』でもう少し解像度をたかめてから、⑦現行版へ行くのが良いかも)

*15:あとサブの移動方法として両手を一緒に突き出すジェスチャをかませるで行える)緊急退避的な後ずさりがみとめられています。

*16:A Study on Immersion and VR Sickness in Walking Interaction for Immersive Virtual Reality Applications』(2017)について、もう少しくわしく。

 Lee氏らは以下の3種のデバイス・操作方法で、VR空間上の移動を試してもらい、その没入度と"酔い"を調べました。

  1. Xbox360コントローラ{Lスティックを上に倒すと前進、下に引くと後退。進行方向はHMD(頭)の向きで変えられる}
  2. Leap Motionでキャプチャした手(右手を開き「パー」にすると前進、握って「グー」にすると停止)
  3. 両足首の3軸検知ジャイロセンサ(その場で「歩く」動作をすると前へ進み、両足の向き関係で進む向きが変えられる)

 対象のVR空間はローポリの野山、トゥーンの街、写実的な野山の3種で、レンダリングの秒間フレームレートはそれぞれ83.1~101、77.3~124.4、117.1~144。秒間レンダリングポリゴン数は平均60万、43万、115万。{なんでも、「歩行操作がなくても"VR酔い"が発生する可能性がある、FPS74以下/秒間ポリゴン数200万以上のVR空間じゃないですよ」ということなんですが、この数値の根拠となる知見がなんなのか、いまいちzzz_zzzzじゃわかりませんでした……。(フレームレートがカクカクだと酔いそうだなとは思うんですけど、ポリゴン数制限は理屈がわからんから気になる)}

 これを①→②→③で検証する群と③→②→①で検証する群5人ずつの計10人に十分な間隔をはさんだうえで行なってもらうという実験です。

 没入感についてそれぞれの空間・デバイスについてそれぞれ5段階(0=まったくない~5非常にそう)評価で応えてもらったら、各群の評価が最低デバイスより③「その場で足踏み」式のほうが数点高くつき。

 "VR酔い"についてそれぞれのデバイスについて『Simulator Sickness Questionnaire(酔いの主観評価価値)』の16問・4段階(なし・軽度・中度・重度)評価で答えてもらった結果、9割のひとが③「その場で足踏み」式がもっとも酔わなかった(とくに、180秒後300秒後に再評価との比較により、時間経過による"酔い"度の増加幅がすくないという結果となりました。

 「6.Conclusions」でLee氏らはその理由について、

「足踏み操作により、現実世界で歩行したさい生じる頭の揺れも疑似的に再現され、VR環境における前進処理中の視覚情報もその揺れを反映したものとなり、"VR酔い"が軽減された」

 と考察しています。

*17:ちなみにぼくが数時間連続プレイできた数少ないVRゲーム『イーグルフライト』がトンネリングを採り入れた最初期のゲームなのだそう。そうだったの!?

*18:なおOculus VR『Meta Quest』についても同様のクリエイター向け指南ガイドを無料公開しています。(2015年版の「シミュレーター酔い」で引用した箇所にあたる部分は、「設計」内「臨場感あふれるVRアプリ」内「快適性と操作性」ら辺かなぁという感じ)

*19:ぼくが読み間違えてるかも。『前庭電気刺激が VR 酔いに与える効果の検討』に出てくるコックピットのお話は、トンネリング(あるいは「画面中央に不動の十字やカーソルを置いておき、それを見ると酔いにくいよ」的な工夫であって、ぼくが感想本文で言ったこととは全然べつの話題かも。

 2015年にすんくぼ氏が記した、VR酔いに対する各ゲームの工夫をまとめた記事における、「視界に固定物を表示」に該当するやりかたのほうかも。

www.youtube.com

*20:のちに立体出力へも対応しました。ぼくもPSVRをつないでやってみましたが、ユーザ・インターフェースは従来のままなので、周辺視野がぼやけるPSVRじゃ厳しかったし、ゲームスピード的に簡単に酔ってダメでした……。

*21:

―― 「オープンエア」は世界の空気まで感じられる世界だと思うのですが、それは地形のほかに、グラフィック全体にも関わってきます。今回の絵づくりはどう考えられていったのかも教えてください。

滝澤 何度も繰り返し遊ぶ世界になることがわかっていましたから、多少滑稽になったとしてもレスポンスの良い表現というのも探っていかないと、と思っていました。

―― 滑稽とは?

滝澤 今遊んでいただいているものでいうと、例えば木を切るアクション。木は切ったあと丸太になって、さらに切ると紐でくくられた薪になりますよね。

―― なるほど。丸太からいきなり薪になるのは現実世界ではありえないことだけど、繰り返し遊ぶためにレスポンスが良い表現方法を探った結果なんですね。

滝澤 はい。それとその世界で何が起こっているのかがわかりやすくないと、画面を見て直感的に連想する「じゃあ、こうやってみよう!」を試してみる遊び方にはつながりにくいとも思っていました。ですので、今回のアートスタイルをどこに落としこむのかというのは、この2つをうまく折衷できるように模索していくところからはじまりました。

   Nintendo DREAM WEB NOW、『発売直後の『BotW』開発者インタビュー』より、『ゼルダBotW』アートディレクター滝澤智さんの言

*22:氏の名前のカタカナ読みはPlayStation Japan『『Horizon Zero Dawn』 「新たなジャンルへの挑戦」映像』0:54~にならった。

*23:ちなみに『HZD』と登攀システムがちかい『HCotM』のレビューでも、PUSH SQUAREのSammy Barker氏による評GAMER.NOのAudun Rodem氏による評DAILY STARのTom Hutchison氏の評で話題にされています。

*24:一例をあげれば、じぶんのプレイ日記のこんな記述。

 マウンテン・ノット・シティへ行ったところ、「ママーのもとへ行け」ということになりました。

 ママーのいる地域に戻るには、来た道を引き返すより山を越えた気象観測所へ行くほうが距離的にははるかに短い。けれど、山越えルートはこれまで踏み入れたことのない積雪地域です。

 ただの山を登るのさえ靴底と体力がすり減っていくのに、雪山だなんて! いったいどれだけひどいこととなるのか?

 しかもそこはカイラル通信網圏外であり、しかもこの暗黒領域は複数の非UCLAコミュニティが区分けしているから、ひとつの地域の落とし物を拾って届けたとしてもまだ暗黒がのこるという具合。

 圏外では(安全快速のジップラインをはじめとした)カイラル建築物を立てられないから、「やっぱこちらの道はきびしいや、マウンテン・ノット・シティへ戻って既存ルートから帰ろう」と思っても簡単には引き返せません。そこもイヤなところです。

 MKCまではわりとなだらかな地面だったので、高低差のある土地を昇り降りするさい役に立つ梯子やロープパイルはそこまでの量をもってきてません。足りるかどうかも心配です。

 じゃあ既知のルートを引き返すのはどうでしょうか?

 プレイヤーに許容されたカイラル通信使用帯域はすでにギリギリで、ショートカットのジップライン網を引ききるほどの余裕はありません。あの交戦地帯を徒歩でもう一度というわけですな。武器の残弾数もそれなりにあるし、もう勘所もわかっているから帰れはするでしょうけど、面倒くさいのは面倒くさい。

 ……どちらを進むにせよ、未開地域のセンターを見つけてカイラル通信網をつなげ(そして拠点の主と仲良くな)ることでカイラル通信使用帯域を増やさないと話にならなそう。とりあえず、まだ出会ったことのない「ロボット工学者」の落とし物をひろったので、それを届けに雪山をすすむことにしました。

 管轄が密集しているということは、それらが開けさえすれば少ないジップラインで配送し放題、通信使用帯域もドカンと増やせる可能性があります。ウハウハですね。活路はここしかねえ……!

 

 行ってみたところ、これが大変でした。

 予想どおり足取りが重くなる悪路だったんですけど、雪が思いのほか興味ぶかい存在でした。

 まず予想がつきそうなところとして、なめらかな白雪の層におおわれて本当の路面の凹凸が見えないため、思わぬところで足をとられる危険があります。

 「なるほど確かに……!」と思ったところとして、雪は水分が塵などとからまり凍ったものであるというなじみ深い物理的当然と、『デススト』世界の特殊な雲が周囲をおおって「時雨」という特殊な雨を降らせている設定が組み合わさった結果、『デススト』の雪山は、雪山は雪山でも「時雨(タイム・フォール)」由来の雪山となっておりまして。

 つまり雨が降ってても降ってなくても、雪を歩いているだけで「時雨」成分によって装備や荷物が傷んでいく! 面白いしなるほどだけど、物資がカツカツの今は通りたくないよ……。

 時雨が降るということはつまり座礁体もふよふよ浮いているということですが、重い体で逃げるのは大変です。

 オドラデクのセンサーで路面状況を確認したいけれど、その音を聞いて座礁体が近づいてしまう。じゃあ使わなければ、雪の下の岩につまずいたりする可能性がある……

 ……なかなか面白い地形でした。

(つまり、センサー使って座礁体に気づかれて黒い沼を出現させ、ぴとぴと近づかれてしがみつかれて、物を落としたり拾い直したりアワアワしたということですね)

   弊blog、2022年11月13日「ゲーム日記;『十三機兵』『デス・スト』『サブノ』」(ただし文字色変えはこの記事で追加した)

 予想以上に減ったり足らなかったりする装備をしょって、既知の(しかしちょっと面倒な気がかりがある)安全な道へ引き返すか、それとも未知の(しかし短く、自分なら行けるだろうという自信がある)道をつきすすむか悩む……

 ……ぼくがゲーム世界でおかした旅の失敗は、現実の道迷い遭難者のかたがたが嵌まった罠と、メカニズム的には同じなんじゃないでしょうか。

 遭難した日本の登山者たちに羽根田治さんが取材し、インシデントを自身の口からふりかえってもらうキュメント道迷い遭難』では、そうした局面がさまざまな山と人とによって繰り返されてきたことが描かれています。

 登山届には<往路をもどる>と書いておいたが、雨のなか、まったく同じルートを引き返す気にはなれず早く下山して楽したほうがいいだろうと考えた。もし往路をもどるとすれば、途中でもう一泊しなければならず、帰宅するのは明日になる。しかし、明日は諏訪湖で花火大会があり、高速道路の渋滞に巻き込まれる可能性があった。それを避けたかったから、今日中に下山してしまおうと判断したのだった。

 また、小渋に車を置いている人とうまく同行できれば、途中まで送ってもらえるかもしれないという、虫のいい考えもあった。

   山と渓谷社刊(ヤマケイ文庫、2015年11月30日初版第一刷)、羽根田治『ドキュメント道迷い遭難』kindle版4%(位置No.2322中 70)、「南アルプス・荒川三山 一九九九年八月」より(ただし太文字強調・文字色変えは引用者による)

いちおう四日間の予備日は設けていたが、その分の食料までは計算に入れていなかったのだ。

(略)

 だから明日、もし天気が回復していれば、二五一二メートル・ピークまで登り返し、蝶ヶ岳へ向かうか常念小屋へ引き返すつもりでいたしかし、回復の見込みがなければ、谷を下りて梓川に出ようと考えていた。このまま下っていけば、必ず槍沢に出られるはずだと信じていた。

   『ドキュメント道迷い遭難』kindle版19%(位置No.2322中 413)、「北アルプス常念岳 二〇〇一年一月」より(ただし略・太文字強調・文字色変えは引用者による)

左手に「八本歯への近道」という道標が立っているのが目に入った。疲労困憊した身には、その「近道」という言葉がとても魅力的に感じられた。

「明日は池山吊尾根の分岐まで登り返すよりも、こちらの近道を行ったほうが楽なのではないか」という思いと、「いやいや、やっぱり稜線の道を分岐までもどったほうが確実だ」という思いが、胸の中で交錯した。

   『ドキュメント道迷い遭難』kindle版28%(位置No.2322中 637)、「南アルプス北岳 二〇〇一年九月」より(ただし太文字強調・文字色変えは引用者による)

 しばらくその川を下っていったが、やはりどんどん急峻になっていって進めなくなった。ならばと斜面に取り付くと、またササ藪が現れた。そのササ藪をこいでいるときに、下の建物の屋根が見えたような気がした。一日目に見た赤い屋根の建物とは違うものだったが、「あっちにも下りられるんだ」と思ってその方向へ行くと、再び沢に出て、建物はいつの間にか見えなくなっていた。

   『ドキュメント道迷い遭難』kindle版47%(位置No.2322中 1067)、「群馬・上州武尊山 二〇〇二年五月」より(ただし太文字強調・文字色変えは引用者による)

今から思えば、来たコースをもどってくればよかったんですけどね。でも、あとちょっとの登りで三壁山だったし、そこからはもう下る一方だから。行程的にも半分以上来ていましたし(略)

(略)

 三壁山のピークは、すっかり雪に覆われていた。到着は三時ごろ。雪が踏まれた跡はまったくなく、ここ数日は誰も登ってきていないようだった。

 高橋は再び迷った。あとは下るだけだったが、これほどの雪が残っているとは予想していなかった。持ってきたガイドブックの地図を見ると、野反ダムへ下りるコースは山頂から右にカーブしていくように付けられていた。結局、そのとおり行けば間もなく雪も消えて道が現れるだろうと判断した。

「それが運命の分かれ道になってしまったわけです」

(略)

高橋は革製の登山靴を、娘はトレッキングシューズを履いていたが、雪の上を歩いているうちに靴の中は徐々に濡れてきた

(略)

 ふたりが滑落した急斜面は、ピッケルとアイゼンなしではとても登り返そうになく、そのまま下り続けていくしかなかった。

   『ドキュメント道迷い遭難』kindle版55%(位置No.2322中 1256)、「北信・高沢山 二〇〇三年五月」より(太文字強調・文字色変えは引用者による)

*25:旧Oculus Quest。

*26:さすがにゲームメディアや個人ゲームサイトのレビューではもっと詳しい評があります。批評横断統計サイトMetacritic』で収集されたレビューをざっと見てみた感じ、<The Climb>シリーズとの類似性を指摘したり相違点を挙げた評は、点数が高い順に……

  • 『multiplayer.it』のPierpaolo Greco氏&Francesco Serino氏によるレビューGoogle翻訳によれば「基本的には<The Climb>シリーズと同じ登攀システムだけど、2時間程度でクリアできるあちらに対して、『HCotM』は長くて疲れるよ」という旨らしい)
  • 『GAMER.NL』掲載のHarry Hol氏によるHorizon Call of the Mountain is een solide vr-game」Google翻訳によれば「<The Climb>と同じ登攀システムだけど、スタミナに気を配る必要あるあちらに対して、こちらは体力無限で、いろいろ手に入れてく登攀具をつかって地面がはるか下の空間で大きなスイングをしたりするよ」という旨らしい)
  • 『Power Unlimited』掲載のFlorian Houtkamp氏によるレビューGoogle翻訳によれば「大部を占める登攀パートは<The Climb>シリーズに匹敵するが、ストレートな<Horizon>シリーズの体験とは違うのではないか。また色々バリエーションはあるけど、VR経験者からすると繰り返し作業と感じられる局面もある」という旨らしい)
  • 『The Games Machine』掲載のMario Baccigalupi氏によるレビューGoogle翻訳によれば「登攀パートは<The Climb>シリーズと比べて簡素化されてるよ」という旨らしい)
  • 『Digital Trends』掲載のGiovanni Colantonio氏によるレビューGoogle翻訳によれば「登攀パートは<The Climb>シリーズを踏襲しているが、物語性が登攀するモチベーションとなり、登攀具の使用が<horizon>シリーズの世界観に合ってて、換骨奪胎してるよ」という旨らしい)

 ……という感じ。

 本文で後述するとおり、最後のGiovanni Colantonio氏によるレビューがぼくとかなり近いご意見。

 あと、「10年間VRゲーやってきたがこんな独創的で素晴らしい登攀ははじめてだ!」というあんまりにもあんまりな誇大広告もあったんですけど、メモし忘れました。

*27:ただし『SitSR』の場合は、クラフトできるアイテムの種類も多いし、組み合わせるモノ自体も多い。汎用アイテムのクラフトのために、手順を簡素化している面はあるかと思われます。

*28:というかそもそもピッケル初使用時のチュートリアルで、きちんとそれについて説明してくれてます。

*29:

 11月28日。ロンドンの死んだ風景の中で、ヘイゲート・エステートのようにマーティン基準で崩壊しているところはほとんどない。サザーク、立派な石積みの回廊や共有緑地を通る歩道で興った町。建築性の石板。ほとんどがもぬけの殻だ。取り壊されていく未来にある。石綿(アスベストで作られたものではまったくなく、ずいぶん長い時をかけて建てられたものだ。

  28 November. Of London’s dead landscapes, there are few like the Heygate Estate, ruin on a Martin scale. A dizzying sprawl of concrete in Southwark, a raised town, great corridored blocks, walkways over communal gardens. Slabs of buildingness. It’s all but empty. It’s to be demolished. Even were it not stuffed with asbestos, it would take a long time.

 ローラ・オールドフィールド・フォードが道を案内する。彼女を心理地理学者と呼ばないように。多くの人がそうしたように、彼女もそれを公式に取り消している。都市空間を再定義するフランスの急進的な研究プログラムから出発して長い道のりを経てきた用語だ。都会に宿る詩神への祈願ともつれ合った、ロンドンらしい空想描写との他家受精。現在では一地方のクリシェだ。腐敗したツーリズムの尻に貼られた怠惰のラベルだ。

  Laura Oldfield Ford leads the way. Don’t call her a psychogeographer. Many do, and she abjures it. The term’s travelled a long way from its origins as a radical French research program to reconfigure urban space. It cross-fertilised with the tradition of London visionary writing, tangled up with urban invocation. Now it’s a local cliché. A lazy label for hip decay tourism.

 フォードはすましたところがなく頻繁に難破する。ネオリベラリズムへの批判とその陳腐化された空間をむき出しにするような批評でもって、彼女は自身の長年のロンドン散策をあの名高い荒れ狂ったポスト‐パンク・アートへと再設計する。「心理地理学について学びたいと思っていましたが、私がものにしたかったのはそのラディカリズムで……レイラインの類はそれほどでもありませんでした」と恐縮する。長く、長くシャッターが下ろされたままのかつて伝統的カラテ‐ドー並びにパフォーミング・アーツ協会だった店の墓を過ぎ去った。目を閉じていても彼女についていけるだろう、それだけ彼女の足音は騒がしい。

   Ford, not twee, frequents wreckage. An excoriating critic of neoliberalism and its banalisation of space, she reconfigures her long London walks into raging, celebrated post-punk art. ‘I wanted to take the term psycheography but I wanted it to be about the radicalism of it, not this kind of... leylines and all that,’ she withers. Past the graves of shops, the long, long-shuttered front of what was once Institute of Traditional Karate-Do and Performing Arts. You could follow her with your eyes closed, so loud are her steps.

  ヘイゲートが途方もない影を落とし紅葉が漂う沼を通っていく。生命の証が感じられる数少ない場所だ。窓にかかる薄いカーテンの向こうの雑多な珍品、その下にとまる車。誰かが手入れをしている小さな菜園。落書き(グラフィティ)はあるけれど、想像ほどには多くない。

  Through lagoons of drifting late autumn leaves in the shadow of the Heygate enormities. In a very few place is proof of life. A nicknack and net curtains in a window, a car below. Someone’s maintaining a small vegetable garden. There’s graffiti, but not so much as you might think.

 ベンチと遊び場の残骸との間の開けた地で、若者たちが密議(コンクラーベする。一人ぼっちになった後に誰かと出くわすのは驚くほど珍しい。自分自身の世界を持たないことは侮辱だ。しかし彼らは旅立った。でこぼこの道へ。そのまま加速し、跳ね上がり、壁に沿って、細かな煉瓦からコンクリートの露頭まで一つ一つをはずんで、低い屋根の上まで登り、塗装のはげた障害を越えたり潜るのを鳩に見られる。

  In a clearing between benches and the remains of a playground, young men conclave. It’s startling to see anyone after so long alone. It’s an affront not to have the whole world to ourselves. But then they set off. In ragged line. They accelerate, vaulting, along walls, bouncing one by one from brick detail to concrete outcrop, up onto low roofs, over and under flaking-painted barriers, watched by pigeons.

 彼らはパルクールの練習をしているのだ、これまた別のフランスからの輸入品。カンフー映画で濾した四肢の心理地理学だ。この屋根を跳ね回るみたいに特集された、数えきれないほどの広告やMVや局名アナウンスは、僕たちが見ているものをうんざりさせ、激しく揺れ動くパルクールの見ている事実へと置き換える。パルクールは建築家が決して意図しなかったやりかたで建築の内臓の美を見る。これはサルベージだ。骨の折れる荒廃したバレエだ。

  They’re training in parkour, another French import. Psychogeography of the limbs, filtered through Kung Fu movies. No number of ads, music videos, station idents featuring roof-bounding like this can make what we’re watching boring, can alter the fact that watching the parkouristes lurch in ways architects never intended along the buildings’ innards is quite beautiful. There’s salvage. A tough ruin ballet.

   rejectamentalist manifesto(2011年掲載)、チャイナ・ミエヴィル『LONDON'S OVERTHROW』14{訳は引用者による(英検3級)}