すやすや眠るみたくすらすら書けたら

だらだらなのが悲しい現実。(更新目標;毎月曜)

訳文;「"好奇心駆動型の冒険"とでも言うべき特殊なタイプの冒険に報酬を与えるゲームをつくりたい、それが『Outer Wilds』の主目的です」A・ビーチャム氏の論文より

 翻訳の秋が今年もきました。また去年みたく面白い記事をいくつか見つけて勝手に紹介したいところです!

{また翌年も、これに関連する論考を勝手に紹介しました。(訳文;「そこにはなんの報酬もありません。このゲームが何を為していてどう機能しているのか、ただただ見ていたかったのです」ジェンキンズ、カーソン、ホッキング、『Outer Wilds』へつづく2,3の論考)

 訳文2万1000字+感想1万6千字くらい。

 ※言及したトピックについてネタバレした文章がつづきます。ご注意ください※

 

 

 

訳した人・なぜ訳した?

 英検3級どまりです。アップした理由は2点、すごく面白い内容でぼくのメモ帳にとどめておくのはもったいないと思ったのと、英語ワカランぼくが原語とgoogle翻訳googleとを往復して読むのはたいへん面倒なので、再読用に日本語文章を残しておきたかったからです。(致命的な誤読・誤訳があったら指摘してもらえるかもというのもある)

 タイトルからしてもう訳がアレなように、大分アレなはずです。

(その分野の定訳があるタームも変な語を当ててしまっていると思います。たとえば「好奇心駆動」と訳した「curiosity-driven」は、電ファミニコゲーマー編集部ームの企画書 1』遠藤雅伸氏が「コンセプトドリブン」「テクノロジードリブン」*1と言っていたりするのを踏まえると、「好奇心ドリブン」あたりが適切っぽい気がします)

 Google翻訳した時点で正しそうなところも雰囲気で味つけしたし、グーグル様でもよくわからないところはおれ様がその日の気分で勘ぐることでそれっぽい感じにごまかしました。

 語り口は明瞭で、迷路みたいな文章はありません。なので高校生以上なら原文を当たってくれた方が良いと思います。

 著作権的にダメな気がしますがよく分かってません。わかるような知恵と知識の持ち主であれば英検3級で止まってません。「ダメですけど! 権利侵害なんですけど!?」と義憤したビーチャム氏ほかの関係者、法律に強いかたは仰ってください。消します。

 論文なのでもっと硬い語調な気がしますが、肩肘はらずにゆるふわに訳しました。

 もし記事のなかで、文意が不明だったりムカついたりするところがあるとすれば、それはビーチャム氏ではなく訳したぼくの問題です。

 

 

内容ざっと説明

 2019年に商業版が発表されたOuter Wilds』。そのクリエイティブ・ディレクターをつとめたアレックス・ビーチャム氏が南カリフォルニア大学院に在籍中の2013年にしたためた、卒業制作としてつくっていた同名のゲームにかんする、ファインアート(の内、インタラクティブメディア)卒業論文修士論文です(6500語くらい)

 

 アブストラクトのとおり、『Outer Wilds』がどんなコンセプトで作られたのかが、そしてその意気がかなり細かな域まで及んでいることがわかる論文です。

 また、アブストラクトからは伝わらない部分として、この論文では、そんなコンセプトがじつは想定どおりに精緻に組み立てられたものではなく、「こんなことがしたい」と紙面上で想定したものを実装してみようとしたら思い通りにいかなかった現場のギャップ、そこからコンセプトをもう一度ふりかえり、ストーリーの見直しがエンディングを真逆に舵取りし直すレベルで大きく)なされる……そんな動的きわまりない開発過程が端的に記されており。

 「自分たちが作っているものは本当はこういうものだったんだ」と作品に秘められた魅力を作り手自身が気づかされ発見していく……『Outer Wilds』の底知れない魅力をとらえようとした、ひとつの興味ぶかい"読み"のルポともなっています。

 

('23追記)ネタバレをある程度避けて論文のエッセンスを味わえる、オフィシャルな記事がオフィシャルな人々から出たよ

topics.nintendo.co.jp

 任天堂がビーチャム氏を取材し、そのインタビュー記事を2023年12月28日に掲載しました!!

 氏がお話しされたことは今回紹介する論文の抜粋・要約的な内容で、(ライセンシーとか翻訳とか)真っ当な記事にあたりたいよ」「終盤のネタバレなどを避けつつ、作品のエッセンスを知りたいよ」というかたはこちらをオススメします。

 

 

論文訳文

 パラグラフごとに訳文(黒字)と原文(小さい灰字)を併記しました。

 原文で文頭のあけられた箇所を訳文ではフォントサイズを大きくし、zzz_zzzzが読みやすいところで改行を入れています。ページをまたいださきにピリオドがある文については一文にまとめ、次ページで訳した最初の文章について、対応する原文を太字にしました。

 図は省略した。リンク先の当該ページをご参照ください。

アレックス・ビーチャム著『Outer Wilds: a game of curiosity-driven space exploration :: University of Southern California Dissertations and Theses(『Outer Wilds : 好奇心駆動型の宇宙冒険::南カリフォルニア大学学位論文・卒業論文) 

p.1
Outer Wilds
A Game of Curiosity­-Driven Space Exploration
by
Alex Beachum
______________________________________________________________
A Thesis Paper Presented to the
FACULTY OF THE USC SCHOOL OF CINEMATIC ARTS
UNIVERSITY OF SOUTHERN CALIFORNIA
In Partial Fulfillment of the
Requirements for the Degree
MASTER OF FINE ARTS
(INTERACTIVE MEDIA)
May, 2013
Copyright 2013 Alex Beachum

 


p.2

 目次

要約Abstract 3
プロジェクト概要Project Description 4
動機と目的Motivation and Objectives 5
好奇心駆動型の冒険Curiosity­-Driven Exploration 6
遠く離れた舞台の物語を伝えることTelling Stories of Distant Places 8
好奇芯の網A Web of Curiosities 9
動きつづける世界についてA World In Motion 11
4次元を冒険するExploring the 4th Dimension 13
働きをこえた知識Knowledge Over Agency 14
先行作の批評Prior Art Review 15
過程と評価Process and Evaluation 17
紹介シーンの当初の失敗A Flawed Introduction 17
ようこそ宇宙プログラムへWelcome to the Space Program 20
複雑な仕組みのモデルを構築するBuilding Models of Complex Systems 22
経時的に変化する世界の設計Designing a World That Changes Over Time 23
将来的な拡張Future Extensions 25
結論Conclusions 26
引用文献Works Cited 28

 


p.3

 要約

 Outer Wilds』は、プレイヤーの好奇心を刺激し報酬をあたえるようデザインされた宇宙探査ゲームです。

 この論文では、好奇心駆動型冒険のコンセプトを定義し、それを設計するために開発過程で試みたことを(成功も失敗も両方とも)説明します。

 さらには『Outer Wilds』ゲーム世界の太陽系のデザインも掘り下げ、そして動的な力の作用する世界を創造することがいかにして自由な形の冒険へ影響するかもまた調査します。
   Outer Wilds is a space exploration game designed to inspire and reward player curiosity. This paper defines the concept of curiosity­-driven exploration and discusses our attempts (both failed and successful) to design for it over the course of development. It also delves into the design of Outer Wilds’ simulated solar system, and investigates how creating a world governed by dynamic forces affects free­form exploration.

 


p.4

 プロジェクト概要

 Outer Wilds』は、プレイヤーが御せるものではない自然の力によって時間とともに変化する世界にまつわる、好奇心駆動型の冒険ゲームです。

   Outer Wilds is a game about curiosity­-driven exploration in a world that changes over time due to natural forces beyond the player’s control.

 のゲームでプレイヤーはシームレスな一人称の体験として、動的に進展するミニチュアサイズの太陽系を20分*2のあいだ自由に冒険します。20分が過ぎると、太陽は超新星(スーパーノヴァとなり宇宙自体が終焉をむかえます。けれど、ゲーム世界の太陽系はタイム・ループのなかでつっかえていて、超新星はプレイヤーをループの開始時点へと戻します。

 循環する時間を幾重にも冒険することのみによってプレイヤーは理解していくのです、歴史を、仕組み(systems)を、太陽系の秘密を。
   The game is a seamless first­person experience in which players have just 20 minutes to freely explore a miniature solar system as it dynamically evolves over time. After those 20 minutes are up, the sun goes supernova and the the Universe itself comes to an end. However, the solar system is stuck in a time loop where each supernova sends the player back in time to the beginning of the loop. Only by exploring over the course of multiple time loops can players come to understand the history, systems, and secrets of the solar system.

 

図1:『OW』の太陽系

Figure 1: The solar system

 

 Outer Wilds』の美学として意図しているのは、旅行(バックパッキング)ないし登山探検にNASAの詩情を染みこませた感覚を呼び起こすことです。

 装備はわずかに使い古した探検家道具のようで、惑星は現実世界の地理的特徴と気候帯を微妙に取り入れた異星。

 大胆かつはかない宇宙旅行の性質を、冷めたくて不毛で非人間的なものと感じさせないかたちでとらえてもらうよう狙いました。

   The aesthetics of Outer Wilds are meant to evoke the feel of a backpacking or mountaineering expedition infused with NASA sensibilities. Equipment is made to look like slightly worn expedition gear, and the planets themselves are subtly alien takes on real­world geographical features and climate zones. The goal is to capture the daring and fragile nature of space travel without making it feel cold, sterile, or impersonal.

 頭のイントロダクション・シーンは例外として、『Outer Wilds』のほぼすべての物語(ナラティブ)は、プレイヤーが冒険しながら発見できるように世界のなかへ埋め込まれています。

 物語の各ピースは、ゲーム世界の太陽系の歴史を包括するにふさわしい古代人(訳注;ゲーム本編におけるNomai)の物語をつたえます。アメリカ南西部の先住民アナサジ族に着想をうけたこの古の種族は、ゲーム世界の宇宙よりも古くから存在するとあるオブジェクトをさがしてこの太陽系を何百万年もまえに旅しました。
   With the exception of the introductory sequence, nearly all narrative in Outer Wilds is embedded within the world for players to discover as they explore. Each piece of narrative fits into an overarching history of the solar system, which tells the story of an ancient race (inspired by Anasazi culture from the American southwest) that traveled there millions of years ago in search of an object older than the Universe itself. 

 

 

p.5

 細切れのこの物語をつなぎ合わせるには、太陽系の支配されている仕組みをプレイヤーが理解するだけでなく、時間とともに変化するそこで切り抜けていくすべを学ぶ必要があります。

into an overarching history of the solar system, which tells the story of an ancient race (inspired by Anasazi culture from the American southwest) that traveled there millions of years ago in search of an object older than the Universe itself. Piecing this narrative together requires players to both understand the systems that govern the solar system as well as learn to navigate within them as they evolve over time.

 

 動機と目的

 実世界の宇宙探査には、政治的・科学的・経済的に多くの利益があります。

「人類の宇宙探査に関係する挑戦にとりくむことでわれわれは、テクノロジーを拡大させ、新たな産業を創出し、他国との平和的連帯をはぐくむ手助けをします」※1

 たとえそうだとしても、わたしたちが宇宙を冒険するもっとも根本的な理由とは関係ない、実用的な正当化だとわたしには思えます。

 遠い星々を探検してみたい好奇心、未知のなかへ探求してみたい勇気、そして絶えず展開する宇宙の本性を理解したい欲望……これらはエモーショナルな、そしてスプレッドシート上でさっと説明することなんてできないたぐいの価値観を駆り立てられる(value-driven)動機です。※2

  There are many political, scientific, and economic benefits to real­world space exploration. “Through addressing the challenges related to human space exploration we expand technology, create new industries, and help to foster a peaceful connection with other nations.”※1 Even so, I think the most fundamental reasons we explore the cosmos have little to do with these practical justifications. The curiosity to explore distant planets, the courage to delve into the unknown, and the desire to understand the nature of our constantly-­evolving Universe are emotional and value-­driven motivations that cannot be easily explained on a spreadsheet.※2

 実世界の宇宙探査スピリットをとらえるインタラクティブな体験、これが『Outer Wilds』の一番の目的です。

 PCゲームの古典『Elite』『FreeSpace2』など宇宙飛行をフィーチャーした多くのゲームとは異なり、『Outer Wilds』は軍事行動や貿易要素をとりあげません。だからといって『Lunar Flight』『Kerbal Space Program』のようなスペース・フライト・シミュレータ要素を主とした作品というわけでもありません。

 『Outer Wilds』は、宇宙の謎へ答えるために未知を探検するゲームなのです。

 好奇心から動機づけられた冒険を支持することによって、そしてプレイヤーのコントロールの及ばない宇宙の力のせいで時間が経つにつれ変化する気まぐれな太陽系を叙述することによって、このテーマを伝えようと挑戦します。

   The primary objective of Outer Wilds is to capture this spirit of real­world space exploration in an interactive experience. Unlike many games that feature spaceflight, such as PC classics Elite and FreeSpace 2, Outer Wilds does not feature any combat or trading elements.Nor is it primarily a space flight simulator, such as Lunar Flight or Kerble Space Program.Instead, Outer Wilds is a game about exploring the unknown in order to answer questions about the Universe. It attempts to convey these themes by supporting curiosity-motivated exploration and by depicting a volatile solar system that changes over time due to cosmic forces beyond the player’s control.

 

※1 NASA, “Why We Explore”, 2013
※2 Griffin, “The Real Reasons We Explore Space”, 2007

 


p.6

 好奇心駆動型の冒険

 類は信じられないほど幅広い理由から冒険(explore)します。大航海時代では、シルクやスパイスの貿易のための新航路を発見すべく、帝国を拡大すべく、金やそのほか富をもたらす素材をさがすべく、そして世界にかんする西洋人の知識を広げるべく、さまざまな探検旅行が着手されました。

 NASAのウェブサイトは現在『なぜわれわれは探査(Explore)するのか』※3と題されたページを掲載しており、そこで、

「人類は未知への冒険を、新世界の発見を、科学的境界や技術的限界をより遠くへと押し上げることに駆り立てられてきた」※4

 と主張しています。

 2007年のGDCにおいてファークライ2のクリエイティブ・ディレクターであるクリント・ホッキングは、ゲームのなかでおこなわれる冒険について語る席でこんなことを述べました*3

「冒険家はみな別々の理由で探検しているように見える*4。彼らを駆り立てるものはそれぞれ異なるんだ。ある者は金が動機で、ある者は愛国心ナショナリズム、ある者はもっとピュアな欲望だ――だれも行ったことがないところへ行ってみたいという」※5
   Humans explore for an incredibly wide variety of reasons. During the Age of Discovery, expeditions were undertaken to discover new routes for the silk and spice trades, to expand empires, to find gold and other sources of wealth, and to expand European knowledge of the world. NASA’s website currently has an entire page titled “Why We Explore”, ※3 which maintains that “Humans are driven to explore the unknown, discover new worlds, push the boundaries of our scientific and technical limits, and then push further.”※4 During his 2007 GDC talk on exploration in games, Far Cry 2 creative director Clint Hocking observed that “Explorers all seemed to explore for different reasons. They all have different drives. Some of them were motivated by money, some by patriotism or nationalism, some of them by more of a pure desire to go where people hadn’t been.”※5

 ーチャルな環境におけるプレイヤーの冒険のモチベーションは、ゲームの構造(いったいどれくらいプレイヤーに自由が許されているでしょう?)と個人のプレイスタイル(プレイヤーは自然と探検する傾向にありますか?)との両方に応じて変化します。

 物語(ナラティブ)を進める新たなクエストを見つけたくて『スカイリム』オープンワールドを冒険するプレイヤーもいれば、錬金素材やより良い装備品をさがしたくてそうするひともいるし、はたまた作品世界がウリにする名所をただ見たくってそうするひとだっています。※6
   In virtual environments, player motivations to explore are similarly varied, depending on both the structure of the game (how much freedom does it allow the player?) as well as individual play style (is the player naturally inclined to explore?). Some players explore the open­ended world of Skyrim in order to find new quests that will advance the narrative, some explore to find alchemical ingredients or better equipment, and still others explore just to see what sights the world has to offer.※6

 『Outer Wilds』の主要な目的は、特殊なタイプの冒険に報酬を与えるゲームをつくることです。「好奇心駆動型の冒険」とわたしは名づけたい。

   One of the major objectives of Outer Wilds is to create a game that rewards a specific type of exploration, which I’ll refer to as “curiosity­-driven exploration”.

 

※3 Briney, “Age of Exploration”, 2008
※4 NASA, “Why We Explore”, 2013
※5 Ruberg, “Clint Hocking Speaks Out On The Virtues Of Exploration”, 2007
※6 Ruberg, “Clint Hocking Speaks Out On The Virtues Of Exploration”, 2007

 


p.7

  1. 好奇心(Curiosity)とは、知識を必要とする、渇望する、願い求めることと定義とします」
  2. 冒険(Exploration)とは、環境にかんする情報収集に関連するすべての活動を意味します」※7

1. “Curiosity is defined as a need, thirst or desire for knowledge”.
2. “Exploration refers to all activities concerned with gathering information about the environment.”※7

 れらの定義をもちいれば、好奇心駆動型の冒険(curiosity­-driven exploration)とは、あるひとが自身の知識や理解を拡充させることを主目的として(現実であれバーチャルであれ)じしんの環境を探索することを選択したシチュエーションと説明できます。

 たしかに冒険を複合的な要因から動機づけることは可能ですけど、真に「好奇心駆動型」であるためには、知識の拡張がもっとも大きな(あるいは唯一の)動機づけ因子でなければならないと仮定してみましょう。

   Using these definitions, curiosity­-driven exploration can be described as any situation in which someone chooses to explore her environment (real or virtual) with the primary objective of expanding her knowledge or understanding of it. Although it’s certainly possible for exploration to be motivated by multiple factors, let’s assume that in order to be truly “curiosity­-driven”, the expansion of knowledge must be the biggest (or the only) motivating factor.

好奇心駆動型の冒険の例:

  • 頂上からの眺望のために山を登る。
  • 太古の人工遺物や旧跡を掘り起こして、文明の生活を理解する。
  • 巨大な加速器で粒子を粉砕して、宇宙がどのように構成されているかを計数する。
  • 海の最深部へ潜り、そこになにがあるのかを発見する。

Examples of Curiosity-­Driven Exploration:
● Climbing a mountain to see the view from the top.
● Digging up ancient artifacts and ruins to understand how a culture lived.
● Smashing particles together in a giant accelerator to figure out how the Universe is put together.
● Diving into the deepest part of the ocean to discover what is there.

 述例の共通点は、そのどれもが疑問から出発し(e.g.「海底にはなにがありますか?」)、そしてその問いの答えを見つけ出すことが冒険のゴールとなっている点にあります。

 はるか遠くにある奇妙なかたちのオブジェクトへ向かって旅する……そんなシンプルな選択でさえ、「間近で見るとどんな感じですか?」(そして多分「それは何ですか?」)という問いを内包しており、そしてオブジェクトのほうへ移動することはその問いに答えようとする試みなのです。

   The common element between these examples of curiosity­-driven exploration is that each one starts with a question (e.g. “What’s on the ocean floor?”), and the goal of exploration is to find an answer to that question. Even something as simple as choosing to travel towards a strangely­ shaped object in the distance implies the question of “What is it like up close?” (and possibly “What is it?”), and moving towards the object becomes an attempt to answer that question.

 

※7 Edelman, “Curiosity and Exploration”, 1997

 


p.8

 遠く離れた舞台の物語を伝えること

 の種の好奇心駆動型冒険を遊んでもらいやすくするためには、プレイヤーの関心を惹きつけるものを提供する必要があります。

 興味ぶかいオブジェクトをはるか遠くに配置するのはたしかに良い出発点ですが(『Outer Wilds』ふくめた数多のゲームがとる常套手段です)、直接的な観察にたよらずともプレイヤーの関心をそそる方法はほかにもあります。

 とりわけゼルダの伝説 風のタクトは莫大なインスピレーションの源で、遠い舞台の物語をつたえることによってプレイヤーの好奇心を盛り上げてくれます。

   In order for a game to allow this sort of curiosity­-driven exploration, it has to give players something to be curious about. While placing interesting objects in the distance is certainly a good starting point (and one that many games, including Outer Wilds, use frequently), there are other ways to pique the player’s interest besides direct observation. In particular, The Legend of Zelda: The Windwaker has been a huge source of inspiration for the way it encourages curiosity by telling the player stories of distant places.

 のタクト』は大海原を舞台にした作品で、49の小島が点在する広大な海をプレイヤーは帆船で自由に旅できます。

 ある島ではゲンゾーという年配の船乗りが生活しており、かれは写真撮影(ゲームでは「写し絵」と呼ばれる)を愛好しています。ゲンゾーの家は、かれが旅行して出会ったものや場所をおさめ額装した写し絵のギャラリーとなっています。

 もしプレイヤーが写し絵のどれかに触れたなら、ゲンゾーはその写し絵の被写体をいかにして見つけたのか詳細なストーリーを語ってくれ、そしてその所在についても口数少なめながら教えてくれます。(e.g.「ここから真南にそいつはある」)

   The Windwaker takes place on the Great Sea, a vast ocean dotted with 49 small islands which the player can freely travel between in her sailboat. On one of the islands lives an old sailor, Lenzo, who loves taking photos (referred to as “pictographs” in the game). Inside his house is a gallery full of framed pictographs of the places and things he has seen during his travels. If you interact with one of the pictographs, Lenzo will tell you a brief story of how he came across the subject of that image, and even gives you directions to a few of them (e.g. “it lies due south of here”).

 

図2:ゲンゾーのギャラリー(『ゼルダの伝説風のタクト』より)
Figure 2: Lenzo’s Gallery (The Windwaker)

(訳注;2枚のスクリーンショットが横並びにされており、マスコットキャラクターのような岩を写した左の図では「悪くない写し絵だろ?Not a bad pictograph, hm?」と。プレイヤーキャラクター"リンク"とゲンゾーが顔を向けあい会話している右の図では、「なんともふしぎな彫像じゃないかい? この像は三角島にあったよ。ここから真南にそいつはある。 Is that not a rather mysterious statue? the statue's home is on one of the Triangle islands. It lies due south of here.」とゲンゾーがしゃべっている)

 

 判的に見れば、ゲンゾーはじしんの写し絵について叙述するさい、プレイヤーになによりもまず探し当てるべきだなどとはけっしてほのめかしません。彫像はゲームを完結させるために必須であるメインクエストの一部だけれど、ゲンゾーに話しかけたところで、そんな大事な意図があるなんてけっして明かしてはくれないのです。

 実際問題メインクエストでの役割について知らないなかで、そしてそのほか追うべき達成可能な目標があるなかで、プレイヤーがゲンゾーの指示に従って三角島へ航海する唯一の明白な理由は、あの神秘的な彫像についてより詳しくまなびたいという一点のみです。

   Critically, Lenzo never implies that you should seek out any of the things depicted in his pictographs. Although the statue in the above image is actually part of the main quest required to complete the game, talking to Lenzo does not reveal this larger purpose. In fact, without knowing about its role in the main quest, and with so many other possible goals to pursue, the only apparent reason to follow Lenzo’s directions and sail to the Triangle Islands is to learn more about the mysterious statue. 

 


p.9

 ゲンゾーのとあるコメントは、こうした奇妙を好ましがる感覚がプレイヤーのなかに呼び起こされるようはっきり意図しているのではないでしょうか。

「いまなおそんなものが残っているなんて不思議だよな。外洋の、それも波の上で孤独にさ?」※8

about its role in the main quest, and with so many other possible goals to pursue, the only apparent reason to follow Lenzo’s directions and sail to the Triangle Islands is to learn more about the mysterious statue. One of Lenzo’s comments seems specifically meant to evoke this sense of curiosity ­“I wonder if such things still remain out there on the high seas, lonely on the waves?”※8

 

 好奇芯の網

 ろいろな意味で、『Outer Wilds』の構造物全般は上述ゲンゾーの写真ギャラリーの進化型として理解できます。

 プレイヤーが太陽系で発見する主要なオブジェクト、構造物、あるいはロケーションのどれもは、これらのおびただしい「関心のポイント群("Points­-of-­Interest")」(以下POIs)を「好奇芯("Curiosities")*5として知られる4つの特別なオブジェクトへ結びつける網の一部です。

 ゲンゾーのギャラリーに配された写し絵みたく、POIsはプレイヤーたちへこの世界にある面白い存在(好奇芯)について知らせ、さらには、(プレイヤーにあからさまな指図をすることなしに)調査するのに充分な情報を提供します。
   In many ways, the overarching structure of Outer Wilds can be understood as an evolution of Lenzo’s picture gallery. Every major object, structure, or location players discover in the solar system is part of a web linking these numerous “Points­-of-­Interest”(or POIs) with four special objects known as “Curiosities”. Like the pictographs in Lenzo’s gallery, POIs tell players about the existence of interesting things in the world (the Curiosities) and provide them with enough information to investigate on their own (without explicitly telling players to do so).

 

図3:埋め込まれた好奇芯の網
Figure 3: Embedded Curiosity Web

 

 4つだけある「好奇芯(Curiosity)」はそれぞれ一つずつ、ゲーム世界の太陽系の歴史にまつわる物語のおおきな疑問にたいする答えをいだいています。たとえば、巨大ガス惑星{訳者注;商業版の「巨人の大海(Giant's Deep)」}の中心に存在する好奇芯へ至ったなら、タイムループを引き起こしたデバイスは本来どうして建設されたのか答えてくれます。

   There are only four Curiosities, and each one holds the answer to a major narrative question regarding the history of the solar system. For example, reaching the Curiosity at the center of the gas giant answers the question of why the device causing the time loop was originally constructed. 

 

※8 Nintendo, 2002

 


p.10

 それぞれの好奇芯は秘匿されているか到達困難なロケーションに存在しており、そして実際そこへ辿りつくにはそれを取り巻く動的な仕組みについての理解が要請されます。さぁPOIsの出番がきました。好奇芯はおのおの「関心のポイント群」3点と結びつけられており、この3つのPOIsはどれも異なる惑星に配置されています。

 POIsが果たす基本的な機能は以下の3つです:

  1. じしんと結びついたとある好奇芯の存在についてプレイヤーへ伝える。
  2. 好奇芯をかこむ仕組みを理解するのに必要となる情報3ピースの内ひとかけらをプレイヤーへ配布する。
  3. 好奇芯とリンクするほかのPOIsの所在について、プレイヤーが望遠鏡でたしかめられるようオーディオ周波数を与える。

center of the gas giant answers the question of why the device causing the time loop was originally constructed. Each Curiosity exists in either a hidden or hard-­to-­reach location, and actually getting to one requires an understanding of the dynamic system surrounding it. This is where the POIs come in. Each Curiosity is linked to three Points­of­Interests, each of which is located on a different planet. POIs perform three basic functions:

1. They tell players about the existence of the Curiosity they are linked to.
2. They give players one out of three pieces of information they will need to understand the system surrounding that Curiosity.
3. They give players an audio frequency that allows them to locate the other POIs linked to that Curiosity through their telescope.

 としてひとつ挙げると、ある好奇芯はタイムループの動力である古代のデバイスです。惑星表面の下へ埋められたそれに到達する唯一の道は、星ぼしの表面に配備された古代のテレポーターの整列を左右するのが、星ぼしが一直線にならんでいるかどうかであるという仕組みを理解することです。ほかの星々のPOIsからこの仕組みを学んだプレイヤーは、タイムループ・デバイスの内部へテレポートできるようになり、そこで世界の目的と起源を学ぶのです。

   For example, one of the Curiosities is the ancient device that powers the time loop itself. It lies buried beneath the surface of a planet, and the only way to reach it is to understand the system of planetary alignments that governs an array of ancient teleporters on the planet’s surface. After learning about this system from POIs found on other planets, players are able to teleport inside the time loop device, where they learn about its origin and purpose in the world.

 POI‐好奇芯の網の背後には、プレイヤーが最初にどこを冒険しようとも、(プレイヤーキャラクターである女性冒険家は)*6好奇芯4つのなかでとりわけ(彼女の)興味をそそられるものにまつわるPOIと遭遇するだろう……というアイデアがあります。

 ヘンリー・ジェンキンズは物語による建築にまつわるエッセイ*7のなかで、探偵物語は埋め込み型物語の普遍的な形式だと主張します。なぜならそれらは「プレイヤーに手がかりの調査や空間の探査(exploration of spaces)を積極的におこなう動機づけをし、過去に起きた物語を再構築しようとがんばるわれわれに理論的根拠をもたらしてくれる」※9 のだと。

 『Outer Wilds』にはプレイヤーの探索を駆り立てる陰謀も殺人もないとはいえ、POIsは空間的に‐埋め込まれた手掛かりに類しますし。POIsは、プレイヤーを太陽系の神秘を解読できるようにするわけですから。

   The idea behind this POI­-Curiosity web is that no matter where the player chooses to explore first, she will stumble across a POI that attempts to pique her interest about one of the four Curiosities. In Henry Jenkins’ essay on narrative architecture, he argues that detective stories are a common form of embedded narrative because they “motivate the player's active examination of clues and exploration of spaces and provide a rationale for our efforts to reconstruct the narrative of past events.”※9 Although Outer Wilds has no murders or conspiracies to drive player exploration, POIs are analogous to spatially-­embedded clues that enable players to decipher the mysteries of the solar system.

 

※9 Jenkins, “Game Design As Narrative Architecture”, 2004

 

 

p.11

 の組み立ての決定的な面は、POIsも好奇芯もどちらも完璧に知識ベースのコンセプトであることです。POIsは好奇芯を物理的に解錠などしません。その代わり、好奇芯へ到達することに通じる、れっきとして存在する仕組みにかんしてのより深い理解をプレイヤーにただ教えます。(つまり、ほぼありえないでしょうけど、全部どころかひとつもPOIsを見つけないままプレイヤーが好奇芯へ辿りつくことだって、技術的には可能なんです)

 好奇芯が物語上の主要な疑問へ答えるだけの(そしてそれ以外になにか有形の報酬を差し出したりしない)ただそれだけの存在であるという事実は、プレイヤーに特定の体験をしてもらうよう意図してつくりだしたものです。宇宙について、宇宙がどのようなはたらきをしているかについてもっと学びたい……そんな目的にもっとも強く支えられながら冒険してもらうよう狙っています。

 これはまた、「宇宙にくらすわれわれの立ち位置について、われわれの太陽系の歴史についてといった根本的な疑問にとりくむ」※10という、現実世界の宇宙探査が目標とするものの反映でもあります。
to drive player exploration, POIs are analogous to spatially­embedded clues that enable players to decipher the mysteries of the solar system.
   A crucial aspect of this setup is that both POIs and Curiosities are completely knowledge‐­based concepts. Instead of physically unlocking Curiosities, POIs simply teach players how to reach them through a deeper understanding of existing systems (which means that it is technically possible, although highly unlikely, for players to reach a Curiosity without finding all or any of its POIs). The fact that the Curiosities themselves exist solely to answer major narrative questions (and offer no other tangible rewards) is intended to craft an experience in which the most strongly-­supported purpose for exploration is to learn more about the Universe and how it works. This also mirrors the goal of real­world space exploration to “address fundamental questions about our place in the Universe and the history of our solar system.”※10

 

 動きつづける世界について

 間にもとづいた表現形式(メディウムであるにもかかわらず、時間経過によって不可逆的に変化していく世界をフィーチャーしたゲームは比較的すくないです。特に、多くのオープンワールド・ゲームは、望むかぎり長時間ずっと自由に冒険できることがこのジャンルの魅力の大部分です。

 オープンワールド・ゲーム『スカイリム』では、大地がドラゴンから襲撃に遭っているさなかでさえ、たとえプレイヤーが世界を救うことよりも山を登攀したり錬金術の薬を集めたりすることを優先したところで何も悪いことは起こりません。

 プレイヤーの入力をはっきり待ってくれるようゲーム世界をデザインすると、数ある不快だったり管理困難だったりするシチュエーションを回避できますし(e.g.もし時間内にプレイヤーが世界を救うことに失敗したら、ゲームが単純にエンディングを迎えないとか)、結果、プレイヤーを中心として回るなかなか(fairly)安定した世界となる傾向にあります。

   Despite being a time­-based medium, relatively few games feature worlds that are irreversibly changed by the passage of time. This is especially true of many open­world games, where being allowed to freely explore for as long as desired is a large part of their appeal. Even though the open­world game Skyrim takes place in a land under attack by dragons, nothing bad happens if players choose to put saving the world on hold to climb a mountain or collect potion ingredients. While designing a world that clearly waits on player input sidesteps many undesirable and difficult­-to-­manage situations (e.g., the game does not simply end if players fail to save the world in time), it tends to result in a fairly stable world that necessarily revolves around the player.

 ちろん、私たちの生きる宇宙は、はっきりくっきり私たちを中心に回ってなんていません。

 現実世界の宇宙探査は、私たちの地球がこの宇宙という舞台においてどれだけ矮小で無意味であるかを絶えずわたしたちの肝に銘じてくれる、信じられないくらい謙虚な仕事となる傾向にあります。

   Of course, we live in a Universe that very clearly does not revolve around us. Real­world space exploration tends to be an incredibly humbling affair that constantly reminds us how small and insignificant our planet truly is on the cosmic stage. 

 

※10 NASA, “Why We Explore”, 2013

 


p.12 

 わたしたちの太陽系がそうなように『Outer Wilds』の太陽系も、プレイヤーのことなど気にもしなければ知りもしない力によって決定づけられ刻一刻と変貌していきます。

 このアプローチの目標は、プレイヤーに(私たちとこの宇宙との関係性とおなじく)自分では結局コントロールなどできないということを分かってもらえる世界を作ることです。
space exploration tends to be an incredibly humbling affair that constantly reminds us how small and insignificant our planet truly is on the cosmic stage. Like our own solar system, the solar system in Outer Wilds is governed and changed over time by forces that do not know or care about the player. The goal of this approach is to create a world that players can come to understand but are ultimately unable to control (much like our own relationship with the Universe).

 れを達成するために『Outer Wilds』で私たちは、ゲームのなかの太陽系全体をリアルタイム物理シミュレーションの一部として組みこみました。

 個々の星を分離した「レベル」*8としてデザインするのではなく、それよりむしろ、すべての星が太陽を中心として、シミュレートされたニュートン力学式重力にもとづく周回軌道を同時にたもっているようにする。くわえて、多くの星ぼしが大規模かつ局所的なプロセスの結果として時間経過とともに物理的に変化していく。この過程は公平に(fairly)ランダムに。

 "脆い空洞"として知られる惑星は、火山性の月から噴出する溶岩がもたらす予報できない衝撃によって、徐々に壊れ分離していきます。

 ほかの過程はもっと決定論的です。砂時計の双子星として知られるペアは、ある星からもう一方の星へ砂が流入し、ある星では洞窟を埋められていきもう一方の星では次第に古代の遺跡があらわになっていきます。

   To achieve this in Outer Wilds, we made the entire solar system part of a real­time physics simulation. Rather than design each planet as a discrete “level”, every planet is simultaneously kept in orbit around the Sun via simulated Newtonian gravity. In addition, most planets physically change over time due to local large­-scale processes. Some of these processes are fairly random. The planet known as “Brittle Hollow” is gradually broken apart by unpredictable impacts from molten rocks that erupt from its volcanic moon. Other processes are more deterministic. On the pair of planets known as the Hourglass Twins, sand flows from one planet to the other, burying a cave system on one planet as it reveals ancient ruins on the other.

 

図4:砂時計の双子星のタイムラプス
Figure 4: Time­lapse of the Hourglass Twins

 

 これらの仕組みの累積する影響が、時を経るにつれ劇的に変化していく不安定な世界です。

   The cumulative effect of these systems is a volatile world that dramatically changes over time.

 


p.13

 不運なことに、多くの仕組みは不可逆か不安定かその両方で、シミュレーションは混沌かある種の平衡に達するまえにのみ実行できます。この問題を回避するために、シミュレーションは20分間だけ走らせ、その後太陽は超新星(スーパーノヴァと化し この太陽系をリセットします。これは物語のなかにおいては、プレイヤーキャラクターがとらわれた物語世界のタイムループとして説明しています。
time. Unfortunately, since many of these systems are either irreversible or unstable (or both), the simulation can only run for so long before it either devolves into chaos or reaches some sort of equilibrium. To circumvent this issue, the simulation only runs for twenty minutes, after which the Sun goes supernova and the entire solar system resets. This is explained within the narrative as a diegetic time loop in which the player’s character is trapped.

 

 

 4次元を冒険する

 20分を経る過程で星ぼしが不可逆的に変化するという事実は、一度の通しプレイでは太陽系全体を冒険することが実際問題不可能だということを意味します。

 つよく経時的な先行作ゼルダの伝説 ムジュラの仮面『侍』(スパイク・チュンソフト)と同様に、『Outer Wilds』は周回プレイで構成された長い形式の体験をしてもらうよう意図しています。

 これは冒険に事実上もう一次元くわえる組み立てでしょう。プレイヤーが大事にする「どこへ」冒険するかと同じくらい、「いつ」冒険するかを重視させるのです。

 「脆い空洞」は、最終的に、20分間におよぶ流星による爆撃を受けて外殻がこなごなになり、タイムループの開始時点とはかけ離れた舞台となります。

 「砂時計の双子星」もまた好例です。

 プレイヤーがもしタイムループの前半に訪れたなら、砂に埋まるまえの地下洞穴ネットワークを冒険できます。もしタイムループの後半に訪れたなら、もう一方の双子星にて砂が吸い出されていくにつれあらわになった塔の廃墟群を調査できるでしょう。

   The fact that each planet irreversibly changes over the course of twenty minutes means that it is practically impossible to explore the entire solar system during a single playthrough. Similar to other heavily time­-dependant games like Majora’s Mask and Way of the Samurai, Outer Wilds is intended to be a long-­form experience comprised of multiple playthroughs. This setup effectively adds an extra dimension to exploration by making “when” players explore just as important as “where”. After all, Brittle Hollow as it exists at the start of the time loop is a very different place from the shattered husk it becomes after twenty minutes of meteoric bombardment. The Hourglass Twins are also a good example. If players arrive during the first half of the time loop, they can explore the underground cave network of the first twin before they fill with sand. If players choose to explore the Hourglass Twins later in the time loop, they can investigate the ruined towers on the other twin which are gradually revealed by the draining sand.

 


p.14


図5:露わになりゆく「砂時計の双子星」の塔
Figure 5: A tower being revealed on the Hourglass Twins

 

 これらの大規模な変化は手続き型の効力(procedural forceの結果として絶え間なく発生するため、通しプレイのそれぞれに、動的な物理シミュレーションから導出される一定の予測不可能性を(そしてたまにセレンディピティを)与えます。わたしたちはそれを、嵐のなかで冒険を挑むようなものと考えたい。

 ここまでのテストプレイだと、熟練プレイヤーはゲーム世界のさらに手続き型な面にもてきぱき反応していきました。幾人かのプレイヤーは、「砂時計の双子星」の巨大な砂の漏斗(ジョウゴ)によって地表に泊めた宇宙船が吸い上げられていくさまを目の当たりにして、驚いたりショックを受けたりしました。べつのプレイヤーはブラックホールに誤り落ちるも、しかしジェットパックをあつかい、たまたま通りがかった彗星へと酸素を使い切るまえに辿り着きました。はたまた、巨大ガス惑星でトルネードに島全体が持ち上げられたのを目撃し興奮したプレイヤーもいました。

 ほとんどの好奇芯とPOIsは未実装であるにもかかわらず、プレイヤーがゲーム世界の太陽系それ自体を冒険心くすぐる魅力的な空間だと感じてくれているのは、これらの動的な仕組みの存在が大いに役立ってくれているようです。

   Since these large­-scale changes occur continuously as the result of procedural forces, they give each playthrough a certain unpredictability (and occasional serendipity) that comes from navigating a dynamic physics simulation. We like to think of it as trying to explore inside a storm. During our playtests so far, some of the strongest player responses were prompted by the more procedural aspects of the world. Several players responded in shock and surprise as they watched the giant sand funnel on the Hourglass Twins suck their ship off of the surface. Another player accidentally fell through a black hole, but managed to use his jetpack to reach a comet that just happened to be passing by before his oxygen ran out. Still another player was excited to witness a tornado in the gas giant lift an entire island into the atmosphere. Even though most of the Curiosities and POIs have yet to be implemented, the existence of these dynamic systems seem to go a long way towards making the solar system a space that is engaging to explore in and of itself.

 

 働きをこえた知識

 プレイヤーは彼らの望むままにどこでも(いつでも)自由に冒険できますが、太陽系を動かす力に影響をあたえるはたらき(Agency)はほとんどありません。プレイヤーにできることはただ、それぞれの力がどんなものかや仕組みがどう動いているかについて理解したり、それらの扱いについて学んだりするだけです。

Although players are free to explore wherever (or whenever) they wish, they have very little agency to affect the forces that drive the solar system. All they can do is understand how each force or system works and learn to deal with it.

 


p.15

 これはPOI/好奇芯システムと相似形で、こちらもまた完全に知識ベースです。(訳者による補足;プレイヤーキャラクター/世界、POI/好奇芯の関係という2組の)どちらもが一緒になって、実体的な報酬とは正反対の、理解や知識のための冒険に報酬をあたえる世界をつくりだしているのです。
each force or system works and learn to deal with it. This parallels the POI/Curiosity system, which is also completely knowledge­-based. Together, they create a world that rewards exploration for the sake of knowledge and understanding as opposed to more tangible rewards.

 識がプレイヤーのはたらきかけより上にある(knowledge-over-agency)というこのコンセプトは、「砂時計の双子星」間をながれる砂のふるまいに代表されるとおり、いくつかのデザインを決定する原動力になっています。はたしてプレイヤーがこの砂の推移の引き金となれるようにするか? それとも(プレイヤーのコントロールが及ばない)時間経過による自動的に起こる現象とするか? わたしたちが初期に直面した問題の一つでした。後者でいくことにしたのは、プレイヤーのコントロールを超えて動く力があるというアイデアを支持するものだからで、つまりプレイヤーは世界に適応すべきでその逆じゃありません。

 双子星にかんする決断は、仕組みに関係する今後の決定の先例となり、プレイヤーじしんが「自分たちじゃ制御できない仕組みのなかで冒険しているんだ」と学ばなければならないという現行の『OW』太陽系へみちびいてくれました。

   This concept of knowledge-­over-­agency has been a driving influence for several major design decisions, such as the behavior of the sand that flows between the Hourglass Twins. The question we faced very early one was whether the player could trigger this transfer, or whether it was something that happened automatically over time (beyond the player’s control). We decided to go with the latter because it supports the idea that there are forces at work beyond the player’s control, which means the player must to adapt to the world and not vice­-versa. This decision set a thematic precedent for all future systems-­related decisions, leading to the current solar system in which players must learn to explore within systems that are beyond their control.

 のテーマは、『OW』というゲームを包括する物語にもまた影響しました。

 本来このゲームのゴールは宇宙を終焉から止める道をさがすというものでした。これは、なぜ終焉するのかを理解するというゴールに変わりました(ほかの疑問もともに変わりました)。物語のクライマックスでさえ知識ベースで、プレイヤーが最終的になしとげるのは、この宇宙より古くからあるものが実際なにをしているのかという発見です。

 都合のよいことにこの精神性は、この物語で叙述されるタイムトラベルの性質とうまく調和してくれます。タイムループにつっかえて以来プレイヤーキャラクターは意識だけが時を戻され、タイムループ中に存続している可能性があるのは(充分すぎるくらい作為的な物語装置を除けば)記憶と知識だけです。

   This theme also influenced the overarching narrative of the game. Originally, the goal of the game was to find a way to stop the Universe from ending. This changed to the goal of understanding why it is ending (among other questions). Even the narrative climax of the game is knowledge­-based, where players finally discover what the thing older than the Universe actually does. Conveniently, this mentality meshes nicely with the nature of time travel as depicted in the narrative. Since the player’s character is stuck in a time loop where only her consciousness travels back in time, memories and knowledge are the only things that could possibly persist between time loops (barring a sufficiently-contrived plot device).

 

 先行作の批評

 険に焦点をあてた既存のゲームは二つのカテゴリに大別できます。

 『スカイリム』に代表されるオープンワールドゲームでは、目標駆動型のミッションをこなしていく間のオプション{=任意に選択できる付属物(訳者の補足)}として冒険をあつかっています。

   Many existing exploration­-focused games can be loosely grouped into two categories. There are “open­world” games, such as Skyrim, which treat exploration as something optional to do between objective­-driven missions. 

 


p.16

 もう一方の『Proteus』『Noctis』に代表される、主要なゴールのない冒険ゲームでは、バーチャル世界を自由に往来するのが唯一の目的です。

 『Outer Wilds』の世界はそれらの間に位置します。

 はじめこそプレイヤーが目標や目的に類するものにしばられずに冒険できるようセットされているものの、そこには具体的な手がかり・目標(であるにもかかわらず任意のオプションでもある)のコレクションである POI-好奇芯の網 が発見されるのを待っています。

 POIsと好奇芯は『スカイリム』のクエストシステムと似ていますがしかし、プレイヤーへの伝達に邪魔をはさむ点で大きくことなります。『スカイリム』はプレイヤーへ何をすべきか直接的に伝えますが(e.g.「ヘルゲンがドラゴンに襲われていることをホワイトランのヤールに報せろ」※11)、『Outer Wilds』のPOIsは世界のアフォーダンスをただ知らせるだけです。

 たとえば『Outer Wilds』の巨大ガス惑星のトルネードのほぼすべては対象物を持ち上げ空へと飛ばしますが、POIsは下方へ押し出すトルネードの存在をプレイヤーにただ伝えます。その情報を、星の中心にある好奇芯へ到達するためのものとして活用するどうかはプレイヤーにゆだねられています。
do between objective­-driven missions. On the other side of the spectrum exist largely goalless exploration games such as Proteus and Noctis, where the only objective is to freely navigate a virtual world. The world of Outer Wilds exists somewhere in between. Although players are initially set loose to explore without anything resembling a goal or objective, the POI-­Curiosity web is a collection of concrete (albeit optional) clues and objectives waiting to be discovered. Despite their similarities, POIs and Curiosities differ from Skyrim’s quest system primarily in the way in which they are communicated to the player. Whereas Skyrim directly tells players what to do (e.g. “Inform the Jarl of Whiterun about the dragon attack on Helgen.”※11 ), the POIs in Outer Wilds merely inform players of their affordances within the world. For example, while most tornados on the gas giant lift objects into the sky, there is a POI that tells players about the existence of a tornado that pushes objects downwards. It is left up to the player to use that information in order to reach the Curiosity at the center of the planet.

 Outer Wilds』の経時的性質は、ゼルダの伝説 ムジュラの仮面『侍』に大きくインスパイアされており、どちらの作品も時間が経過していくにつれ不可逆的にそして劇的に変化する世界をフィーチャーしています。まさに『Outer Wilds』のタイムループとおなじく、作品世界が提供する全容を確認するためにプレイヤーへ複数の通しプレイを要求してくるゲームです。

 前述2作と『Outer Wilds』の重要な違いは、ムジュラの仮面『侍』のタイムループが完全に決定論的であり、毎度おなじ時間に発生するスクリプト・イベントで構成された世界であるということです。これらのイベントがいつ起こるか(そして今後のイベントにどう影響するか)学ぶことによって、プレイヤーはイベントに介入し結果を操作できるようになります。

 『Outer Wilds』の初期設計において最も中枢的な選択は、イベントの正確なスケジュールをつくるためにタイムループを利用するのではなく、プレイヤーが冒険したり理解したりするための巨大で不可逆的な仕組みをつくるためにタイムループをつかおうとフォーカスを合わせたことでしょう。

 ムジュラの仮面『侍』因果律の実験だとすれば、『Outer Wilds』は動的な仕組みのなかでサバイブし切り抜けるための学習なのです。

   Outer Wilds’ time­-dependent nature is largely inspired by Majora’s Mask and Way of the Samurai, both of which feature worlds that change in dramatic and irreversible ways over time. Just like Outer Wilds’ time loop, both games require players to complete multiple playthroughs in order to see everything their worlds have to offer. The key difference between these games and Outer Wilds is that the time loops of Majora’s Mask and Way of the Samurai are completely deterministic ­that is, their worlds consist of scripted events that always happen at specific times. By learning when these events occur (and what future events they affect), players can intervene in order to manipulate their outcomes. One of the most pivotal early design choices on Outer Wilds was to focus less on using the time loop to create these precise schedules of events, and more on using it as a way to create large­-scale irreversible systems for players to explore and understand. Whereas Majora’s Mask and Way of the Samurai are about experimenting with causality, Outer Wilds is about learning to navigate and survive within a dynamic system.

 

※11 Bethesda Game Studios, 2011

 


p.17

 001年宇宙の旅』『アポロ13』から強いインスピレーションを受け、そのテーマや美学を『Outer Wilds』は引いています。

 ゲームのなかで公正かつ写実的にえがいた宇宙旅行と同じくらい、はかなさに関するテーマもこれらの映画から触発されたものです。登場人物を宇宙の虚無から守るのはもろいアポロのカプセルのみ、という『アポロ13』の宇宙旅行はまさしく真に危険な請負業務として感じられます。『FreeSpace 2』に代表される人気のスペースフライトゲームとちがって、『Outer Wilds』は宇宙空間を摩擦なしの無重力環境として正確に表現します。この宇宙旅行はプレイヤーの直感とはかけ離れてしまいますが、より現実的で危険味を感じさせてくれもすることでしょう。

 このスペースフライトのモデルはまた、プレイヤーが無重力空間で宇宙船から脱出しなければならないという状況をつくれもします。はかなさに対する極端な感覚をもたらすこれらの状況は、『2001年宇宙の旅』の宇宙船から宇宙の虚無へと急速に漂流していくプール*9をボウマンが追いかけるシーンからインスパイアされています。
experimenting with causality, Outer Wilds is about learning to navigate and survive within a dynamic system.
   Outer Wilds draws much of its thematic and aesthetic inspiration from the films Apollo 13 and 2001: A Space Odyssey. These films inspired the game’s fairly realistic portrayal of space travel as well as its theme of fragility. Space travel in Apollo 13 feels like a truly dangerous undertaking, where the fragile Apollo capsule is all that protects the characters from the void of space. Unlike many popular space flight games such as FreeSpace 2, Outer Wilds accurately represents space as a frictionless zero-­gravity environment. Although this makes space travel far less intuitive for players, it also makes it feel much more realistic and dangerous. This model of spaceflight also allows us to create situations in which the player must exit her ship in zero gravity. These situations convey an intense sense of fragility, and are directly inspired by the scene from 2001 in which Bowman chases after Poole’s body, which is rapidly drifting away from their ship and into the void of space.

 

図6:『2001年宇宙の旅』
Figure 6: 2001: A Space Odyssey

 

 宙旅行にくわえ、『2001年宇宙の旅』もまた『Outer Wilds』に埋め込まれた物語に影響を与えています。『2001』の宇宙論的に重要な神秘的な異星のアーティファクトを求めた探検旅行ストーリーを語るのとおなじやりかたで、『Outer Wilds』は宇宙それ自体よりも古くからある神秘的なオブジェクトをさがしている古代の異星人種のストーリーを語ります。

   In addition to space travel, 2001: A Space Odyssey also influenced the embedded narrative of Outer Wilds. Similar to how 2001 tells the story of an expedition to find a mysterious alien artifact of cosmological significance, Outer Wilds tells the story of an ancient alien race in search of a mysterious object older than the Universe itself. 

 


p.18

 事実わたしたちはゲームで神秘的なオブジェクトやそれに関係する部分をデザインするさい『2001年』のモノリスのシーンをたびたび参照しました。
search of a mysterious object older than the Universe itself. In fact, we often used referenced 2001’s monolith scenes when designing the parts of the game that involve the mysterious object itself.

 

 過程と評価

  紹介シーンの当初の失敗

 Outer Wilds』の核をなす、POIsと好奇芯により埋め込まれた網そして動的な力により左右される世界という要素は、どちらもプレイヤーにとって理解するには複雑なコンセプトです。好奇芯へ辿り着こうと試みるどころかPOIsを見つけたりするまえに、プレイヤーはまず第一にこの世界の動的な仕組み(大部は極めて危険な仕組み)を切り抜ける方法を学ばなければなりません。これには、望遠鏡{訳注;商業版のシグナルスコープ。(スコープの向けたさきに特定の信号の発信源があると、源が発する音を受信できるレーダー的なもの。受信状況は""型ないし""型の視覚的記号としても出力され、スコープの向きと発信源の位置が合うほど音は大きくクリアに聞こえるようになり、前述の記号は間隔を狭めて"( )"型そして"()"型のような見かけとなり、ピッタリ合えば""型になる)}や探査機(訳注;商業版の偵察機リトル・スカウト)そしてスペースフライト機械をその時々で適宜つかえるくらいそれなりの熟練が要求されます。

   The core elements of Outer Wilds ­the embedded web of POIs and Curiosities and a world governed by dynamic forces ­are both complex concepts for players to understand. Before they can uncover POIs or even attempt to reach a Curiosity, players must first learn how to navigate the world’s dynamic systems (many of which are extremely dangerous). This in turn requires a certain level of proficiency with the moment-­to-­moment telescope, probe, and spaceflight mechanics.

 の複雑さをプレイヤーに飲み込みやすくする(と同時に、世界説明も兼ね、しかも適切なトーンで組み立てられた)イントロダクション・シークエンスの作成は、プロジェクト全体のなかでも最もむずかしい設計課題だと判明しました。細部のことなるイテレーションをいくつも検討していったものの、そのはじまりがちいさな山村(太陽からかぞえて3つ目に位置する惑星の、クレーターのなかにできた村)で、その終わりがプレイヤーが宇宙船でリフトオフして広い太陽系へ冒険することであるのは毎度かわりませんでした。

   Creating an introductory sequence to ease players into this complexity (while simultaneously introducing the world and setting the proper tone) has proved to be one of the most difficult design challenges of the entire project. While the specifics have gone through many iterations, the intro sequence has always begun in a small alpine village (situated in a crater on the third planet from the Sun) and ended with the player lifting off in her spacecraft to explore the wider solar system.

 記は冒頭シークエンスにおける最初期のイテレーションのアウトラインです。プレイヤーは10のステップを完璧に(順番どおりに)こなしてはじめてリフトオフできるようになり、太陽系のどこかへ冒険することをゆるされます。

   Below is an outline of our very first iteration of the intro sequence. Players were required to complete all ten steps (in order) before they were allowed to lift off and explore the rest of the solar system.

 


p.19

  もともとの導入シーケンス
  1.  マシュマロをローストする。
  2.  夜空にある遠くの星を望遠鏡で観察する。
  3.  異星のオブジェクトが空から村のよそへ墜落するのを見る。
  4.  開始地点からはなれ村まで歩き下る。
  5.  探査機を得るため仕立て屋(訳注;商業版では登場しない)と話す。
  6.  探査機をつかい墜落した異星のオブジェクトを撮る。
  7.  写真を仕立て屋に見せジェットパックをもらう。
  8.  ジェットパックで墜落現場まで飛ぶ。
  9.  異星人のもつ太陽系の地図を見つけ、真の世界の広大さと多くの目的地を明らかにする。
  10.  仕立て屋のもとへ戻って宇宙船へのアクセス権を得、そして冒険のために宇宙へリフトオフする。

1. Roast a marshmallow.
2. Use the telescope to observe distant planets in the night sky.
3. See an alien object fall out of the sky and crash on the other side of the village.
4. Leave the starting area and walk down to the village.
5. Talk with the Outfitter to obtain probes.
6. Use a probe to take a picture of the crashed alien object.
7. Show the Outfitter the picture to obtain a jetpack.
8. Use the jetpack to reach the crash site.
9. Discover the alien map of the solar system, which reveals the true scope of the world and its many possible destinations.
10. Return to the Outfitter to gain access to the spaceship, then lift off to explore the cosmos.

 

図7:よそ者が町へやって来る
Figure 7: A Stranger Comes to Town

 

 上では、このイントロダクションは必要事項をすべてカバーしているように見えました。遠くにあるものを望遠鏡でのぞき、そして探査機でさらによく見て、最終的に飛行機械でそこへ移動するなかでそれぞれの使いかたが紹介されるゲームプレイ・アークです。

 私たちはシークエンスの中心に、墜落した異星のオブジェクトの調査を据えました。あれは何だろう? どこから来たんだろう? とプレイヤーが好奇心をくすぐられることを期待したためです。(疑問の答えは太陽系を冒険することで得られます)

   On paper, this introduction seemed to cover all the essentials. It introduced the gameplay arc of using the telescope to spot something from afar, then using probes to get a closer look, and finally using flight mechanics to travel there in person. We decided to center the entire sequence around the investigation of a crashed alien object because we hoped players would be curious to know what it was and where it came from (questions that could then be answered by exploring the solar system). 

 


p.20

 私たちは村人が冒険にたいして無関心を示すようにしました。プレイヤー自身の好奇心が重要であることを強調するためです。たとえば仕立て屋は「墜落したオブジェクトを調査したところでなんの価値もないよ」とプレイヤーに説得してきますが、これはプレイヤーがかれの間違いを証明したくなることを見込んでの脚本でした。
curious to know what it was and where it came from (questions that could then be answered by exploring the solar system). We also chose to make the villagers actively disinterested in exploration in order to emphasize the importance of the player’s own sense of curiosity. For example, the Outfitter actually tried to convince players that the crashed object was not worth investigating, which was written in hopes that players would want to prove him wrong.

 践してみるとこのアプローチは、ゲームプレイのチュートリアルとしても、この世界の物語的・テーマ的なイントロダクションとしても根本的に欠陥があることが判明しました。最も差し迫った問題は、このアプローチだとプレイヤーが村を隅々まで探索し、この世界での自分自身を方向づけるまえに、空から異星のオブジェクトが落ちてきてしまうのです。

 私たちは「よそ者が町にやって来る」という物語原型をどうにかして使おうと努めてきましたが、町について紹介する前によそ者と引きあわせるのは間違ってました。その結果プレイヤーの多くは、いったん村の探索をはじめてしまったらもう墜落したオブジェクトのことなんて完全に忘れてしまいました。(だってプレイヤーの視点からすれば、墜落したオブジェクトと同じくらい、村だって奇妙で未知の存在なんですもの)

 事実、大多数のプレイヤーはけっきょく次になにをする「ことになっているのか」わたしたちに訊ねなければなりませんでした。わたしこそいまだに何が悪いのか決めかねていたものの、プレイヤーから寄せられたこの質問は、イントロダクションが好奇心駆動型の冒険と正反対を意味しているという事実、ないし頑固なまでに直線的(リニア)な進行であるという事実をしめすひとつの答えと言えましょう。

   In practice, this approach proved to be fundamentally flawed both as a gameplay tutorial and as a thematic and narrative introduction to the world. The most immediate problem with this approach was that the alien object fell out of the sky before players had a chance to fully explore the village and orient themselves within the world. We essentially tried to use the “Stranger Comes to Town” narrative archetype, but we made the mistake of introducing the stranger before the town. As a result, many players completely forgot about the crashed object once they started exploring the village (which, from their perspective, was just as strange and unknown as the crashed object). In fact, most players eventually had to ask what they were “supposed” to do next. I still cannot decide what was worse ­the fact that this question represented the antithesis of curiosity­-driven exploration, or the fact that the introduction’s rigidly linear progression meant that it had an answer.

 語構造の見地からも問題はおこりました。プレイヤーはわれらがキャラクターについて、彼だか彼女だかがどんな動機をもっているひとであろうか何も分かりませんでした。どうしてかれらは最初にマシュマロをローストして、それから望遠鏡をのぞくんだろう? どうして彼らは宇宙へ行きたいんだろう?

 加えて、冒険に無関心な村人という設定は、プレイヤーにかれらを「冷淡」だと評価させ、村をわが家のように感じてほしい私たちの意図を最後まで妨げていました。

   Problems also arose in terms of narrative structure. Players had no sense of who their character was or what his or her motivations might be. Why did they start by roasting a marshmallow and then look through their telescope? Why did they want to go into space? In addition, due to our decision to make the villagers disinterested in exploration, players described them as “cold”, which ultimately prevented the village from feeling like home the way it was intended to.

 ペースフライト(異論なくこのゲームの最重要メカ)の基本を、原型のイントロダクションは教えそこねていました。結果テストプレイヤーはほぼ全員が離陸直後に太陽へと誤ってつっこんでいきました。

   The original introduction also failed to teach players the basics of spaceflight (arguably the game’s most central mechanic), which resulted in nearly every playtester accidentally flying into the Sun shortly after takeoff.

 


p.21

 ントロで代わりに教えたのは(望遠鏡や探査機といった)2番手の機械のきわめて限定的な状況での使用法で、じっさいの探査におけるそうした機械の使用法をまったく正確に反映してはいません。

 たとえばプレイヤーは探査機をもちいて特定の標的の写真を撮るすべを学びましたが、こちらが意図していた「未知の仕組みや環境にたいして、安全につっこんだり、刺激したりするすべ」から遠くかけはなれてしまいました。
into the Sun shortly after takeoff. Instead, the intro taught secondary mechanics (like the telescope and probes) in very restricted situations that did not accurately reflect how those mechanics would be used for actual exploration. For example, players learned to use probes by taking a picture of a specified target, which is a far cry from their intended use as a way to safely poke and prod at unknown systems and environments.

 

  ようこそ宇宙プログラムへ

 きらかな破綻を補修しようと試すよりもむしろ、更地からイントロダクションを再構築することを私たちは決断しました。

 いま振り返ってみれば明白ですが、最初の反復ではプレイヤーには、遠く離れた舞台や新しい仕組みについて興味をもってもらうまえに、かれらがいるこの空間について理解してもらうべきです。これは旧イントロダクションで墜落した異星のオブジェクトを完全に撤廃することから示唆されました。

 代わりにプレイヤーは現在、村の宇宙プログラムの一員としてこの世界を紹介され、そしてこの導入的シークエンスは、宇宙へ初めて旅立つ準備をするプレイヤーキャラクターを中心として回ります。このアイデアはプレイヤーにスペースフライトを教えることへ物語世界内での理由を与えるだけでなく、プレイヤーキャラクターと村の両方を組み立て、そして太陽系のどこかへ冒険しようと飛び出すまえにプレイヤーへ作品世界のなかでどうするか方針を立てるための機会を与えます。

   Rather than try and patch what was clearly broken, we decided to rebuild the introduction from the ground up. While it seems obvious in retrospect, that first iteration demonstrated that before players can be curious about distant places or new systems, they must first understand the space they are in. This inspired the complete removal of the alien object that crashed in the old introduction. Instead, players are now introduced to the world as a member of the village’s space program, and the entire introductory sequence revolves around the idea that the player’s character is preparing for her first voyage into space. Not only does this provide a diegetic reason for teaching players spaceflight, it sets up both the player’s character and the village, and gives players a chance to become oriented in the world before blasting off to explore the rest of the solar system.

 イントロダクションとおなじく、新しい版でもプレイヤーは星空の下の焚火の隣から出発します。しかしながら、マシュマロをローストすることはおろか望遠鏡をのぞき込むことも強制されず、プレイヤーはすぐに自由になって、周囲を探索(explore)したり互いにかかわりあったり(interact)できるようになります。

 事実このイントロダクションを完了するために要求されるのは、究極的には、観測所にいるキャラクターから発射コードを学ぶというただそれだけのタスクしかありません。

 はっきり一本道(リニア)な目標の代わりに、完全にオプションな事物で村をいっぱいにすることに注力しました。プレイヤーは任意で、好奇心をしみこまされたり、スペースフライトについて教わったり、世界をうごかす仕組みについて知ったりするのです。

 プレイヤーがそれについて促されれるよう、村にいるひとびとは宇宙探検について遥かに熱狂的で、そしてプレイヤーの幸運を祈ってくれたり、遠い舞台について物語を語ってくれたりします。

   Much like the original introduction, the new one starts players next to a campfire beneath a starry sky. However, rather than being forced to roast marshmallows or look through a telescope, players are immediately free to explore and interact with their surroundings. In fact, the only task that is absolutely required to complete the introduction is to learn the launch codes from a character at the observatory. In place of explicit linear objectives, the village is filled with completely optional content that focuses on instilling curiosity and teaching players about spaceflight and the systems that govern the world. To facilitate this, characters in the village are far more enthusiastic about space exploration, and either wish players good luck or tell stories about distant places. 

 


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 あるキャラクターはプレイヤーに望遠鏡のつかいかたを(あれを見ろなど伝えることなく)教え、べつのキャラクターは無重力レーニングシナリオの完遂する気をおこさせます。
far more enthusiastic about space exploration, and either wish players good luck or tell stories about distant places. One character teaches players to use their telescope (without telling them what to look at), while another character challenges players to complete a zero gravity training scenario.

 

図8:改訂された非線形の村のレイアウト
Figure 8: Revised, non­linear village layout

 

 量をこなせてないテストプレイの初期でさえ、新イントロダクションが旧版より劇的に改良されているのは明確でした。無重力レーニングシナリオを完了したあと、村で宇宙船の模型を飛ばしたプレイヤーは、いまでは全長版の船をはるかに上出来に操縦しています(その証拠に太陽へむかう軌道は減りました)。

 より開かれたそして必修の目標が一つしかないイントロダクションのおかげで、つぎになにをすべきなのか訊ねてくるプレイヤーは少なくなりました。事実テストプレイヤーの大多数は、村人と会話する時間をとり、無重力洞で訓練し、博物館の展示品をながめた後で、発射コードをさがしリフトオフします。

   Even from our first few playtests, it is clear that this new introduction is a dramatic improvement over the original. After completing the zero gravity training scenario and flying the model spacecraft in the village, players are now far more successful at piloting the full­sized ship after liftoff (as evidenced by fewer trajectories into the Sun). Since the introduction is more open and only has one required objective, fewer players have to ask what they are supposed to do next. In fact, most of our playtesters take time to talk to villagers, practice in the zero gravity chamber, and look at exhibits in the museum before seeking out the launch codes and lifting off.

 人の会話でさえもプレイヤーの好奇心を刺激することに成功しています。あるキャラクターはプレイヤーに、特定の夜空に見られる「節くれだった、棘だらけの星」を冒険したいと熱心に語ります。3人の別々のテストプレイヤーは、かれが話していた星を見分けようと空を見上げました。(僥倖にも3例ともその星が現にちょうど空にありました)

   Even the villager dialogue has seen success in encouraging player curiosity. One character in the village tells players that he would love to explore the “gnarled, thorny planet” that can be seen in the sky on certain nights. After talking with this character, three separate playtesters decided to look up at the sky to see if they could spot the planet he was talking about (which, by a stroke of luck, was actually in the sky on all three occasions). 

 


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 ごく単純な例ではありますが、テストプレイヤーから肯定的な反応を得られた結果は、好奇心を報酬とすることの可能性と価値を示しています。
playtesters decided to look up at the sky to see if they could spot the planet he was talking about (which, by a stroke of luck, was actually in the sky on all three occasions). Although it is a very simple example, the resulting positive reaction from the playtesters demonstrates the possibility and value of rewarding curiosity.

 

 複雑な仕組みのモデルを構築する

 ントロダクションを新たに作り直すにあたってわたしたちがくだした最大の決定のひとつは、このゲームの最古のプロトタイプのコンセプトと再統合させることでした。

 このプロトタイプでプレイヤーは、本物のロケットを見にいく前に模型ロケットを何度か飛ばし(そしてたいてい墜落させ)、そして内部へ搭乗できないか訊ねました。

 三人称視点で模型ロケットを飛ばしたことは、一人称視点でスケールアップ版を操作するさいの理解の一助となっただけでなく、実物大ロケットの航行に重量感を大きく与えもしました。(プレイヤーが本物の船内へ登るのをはじめ面倒くさがったのがこの証拠です)

   One of our biggest decisions in creating the new introduction was to re-incorporate a concept from one of the game’s oldest prototypes. In this particular prototype, players flew (and more typically crashed) several model rockets before being shown a full­-sized rocket and asked to climb inside. Not only did flying the model rocket from a third-­person view help players understand the scaled­-up version from a first­-person view, it also gave flying the full­-sized rocket a greater sense of weight (as evidenced by players’ initial reluctance to climb inside).

 初わたしは『Outer Wilds』にこのアイデアを盛り込むつもりでしたが、しかし、墜落した異星のオブジェクトを調査するプレイヤーの気を散らすことを恐れて削除するよう決めました。

 最初のイントロダクションだとプレイヤーへ宇宙旅行をしてもらう準備が足りていないとあきらかになってきたため、私たちは模型ロケットを改良版イントロダクションへ呼び戻すことにしました。この付け足しはテストプレイヤーにプロトタイプのときと同様ウケただけでなく、やがてリフトオフする本物の宇宙船の模型として明瞭に理解されていました。

   I had initially intended to incorporate this idea into Outer Wilds’ introduction, but decided to remove it due to fears that it would distract players from investigating the crashed alien object. After it became clear that our original intro sequence failed to prepare players for space travel, we decided to bring back the model rockets as part of the revamped introduction. Not only is this new addition consistently a hit with playtesters, it is clear that they understand it as a model of the full­sized ship they will eventually lift off in.

 

図9:プロトタイプ模型ロケットvs.実物大ロケット
Figure 9: Prototype ­model rocket vs. full­sized rocket

 

 

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 り大きな仕組みの代理として模型を使用するこの考えは、以来、それ自身についての物語をつたえるような世界をつくるさいに私たちがもちいる主要なツールになりました。

 新版イントロダクションを設計中、私たちは村の観測所のなかに科学博物館を建てることにしました。このゲームの太陽系のどこかに実在するさまざまな舞台や仕組みを参照した展示品が、その博物館にはコレクションされています。たとえば量子の彫像という展示品は、プレイヤーが観測していないときに姿を変えます。この像は実際「量子の月」の模型で、展示品と同種の量子的ふるまいをはるかに大きなスケールで演じます。
   This concept of using models to represent larger systems has since become one of the major tools we use to create a world that tells stories about itself. While designing the new introduction, we decided to build a science museum inside the village observatory. This science museum is a collection of exhibits that reference various places and systems that actually exist somewhere in the solar system. For example, one exhibit is a quantum statue that changes shape whenever the player is not observing it. This statue is actually a model of the Quantum Moon, which exhibits a similar sort of quantum behavior on a much larger scale.

 

 経時的に変化する世界の設計

 的な力によって支配される太陽系の創造は、並外れた挑戦であることが証明されています。複雑な三次元空間をデザインすることに加え、それらの空間が20分間の通しプレイそれぞれでどのように切り替わっていくかを私たちは考慮する必要があります。

 私たちが見つけたなかでも最もうまく行ったアプローチは、時間が経つにつれ変化していく単一の大きな仕組み(「砂時計の双子星」のあいだを流れる砂みたいな)を中心にそれぞれの星をデザインすることです。

 主要な仕組みはどれも最初の経験を念頭に置いてデザインされているにもかかわらず、物理シミュレーションの性質はしばしば私たちの指揮能力を抑えて、こちらの狙ったとおりには仕事をしてくれません。

 巨大ガス惑星に元来思い描いていたのは、大気圏のうえで惑星を周回する浮島というものでした。けれど島々は実際には空気抵抗が原因となって最初の数分でコアへと渦を巻いて下降してしまうということに、私たちはすぐ気づきました。

 (プレイヤー自身が抗力となったり連動したりする新たな問題を誘発しそうでもある)島々の抗力の影響を単純に除くこともできましたが、私たちは既存の流体の仕組みの範疇で仕事をつづけると決心しました。

 密度のことなる2つの流体のあいだに島を配置すれば、島が沈む原因となっていたのとおなじ抗力を利用して、島を浮かせていられることに気づきました。この仕組みでの実験が、現在は巨大ガス惑星として具現化された球形をした海のコンセプトへ最終的につながったのです。

 時間経過とともに変化するこの仕組みをつくることで、わたしたちは、予測不可能な方法で島々と相互作用する海流と放浪するトルネード(どちらも流体によって生成されたものです)を輸入しました。

   Creating a solar system governed by dynamic forces has proved to be exceptionally challenging. In addition to designing complex three-­dimensional spaces, we have to consider how those spaces will change over each twenty­-minute playthrough. The approach we have found to be most successful is to design each planet around a single major system that changes over time (like the sand that flows between the Hourglass Twins). Although each major system is always designed with an initial experience in mind, the nature of the physics simulation often limits our ability to force systems to work exactly as intended. Although the gas giant was originally envisioned with floating islands that would orbit the planet in its upper atmosphere, we soon realized that air resistance would actually cause these islands to spiral into the core during the first few minutes of the game. While we could have simply removed the effects of drag on the islands (which would have lead to new problems regarding the player’s own drag and relative motion), we decided to keep working within the existing fluid system. We eventually realized that the same drag that caused the islands to sink could be used to keep them afloat if we placed the islands between two fluids of differing densities. Experimenting with this system in-­game ultimately lead to the concept of the spherical ocean that now embodies the gas giant. To make this system change over time, we introduced ocean currents and roaming tornados (both created with fluids) that interact with the islands in unpredictable ways.

 

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this system change over time, we introduced ocean currents and roaming tornados (both created with fluids) that interact with the islands in unpredictable ways.

 

図10:巨大ガス惑星内部で島を持ち上げるトルネード
Figure 10: Tornado lifting an island inside the Gas Giant

 

  各星を包括する仕組みへ迅速にプロトタイピングするこのアプローチは、物理シミュレーションの強みを見極めたり利用したりすると同時に、(邪魔なオブジェクトをただ無視するというような)慣習的な回避策の必要性を減らしもできました。

 結果的にこの仕組みは、将来わたしたちが特定レベルの幾何学をデザインしたり、仕組みの利点を活かしたPOIsや好奇芯を創り出したりできるキャンバスになります。一例として私たちは、巨大ガス惑星のなかの島々がトルネードによっていかに放り上げられているかを観察してから、そこへPOIsを置こうと決めました。(プレイヤーがその仕組みに触れたり中へ入ろうとする可能性が高まったので)

 全体として見れば、最初に動的な仕組みをつくって、そしてそこからその仕組みの挙動を活かした細部をデザインしていくこのアプローチは、順を踏んだ手続き型の部分と手作りの細部とを結合させるための高度に成功したやりかたであることが分かりました。

   This approach of rapidly prototyping each planet’s overarching system allows us to identify and take advantage of the strengths of the physics simulation while simultaneously reducing the need for custom workarounds (like ignoring drag on only some objects). The resulting system becomes the canvas on which we can then design specific level geometry and create POIs and Curiosities that take advantage of those systems. For example, we decided to place POIs on the islands inside the gas giant after observing how they were tossed around by the tornados (in order to increase the likelihood players will come into contact with that system). Overall, we have found that this approach of first creating a dynamic system, and then designing content to take advantage of that system’s behavior is a highly successful way to combine procedural and handcrafted content.

 

 将来的な拡張

 文を書いている時点だと私たちは、本書の前半で論じたPOIsと好奇芯の網を実装し始めたばかりです。

 POIsの役割として好奇芯に辿りつくためにプレイヤーが活用できるアフォーダンスを暴くためのものにする……この私たちのアプローチは、イントロシーンの改訂で学んだ好奇心のより良いくすぐりかたをふまえたもので、自信があります。

   As of this writing, we are just starting to implement the web of POIs and Curiosities discussed earlier in the paper. Based on what we learned from revamping the intro sequence to better reward curiosity, we are confident in our approach of using POIs to reveal the affordances that players can use to reach Curiosities.

 


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 自信はあるとはいえ。プレイヤーがそれぞれの好奇芯を調査したいという意欲を実際にどれだけ抱いているかどうかは言うまでもなく、どこまで各POIで情報を明らかにするかどうかなどを決定するのに、広範なテストプレイは必要となるでしょう。
better reward curiosity, we are confident in our approach of using POIs to reveal the affordances that players can use to reach Curiosities. Even so, extensive playtesting will be required to determine how much information each POI should reveal, not to mention whether or not players are actually motivated to investigate each Curiosity.

 一このプロジェクトが十分な観衆を得られた場合には、このゲームの経時的で物理駆動型の性質に起因する予測不可能性を中心としたファンコミュニティができあがるポテンシャルがあるとわたしは考えています。

 めったに起こりえないイベントがテストプレイ中に数え切れないほど露見したことから判断するに、プレイヤーはゲームのなかのじぶんの偉業や災難を記録したり投稿したりするのに関心をいだいているようです。

 一例を挙げれば、あるプレイヤーはまだ飛行中の宇宙船から跳び出して、宇宙服のジェットパックだけをもちいてどうにか「脆い空洞」へ無傷で着陸しました。別のプレイヤーは模型ロケットを押して村をはるばる渡って発射台のエレベーターまで運び、そして宇宙船内へ搭乗するためのトラクタービームを当てそれを入れ、太陽系をすこし縦断し、ついには「砂時計の双子星」に置いてきました。

 プレイ中の動的な物理と仕組みのシミュレーションのおかげでこれらの偉業は充分可能であり、プレイヤーはじぶんたちの珍しい経験をより広いコミュニティへと共有したくなるのではないかと私は考えています。

   Should this project ever gain a large enough audience, I think there is potential to build a community of players around the unpredictability caused by the time­-dependant and physics­-driven nature of the game. Judging from the sheer number of extremely improbable events that have transpired during playtests, I think players would be interested in recording and posting their feats and misadventures within the game. For example, one player decided to jump out of his space ship mid-­flight and yet somehow managed to land on Brittle Hollow intact using only the jetpack. Another player decided to push the model rocket all the way across the village, carried it up to the ship in the launch tower elevator, got it inside the ship using the tractor beam, and flew across the solar system to finally deposit it on the Hourglass Twins. These types of exploits are largely possible thanks to the dynamic physics and systems at play, and I think players would be interested in sharing their own improbable experiences with a larger community.

 

 結論

 奇心はピン留めするには難しいコンセプトであると判明したものの、好奇心駆動型の冒険に報酬を与えたり支持したりする有益な手法をわたしたちは多数発見できたと信じています。

 ゲームの導入シークエンスのやり直しから私たちは、プレイヤーが作品世界の地元の環境について把握するまえに、遠くや新しい要素に興味をいだくなんて期待してはいけないことを学びました。

 プレイヤーが好奇心をくすぐられる対象をコントロールすることは、(もしかすると不可能なほど)至難の業であるばかりか、好奇心を(上で語った、わたしたちがよかれと思ってつくった墜落した異星のオブジェクトのように)履修しなければならない非本質的な必修項目へと変えてしまう危険を冒すおそれがあります。

   Although curiosity has proved to be a difficult concept to pin down, I believe we have discovered a number of useful techniques that either support or reward curiosity-driven exploration. From our iteration of the game’s introductory sequence, we learned that you cannot expect players to be curious about a distant or new element in the world before they understand their local environment. Not only is it extremely difficult (and perhaps impossible) to control what players are curious about, in doing so you run the risk of transforming their curiosity into the need to fulfill an extrinsic requirement (like our attempts to make players curious about the crashed alien object). 

 


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 好奇心をうまくくすぐるだろうアプローチのひとつは、プレイヤーがなにをするのか指示するのではなく、その世界のどこかに関するアフォーダンスを明かしてくれる存在を世界に植えつけることです。これによりプレイヤーは世界について自分から疑問を投げかけられ、そして疑問に答えが返ってくるチャンスも増えます。
to fulfill an extrinsic requirement (like our attempts to make players curious about the crashed alien object). One approach that seems to successfully encourage curiosity is to populate the world with things that reveal affordances elsewhere in the world without telling players what to do. This allows players to ask their own questions about the world, and increases the chances that those questions have answers.

 規模な動的な仕組みを中心とした世界をデザインするさい、各仕組みについて極めてざっくりしたプロトタイプを最初に作ることが重要だとわかりました。ゲームプレイに影響がでるような予測不可能なふるまいをしばしば起こすためです。

 巨大ガス惑星の動的な仕組みも当初は紙上でデザインしていましたが、球状の海の創造へとつながる決定はすべて、じっさいの経時的なふるまいへの観察に基づいています。

   When designing a world around large-­scale dynamic systems, we discovered that it is important to first make an extremely rough prototype of each system, because they often behave in unpredictable ways that influence gameplay. Although the gas giant’s dynamic systems were initially designed on paper, the decisions that lead to the creation of its spherical ocean were all based on observations of run­-time behavior.

 Outer Wilds』の大規模で動的な仕組みは、時間が経つにつれ変化する世界をつくりだすことが一番の目的です。

 興味深いことにこれらの仕組みは、好奇心駆動型の冒険というこのプロジェクトの別の目標をも補強してくれているように見えました。

 POIsと好奇芯の大多数は未実装であるにもかかわらず、プレイヤーはすでに、物理的な仕組みそれ自体を調査することに興味を沸かせていました。テストプレイヤーの一人は数分をかけて、量子の彫像がどんなふるまいをするか正確に把握しようとし、別のテスターは巨大ガス惑星のトルネードのふるまいを説明する仮説をいくつも提案していました。

   The primary purpose of Outer Wilds’ large-­scale dynamic systems is to create a world that changes over time. Interestingly, these systems also seem to reinforce the project’s other goal of curiosity­-driven exploration. Even though the majority of POIs and Curiosities have yet to be implemented, players are already curious to investigate the physical systems themselves. One playtester spent several minutes trying to figure out exactly how the quantum statue works, while another proposed multiple hypotheses to explain the behavior of tornadoes in the gas giant.

 最後に、『Outer Wilds』は好奇心駆動型の冒険や動的な力に左右された世界をデザインするために出来うる多くの方法の表面をひっかいたにすぎないと想像しています。

 このゲームでこの両コンセプトの可能性を――とくに深い冒険の経験について――うまく明らかにして、そして私たちのアプローチが、この領域に踏み入れるあらたな冒険家にとって有益な道標になってくれることを願っています。
   In the end, I imagine Outer Wilds merely scratches the surface of the many possible ways to design for curiosity­-driven exploration and worlds governed by dynamic forces. I think the game does successfully reveal the potential of both concepts, especially with regards to exploration-­heavy experiences, and I hope that our approach is a useful trail marker for the next travelers who venture into this territory.

 


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 引用文献


Games
Nintendo. 2002. The Legend of Zelda: The Windwaker. Gamecube.Nintendo.
Nintendo. 2000. The Legend of Zelda: Majora’s Mask. Gamecube. Nintendo.
Acquire. 2002. Way of the Samurai. Playstation 2. Spike, BAM! Entertainment, Eidos Interactive.
Ghignola, Alessandro. 2000. Noctis IV CE. PC. Self­Published.

Braben, David. Bell, Ian. 1984. Elite. PC. Acornsoft, Firebird, Imagineer.
Volition, Inc. 1999. FreeSpace 2. PC. Interplay Entertainment.
Shovsoft. Lunar Flight. 2012. PC. Shovsoft.
Squad. 2011. Kerble Space Program. PC. Squad.
Key, Ed. Kanaga, David. 2013. Proteus. PC. Twisted Tree.
Bethesda Game Studios. 2011. The Elder Scrolls V: Skyrim. PC. Bethesda Softworks.
Films
Apollo 13. DVD. Directed by Ron Howard, Universal City, CA: Universal Studios, 1995.
2001: A Space Odyssey. DVD. Directed by Stanley Kubrick, Beverly Hills, CA: MGM, 1968.
Other Sources
Edelman, Susan. “Curiosity and Exploration”. Spring 1997. California State University,Northridge. http://www.csun.edu/~vcpsy00h/students/explore.htm (accessed February 2, 2013).
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May 14, 2007. Gamasutra.
http://www.gamasutra.com/view/feature/129881/clint_hocking_speaks_out_on_the_.php
(accessed February 2, 2013).
NASA. “Why We Explore”. March 5, 2013.
http://www.nasa.gov/exploration/whyweexplore/why_we_explore_main.html
(accessed February 2, 2013).
Griffin, Michael. “The Real Reasons We Explore Space”. July, 2007. Air and Space Magazine.
http://www.airspacemag.com/space­exploration/
Uncommentary.html?c=y&page=1

 


p.29
(accessed February 2, 2013).※リンク切れ
Briney, Amanda. “Age of Exploration”. September 23, 2008.
http://geography.about.com/od/historyofgeography/a/ageexploration.htm
(accessed February 2, 2013).※リンク切れ※ちなみに同名の人の似たようなタイトルの記事はググったら出た
Jenkins, Henry. “Game Design As Narrative Architecture”. 2004.
http://web.mit.edu/cms/People/henry3/games&narrative.html (accessed February 2, 2013).※リンク切れ※現在ではこのページで公開されているものだろうか?

 

 

ぼくの感想

 導入をタルいと思うことは実はすでに意図された報酬系に取り込まれた証拠だった;テーマの突き詰めのスゴさ①

 ゲンゾーの画廊についてビーチャム氏の語りをきいたうえで、冒頭の星「木の炉辺」の博物館や村人の語りなどを振り返ったぼくは「なるほどなるほど~」としみじみしたり、そしてじっさい現地を再訪し当初のプレイ所感をあらためて再考してみて「お~~……」とこわくなったりしました。

 

「こういうところをちゃんとしているゲームは、いまどきなかなかないんだよねぇ」と宮本茂さんにほめられたことがあります。

 シリーズ最初の『星のカービィ』は、ゲームボーイ用ソフト。ゲームを始めるとすぐ、カービィが"飛行"しないと越えられない高いカベが出てきます。飛行とは、カービィが風船のようにふくらんで空を飛ぶこと。これでカベを超えるわけです。このカベは、飛行の操作がわからないとき、狭い空間で少し迷えば、カベを超えるための工夫をするだろう、と考えて配置したもの。狭い空間で行く手を妨げられることで、自然なチュートリアル、つまり操作説明をふまえていたのです

   エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームについて思うこと2 Think about the Video Games』kindle版68%(位置No.152中 104)、「教えてくれるな」より

 乱闘スマッシュブラザーズなど数々の人気ゲームの産みの親である桜井政博氏は、自身のコラムで自身が初めてディレクションしたカービィ1992年当時をこうふりかえったうえで、昨今の操作が複雑化したゲームの冒頭に用意されたチュートリアルに自論をのべます。

 だけど、わたしはわざわざ用意してあるチュートリアルがあんまり好きではありません。あれこれと指示を受けていると、授業かテストみたいで。あとで困るのはイヤなので、ひととおりやらざるを得ませんしね。

   エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームについて思うこと2 Think about the Video Games』kindle版68%(位置No.152中 105)、「教えてくれるな」より

 白状すると、『Outer Wilds』をプレイして数十分は、桜井さんが感じていたような不満をぼくは感じていたんですね。

「傑作だ」

複数の異星をまたにかけ古代人の歴史や世界の仕組みを解き明かしていく探検が面白い」

 『Outer Wilds』へ寄せられた既プレイヤーのそんな称賛を耳にいれたうえでプレイしたぼくにとって、プレイヤーキャラクターが目覚めて「木の炉辺」のロケットに乗るまでのくだりは、かったるくて仕方のないものでした。

「はやく宇宙へ行かせてくれ」と。

「目覚めて最初に視界に入ったあの星に行かせろ」と。

 『星のカービィ』やあるいは『スーパーマリオブラザーズ』の、プレイヤーである自分たちが無意識のうちにゲームシステムを学習してしまえるような、なめらかなイントロダクション。一見すると『OW』の導入にそういった自然さはないように思えたんです。

 

 

  タルいと思っているのに村から出れない;『OW』本編の知への好奇心のくすぐり(1)

 けれどそんな不満をかかえながらも、実際ぼくが村でしたことといえば……焚火のひとと会話し、そのむこうのランタンで照らされた段々をジャンプして跳び越えて自然のトンネルをくぐって、青い人工灯のそばのフライトジャケットを着たひとと会話し、試されるがままにモデルロケットを飛ばし(そこで間欠泉の勢いに驚きもし)

 道をくだったさきのひらけた集落で、「OUTER WILS VENTURES」の贈る"軌道からのハガキ"という、遠方からでも目立つ大きな白板へと駆け寄って、そこで「体験してみよう」とうながされるままに人工衛星のカメラをつうじてパシャパシャと写真を撮って、村とはあきらかに文明レベルのことなる人工物を確認し。

 間欠泉のまわりをあるいて現れた木こりと談笑し村の大木の存在に気づき、楽器を鳴らしているひとから先人の冒険者のことを聞き、こどもたちとシグナルスコープをつかった隠れんぼを楽しみウソです滝壺に落されてなかなか陸に上がれなくてムカつきました)、釣り人がその先人の冒険者から焚火をかこんで聞いた「巨人の大海」の深海にいる異形の話をまた聞いて。

 丘をのぼったさきで、子どもが石を投げたさきに突如わく緑のもやに驚き恐れ、木こりが「切り落としたい」と言っていた大木(? とりあえず周囲でいちばん高い木)をのぼってみてその上で星々(とくに「脆い空洞」)にいる冒険者の鳴らす音楽にシグナルスコープをかざして耳をすませる村人と対話し(彼は彼で、前述の木こりが大木を切り落としてしまわないか心配してもいます)かれにつられてぼく自身もまたシグナルスコープをかざして異星でひびく音楽を確認し、その隣の高見台で、メモ書きで示唆されたとおりに若樹皮のクレーターの方へと偵察機を飛ばし盛り上がった山じみたクレーター内部にたちのぼる煙を確認し無重力洞窟に入って先輩に頼まれるがままに宇宙服とジェットパックをもちいた真っ暗な空間での遊泳方法と宇宙船の修理方法をまなび。

 博物館へ行って「アトルロック」なる衛星にむかって動く謎の石のふしぎと、やはり「アトルロック」について触れた古代人の文書を解読し、円筒ガラスに容れられた「闇のイバラ」付近に棲むと云うアンコウの標本を見て、「脆い空洞」の古代人Nomaiの廃墟で発見されたと云う青い水晶の不思議を見、視界からはずれると所在がゆらいで別のところへ位置してしまうまた別の物質の不思議を見……と、村の一切合切をしっかりちゃっかり見て回ってしまいました。満喫してんねぇ!

 これらの行動は論文にあるとおり、全てやるもやらないもプレイヤーの自由意思にゆだねられたオプション的なイベントに過ぎないのです。

 タルいと思いつつも、でも、つい全部見て回っちゃった

 

youtu.be

「それで始まります。これでガーッと歩いて行って、なにか(=クリボー)出てきたら避けるでしょうと。(その先のブロックに)"?"てついてるので叩くだろうねって叩くとコイン♪っつって嬉しいのでつぎの"?"(ブロック)をこいんっつって叩くと(キノコが)出てくる。"あ゛ー!?"て逃げようと思ったら(ジャンプで逃げようにも上空をブロックが列をなしてふさいでいるから)当たってしまう。……当たってしまったつもりが、(マリオが)大きくなった。っていうので、ここでものすごくうれしくなる。こう(大きく)なるとボンボンボンと(煉瓦ブロックを)つぶせるので、うれしくなって。ここで大体、マリオがどんなゲームかがわかる」0:48

自然にひとのしそうなこと(ゲームデザインに織り込んで)(ゲーム本編プレイを)やりながら(プレイヤーにこのゲームの仕組みを)ちょっとずつ教えていって」2:35

 前述桜井さんのコラムで『星のカービィ』冒頭のゲームデザインを褒めた宮本茂氏は、自作ーパーマリオブラザーズ冒頭のゲームデザインをこう説明します。

空間的物語と環境ストーリーテリング
 SPATIAL STORIES AND ENVIRONMENTAL STORYTELLING

 ームデザイナーは、ストーリーをただ単純には伝えません;かれらは世界を設計(デザイン)し、空間を彫刻します。

 Game designers don't simply tell stories; they design worlds and sculpt spaces.

(略)

 初期の任天堂ゲームにはとてもシンプルな物語的フックがありますが――キノコ王国のお姫さまを救え――しかしゲーマーがこれを初めてプレイして瞠目したのは、『ポン』パックマンが10年前に提示した単純な点々(グリッド群)よりもはるかに洗練された、想像力豊かなグラフィック領域でした。宮本茂スーパーマリオ・ブラザーズ』のような影響力ある黎明期の「スクロール・ゲーム」に言及するとき、私たちは大昔の空間ストーリーテリングの伝統の隣に位置づけます:たとえばあまたの日本の絵巻物(スクロール・ペインティング)にえがかれる地図は、空間を展開していくことで四季をまたいでいきます。

 The early Nintendo games have simple narrative hooks - rescue Princess Toadstool - but what gamers found astonishing when they first played them were their complex and imaginative graphic realms, which were so much more sophisticated than the simple grids that Pong or Pac-Man had offered us a decade earlier. When we refer to such influential early works as Shigeru Miyamoto's Super Mario Bros. as "scroll games," we situate them alongside a much older tradition of spatial storytelling: many Japanese scroll paintings map, for example, the passing of the seasons onto an unfolding space.

   Massachusetts Institute of Technology掲載、ヘンリー・ジェンキンズ著『GAME DESIGN AS NARRATIVE ARCHITECTURE(物語による建築物としてのゲームデザイン)』(翻訳・中略は引用者による)

 論文内でも引用されたH・ジェンキンズGAME DESIGN AS NARRATIVE ARCHITECTURE(物語による建築物としてのゲームデザイン)』でその立派な空間的物語ぶりが取り上げられてもいるこの作品について、『Wii』のプランナーを務めた元任天堂社員の玉樹真一郎氏は著書『「いやってしまう」体験のつくりかた――人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』のなかで、宮本氏の実演動画とはすこし別角度からさらに掘りさげるような具合に、『マリオ』のプレイヤーキャラクターであるマリオが画面左端にいて右を向いていること*10(さらには帽子のツバとヒゲにより顔がどちらを向いているのか一目瞭然な見た目であること*11や、背景美術として画面左に(閉塞感をおぼえさせる)高い山・右に(プレイヤーの目を引く)明るい黄緑の草や真っ白な雲といったものが配されていること*12などなどを挙げ、"プレイヤーキャラクターを画面右へとすすませていく"という『マリオ』のゲームのルールがだれがプレイしても直感的に分かってしまう(し、ついそちらへ進んでしまう)ゲームデザインの凄味を検討しています。

 

 暗闇に光が見えればつい寄ってしまう。人がいればつい話しかけてしまう。洞窟など穴があればついくぐってしまうし、体験を誘われればつい乗ってしまうし、中に入れる建物があればつい入ってしまう。展示物があればつい見てしまうし、そこへ説明書きがあればつい読んでしまう……

 ……『OW』導入の村にも、そんな「つい」やってしまうデザインがあれこれあるように思えます。

 

  タルいと思っているのに母星から出れない;『OW』本編の知の好奇心のくすぐり(2)

 さて村をくまなく回ったうえでイントロダクションを終えると、ぼくは宇宙船にようやく乗り込みました。もうこれで好きな所へ出発できます。最初に目の当たりにして気になっていた緑の星にだってすぐ行けます。

 でも実際ぼくが行ったのはなんとこの星「木の炉辺」の別地域。

  崖にかこまれた窪地の村の周囲にある、煙のたちのぼる若樹皮のクレーターや、底に自然物ではないなにかがチラリと見えた巨大な山のなかなのでした。

 外へは行ける。でも、チラ見えした気になる存在が近所にあれば、ついその答えをもとめたくなっちゃう。

 村で「つい」撮った人工衛星や「つい」放って撮った偵察機から得た、村はずれのランドマークたち。それへついつい引き寄せられてしまったというわけです。

 そうして古代人Nomaiの真っ暗な旧跡をおとずれ、古代人が動かしていたらしい「灰の双子星プロジェクト」なる謎の巨大な計画について知り、プロジェクションストーンなるものを拾って、装置に嵌め込んださきに見える、あの博物館で幻視したような謎の光景を見ることとなったり。

 あるいは、おそらく異星からのだろうおどろおどろしい不穏な墜落物に遭遇したりし、そこで更なる恐怖をおぼえる不気味と遭遇したりします。

 旧跡のそうした新情報にたどりつくためには、真っ暗な道中を滝がふさぐ崩れた足場を進む必要があります。そのさい無重力洞窟でまなんだだろう前照灯偵察機で周囲を照らせることや、宇宙服にそなわったジェットパックで上下左右を跳べること、博物館でちょっと歩いた重力操作水晶宇宙船搭乗ゲートから類推される古代人の新技術を知っていると、辿りつくためのヒントになります。滝に誤って落ちた場合には湖からの脱出には模型飛行機を飛ばした間欠泉の噴出も活きてくるでしょう。あと個人的には、隠れんぼで滝壺に落とされていたのも良い経験になりました(笑)

 墜落現場の不穏をたしかな不気味にかえるためには、村の高見台で使い方をまなんだ偵察機や、かくれんぼなどを通したりなどして知ったシグナルスコープを駆使する必要があります。

 

 この、村で学んだこと⇒村はずれのランドマークで得られる新たな情報という関係は、論文で語られたPOIs⇒好奇芯というネットワーク関係と相似形でしょう。

 イントロダクションの時点で、好奇心をそそり、好奇心を抱くこと・知識を活かすことに報酬をあたえる体系が、しっかりデザインされているのです。

 そしてこの体系がもっとも活きるのはプレイヤーが、ほかならぬ自分自身が情報を得ようと主体的に動いたことを自認してもらえた/そして得た情報を活用したことを自覚してもらえた場合でしょう。

 だから、『マリオ』や『星のカービィ』のようにプレイヤーが無自覚のうちにゲームのルールを学んでしまえるようななめらかなデザインは、採らないほうがこの作品では正しかった――と。

 そういったわけじゃないだろうかと考えて、「おお~……!!」となりましたよぼくは。

 

 

 操作感でさえも世界を描写し物語の一要素となる;テーマの突き詰めのスゴさ②

 プレイしたときにはそれぞれ漠然とただ楽しいとしか感じていなかった/独立した興奮を覚えていた個々の要素が、じつは(〆の展開でつよく提示される部分に連なるような)どれもが協調してひとつの味となる*13包括的でコンセプチュアルに突き詰められた要素だった……というような面が論文を読んだことでクッキリ見えてきて、とっても興味深かったです。

 

 とくに、 良くも悪くも印象にのこるプレイヤーキャラクターやその乗物の挙動のピーキー。 

 

  (寄り道)一触即反応、メジャータイトルの生理的に正しい操作感

 さて人気ゲームに凝らされた、万人が気持ちよく操作できるためのゲームデザイン・実装面での技巧というのは凄まじいものがあります。

 レースゲームは、もともとシンプルなジャンルだったと思います。ゲームの黎明期からあったジャンルだし、操作は左右に動かすハンドル、そして、アクセルとブレーキだけ。シンプルで感触がよく、誰にも楽しく遊べました。

 それに比べるといまのレースゲームは複雑で難しく、"一定の記録を出さないとダメ"と初心者を切ってしまう作りになってしまっている(略)

 一方、星のカービィ』はかつて、ゲームを遊んだことのない人のための導入口として作ったものでしたファミコン時代末期のゲームは、全体的にとても難しかった。それはそれでおもしろいのはわかるけど、これからゲームを始める人はどれから始めればいいのだろう? と思い、初代『星のカービィ』を作りました。(略)

カービィ』を考えたときに思ったことと、レースゲームの現状は通ずるものがあります。『スマブラ』と"格闘ゲーム"の関係も近いです。

   エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームについて思うこと Think about the Video games(一)』kindle版31%(位置No.152中 47)、「カービィのエアライド」より(略は引用者による)

 たとえば上の項でも取り上げたソラの桜井氏は、<星のカービィ>シリーズを手がけるさい初心者を意識したゲームデザインを考えます。

 地面から少し浮いて走る"エアライドマシン"は、ふだん勝手に前進しています。ボタンを押すと地面に接地! コーナーを曲がりながらザザザザザとドリフトを決めれば、"チャージ"が溜まります。コーナーの出口で"チャージ"を解放すると、ドン! とダッシュ!!

 これが『エアライド』的走法の基本です。ボタンを押してググッとストレスを溜め込んで、ボタンを話すことで溜めたものをバッと放つというのは、体感的にストレートでよいと考えたのです。

   『桜井政博のゲームについて思うこと Think about the Video games(一)』kindle版31%(位置No.152中 48)

 そんな思想から、「実際のレースではグリップ走行の方が断然速いと思う」リアリズムから離れた、直感的でゲームならではの味がある)「Aボタンひとつで楽しめる爽快アクションレース!」ービィのエアライドとその乗物は誕生しました。エアライドマシンの乗り手であるカービィも、見慣れ過ぎてその造形を当然のものと思ってしまいますが、このふわふわと丸いいでたちだってゲームデザインありきのもの。

敵の攻撃は何発か耐えるのに、穴に落ちるとすぐやられるのはかみ合わないだろうと思い、風船のようにふくらんで、いつでも飛べるように設定。

『桜井政博のゲームについて思うこと Think about the Video games(一)』kindle版36%(位置No.152中 55)、「『星のカービィ』というキャラクター」より

 落下のリスクやペナルティを軽減させるために、マリオなど他の横スクロールアクションの主人公みたいな重力にとらわれる人型じゃない、ふしぎな浮遊アクションをおこなえる風船型キャラクターが新たに創造されたわけなのでした。

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 桜井氏は『週刊ファミ通』2005年9月9日号掲載のコラム「一触即反応」のなかで、プラズマテレビをつうじて『ファミコンミニ』で遊んだ際のフレーム単位での操作遅延の違和感に触れたうえで、クリエイターとしての自身の考えをのべています。

 ゲームのキャラクターがパンチするときのモーションに費せる描画枚数は、なめらかにアニメーションする現行ゲームのほうがもちろん多いですし、リアリスティックです。

 しかし実は、"腕を伸ばしていないときと伸ばしたとき"の2枚でしかパンチを表せないレトロゲームのほうが、(プレイヤーの操作⇒システムのリアクションやら、当たり判定の分かりやすさやらという)レスポンス自体は良好だったりする。そんな一例を述べたあと桜井氏は……

 それらしい動きより、操作感を。コレ、自分でもつい忘れがちです。

    エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームについて思うことDX』kindle版22%(位置No.232中 51)、「一触即反応」より

  ……と論考をしめくくります。

 

 とりわけぼくのなかで印象的なのが、セガの鈴木裕氏がディレクターをつとめたチャファイター』

 社会現象になったこの大人気格闘ゲームにも、じつはそうなるに足る、だれでもゲームを楽しめる凄まじい技巧が操作性の面でもほどこされていたのです。

鈴木 とりあえず格闘ゲームを作ることになったときに、まずはセガに来ていたおばちゃんや、事務方の人や、セガに見学に来た子供なんかを、テストプレイヤーに呼んだんです。

(略)

鈴木 (略)そして、彼らにもうデタラメにレバーとボタンを押しまくってもらって、裏でデータ解析して押されているボタンの頻度を分析したんです。すると、ゲームが苦手な人間がデタラメに押したときに、どんなボタンが入力されやすいかがわかるんです。そのリストの上から、よく使用する技を当てていきました。

   ADOKAWA刊(角川新書)、電ファミニコゲーマー編集部『ゲームの企画書(2) 小説にも映画にも不可能な体験』kindle版13%(位置No.3166中 403)、「『バーチャファイター』とゲームの操作性 鈴木裕×原田勝弘」より

 

  『OW』の操作性が追求した別の正しさ

 『Outer Wilds』のピーキーな操作性は、 きもちよく楽しくゲームできることに重きをおきがちなぼくとしては、「こういう形でしか出せない味というのがあるのだなぁ」と蒙を啓かれた心地でした。

 ピーキーなのは調整不足でそうなっているのではなく、操作性ひとつとっても、一惑星の一住人に過ぎない自分たちにはどうにもできない力でうごく宇宙という存在をえがく、そしてその仕組みを理解する……というコンセプトを構成する、重要な細部なのだとは! この論考を読むまでは思いもよらなかった境地です。

 

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 論文でビーチャム氏の唱える、人間中心ではない宇宙(や世界)観。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画『メッセージ』の原作小説なたの人生の物語』でおなじみテッド・チャン氏が言う「SFとファンタジーの違い」の前者を思わせる甘えのなさがあります。

魔法の効力は、その行為者に依存する。魔法は、だれでもおなじようには使えない。天賦の才を持つ人間にしか使えない魔法もあれば、長年の研究によって魂を浄めた人間にしか使えない魔法もある。正しい心を持つ人間にしか使えない魔法もあれば、使う人間の善悪によって違うふうに作用したりもする。

 科学では、こういうことはまったく起きない。銅線のコイルに磁石を通せば、あなたがだれだろうと、あるいは心の善悪にかかわらず、電流が流れる。

   早川書房刊、『SFマガジン 2008年1月号』p.46、テッド・チャン著「科学と魔法はどう違うか」より

 (略)SFでは、宇宙の法則が個々の人間を識別することはない。宇宙はある人間を区別しないし、人間と機械を区別しない。ファンタジーでは、宇宙の法則は、人間の個性という概念を認識している。ほかの人間にとってだけではなく、宇宙自体にとって特別な個人が存在する。

   早川書房刊、『SFマガジン 2008年1月号』p.47~48、テッド・チャン著「科学と魔法はどう違うか」より(略・太字強調は引用者による)

 こうした身もふたもない考え自体は、それなりに市民権を得られているものだと思いますが、思うも言うも易し行なうは難し、しかしそれを実作としてきちんと、物理演算シミュレーションききまくった重力・惑星・気象体系、経時的で不可逆的なゲーム時間の流れといったレベルで具現化しているのは……はたしてこの世界を見渡していったい何作あるんでしょう?

 

 の帝王リスト』を覚えていらっしゃるでしょうか、悪の帝王がフィクションでしがちなお決まりの失敗全般をまとめたあのリストです。(16:「お前を殺す前に、知っておきたいことが一つある」とか絶対使わないようにしようと思いましたよ)

 そのスペースオペラ版のリストをつくってボルトで締めておくことから自作執筆をはじめるのも良いアイデアなんじゃないかなぁなんてわたしは思いました。そうして確認しておけば、執筆中の作品で間違いをおかすにしても、毎度代わり映えのないクリシェを再生産するんではなく、新しくて独特の失敗をしでかせるんじゃないかなぁと。

Some of you might remember the Evil Overlord's List, a list of all the generic cliche mistakes that Evil Overlords tend to make in fiction (16: I will never utter the sentence "But before I kill you, there's just one thing I want to know."). I think that it might be a good idea to begin bolting together a similar list of the cliches to which Space Opera is prone, purely as an exercise in making sure that once I get under way I only make new and original mistakes, rather than recycling the same-old same-old.

   Charlie's Diary掲載、チャールズ・ストロス『Towards a taxonomy of cliches in Space Opera』より{翻訳は引用者による(英検3級)}

 SF作家にして創作のひとつNeptune's Brood』「これまで書かれたどんな星間金融本より素晴らしい」ノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマン氏に激賞されるほど理論家でもあるチャールズ・ストロス氏は、スペースオペラで使い古されたお約束(クリシェをまとめたリストをblogに掲載しました。

1.星の文明

 この小見出しでは、(地球に似た)惑星やそこに暮らすひとびとについて論じるさいよく出てくるお約束/間違いについて取り扱います。

  •  星々は小さく、簡単に探査できる
  •  星の大部分の大陸は簡単にアクセスできる
  •  星のどこへでも短時間でしかも大気圏を脱することなく飛んでいける
  •  空気摩擦による船体の過熱を経験することなくマッハ2.2超で飛んでいける
  •  航空管制やNOTAMを気にすることなくマッハ2.2超で飛んでいける
  •  星のどこでもかわらず気候とおなじ気象模様を共有している
  •  コリオリ力? 貿易風? サイクロン? なんすかそれ?
  •  海は小さく、陸地に囲まれ、釣りに最適だ
  •  プロットが火山や地震を要請しないかぎり、プレートテクニクスは簡単に無視される
  •  星の深部の炭素循環、沈降、水を分解する紫外線の電離層、長期のテラフォーミング安定性:そんな些細なことなぜ心配するんです?
  •  氷河期は星全体の必然だ
  •  呼吸可能な大気はあるけど、水はない星とか

1.Planetary civilizations

 This subheading covers common cliches/mistakes made in discussing inhabited (Earthlike) planets and the people who live on them.

  • Planets are small and easily explored
  • All the land masses on a planet are easily accessible
  • You can fly anywhere on a planet in a short time without leaving the atmosphere
  • You can fly anywhere at Mach 2.2+ without experiencing hull heating due to atmospheric friction
  • You can fly anywhere at Mach 2.2+ without worrying about Air Traffic Control and NOTAMs
  • Everywhere on a planet shares a common climate and the same weather patterns
  • The same plants and animals can be found everywhere on a given planet
  • Coriolis force, trade winds, cyclones, what are those?
  • Oceans are small, land-locked, and mainly useful for fishing
  • Plate tectonics is easily ignored, unless the plot requires a Volcano/Earthquake
  • Deep carbon cycle, subduction, ionosphere UV splitting of water, long-term terraforming stability: why worry about little things like that?
  • Ice ages are inevitably global
  • Some planets have a breathable atmosphere but no water

   Charlie's Diary掲載、チャールズ・ストロス『Towards a taxonomy of cliches in Space Opera』より{翻訳は引用者による(英検3級)}

 上記はその一部ですが、リストを片手に『Outer Wilds』宇宙(のわれわれ地球人の直感に反するわずらわしいまでのヘンテコさ)を探検してみるのも楽しいんじゃないかなぁなんて思います。*14

 

  実装されたゲームシステムによりシナリオが結末を逆転するほど再校される;構造と物語が相互に影響する制作過程

 また、上の話の面白いところは、細かな部分までコンセプトが貫かれていつつも、それが当初の想定通りトップダウン的・リニアに達成されたものでは全然ないということです。

(下記は「内容ざっと説明」のくりかえしになっちゃうんですけど……)

 この論文では、「こんなことがしたい」と紙面上で想定したものを実装してみようとしたら思い通りにいかなかった現場のギャップ、そこからコンセプトをもう一度ふりかえり、ストーリーの見直しがエンディングを真逆に舵取りし直すレベルで大きく)なされる……そんな動的きわまりない開発過程が端的に記されており。

 「自分たちが作っているものは本当はこういうものだったんだ」と作品に秘められた魅力を作り手自身が気づかされ発見していく……『Outer Wilds』の底知れない魅力をとらえようとした、ひとつの興味ぶかい"読み"のルポとしてとても楽しく読みました。

 

 構造と物語だとか、あるいは題材元と創作物だとか……そういったものの、切っても切り離せない相互関係を考えさせられる面白い事例だなぁと。

 たとえば上の引用文では操作性を重視したコラムを記した桜井さんも、自身のつくったゲームのなかで、より濃く作品世界を物語るため意図的に操作性を悪くしたりもするんですね。任天堂の社長をつとめた岩田聡さんの古巣であるセカンドパーティ企業・HAL研究所から独立し、自身の会社ソラを立ち上げた桜井さんがセガからのオファーをうけだてて! 甲虫王者ムシキングを制作した際のコラムを読んでみましょう。

 また、今回ばかりはいつもと違うゲームデザインの手法が求められました。そこがまた新鮮で。

 たとえば、ムシが与えられたえさを食べるとき。ゲームとしては、えさを与えたあとにプレイヤーの操作などはないので、パッパとテンポよく食べてくれたほうが快適。少なくとも、自分はお待たせしないことを重要視していました。でも、カブトムシがえさをそんなにバリバリ食べるか? ゆっくりゆっくりえさをはむのを見て、「おっ、食べてる食べてる」と思うのではないだろうか? そういう、情緒めいたものも何となく感じさせたい。そんなわけで、あえて回りくどいこともしています。

   エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームについて思うことDX』kindle版46%(位置No.232中 106)、「そだてて! 甲虫王者ムシキング」より

 

 そんな柔軟な創作をしている桜井さんのような――アクションから格闘ゲーム、シューティング、落ち物パズルに育成シミュレーションまで様々なジャンルで新規IPを立ち上げてきた――世界屈指のゲームクリエイター兼ゲームプレイヤーでさえ、できないこともあるらしい。

冒険とか探索って、楽しくてドキドキするものだと思うのですよね! 子供のころ、どこかの田舎で見知らぬ森や山をひとりで探索したり、洞穴や廃屋に足を踏み入れてみたり。見慣れぬ場所で、先に何があるのかわからないところを開拓するワクワク感。

   エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームについて思うことDX』kindle版66%(位置No.232中 153)、「あおれ! 冒険心」より

 「RPGの戦闘が好きではありません。でも戦闘がないRPGってなかなかありませんよね。」という読者からのお便りをきっかけに、ソラの桜井氏は2006年7月28日号の『週刊ファミ通』にて、現実の冒険のたのしみと現行のRPGの様式との間にあるギャップについて語ります。

 単に疑似世界だけをポンと作って、それだけで冒険を表すには、ビデオゲームはまだまだ表現不足なのですよね。ゲームは基本的に、同じようなパターン、絵柄のくり返しで、城や森や洞窟などを表現していきます。グラフィックの表現が増えたからって、この呪縛からはなかなか逃れられません。本来、パターンが続く冷たい世界。ワクワク感とはほど遠いわけです。

   エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームについて思うことDX』kindle版66%(位置No.232中 153~154)、「あおれ! 冒険心」より

 パターンが続く冷たいゲーム世界にたいする「引き締め役」*15はたまた「うれしい」メリットとして、現実の冒険にはつきものの「いつ何時、何が飛び出してくるかわからない緊張感」*16として、ゲームでは「"敵"なり"戦闘"」*17あるいは、「"シナリオ"」*18はたまた「宝箱とか」*19などがあるのだと。

 さまざま挙げたうえで、桜井氏は大きな疑問を投げかけています。

 もし戦闘がなければ武器を手に入れることも必要ないので、結果として探索の楽しみが遠くに行ってしまうような気がします。

 ……が、ここでゲームを作る側に帰って思いますが。ホントウにそれでいいのか? と。戦闘自体についても、ルールについても、多くのRPGはかなり画一的だと言えましょう。HPやMPに該当するものがあって、経験値やお金があって、パーティーがいる。進化が必要なかったと言えばそれまでだけど、それを当然と思わないほうがいいんじゃないだろうか?(略)現実に見知らぬ土地に被われる臨場感にはかなわないけど、別の表現方法を駆使して冒険を体感できるゲームがあってもいいんじゃないかな? と感じるのでした。世界に対する興味を、映像表現で開いてあげる。そんなRPGがあったらいいなぁ。

   エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームについて思うことDX』kindle版66%(位置No.232中 154)、「あおれ! 冒険心」より(略は引用者による)

 ここで注目したいのは、桜井氏(か『ファミ通』編集者氏)が太字にした部分ではなく、そのあとの文言です。「映像表現で開いてあげる」――システムの見直しではなく。いかに現行ゲーム(※*20の様式が洗練されたものか、変え難いものであるか……桜井氏の口から発せられると、よりいっそう重たく響きます。

(論文本文でも取り上げられた先行するループ物ゲームルダの伝説 ムジュラの仮面が、姉妹作『時のオカリナ』からシステム等をがらりと変えたのは、くだんの作品についての糸井重里さんからのインタビューで「別の面白さを見つけないと、退屈なんやね」「前の1.5倍の敵を作る、ということにしたって、実はただ退屈なだけで、そんなにワクワクせえへん。」*21宮本茂さんが仰るような意識が作り手にあったからですが、先述のとおり宮本氏とともに切磋琢磨した桜井氏でさえなお、ということで……重たい……)

 

 一流のゲームクリエイターでも、できないことがある。

 むしろ、一流だからこそ難しい部分もあるのかもしれません。商業作品には納期があり、求めなければいけない利益があります。一流クリエイターはそこを見極める嗅覚もすぐれていることでしょう。

鈴木 僕としては、『バーチャ』で3次元のゲームを作ったので、今度はもう1次元、変数を増やしてみたかったんです。

――どういうことでしょうか?

鈴木 2次元の絵にZ軸の奥行きを足すと、3Dになりますよね。そこで今度は、Tという時間軸を足してみたかったんです。今この場所にバッグが置いてあっても、1時間後には片付けられているかもしれない。青空だって、時間が経てば夕焼けに変わっていく。「存在」とは何かを真剣に問うていくと、時間の要素が欠かせないんです。

   ADOKAWA刊(角川新書)、電ファミニコゲーマー編集部『ゲームの企画書(2)』kindle版25%(位置No.764)、「『バーチャファイター』とゲームの操作性 鈴木裕×原田勝弘」より

 この記事の上のほうでセガバーチャファイター』の制作秘話を引用させてもらった鈴木裕氏は、自身が手掛けた別作ェンムー』('99)についてそう語ります。20世紀の作品のコンセプトが、そのままビーチャム氏らがつくった21世紀の最先端のゲームのコンセプトに通じる辺り、鈴木氏の鋭いセンスに驚かされますが、氏へのインタビューを読んでいくと、そんな鋭い作品にも世界規模で売るための目配りがなされていることが記されています。

鈴木 基本的に、僕のゲームはワールドワイドで売れました。幸いなことに(笑)。

アウトラン』や『スペースハリアー』の頃からそうで、それは僕が根幹に流れるコンセプトを常に世界共通のテーマに置いているからなんです。

(略)

シェンムー』の場合は、ストーリーのコンセプトを世界的なテーマにしています。ハリウッド映画を見ればわかるんですが、世界中でヒットする物語は、愛・勇気・友情、そして家族愛なんですね。この物語の「父親を殺された息子が敵討ちの冒険をしていく」というプロットは、世界中の人がわかるものなんです。

   KADOKAWA刊(角川新書)、電ファミニコゲーマー編集部『ゲームの企画書(2)』kindle版21%(位置No.640)、「『バーチャファイター』とゲームの操作性 鈴木裕×原田勝弘」より(略は引用者による)

 莫大な製作費を投じた『シェンムー』は、オープンワールドゲームの元祖ともいわれる超大作ですが、しかしそんな作品でも心残りがあるんだとか。

鈴木 だから、僕はいつも「『シェンムー』でやり残したことは?」と聞かれたら、「本当はラーメンが出たら湯気が出てて、そのうちでなくなって、麺は伸びてほしかったんだよね」と言うんです。まあ、誰もわかってくれないんだけど。

   ADOKAWA刊(角川新書)、電ファミニコゲーマー編集部『ゲームの企画書(2)』kindle版25%(位置No.771)、「『バーチャファイター』とゲームの操作性 鈴木裕×原田勝弘」より

 「世界中の人がわかるもの」を盛り込み、「誰もわかってくれない」ものは入れなかった。ここに、第一線のゲーム会社のクリエイターとしての線引きをぼくは見てしまいます。

 

 予定していた企画と、現在できている、もしくは着手している要素。そしてまだ完成していない仕様。これらを見比べながら、もっとも近道で現実的で、手が掛からない方向を検討するわけです。いままで作ったものはなるべくムダにせず、費用対効果の高い仕様を選ぶと。個々のスタッフに対するスケジュール見積もりは、これらを見極めるのにも重要です。

   エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームを作って思うこと』kindle版15%(位置No.198中 30)、「捨てる積み荷を決めること」より

 ソラの桜井氏は、「捨てる積み荷を決めること」と題した2008年のコラムで"スケジュールに間に合わない"要素をカットしていくことがゲーム作りには必須だと、不測の事態による事前のプランニングを『大乱闘スマッシュブラザーズX』での裏話とともに語っています。

 桜井氏の冷静なディレクターとしての一面は、さまざまなコラムで覗けます。

 破壊可能物品をひとつ入れるだけでも、やれコストだ処理だどうしよう、と頭を抱えるわたしの開発とは、スタイルが大きく異なってますね。相応苦労もしているだろうけど、ちょっとウラヤマシイ。

   エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームを作って思うこと』kindle版61%(位置No.121)、「『ベヨネッタ』前、『ベヨネッタ』後」より

 日本でゲームを作る自分なら、企画するまえから「あ、ムリムリ」とあきらめ、現実的な仕様に落としてしまうに違いない。

   エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームについて思うことX』kindle版8%(位置No.14~15)、「夢のようなゲーム」より

 桜井氏のコラムに数えきれないほどあるこうした言及は、桜井氏自身が数えきれないほど反省してきた歴史でもあります。

 わたしが作るゲームは、ほかのソフトより比較的ボリュームが多いと言われがち。それは開発期間を潤沢に使うからではなく、着実に仕上げることを重視しているためであるつもりです。基礎実験や試行錯誤よりも、確実に見えるものを優先し、状況に応じてカットしても破綻がないようにするという。しかし、できるかどうかわからないことをしないのは、可能性を閉じているのかもしれない。そりゃぁ反省すべきだなぁと、食べ終わったチャーハンの皿を片づけながら思うのでした。

   エンターブレイン刊、桜井政博『桜井政博のゲームについて思うこと DX』kindle版23%(位置No.232中 53)、「この世に生まれ得ないゲーム」より

 そして、ゲームの数えきれない新たな可能性の記録でもあります。

 直上の3つの引用文はそれぞれ、ヨネッタ』について、TEST DRIVE Unlimited』や人気オープンワールドゲームランド・セフト・オート』シリーズなどについて、んな大好き塊魂についてプレイした桜井氏の、自身のディレクションするゲームにはない独自性について語った文章なのです。

 

 鈴木氏が99年に行ないたかったけれど、当時はできなかったこと。

 桜井氏が06年に欲したゲームの世界における冒険の別の表現方法。

 一線のプロが熟知してるがゆえ、つくる前から閉じかねない可能性。

「それらをビーチャム氏らは、ラーメンではなく太陽系規模で、映像表現ではなくゲームのシステムのなかで、そして現実のゲームの製作現場で探求し冒険したのだ」

 と言っても過言ではないんじゃないかとぼくは考えています。

 構造と物語だとか、あるいは題材元と創作物だとか……

 ……あるいは、創作と創作だとか。

 そういったものの、切っても切り離せない相互関係を考えさせられる面白い事例だなぁと、ゲームをプレイし論文を読んで思いました。

 

 『Outer Wilds』は英国アカデミー賞ゲーム部門で作品賞を受賞、米国ネビュラ賞ゲームライティング部門にノミネートするなど、さまざま名声を得つつあります。

 つい先日9月26日の日本ゲーム大賞2020においても、ゲームデザイナーズ大賞の最終選考4作のうち一作に入りました。この賞は、日本を代表する10名のトップクリエイターが、プロの視点から「独創性」や「斬新性」などの評価軸で選出する賞で、式ではゲーム大賞の審査員長であるプロのクリエイターが候補作を紹介し、大賞については実機をプレイしながらそのゲームの面白味を実演してくれもします。実際どんなものかは公式の動画を見た方がはやいでしょう。

www.youtube.com

「ソラの桜井政博です。ゲームデザイナーズ大賞、はじめたいと思います」 34:39

 

 

  ファンダムとの相互作用を込みにしたゲームシステムのありかた;口コミ・ゲーセンノートとドルアーガの高難度(’84)、SNS映えと『OW』の動的物理演算('13)、配信プレイ映えと『シレン』再評価と『StS』('17)

 また、この論文には、ぼくの別の関心事にもふれた話題があり、ここも面白かったです。

 ぼくがよくblogとかを見ているかもリバーさんが……

 ……こんなことをつぶやいていたんですね。

 この言自体は……

topics.nintendo.co.jp

 ……2017年にでたSlay the Spire』というゲームにかんする製作者インタビューを受けてのものだったみたいなのですが、たしかに「おぉ~そんな時代か~!」とわくわくするお話です。

 そもそも操作コンソールを直接的に扱うのがひとりの作品であっても、ゲームvs操作者という一対一の閉じた環境を想定していない、もっと広い層を想定したうえで設計されたゲームというのは、商用インターネットが登場するまえの時点からアレコレあったとのことで。

 たとえばルアーガの塔』('84)は、そのゲームデザインレベルデザイン)に、当時のゲームセンター事情が密接にかかわっているみたい。

 ――ノートが流行りだすキッカケになったゲームとかがあったんですか?

 遠藤 (略)異様にたくさんの謎がちりばめられた、絶対に一人では解けないようなゲームがありまして……。

   KADOKAWA(角川新書刊)、電ファミニコゲーマー編集部『ゲームの企画書① どんな子供でも遊べなければならない』kindle版6%(位置No.2736中 148)、「第1章 伝説のアーケードゲームゼビウス』」より

  『ドルアーガの塔』ディレクターの遠藤雅伸氏は電ファミニコゲーマー編集部のインタビューにこう答えます。

 遠藤 (略)あれは明らかにゲーマー同士の口コミの伝播を想定したゲームなんですよ。少し前に『ひぐらしのなく頃に』が、ネットでの謎解きの議論がなければ成立しなかったという話があったけど、当時の僕は、まさにゲーセンノートを使ってそれをやろうと考えたんです。

   KADOKAWA(角川新書刊)、電ファミニコゲーマー編集部『ゲームの企画書① どんな子供でも遊べなければならない』kindle版7%(位置No.2736中 157)、「第1章 伝説のアーケードゲームゼビウス』」より

 インターネットが地球を覆い、世界中の人がひとつの作品について一斉にプレイしたりする21世紀において発表された、小島秀夫監督によるゲーム.T.』(’14)。これもまた、上述『ドルアーガ』の延長線上にあるデザインのように思えます。

「P.T.」では、ずっと進んでいき最後に用意されたパズルを解くことになるが、このパズルはわざと難しく作られているという。小島監督は「世界中の様々な言語の人が協力しながら解かなければならず、それ故に解くのに1週間くらいかかると思っていたが、最近のプレーヤーさんはすごくて半日で解かれてしまった。でも、Twitchなどで、このゲームを媒介にして、コミュニケーションを取って解いてもらったという状況には満足している」と語り目的は達することができているようだ。

   GAME Watch掲載、『KONAMI・小島秀夫監督、公開インタビュー 新作「SILENT HILLS」の制作を明らかに! 「P.T.」はティザーゲームだった!!』(太字強調は引用者による)

 配信を見ている他プレイヤーも、もちろん直接的な操作者ではないけれどかれと一緒になって考えプレイする/できるという点では、『Slay the Spire』が工夫したゲーム画面構成も、もしかするとこの範疇に含まれるのかもしれません。(またちょっと違う気もしますが、きちんと腑分けできるまではそういうことにしておいちゃいます……)

 

 ゲーム実況プレイ配信が華やかなりし現在、名の知れた実況者から「実況向きだ」ととあるゲームが再評価の光を浴びました。

――実況者の人たちに「『シレン』がいかに実況向きのゲームか」を聞かされたことは、何度もあります。まずランダム要素が強いから、何回でも楽しめる。しかも、罠のような理不尽さも適度にあって、みんなで笑いあえる。その上、中村さんがおっしゃっていた「自分自身のスキルを上げていくところ」があるから、人によってプレイが個性的になるんですよね。

中村 そういう意味では、このゲームは他人がやっているのを見るのがとても楽しいゲームだとは思いますね。不思議なくらいに不幸が連鎖したりするじゃないですか。この「やってしまった感」というのが楽しいですよね(笑)

――モンスターハウスで実況者が慌てているというのが、定番の見どころですからね。

   KADOKAWA(角川新書刊)、電ファミニコゲーマー編集部『ゲームの企画書① どんな子供でも遊べなければならない』kindle版71%(位置No.2736中 1909)、「第3章 1000回遊べる『不思議のダンジョン』」より

 ときに極端すぎるくらいに極端な珍事をひきおこすランダム要素による一回性。電ファミニコゲーマー編集部がスパイク・チュンソフト中村光一会長とディレクター長畑成一郎氏にインタビューをおこなったさいに出たこの話題は、まさしく今回紹介した論文でビーチャム氏が『Outer Wilds』がファンダム受けしそうだと見込んだ点です。

(じっさい先日の京都SFフェスティバル2020でも、プレイヤーそれぞれによってまったく異なる攻略順や攻略の仕方、物理演算のなせるいたずらについて話題が盛り上がりました)

 論文にあるとおり、ビーチャム氏はスパイク・チュンソフトのあるいみ批判的検討として『OW』のタイムループを考えていたわけですが、同社の別作品来のシレンシリーズと似通いがみられるのは、おもしろい偶然だなぁと思いました。

 

 論文にかかれたことが全てではない;6年の月日を経て完成されたゲームへ

 さて、論文内でとても明け透けにつまびらかに語られた『Outer Wilds』ですが、本文にもあるとおり、これが執筆当初はまだ未完成で、そこから6年が経った2019年についに完成したわけですね。

 開発をすすめていく過程で、ビーチャム氏らスタッフたちでさえもが「自分たちが作っているのはこういうゲームだったんだ」という気づきを得て大幅な方向転換をしたりしていたような、動的に変化していった作品です。

 さらに抜本的な再々出発だって、あったっておかしくありません。

 ゲーム未プレイでこの論考だけを読んでしまった奇特なあなた、この論考を読んだからといって「じゃあ完成版やらんでいいわ」とお思いになるのは時期尚早なのですよ!

 

 この論考で描かれていない、それどころか作り手でさえ気づかなかった『Outer Wilds』の魅力だって、まだまだいっぱいあるはずです。

 あの宇宙にはそんな途方も知れない巨大さがあります。

 未プレイのあなたが/あるいはプレイ済みのあなたがもう一度、あのふしぎでヘンテコな――しかし興味ぶかいあの宇宙へと踏み入れてくれたら/あとせっかくなら太陽につっこんで死んでくれたら、そしてさらには、あなたが冒険で気づき考えた日々について聞かせてくれたら、それほど幸せなことはありません。

 

 

 

(追記)後日、参照文献のふたつ等を勝手に訳して紹介しました

 この記事をアップした翌年10月に、『Outer Wilds』関連の記事をまた書きました。

zzz-zzzz.hatenablog.com

 今回紹介した論文に引用されていたヘンリー・ジェンキンズ著『GAME DESIGN AS NARRATIVE ARCHITECTURE(物語による建築物としてのゲームデザインとボニー・ルバーク取材『Clint Hocking Speaks Out On The Virtues Of Exploration(クリント・ホッキングが語る冒険の美徳)。そして『OW』論文と直接的なかかわりがあるわけではないけれど、うえのジェンキンズ氏のエッセイ内で引用された別記事のひとつ、ドン・カーソン著『Environmental Storytelling: Creating Immersive 3D Worlds Using Lessons Learned from the Theme Park Industry(環境ストーリーテリング:遊園地産業から学ぶ没入型3D世界の創造)を勝手に訳して紹介した記事です。

 

 

更新履歴

9/21 アップ 69751字(訳文21000字+原文42782字)

9/22 朝 追記  72761字 ストロス氏のblog記事を引用することで、宇宙を舞台にした一般的な作品との物差しを文中に示した。

9/22 15時 追記  76545字 まあ序盤のことだしと考えを改め、商業版イントロと直後のネタバレをした「タルいと思ったイントロが実はすでに意図された報酬系に取り込まれた証拠だった;テーマの突き詰めのスゴさ①」を書いた

9/28 13時 追記  82768字 「実装されたゲームシステムによりシナリオが結末を逆転するほど再校される;構造と物語が相互に影響する制作過程」について、うまいこと言ったろう力に欠けてたので追記した。

21年10/24 追記 87000字 参照文献のうちの2つ等を勝手に訳した記事『訳文;「そこにはなんの報酬もありません。このゲームが何を為していてどう機能しているのか、ただただ見ていたかったのです」ジェンキンズ、カーソン、ホッキング、『Outer Wilds』へつづく2,3の論考』へのリンクを追加。ほぼ日刊イトイ新聞『樹の上の秘密基地』インタビューから『ムジュラの仮面』に関する言及を引用。

21年10/28 追記と訳文改稿 89000字 『OW』論文内でプレイヤーキャラクターに使われた「she」「her」を訳文へ反映するとともに、脚注でそこへ関係しそうなホッキング氏の言を引用紹介する。

22年02/08 補足説明 90900字 論文内の「curiosity」と「Curiosity/Curiosities」について鬼頭氏のツイートを引用するとともに、アップ当初からの訳しわけとそこでこねくりだした造語「好奇芯」の説明をいまさらながらした。

22年5/10 修正 論文の掲載アドレスが、http://digitallibrary.usc.edu/cdm/ref/collection/p15799coll3/id/248860から、https://digitallibrary.usc.edu/asset-management/2A3BF163YX5Aに移ったので張りなおす。

23年12/28 追記 任天堂『「Hello! インディー」なぜマシュマロを焼くのか? 『Outer Wilds』開発者インタビュー。』の紹介を追加するとともに、記事の訳も見直す。

24年1/13 改稿 「(寄り道)一触即反応~」に<カービィ>シリーズのゲームデザインについてディレクターが触れたコラムを追加し、話のつながりをなめらかにした。

 

 

 

 

 

*1:KADOKAWA(角川新書刊)、電ファミニコゲーマー編集部『ゲームの企画書① どんな子供でも遊べなければならない』kindle版22%(位置No.2736中 590)、「第1章 伝説のアーケードゲームゼビウス』」より

*2:訳注=商業版では22分。zzz_zzzzの調査不足ゆえ、論文ではキリの良い数字を言ったのか、当時は20分だったのか、ちょっとわかりません。

*3:21年にアップした記事で勝手に訳して紹介しました

*4:ここでの見解は、ホッキング氏が現実世界の冒険者100人にかんするアンソロジーを読んでなどリサーチして得たもの。

*5:(2022/02/08追記)この記事をおよみいただいたかたのうち、論文内の「Curiosities」をどう訳すかについて問題提起してくださっているかたがいらっしゃいました。

Outer Wildsの作者の論文中に“Curiosities”という単語が出てくるんだけど、「好奇心」ではなくヴンダーカンマー=Cabinet of curiositiesの方の意味で使われてる所がある様に思います。この場合、ピッタリくる日本語訳ってあります…?骨董も珍奇も合わないんですよねぇ。

   Twitter、鬼頭雅英@kito_mas、2022年2月2日午後10:47のツイート

ヴンダーカンマーも「驚異の部屋」って訳されたりするけど、全然ピンとこない。骨董ともちょっと違うし…。

   Twitter、鬼頭雅英@kito_mas、2022年2月2日午後10:47のツイート

Outer Wildsの世界には秘匿された4つのCuriositiesがあり、そこに到達できれば星系の謎が解ける…という事から、このCuriositiesは「好奇心」ではなく「珍奇品」の意味と思うけど、それと「好奇心駆動型の冒険(curiosity­-driven exploration)」というコンセプトが掛けられてるからまたややこしい…

   Twitter、鬼頭雅英@kito_mas、2022年2月2日午後10:59のツイート

 zzz_zzzzのこの記事/blogでは「curiosity」を「好奇」、頭文字が大文字の「Curiosity(Curiosities)」を「好奇」と訳しています

 「好奇芯」は造語ですね。アップ当初からしれっと使ってるくせに、そんな自分ワードをつくった理由について説明してなかったので、遅くなりましたが経緯を書きます。

 まず①curiosityについてweblio辞書ケンブリッジ英英辞典を引くと、不可算名詞として「好奇心」や「珍奇」、「物珍しさ」というinterstに近い意味。可算名詞として「珍奇なもの」とか「骨董品」というstrange objectに近い意味の語であると出てきます。

 他方で②論文で説明される「Curiosities」とは、いろんな「関心ポイント群」の矢印があつまる中心であり、『OW』のコンセプトである「好奇心駆動の冒険」の「curiosity」とも重なる語でもあります。(その意味で、鬼頭氏の「珍奇品」は、「好奇心」と字とひびきが似ていて素敵です)

 また③『OW』ゲーム本編での存在としては、各惑星の物理的な中心にあるものである。その中心にあるものは、持ち運べる「品」らしい「品」=物質であることもあれば、物性にとらわれない情報であることもある。つまり物質であるとはかぎらない(?)んですよね……

 ……色々と悩んだ結果zzz_zzzzとしては、「好奇芯」という造語をこねくりだしました。

*6:この文章について、長らく丸カッコを除いたかたちの訳文を掲載してきましたが、引用されたクリント・ホッキング氏のインタビュー記事を読み、改めました。

 ゲーマスートラの取材者から出た「冒険をおこなうゲームプレイヤーは女性が多い印象がある」というお話にたいして、ホッキング氏は、現実世界の冒険家100人について扱ったアンソロジーのなかで4人しか女性冒険家がいなかったこと・それにたいする問題提起がアンソロジーの最初に書かれた話題のひとつだったことを述べ、さらに続けます。

 化的偏見があるせいで女性の仕事の多くは記録にのこされなかったか、二流とみなされたかして、歴史から消えてしまいました。また、伝統的役割のために男性が海を船で渡るための資金を女王からもらうことができた半面、女性はそうではありませんでした。

 つまり「男性は冒険者である」というこの文化史は、明確にジェンダーバイアスが作り出したものなんですよ。ゲームによってそれが変わった、そしてけっきょく冒険とはもっと女性が情熱を注げるものだった、ということなんじゃないでしょうか?

 There's a cultural bias there because a lot of the female work wasn't recorded or it was considered second-rate and disappeared in history. Also, because of traditional roles a man could get money from the queen to sail across the sea whereas a woman wouldn’t be able to do that. So there are definitely gender biases that created this cultural history of males being the explorers. I wonder if maybe that has changed with games and if maybe it is more of a feminine verve after all.

   Gamedeveloper、Bonnie Ruberg『Clint Hocking Speaks Out On The Virtues Of Exploration(クリント・ホッキングが語る冒険の美徳)』

 このくだりで出てくる「she」や「her」を抜かして訳したのは、『Outer Wilds』ゲーム本編をプレイしていても特に主人公の性別にかんする記述を見かけた覚えがないためと、文章的にスッキリ読みやすいためでしたが。しかし、こうしたお話があったうえで使われたと考えると、みだりに省くべきではないと思いました。

 ただ、文章的にゴチャゴチャしちゃうのはゴチャゴチャしちゃうので、丸カッコ書きにしました。なんかよい解決策ごぞんじのかたいらっしゃいましたら、ご教示くださると幸いです。

*7:21年にアップした記事で勝手に訳して紹介しました

*8:訳注;「レベルデザイン」などで用いられる「レベル」。

 つまり「第1面(だから回復アイテムが豊富で、即死穴の少ない平原や林。敵は小動物や草食動物で、温厚だったり鈍感だったり……とプレイヤーに対して攻撃的じゃない)」とか、「ラスボスのいる最終ステージ(だからおどろおどろしい音楽が流れ、暗がりや溶岩地帯だらけで、敵も大きく危うくしかも武装したうえでいっぱいプレイヤーを待ち構えてる)」とかそういうアレっぽい。

JRPGでおなじみの経験値をためるとアップしていくキャラの強さを表す「レベル」とはちがうっぽいし、またそこから派生する形でzzz_zzzzがこの記事冒頭「内容ざっと説明」でつかったような、「度合い」「程度」あたりを意味するカタカナ語の「レベル」でもないようです)

*9:2001年宇宙の旅』インターミッション明け直後、1:322:20~のシーン。

*10:ダイヤモンド社刊、玉樹真一郎著『「ついやってしまう」体験のつくりかた――人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』kindle版11%(位置No.1988中 210)、「第一章 人はなぜ「ついやってしまう」のか直感のデザイン」内「メッセンジャーとしてのマリオ」より。

*11:ダイヤモンド社刊、玉樹真一郎著『「ついやってしまう」体験のつくりかた――人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』kindle版12%(位置No.1988中 217)より。

*12:ダイヤモンド社刊、玉樹真一郎著『「ついやってしまう」体験のつくりかた――人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』kindle版12%(位置No.1988中 213)より)

*13:(あるいは結果的に、なってしまった)

*14:いやまぁ世界を相手にした商業作品であることには変わりありませんから、面白い・快適なプレイのためのデフォルメや簡略化はなされています。

 『OW』はふつうのゲームの時空間とは違うと思うけど、現実の宇宙(宇宙探査)ともまた違う部分だって大いにあり、そうであることの理屈づけがゲーム内で分かるかといったらそうでもない(いろんなことが未知の物質とか未知の文明とかで達成されている世界なので)

 だから「考証かんぺき!」と諸手を挙げて推薦できる作品ではないでしょうし、「"宇宙を題材にした研究・作品で培われたエキゾチズムをいただいているだけだ"という点では、『OW』もほかの作品もかわらない」という批判はできましょう。

*15:『桜井政博のゲームについて思うことDX』kindle版66%(位置No.232中 154)3行目、「あおれ! 冒険心」より。

*16:『桜井政博のゲームについて思うことDX』kindle版66%(位置No.232中 154)4~5行目より。

*17:『桜井政博のゲームについて思うことDX』kindle版66%(位置No.232中 154)3行目より。

*18:『桜井政博のゲームについて思うことDX』kindle版66%(位置No.232中 154)4行目より。

*19:『桜井政博のゲームについて思うことDX』kindle版66%(位置No.232中 154)12行目より。

*20:※現行ゲーム=コラムが執筆された2006年当時。

*21:糸井重里運営ほぼ日刊イトイ新聞「樹の上の秘密基地」【第11回】「ゼルダの伝説〜ムジュラの仮面」〜新しいゼルダを、とことん語ろう 〜「第11回の3 ただ退屈なだけで、ワクワクせえへんことは、やりたくない。その結果がこのゼルダなんです。より。