すやすや眠るみたくすらすら書けたら

だらだらなのが悲しい現実。(更新目標;毎月曜)

『印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション』感想

 渋谷Bunkamuraで6月30日まで開催中の『印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション』展に行ってきました。

 以下感想。4100字(初投稿時3400字)くらい。

※『印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション』展のネタバレした感想が続きます。ご注意ください。※

 

 

約言

 面白かったです。ようやく立体造形としての油彩画の面白さがわかってきたこともあり、なおのこと楽しめた。

 内容;グラスゴーの海運王W・バレル氏の蒐集品から、フランス印象派絵画を中心に、地元画家グラスゴー・ボーイズやらスコティッシュ・カラリストやら)の作なども展示。

 記述;印象派の中でも、写実寄りの絵が多め。

 図録;展示のキャプション以上の説明とかはなさそう(展示場に解説のない絵は図録でもないように思う)。絵によっては全体像のほか接写アリ。

 ここ好き;ボンヴァン『水差し、チーズ、玉ねぎ、魚、ナイフのある静物』ラトゥール『桃』=立体造形物としての油彩画の魅力。

 ペプロー『バラ』=明暗と色の鮮やかさに。自分について「コントラスト弱い絵しか描けねえなあ」と痛感したばっかりだったので。

 ドガ『リハーサル』=右の人の180度足開いて座る辺りの、その職の人ならではの身体をきちんと拾う目配り。

  A・メルヴィルの水彩2点=絵柄かっこいい。。。曜変的な滲み。

 ブーダン『トゥルーヴィルの海岸の皇后ウジェニー』作品全般(実物はもっと色味が鮮やかだった)=絵柄かっこいい。。。

 

 

ざっと感想

 スコットランドグラスゴーの海運王ウィリアム・バレル氏が蒐集した美術品から、フランス印象派絵画を中心に、地元画家一派グラスゴー・ボーイズ(や彼らの先輩筋のアーサー・メルヴィルの作なども並べた展示です。

 本国の美術館の改装にともない実現したと云うこの企画展、バレル氏は美術品を寄贈するさいいくつか条件を出していて(「空気のきれいな郊外の美術館で……」とか)そのうちひとつが外国への貸し出し厳禁。ということで「次の来日はあるのかあやしいぞ」なんて旨の話もありました。

 絵は静物画から動物画、室内画から戸外、風景画までいろいろ拝めました。

 印象派と言っても写実寄りなので、抽象的なようわからん絵がいまいちピンとこないひと(まあぼくなんですが……)にも馴染みやすいんではないでしょうか。

 また、バレル氏の地元であるグラスゴースコットランドで活躍した画家の絵があれこれ拝めるのもよかったですね。アーサー・メルヴィル氏は米ウィキペディアに載ってる写実的な油彩画とちがって、本展で拝めた水彩画は「にじみ(ブラテスクと言うらしい)」がぽつぽつと曜変みたいについたカッコイイ画でした。画家一派グラスゴー・ボーイズの一員ジョゼフ・クロホール氏も独特でかっこよかったですね。

 絵のなかでお気に入りはフランソワ・ボンヴァン氏の『水差し、チーズ、玉ねぎ、魚、ナイフのある静物』と、アンリ・ファンタン=ラトゥール氏『桃』。絵の具が一部分が盛り上がるようにのせられていて、立体造形物としての油彩画の魅力をかんじました。

 いくつかの絵に関しては、なんと写真撮影OKでした。筆味を接写したりしましたよ。この撮影可能場所の位置づけも、展示の流れに合ってましたね。撮影可能場所をどこにするかも展示の一要素・ドラマになりうるのだなあと思いながら鑑賞しました。

 

 

絵について

 フランソワ・ボンヴァン氏『水差し、チーズ、玉ねぎ、魚、ナイフのある静物』

 チーズがおいしそうでした。というのも、チーズの断面の先端の白いハイライトが、絵の具たっぷりで描かれそこだけ盛り上がり、つややかな光を放つ(室内の照明を照り返す)ようになっていたんですよ。そこは図録では伝わらない部分で、実物を拝む醍醐味をおぼえました。

(図録の掲載ページはp.66)

 

 アンリ・ファンタン=ラトゥール氏『桃』

 美味しそうなだけじゃない桃の魅力が描かれていました。桃のごわごわした質感が、絵の具を凸凹させることで再現されていてよかったです。

 こちらについては図録で(全体の写真のほかに)接写が載せられていて、それなりに伝わります。

(図録の掲載ページはp.74~75)

 

 サミュエル・ジョン・ペプロー氏『バラ』

 スコティッシュ・カラリストと呼ばれる4人の画家のうちのお一方だそう。

 真っ黒な背景から、花瓶につかわれた中国製陶器の白やガラス瓶や水面の白、バラの鮮やかで明るい桃色が浮かび上がるように描かれたヴィヴィッドな一枚。早描きという感じの筆致なんですが、ぼくがお絵描き教室でサイズを指で測ったりしながらしこしこ描いた絵よりもはるかに立体的なんですよね。構図もよく考慮されていて、画面の対角線上にモチーフが程よく配置されています。荒っぽさとまじで荒いことって別だよなあなんてわが身を反省する一枚でした。

(図録の掲載ページはp.89~91)

 

 エドガー・ドガ氏『リハーサル』 

  構図などについては公式サイトのインタビューページのひとり美術史家ソフィー・リチャード氏のお話が参考になりますね。

 個人的に感動したのは、画面の右側で座る水色の上着の女性の座りかたですね。ちょっと座るだけでもペンギンみたくなってしまうみたいなお話はバレエ経験者からよく聞きますが、これはまさしくそれですよね。職業的習性が日常動作(というかケの身体)にまで及んでしまったさまをしっかり認め描いた、ドキュメンタリズム。

 フレデリック・ワイズマン監督のドキュメンタリー『BALLET アメリカン・バレエ・シアターの世界』では、観光中のダンサーがカメラを構えたさい高さ調整のため(膝を曲げるのでなく)開脚をもちいてしまうなど、日常動作にも職業性がにじみ出てしまうさまを映していて、とても感銘を受けたんですが、そうした興味深さが蘇る思いでした。

(図録の掲載ページはp.94~95)

 

  ウジェーヌ・ブーダン氏『トゥーク川土手の洗濯女』

 ブーダン氏は今展いちばん多い出品数だった気がします。おなじトゥーク川で洗濯する女性たちの絵はもう一枚あり(図録p.158-159)、そちらは遠近方向にのびる川へ洗濯する人が並んで、画面水平方向の中景にはレンガ積みの橋が架けられ、橋脚の奥には向こう岸の市街や緑が見え……と空間が楽しい一作ですが、個人的にはこちら。

 憶測でしかありませんけど、右端の女性の左肩のうえに見えるのが洗濯用の叩き棒なのではないか? と。風俗描写にひかれますし、ただ横一列に並べるだけでなくて、それぞれに違いを持たせているのもえらいなあと。

 (図録の掲載ページはp.160~161)

 

  ジョゼフ・クロホール 『二輪馬車』

 二輪馬車にのる女性は家庭教師だそうで、海運王バレルは妹のためにフランス人の教師を招いていたそう。 絵のモデルがその先生本人というわけではないそうですけど、当時の文化を感じられるような要素があって面白いですね。

 花や草あるいは窓などに反射する空そのもの自体を描くというよりも、絵の具をぽつぽつと置くような赤や緑あるいは青は、後述するアーサー・メルヴィル氏の水彩画のタッチを思わせ、なるほど影響関係があるなあと思いました。

(図録の掲載ページはp.106~107)

 

  アーサー・メルヴィル氏『ホワイトホース・インの目印』

f:id:zzz_zzzz:20190625162858j:plain

(上の絵は図録を写真で撮りました。右側が白んでいるのは光の照り返しで、現物はそんなことなかったです)

 かっこいいとうっとりした一枚ですね。デッサンのとれた構図にぽつりぽつりじわりじわりと配された、にじみがーー図録曰く専門用語的にはブロテスクがーー曜変みたいに美しい。

 メルヴィル氏は今展ではもう一作、市場の絵が飾られていて、そちらもすてきでした。

 (図録の掲載ページはp.104~105)

 

  ジョゼフ・クロホール氏『山腹の山羊、タンジールにて』

f:id:zzz_zzzz:20190625162901j:plain

(上の絵は図録を写真で撮りました)

 『二輪馬車』のクロホール氏の別作。抽象寄りで、水彩のにじみもより強く出た作品ですね。でもメルヴィル氏とはまた別の路線に思える。今展で紹介されたクロホール氏の作品はこの路線のタッチのほうが多かった。かっこよかったですね~。

 ブログに載せるサイズだと、どれがなにか分かるんですけど、38.7 × 33.7cmの現物で見ると、描線ひとつひとつのインパクトがつよく出て、モノとモノとの境界があいまいな、どこまでが土で枝で羊で人なのか判別つかない、混然とした様相をていしていました。

 (図録の掲載ページはp.146~147)

 

 

展示について

 公式サイトの章解説にあるとおり3章仕立てで、室内や静物画(黒の目立つ作品)から、戸外(ドガ『リハーサル』のように室内画でも明るい絵、戸外の自然光の感じられる作品)、外洋(空や川、海の広さや青さが目立つ作品)へと世界が開けていくような並びになっています。

 同じ「暗い風景」でも1章と3章とではぜんぜん違っていて、1章はテオドゥール・リボーの室内画3枚に見られるモチーフを明るく浮かび上がらせるために背景を真っ黒にするテネブリズムを利かせたものや、静物画のこれまたモチーフを目立たせるための黒さでしたが。3章は、ヤーコプ・マリス氏『ドルドレヒトの思い出』(リンク先の絵は、ちょっと彩度が潰れてますね。画面左1/3の人の水色も、右1/3の人の赤ももっと鮮やかでした。)のように日が水平線ちかくで陰になった建物や船のみせる黄味がかった黒だったり、アンリ・ル・シダネル氏『月明かりの入り江』の月夜の青黒さだったりするのです。

 

 撮影可能な展示物は3章の最後で、これもよかったです。

 シャッター音がさざ波のように響く館内。明褐色の館内ブラケットをはおったご婦人と、ブーダン『トゥルービルの海岸の皇后ウジェニー』の浜辺でオレンジの上着を羽織った貴婦人らが並び立つ姿。アンリ・ル・シダネル『月明かりの入り江』で絵の具を厚く置かれた黄色い光のように、浮かび上がるスマホの光。

f:id:zzz_zzzz:20190625101035j:plain  f:id:zzz_zzzz:20190625095830j:plain

 室内からはじまった世界は、外洋をでて、ついに日本の地にまでたどり着いた。

 そんなことを思いながら眺めてました。

 

 

(余談)美術館巡り

 展示めぐりは学生時代こそよくしていたものの、最近はめっきり行かなくなっていました。まだ30歳の若輩者がこう言うのもアレですけど基礎体力が落ちたせいか、一日そとにでると疲れてしまい、ぼくはそれが頭痛として出がちなんですね(。今回も途中イスで休んで足を揉んだし、回りきるころにはヘッドホンした頭に多少の痛みを感じた)。

 久々に行ってみたらいやはや楽しいですね。

 最近はわずかなりとも絵を描く時間も増えたからなのかな、絵を楽しむポイントが昔よりも増えた気がします。