すやすや眠るみたくすらすら書けたら

だらだらなのが悲しい現実。(更新目標;毎月曜)

日記;2020/03/17~03/23

 日記です。6300字くらい。『顔の美醜について』再読してチャン先生に知性と知識を無駄遣いしてほしいと思いました。

 ※言及したトピックについてネタバレした文章がつづきます。ご注意ください※

 この1週間で書きもの(感想)が3万字くらい進みました。がそんな印象ない。引用・出典表記でどんどん文字数がふくらんでしまう。4月には公開できそうだぞ。

0317(火)

 たしか21時ごろに電話とかかかってきたりしたはず。

 

0318(水)

 宿直日。 朝6時くらいにも職場へ行くことになった。

 

0319(木)

 宿直明け日。 晩御飯はカレーでした。

 

0320(金)

 眠くて日中寝ていました。昨晩のカレーの残りを昼ごはんにたべる。

 ■読みもの■

 『ローマという名の島宇宙』を読んだ気がする。感想はそのうち。

  テッド・チャン著『の美醜について――ドキュメンタリー――』読書メモ

 それは何ですか;あなたの人生の物語』で有名なチャンの短編小説です。件の短編集に収録。(Kindle版は4/13まで半額セール)

  再読した感想;美醜失認処置というテクノロジーが生まれた世界における聞き書き集形式の小説で、オーラル・ヒストリーの大家スタッズ・ターケル氏の仕事(本によっては、発言に入るまえインタビュー相手の略歴などが長々前書かれることもある。)をさらに純化させ、声だけを連ねるかたちとなっています。

 美醜失認ガジェット導入をきめたコミュニティや家庭の話もあれば、鳥がある条件下においてじぶんの産んだ卵より偽物の卵を温めてしまう超正常刺激などの生物学的不思議が説かれたり、あるいは語源学がはじまって美に関する単語に共通する起源が説かれたり……と、話題は多岐にわたります。

 ひさびさ読んで驚いたんですが、今作にはポリティカル・コレクトネスの暴走ぶりの最新の一例だ」(邦訳文ママ)*1として一部知識人が反発するシーンがあるんですけど、これ初出がゲーマーゲート論争さえ干支ひとまわり前である2002年発表なんですよね……。

 美醜失認処置の全面導入するか否かの投票で揺れる学生を中心とした美醜にかんする世論の多角的かつもっともらしいスケッチがなされるなかで、外部ではちょっと荒唐無稽にも思える大きな動きがチラつくのですが、これがまた……。

 正直、このTVの向こうの外界の動きが読み返して一番興奮しました。

 『顔の美醜について』は某短編集の感想用に読んだんですが、そっちと無関係の併載作解』なんかも読み返してみたくなりちょこっとクリックしたらドンドン読んでしまった。チャン初体験の中高生時代に「SFってこんなんもあるんだ! すげえ!」と思った作品は『バビロンの塔』とか『七十二文字』とかで、『理解』は面白いけどあんまピンとこなかったんですが、読み返したらめっちゃくちゃ面白くって困ってしまった。書きものに無関係なのに……でも止められないんだ……。

 チャン先生、啓蒙的なテーマとかメッセージ性とかが全然こめられてない、通俗アクションとか諜報サスペンスとかって書いてくれないのかな……。人類最高の知性と知識を、徳とか倫理とか皆無の多人数異能バトルアクションとか軍事シミュレーションとかなんかそういうので浪費してください! おねがいします!!! とオタクの欲望が噴出してしまった。

 

0321(土)

 眠くて日中寝ていました。

 ■読みもの■

  アーシェラ・K・ル・グィン著『帝国よりも大きくゆるやかに』読書メモ

 それは何ですか;ゲド戦記』で有名なル・グィン氏の編集『風の十二方位』収録の短編SF。電子書籍ふくめ流通アリkindle版は4/12まで半額セール中。

 序盤のあらすじ;

 宇宙連合の創成期に、地球のひとびとは真の異境を探しもとめ長旅へでた。極地調査隊のそうした志願者たちはおしなべて一つの特殊性を共有していた。彼らは狂人であった。つまるところ正気の人間が、十世紀さきでなければ受けとってもらえない情報を集めにでかけるだろうか?

 緑色の惑星4470へと向かう探検する宇宙船<グム>の船員たちは概ね協力していたが、ある男だけはその和になかった。

「彼にはがまんがならない。あの男は狂人だ。政府が企画した不適応性の実験として、モルモットがわりに乗せたというなら話は別だが」重科学者ポーロックが不満をあらわにする。

「ためしてみたらだなんて、そんないやしいことをいうなんてひどい」純潔とか童貞という言葉のない庭園惑星ベルディン人の、誰とでも寝る女が寝るのをこばんだ男。

「彼がわれわれの敵意に悩まされているとしたら、たえまない攻撃や侮辱でその敵意を増幅させているのではいでしょうか? 自閉症はどちらかといえば……」たしなめる統率官が口をつぐんだ。

「賛成」狂人だらけの船員からさえ狂人扱いされる男がメイン・キャビンに入ってきたのだ。「自閉症的内向性は、ぼくをとりまいているあんたらの安っぽい、手あかのついた感情よりはましだろう。あんた、いまどんな憎悪をかきたててるところかね、ポーロック? ぼくを見るにたえないか? ゆうべやってたような自体愛の訓練でもしたらどうだ? どこのどいつが、ぼくのテープをいじったんだ? ぼくのものには手を触れるな、だれでも。がまんならないんだ」……航行中から不穏な探検隊が辿りついた惑星とは? そこで調査隊は? というお話です。

 読んでみた感想;

 エンパシーという特殊能力をもったオスデンを中心として台風のようにうずまく、色々な人種の清濁混じったさまざまな思惑がおそろしくも面白い作品。感想本文で引いたようにル・グィン氏自身の認識としてはアクション少な目な非冒険・アクション作品とのことですが、いやいや冒険小説としても一級品の面白さがあります。

 心理を微細に広範に展開した結果、未知の惑星を探検するまえの宇宙船内の時点で不穏で不透明な緊張感があり、未知の惑星に辿りつけば流血沙汰があり事態に一層かすみがかかり、謎が謎を呼び、やがてそうした心的な爆発を可能とした状況がどういったものか人体の/宇宙の神秘の仔細が解き明かされ、明らかとなった異質さ/崇高さに圧倒されてしまいました。

 

  ユエミチタカ著『超能力が必要』「マルチヒロイン」読書メモ

 それは何ですか;ユエミチタカ氏の短編SF漫画。今作を収録した『超日常の少女群』イースト・プレスから紙と電子書籍が流通中

序盤のあらすじ;

「どうやったら好きになってくれる? キャラも変えるよ!」

「あなたがキャラを変える必要はないと思うわ。 必要なのはただひとつ…じ」

「ぢ? カナデさん!?」

 粉雪の舞う空を見上げたまま私は倒れた。

 夢……ではないらしい。気づくと私は学校の廊下に立っていて、私に関する一切の記憶がなかった。覚えてるのは名前だけ――

「ユキさん! もー待っててって言ったのに」

「ユキ……って誰のことよ、私の名前はミスズでしょ!?」

 再読した感想;

 多重人格の少女とその子にいつも付き合い補助する子のお話です。少女の人格は限りなく、補助役の子はおなじ人格と再会できたことはないと云う。なぜ補助をしつづけるのか? 過去の少女が言いそびれたこととは?

 『超日常の少女群』に同時収録された、漫符の怒りマークが現実の身体にあらわれる世界の思春期の子たちを主人公にした『シュリケン』シリーズや、時間を巻き戻す能力を手に入れた少女の夜更かしした翌朝の異様な感覚を漫画で描いた『超能力が必要』「ループ」などとおなじく、漫画という表現媒体を活かした人物描写がたのしい一作です。

 

0322(日)

 宿直日。

 ■読みもの■

 

  山本弘著『七パーセントのテンムー』読書メモ

 

 それは何ですか;脳科学モノ短編SFです。今作を収録した短編集『シュレディンガーのチョコパフェ』が早川書房(ハヤカワ文庫JA)から紙で、アドレナライズから電子書籍が流通中。〔新規購入者は値段・特典ともに後者がオススメです*2

 序盤のあらすじ;

「ねえ、聞いてよセンセイ、信じられる? 俺、テンムーなんだってさ!」

 私は科学雑誌向けの連載エッセイを書いていたところだった。キーボードを叩いていた指を止め、仕事部屋の入り口の方を振り返る。瞬は大学用のカバンとスーパーの袋を抱え、ドアにもたれぷんぷんむくれていた。同棲しだして八カ月、一三歳も下のそこそこイケメンの青年だ。

「テンムー? 駿が?」何かの冗談かと思った。数週間前、T大学医学部の知り合いから聞いた、セレブロの被験者のバイトを瞬に紹介してやったが、その話題はそれっきりだとばっかり思っていた。

「そうなんだよ! なあ、俺、ゾンビに見える?」……というお話です。

 読んでみた感想;

 上のあらすじでは削りましたが「ねえ、~」から「テンムー?~」の会話の間に、原稿用紙7割8分(314字)くらいが挟まる書き出しが巧い……。年下のイケメン云々というお話は、ともすれば鼻白む描写ですが、テンムーの詳細が明らかになるにつれ「あれって実は、語り手に取ってショッキングなことを伝えられたがために、つい"良かった探し"へ走ってしまったという、防衛機制的な文章だったのか?」と別の様相も見えてきて、さらに読み進め改めて読み返すとまたまた違った印象をいだいたりもする、一粒で何度もおいしいシーンです。

 けっこうネタバレになっちゃいますが、山本弘氏について、ぼくみたいに氏に疎いひとが雑に抱いている{し、識者にしたって『年少者に最新かつ最高のものを――第29回日本SF大賞選評』の飛浩隆氏による『MM9』評として「本書には、作者おとくいのオタク文化讃美や反知性的態度への批判が顔を出さない。それすら必要ないほど、本書はゆるぎない自明さの中にある」*3とあるように……実はそこまで見解を違えていないのでは? とさえ思える}トンデモ批判者というパブリックイメージ、これを山本氏は逆手にとった作劇をしていて「ナメてかかってすみませんでした!」となりました。

 短編集収録の他作『奥歯のスイッチを入れろ』は加速装置を有したサイボーグ兵士のお話で、『X-MEN』のクイックシルバーの高速アクションが好き・『00:00:00.01pm』が面白かったというかたはこちらもどうぞという感じです。「高速で動けることが可能だとして、単なる映像早回しで済ませられるか?(反語)」という丹念な想像力が興味ぶかい。高速アクションシーンが面白いのは当然として、高速アクションをしないケの日常の感覚の変容――高速で動けること・そうした身体を有することのおかしみを大きく取り上げていてゾクゾクしました。

 メデューサの呪文』も面白かったです。一部のひとが言っていた「『虐殺器官』は今作とアイデアがかぶってる」「酷似してる」というのがどのあたりのことを指している(だろう)のか分かってよかったです。

 ぼくとしてはアイデアにしても、似てるようでかなり違うのでは……という立場。

{今作の、外来の異生物からさずけられた、ひとたび聞けば耐性のない者がトリップしたみたいに狂乱の渦にまきこむ呪文らしい呪文と。

 『虐殺器官』の、生来もっていた気質にスイッチ押すバグ技(しかも通俗お笑い番組のスケッチにたとえられてしまうくらい日常に馴染みあるもの)で、ナチ軍人の「仕事だからやった」といったようなものや反体制軍事勢力が言いがちな「祖国のために」「故国防衛」みたいなマインドセットに傾きやすくするギミック/それに冒されたからといって別に虐殺以外することできない存在へと変わるわけでもないギミックとでは、まったく趣が異なると思う}

 

  長谷敏司著『allo, toi, toi』読書メモ

 それは何ですか;長谷敏司氏の短編(中編?)SFです。本作を収録した短編集『My Humanity』ハヤカワ文庫JAより紙と電子書籍から流通中(Kindle版は4/13まで半額セール)

 序盤のあらすじ;

「allo(もしもし), allo(もしもし)」

 人間のもっとも輝く季節――少女について想像していたチャップマンの耳元に、かわいらしい声が聞こえた。男性を知らない、まだ恋を知らない声だ。好きになってもらうよろこびと、褒めてもらうよろこびがまだ分離してない、本物の少女の声だった。

 こんなところに、女の子がいるはずもない。顔を上げても、房内にいる人間は自分だけだ。

 ここはグリーンヒル刑務所の独房。チャップマンは8歳の少女を強姦し四肢をバラバラに切断して殺した犯罪者だった。小児性愛者は囚人の中でも最下層民だ。独房の外ではチャップマンは誰とも目が合わないよう俯いて過ごし、もし話しかけられても口はぱくぱくとするだけで返事ができない。

 周囲の囚人に殴られなくて済む独房のために手を挙げたが、これこそがその本当の恩恵なのだろうか。チャップマンが耳の裏の端子をこねくりました。端子の奥には脳内機器があり、そこには性犯罪者矯正用プログラムがインストールされている。チャップマンは新進プログラムの試験者だった。

 再読した感想;

 制御言語ITPで動く脳内機器の、性犯罪者矯正用プログラムのテスターとなった小児性犯罪者チャップマンと、脳内に現れた女の子とのやり取りをえがいた作品です。

 そうしてチャップマンの意識の混線した価値分別が解きほぐされていくさまはスリリングで、そこについての面白味は京大SF・幻想研ブログの読書会(レジュメ)記事が理解の百助になります。

 地の文が多めで(ITP越しや独房で黙考するなど、冷静な気分に置かれたフィルタで濾された調子の)叙事的な文章がつらなって一見地味ですし、「"考えさせられました"って感想が連なる類いのムツカシイお話なのか?」と退くひとがでそうですが、読んでみると一挙一動に対比や変奏があり、ときに各場面に強烈なコントラストを生みだしながら作劇が展開されていきます。

(たとえばチャップマンがテスターになった御褒美としてITPに仕込んでもらった脳内TV受信機能をつうじて「お菓子の宣伝で、ピンク色の長い舌を出した少女が、ポルノグラビアのように大きな飴に舌をはわせていた*4さまに「性的過ぎる」と説教おじさんした次の場面では。「ずいぶん楽しそうじゃねえか」と現実の刑務所で同室だった囚人がマウンティングのため暴力をふるう直前に、自身の「唇を舌でなめた*5さまが描かれたりします)

 

0323(月)

 宿直明け日。

 ■書きもの■

  保存ミスが多い/はてblogの記事には文字数制限があるぞ

 はてなblogの記事ひとつあたりの文字数限界が見えてきました。フォントサイズ変えたり、リンクいっぱい張ったりしてるからそのへんの処理がどうなってるかわからんけど、現状15万8千字かいた記事だと、17万5千字くらいまで行くと「文字数多すぎて投稿できないよ!」と出るみたい。

 

*1:早川書房刊(ハヤカワ文庫SF)、テッド・チャン『あなたの人生の物語』Kindle版92%(位置No.5678中5196)

*2:{紙の文庫も表紙がポップで素敵だから迷うところですが}。後者には電書版後書きがあります{が、作品の影響元の開陳という点においては「文庫版あとがき(電書版ではこちらも収録!)で言われたのとほぼ変わらないかな?」って感じなので、文庫版持ってて本棚に困ってない人が新たに買い直すほどではないかも}

*3:『ポリフォニック・イリュージョン』kindle版67%(位置No.4796中 3155)

*4:早川書房刊(ハヤカワ文庫JA)、長谷敏司『My Humanity』Kindle版24%(位置No.3842中 906)、「allo, toi, toi」より。

*5:『My Humanity』Kindle版25%(位置No.3842中 930)。