すやすや眠るみたくすらすら書けたら

だらだらなのが悲しい現実。(更新目標;毎月曜)

 大逆転裁判第1話を再プレイしました。

 最初の尋問、『逆転1』第1話二,三問目とおなじく、マジカルですごい作問だよなぁとなりました。

 

(以下、話題にしたタイトルにかんするネタバレトークがつづきます。未プレイのかたはご注意をば!)

 

逆転裁判>シリーズプレイメモ;

「『4』こわいだろ」「『5』第一話ムツカシいだろ……」

「推理小説を面白いゲームへと再構築する(プレイヤーは名探偵じゃない問題をいかにクリアするか)」「ムジュン"つきつけ"をまちがい探し作業にしないための工夫、その良し悪し」「『5』『6』プレイ所感」

「ヒント強くする? 増やす? 異議あり! 『逆転裁判』『大逆転裁判』第1話最序盤における初心者でも解ける作問法」←この記事

 

 

大逆転裁判』第1話プレイメモ

 全体の感想;謎解きも世界観もめっちゃ良い感じの推理ゲームだよな(第2話序盤の話もちょこっと)

 大日本帝国に新しくできた洋食店で、一発の大音が鳴り響いた。

 文明開化の音? ある意味では。

 銃声だ。

 店内では、卓上のビフテキに背をむけて椅子に座した英国人紳士ジョン・ワトソンが、胸から血を流して死んでおり。彼の正面には学ランの日本人の青年・成歩堂龍之介が、拳銃を持って立ち尽くしていた。

「日英和親航海条約が締結されたのを知りながら英国人の命を奪うとはな!

 それも学びの園の"師"を殺害……恥を知るがよいッ!」

 店内にいた者がみな龍之介の犯行を証言し、店外でも英国との影響悪化を危惧した帝国軍人達が冷たくまなざす秘密裁判。しかし幸いにも同級生にして法学で英国留学をきめた優等生・亜双義一真が弁護士を買って出てくれた。

 安心したのも束の間、逆に龍之介の動揺はつよまる。

「やはり亜双義くんは君に言ってないのですね……ここで弁護失敗したら、英国留学も難破することを」

 恩師の御琴羽教授は、亜双義の覚悟を龍之介に明かした。それと同時に、救いの船も出す。

成歩堂くん。親友を救いたければ、裁判長の最初の質問に、迷わず"私です"と答えなさい」

 始まった裁判。裁判長から出た質問は、前提をくつがえし、龍之介をさらに驚かせるものだった……。

「本法廷において。被告人の弁護を行うのは、誰であるか?」

 

 現代の錬金術師でノベルゲー等々に詳しい かもリバー師が褒めていたので、「シリーズ仕切り直しの一作っぽいし」ということで手を出してみたところ、

転裁判>本家ってこんな面白かったんだ!? これはさすがに第一作からやらねば……」

 とzzz_zzzzが襟元をただすこととなったエピソードが逆転裁判』第1話です。

 『1』『6』をクリアして7ヶ月ぶりの再プレイとなりましたが、やはり素晴らしい!

 

 「ほとぐらひー(写真)」など、いくつかの小道具に論点が集中するコンパクトな謎解きがすばらしいし。

 そういった小道具や、いったんトピックが拡散していくかに思えた各種事件の真相などが終わってみればみんなみんな、新旧の価値観の衝突やお国事情がからんだ、ある時代のある地域のタブローとして集約されていく構成が素敵。

 謎解きも<ホームズ>シリーズのあるエピソードを見事に料理していてすばらしい。原典エピソード真相解明時のウマ味成分を抽出して、原典と同方向のオドロキを味わわせつつも、その旨みが溢れる過程は初期条件から結末まで全く変えて――だから今作第1話から<ホームズ>の当該エピソードへ遡及しても、きっちり驚き楽しめるハズ――、しかも「原典が詰め切れてなかった部分をかっちり独自の謎解きとして仕上げた上での再話」へと料理してくれておりました。

ウィキペディアを見て、「河出の詳注版、手元に置いておくべきか……?」となりました)

 

 謎解きゲームとしても、へたすれば料理のこないサイゼリアになりかねない逆転裁判シリーズの"遊び"において、つまり証言と法廷証拠の情報との間違い探しになりがちなムジュン"つきつけ"遊びにおいて、大逆転裁判』第1話の一連のアレは、答えがそのまま載っているんじゃなくって、与えられた情報を咀嚼して再解釈することでようやく突合できるシークエンスがあって、本当にちょうどよい塩梅だと思いました。

 

 大逆転裁判』第1話は、推理・探偵アクションを法廷内で完結させた、ステージクリア式推理ゲームとして抜きん出ています。

「このゲームの白眉はやっぱり"法廷"パートで、"探偵"パートってかったるいよな……」

 という気持ちが再燃しました。

 「法廷」パートだけで完結するこの構成は、<逆転裁判>シリーズだとむしろ変化球で(主に各タイトルの第1話目で採用されるチュートリアル的側面がつよいし)、今作においても第2話をチラッとやったかんじ、なんか全然ちがう方向に行く……というか、シリーズとしては正道である「探偵」パート&「法廷」パートの両輪構成で行くらしい。

 第2話以降もウマいこと仕上がっていると良いな……。

(しかも「探偵」パート、なんかだいぶ膨らまされてるっぽい……。

 それとは全然ちがう感想として、ホームズが出てきたけど大分ヤなやつなのと、第1話でチョイ役だった寿沙都さんが第2話序盤の時点だとだいぶヤなやつなので、またやる気が減退しております……)

(7/22)

 減退したやる気復活!

 「探偵」パートにおける大逆転裁判』新"遊び"、ホームズ推理まで来て、手のひら返させていただきます。オモロすぎる!

 

 

 第1話最初の尋問がメチャ興味ぶかい

 メインキャラクターどころか時代さえ一変してのシリーズ最新作(当時)

 シリーズお馴染みとなるムジュン"つきつけ"遊びの、第一問がおもしろかったです。「興味ぶかい」がより適切な表現かな)

 

 <逆転裁判>シリーズの幹となる"ムジュン""つきつけ"遊びとはなにか?

 約5つの証言のなかの1証言へ、n個ある法廷証拠のうちの特定のモノを"つきつけ"、ムジュンを指摘するという"遊び"です。

 法廷証拠が増えれば増えるほど選択肢が5個ずつ増えていき、難度がグングンあがっていきます。企画書の段階では「総当たりの効かない"実力主義"」のシステムとして打ち出されたものでした。

 

 歯応えある面白い遊びですけど、プレイヤーは名探偵じゃないから歯ごたえがあり過ぎても困る訳ですよね。ましてや最初なんて!

 云十万人と購入者のいる大規模流通作品です、プレイヤーのなかにはこのゲームシステムに今作で初めて触れると云うかたもいるだろうし、それどころか推理ゲームや推理物にはじめて触れるかただっているかもしれない。

 謎解きの難度が、低いところからはじまって高いところで終わる傾斜を描いてくれたらありがたい。

 

 

  謎解き初心者でも当てやすい作問とは?
   ▼ヒントを強くしたり、増やしたりするのは、匙加減で単なる作業になっちゃう(『逆転裁判4』『5』のツラさ)

 謎解き初心者のプレイヤーでも正解を当てやすい作問って一体どうすれば作れるんだろうか?

 

 ヒントがあからさまだと接待感が出たり作業になっちゃったりするし。

 同じ問題・解決に向けて別角度から触れるヒントを増やしたところで、もし答えとの距離や強度がどのヒントも全部おなじ距離おなじ強度であったなら、その迂遠さその弱さじゃ受信できないひとにとってはゼロに何を掛けたところでゼロ、無意味な施策になっちゃったりする。

 ヒントの匙加減ってムズカしい~!

 

 じっさい逆転裁判4『5』のヒント出しは謎解きの楽しみをガッツリ奪ってしまっています。

「新たに追加されたヒントモードを、おれは知らないうちにONにしちゃったのか……?」

 と勘違いするほどには簡単でした。

『逆転裁判5』第2話のあからさま過ぎるヒントについては、過去記事で該当シーンを引用しながら話題にしました)

 

 謎解きの難度設定について、『逆転裁判』第1話では、『逆転裁判』第1話ばりにおもしろい工夫がほどこされておりました。

 

 

   ▼ヒントは増やさない。正解択を増やす(『逆転裁判』『大逆転裁判』第1話 再序盤)

 大逆転裁判』第1話の最初の問題のこたえは、穴となる証言は1つで、カギとなる法廷証拠は穴のムジュンを突けるものが2種あり、そのどちらを"つきつけ"てもOK……という作問になっていました。

 この尋問時点での法廷証拠は全部で4つあり、1つは事件前から持っている偽選択肢みたいなモノ。だから実質3択、穴となる証言さえ突き止められたなら2/3のカギが正解となる問題なのでした。

 

 シリーズ第一作転裁判』第1話でも、複数回答OKな問題が二問続けて登場しました。

 どういう作問か?

 (チュートリアル的な第一問の次にでてくる)第二問は、穴となる証言は5つ全部で、カギとなる法廷証拠は1つ。第三問は、穴となる証言は4つのうち3つあり、カギとなる法廷証拠は1つ……という構成でした。

(カギとなる法廷証拠がわかれば、どの証言を選んでも正解という第二問。これをとけたら、3/4の証言どれかを選べば正解という第三問が待っている……という展開)

 

 ただ一つの正解へとつながるヒントを強くしたり多くしたりするんじゃなくて(=答えに近い情報をあらかじめ出すことでそれをなぞらせるんじゃなくて)プレイヤーがどれを選んでも正解となる仕組を用意する……

 ……これは推理物や謎解きゲームとしては、ちょっと不思議な経路じゃないでしょうか。

〔ミステリには「多重解決モノ」ってありますけど、それって「それぞれ全然ちがう推理だけど、どの推理もそれ相応の妥当性がある」っていうものじゃないですか?

 この記事で取り沙汰している逆転裁判』『大逆転裁判』第1話 最序盤の"つきつけ"遊びは、そういう方向性じゃないスよね。

{重複する手がかりがあるって、一方向の推理小説にとってはたぶんホスピタリティのたかい作品か(「解決編で"あっ! あの時のあれって……!!"と気づいてもらえないミステリほど悲しいものはない。手掛かりは半分も拾われないものと思って、むしろ沢山ばらまけ!!」という向きもありますよね)、そうでなければただ贅肉のおおくてエレガントさに欠ける作品ってだけだもんな……

 

 さて手品のなかにマルチプル・アウトってトリックがあるじゃないですか。

「あなた。

 あなたは、じしんの秘められた才能に気づいていますか?」

 トランプの山のなかから観客に一枚を取ってもらって表にする。ハートのエースを見た手品師は、「ほら、やっぱり!」と喜色満面、ある一点を指さす。

「私がひた隠しにしていた秘密を、あなたは見事に当ててしまった……」

 そんな手品師の声をBGMに、指さされた地点へ観客は向かう。するとそこにはカードが一枚あって、その図柄は自分がピックしたのと同じハートのエースだった……

 ……みたいなやつ。

 これのタネは、会場じゅうに前もってトランプすべてを隠しているというもの。

 観客のピックしたカードに応じて、それと同じ図柄のカードの隠された場所を明かすことでどんな場合でも正解にできる仕組みを用意することで成り立ったマジックです。

 ぼくはこれをちょっと思い浮かべましたよ。

 

 ゲーム企画者であり『1』『4』『大逆転』の監督・脚本なども担当する巧舟さんは、早稲田大学手品サークル出身(同時期のサークル部員に吉野弘幸さん大河内一楼さんで、カプコン採用面接でもマジックを披露されたと云います。その経験がなにかしら活かされているんじゃないかしらん。

{「プレイヤーであるじぶんは謎について自発的に注目したりそのカラクリについて気づいたり考えたり試行錯誤しているんだけど。

 でもこの自発性・自由というのは、そもそも、逆転裁判シリーズの肝である法廷バトルという結構によって注目点が指示され、試行錯誤範囲を策定されている箱庭のなかでのことであるよな……

 ……これってなんだかマジックぽい誘導・仕組みだよなぁ」

 みたいなことを思う。

(思うけど、マジック自体に詳しくないし調べないまま好き勝手言ってるだけのタダの印象論なので、実際にはぜんぜんちがうかもしれない。

 上のお話も、マルチプル・アウトよりもっと適切なマジックありそうな気がする……)

 

 

    ▽複数正解択がもたらした『逆転』第1話の混乱と、『大逆転』第1話の解消

 複数解がゆるされている逆転裁判』第1話『大逆転裁判』第1話のうち、大逆転裁判』がとりわけ良いのは、証言の穴じたいは一個なところ。

 穴が複数ある逆転裁判』第1話の作問は、それなりに理解力のある(けれど理解力のなさもそこそこある)プレイヤーにとっては「どの証言も穴があるように見えるけど、わざわざ選ばせるからには各証言で細かい違い(=正否)があるのかも? ……一体どれを選べばいいんだ?」と逆に混乱してしまうところがありました。

 

 『大逆転』だと、穴じたいは一つだけなので、そういった足踏みが避けられています。

「穴はひとつでもカギは複数なんだから、けっきょく上みたいな悩みは出ちゃうんじゃないの?」

 そこもウマいこと回避しております。

 複数あるカギも、よくよく振り返ると、じつは内容が完璧に重複しているわけじゃないんですよね。

 一方はそれ単体で情報が充分な花丸解答で。

 もう一方は、それ単体じゃ不十分な三角解答。それがNPCである先輩弁護士が補足説明したさいの言葉の圧によって、なんか正解になっただけ……

 ……というグラデーションがあります。

(問題の詳細は、「主人公は被害者を背後から撃った」と云う証言に対して、法廷証拠から「被害者が胸を撃たれている」という情報がある証拠品を"つきつけ"ることでムジュンを指摘する……というものです。

 花丸回答とzzz_zzzzが考える遺体検分記録と、三角回答な被害者の写真の違いについて。

 花丸回答遺体検分記録から得られる情報は、「午後2時すぎに死亡。胸部に銃弾を受け失血死。銃弾は遺体を貫通せず。」という証拠品説明文と、「Aくわしく」をインタラクトした結果として、「前述情報の詳細」。

 いっぽう三角回答被害者の写真から得られる情報は「被害者が写っている。胸部を正面から撃たれて死亡したようだ。」という証拠品説明文と、「Aくわしく」をインタラクトした結果として、「背もたれ部分に隙間がありそうな椅子*1に座って胸を撃たれた遺体の正面側の姿と背中については死角で見えない)、椅子の奥で血もなくキレイな食卓」という「視覚的情報」。*2

 前者とちがって後者では、「背後から入った銃弾が胸部へとそのまま貫通した」可能性が否定できない

 頭が良いかた・ロジックを詰めたかたはもちろんスッキリするし、がんばったけど今一歩なかたもやっぱり同じくスッキリする……そういう構成なのでした。

 

 どちらのカギを選んでも同じだけの報酬は得られるけれど、花丸解答の精度を求められる問題は今後でてくる。

 そのため、後者の三角解答なかたは今後の問題でより高い精度を求められたときに苦しくなるし。がんばって前者を出したかたは、今後も自力で解けるだけの筋力を得られる……

 ……という、数値化されない将来的な部分で影響が出るところが面白い。

{ただ、謎を解かせるためのトレーニングという意味では、ステップアップのための階段がないかなぁ。

 NPC先輩弁護士による助太刀が、もし三角解答をチョイスした場合に花丸解答への目配りをもしてくれるようなものだったら――つまり今後に挑むための種となる考えかた・詰めかたを暗にレクチャーしてくれるものであったなら――、zzz_zzzzのようなこの辺の"詰め"でつまずきがちな粗忽者としては嬉しかったろうなぁと思います。

(「この程度に自力で気づけないプレイヤーだと、このさきツラいぜ」

 というお話であればそれはそう)

 

 

*1:冒頭アニメにて椅子の全容が数秒数ショット登場していて。それによれば背もたれ部分は腰から背中支えられるかたちでしっかり板とクッションとが設けられており、隙間があるのは肩~肩甲骨の上ら辺だけというデザインでした。

*2:いちおう、「写真のとおり胸部に焦げ痕がある。これは至近距離で撃たれたという証拠だ」という旨のダイアログもあり。"てことは背中から撃たれたってことはないだろう"と見做せるだろうけど、モノクロの写真だから「焦げなのか血痕なのかよくわからんな」ではある。