任天堂の採用情報ページには『仕事を読み解くキーワード』というコーナーが載せられています。
理工系、デザイン系、サウンド系、制作企画系、事務系……任天堂ではたらく多様な職種のひとびとが、じしんの仕事に関する苦楽や意気込みを語るコーナーで、いま現在105トピックが掲載されています。
5種の大区分をクリックすればそれぞれの業種紹介ページとさらなる小区分紹介・個人個人の自己解説ページ(=前述105トピックの一編)へのリンクが出てきまして。「事務系」という一見ゲーム本編・本製作と関係がうすそうな区分のページ・トピックでも、ゲームや関連商品の細かいディテールや"遊び"の根幹にまで関係していることに驚かされます。
たとえば「法務」をクリックすればスマホアプリ『どうぶつの森 ポケットキャンプ』のスロットマシンが「777」が大当たりだった初期設計から現行デザインへ変わった経緯が語られますし、さらにくだって「知的財産」をクリックすればNintendo Switch『リングフィットアドベンチャー』の誕生秘話とその"遊び"のオリジナリティが語られ、「通訳コーディネート」をクリックすれば、<マリオ>シリーズとLEGOコラボフィギュアの仕掛けがいかに実装されたかが語られたりします。はぇ~すっごい。
105本のうち数本は、個々の作品の製作にまつわる演出意図解説やトライ&エラーとして読めるものがあり……
……去年でた傑作『ゼルダの伝説TotK』製作スタッフの語りとしては、ざっと見たかんじ①「ゲーム体験を支えるBGMを」、②「納得感のある音を鳴らす」、③「"残念"をそぎ落とす仕事」(前作『BotW』)の3トピックあります。
①は、作曲・編曲スタッフ大橋氏(企画制作部「サウンド系」/2019年 入社)による、『TotK』を象徴する高低におおきいリト族編フィールドを例としたBGMデザインふりかえりです。
寒い寒い雪山のうえでもさらにつづくフィールド。その下層、中層、上層、そしてその奥にあるダンジョンに通じる天頂と……
……それぞれのレベル(階層)に対して、どのようなBGM的味つけをほどこしていったか? その楽器数・曲調の変化について、プレイ動画もまじえて説明されています。
②は、サウンドプログラマー速水氏(企画制作部/2016年 入社)による"接地したオブジェクトの音"実装ふりかえりです。
「開発者に訊きました」岩井淑さんがお話しされたようなことの――いや、そうじゃないか。むしろ、「ウルトラハンド」などのゲーム内モノづくり遊びをクッキリさせることの。ある意図でもって起こされたプレイヤーのアクションがゲーム世界がどのように反映されたか、クッキリさせることの――、実装面での試行錯誤といった具合。
『ゼルダの伝説TotK』のプレイヤーは古代文明「ゾナウ」の魔法みたいな力によって、ゲーム世界内のモノをある程度自由に動かすことができ。そしてその魔法の力が抜けたモノは、たとえばその場が空中なら重力に従い落下したり、坂でかつモノが球体なら傾斜に従って転がったりします。
魔法の力で操作して球をうごかす場合(球の座標は動かせるけど、球の向きは固定されている場合)、接地しながら移動させるなら球と地面とで摩擦音が鳴ってくれたらわかりやすいし、自然な物理法則の反映として球が坂をくだっていく場合なら、コロコロと転がっていく音が鳴ってくれたらわかりやすいですよね。
モノの回転速度を調べて、そこがゼロでなければ「転がり」音が鳴るよう設定すればよいのでは!? 速水氏はさっそく実装、テストしてみました。すると新たな問題が浮上しました。
ゾナウのハイテク電力で駆動するタイヤが、地面を噛んでしっかり「走行」しているときも、変なところに乗り上げて「空転」しているときも、おなじ「転がり」音が鳴ってしまうようになってしまった……さてこの解決策は? という内容。
③は、ゲームプログラマー岡田氏(企画制作部/2012年 入社)による、"プレイヤーの乗ることも可能である馬の動き"実装ふりかえりです。
プレイヤーキャラクターに気づいて近づく敵AIなどさまざまなNPCにつかわれている経路探索プログラムを、岡田氏はプレイヤーの乗る馬キャラにも導入してみます。しかしどうにも気持ち悪い……その原因、解決法とは? という内容。
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門外漢にとって「へぇ~!」とおもしろかったのは、ゲームプログラマー栗原さん{企画制作部「理工系(ソフトウェア)」/2014年 入社}による「自ら率先して最後まで面倒を見る」。Nintendo switch『スーパーマリオ オデッセイ』のコントローラ振動周りの実装・演出をふりかえる2本立ての内容。
先日、ソラの桜井政博さんがじしんのYouTubeチャンネルにて、<大乱闘スマッシュブラザーズ>シリーズのデバッグモード史を語っていましたが、そういうのがお好きな方はこちらも気に入るんじゃないでしょうか。
左右2つのJoy-Conをそれぞれの手にもち遊ぶ/強弱だけでなく周波数単位で弄れるコントローラの振動機能を、ゲームへいかに活かすか? 栗原氏はプレイヤーキャラクターの位置とオブジェクトとの位置関係によって、こまかく左右コントローラの揺れの強弱・周波数を調整し、ドップラー効果を狙ってみたりしたそうな。
記事内ではプレイ映像と左右の振動の強弱・周波数とを併載したデバック動画がアップされており、「こんな感じで確認・実装するんだな」と面白かったです。
栗原さんのふりかえりの後半は、多くの人とステージから成るビッグタイトルの振動実装について。
自分とサウンドスタッフの2人だけで、ひとつひとつHD振動を設定していったのでは、いくら時間があっても足りません。そこで、誰でも簡単に振動の設定を追加できるような環境を整備し、各ステージを担当するプランナーやデザイナーたちが、自分たちでHD振動を付けられるようにしました。これにより、ゲームの隅々にまでHD振動が付いたのですが、ひとつ困った問題が起こりました。
各ステージのプランナー・デザイナーによって実装してもらった「振動」には、個人差のある各人の主観でつけられたもので、ゲーム全体としてバラつきがあった……そこで栗原さんは、ゲーム全体の「振動」を点検・監修していったのだと云います。
こちらもデバッグ動画つきで、おもしろかった。実機プレイ画面に、振動の発生源とその大きさ(?)が併載されるというもので、なるほどこれなら監修しやすそう。
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すっごい充実の情報ページなのですが、むずかしいのがあくまで「採用情報」ページだということです。
以前も、任天堂のプロジェクト採用スペシャルインタビューが話題になりました。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』スタッフが、そのデザインについて語るというもので非常に充実した内容でした。しかしこのページは今では削除されてしまって読めません。〔ぼくも、物好きなニコニコ動画配信者さんがこの記事の朗読配信をされていたので{どういう配信?(笑)}、辛うじてその内容を知ることができましたが、そういうのが無かったらブクマの跡地までしか踏み入れられなかったでしょうね……〕
そこから行くとたぶん、この『仕事を読み解くキーワード』も{このページ自体はあるとしても(2016年くらいからやってるページらしいので、この先もまぁ存在していくでしょう)、個別のトピックは}そのうち削除されてしまうものではないか? という不安があります。
{トピックの各記事のアドレスは「https://www.nintendo.co.jp/jobs/keyword/(任意の数字).html」なんだけど、一桁台は「04」「09」、十番台は「10」「12」「18」、二十番台は「25」「26」「27」「29」だけがある……といった具合に、とチョコチョコ数字に抜けがある。(話題にする作品が古くなって入替があったのか、それともその人が退職等されたのか……?)}
お好きなかたは今のうちに読んでおくのがよろしいかもしれません。