肌寒くなってきましたね、日記です。1万9千字くらい。
『発光妖精とモスラ』と『ゴジラ』などを読んだり、にじさんじ御茶会やねづみどし先生に癒された週でした。
※言及したトピックについてネタバレした文章がつづきます。ご注意ください※
1013(火)
■読みもの■
中村真一郎&福永武彦&堀田善衛氏著『発光妖精とモスラ』読書メモ
それは何ですか;
中村&福永&堀田氏という日本を代表する文学者御三方が、『ゴジラ』を成功した東宝のひとに要請され共作した怪獣小説です。この順番に1章ずつ書き継いで計3章から成ります。
河出書房新社刊、東雅夫編『怪獣文学大全』所収のバージョンを読みました。
読んでみた感想;
(感想の前半は先週の日記でふれたことの大体コピペです)
冷戦や当時の日本の臭いがだいぶあり、それとは別種の妙ちくりんが盛り込まれています。
モスラは日本と馴染み深いカイコガと結びつけられ、モスラが眠る南洋の島インファントの不思議な存在・小美人は平和主義的だがだからこそ水爆実験をする大国ロシリカ国(映画版はロリシカ国。ロシアとアメリカの合体名だろうもので、都市部はニューヨークを思わせる)の興行師ネルソンにいいように食い物にされてしまう。
ネルソンの見世物劇場で歌いつづける小美人。そこでなにかいつもと異なる不思議な歌が唱えられた。小美人が心配で観劇にきた言語学者の中条は偶然その歌を聴き、その歌が頭にこびりついて離れられなくなる。
東京の大衆は熱狂・連日劇場を満席で埋めるが、いっぽう若者たちの心境は異なり、学生デモを起こし「ゴーホーム・ネルソン!」を訴えたりする(――小野俊太郎氏は『モスラの精神史』で今作を論じたさい、このくだりに将来「ベトナムに平和を! 市民連合」発起を呼びかける堀田氏の萌芽をみます)。中条はネルソンに直訴し、さらに小美人のモスラ呼び寄せを輪唱、ついにモスラを日本本土に招き入れる。
モスラは鎌倉から上陸し鎌倉大仏をつぶそうかというところで小美人の平和主義が勝って一旦来た道を引き返すが、しかし小美人の虜囚の日々はつづき、自由を求める彼女らの歌はまた始まり、モスラは国道に沿って進んで国会議事堂で繭をつくり、軍隊による熱線放射をむしろ成長の糧にして成虫へ変わり飛翔、ロシリカ国の摩天楼に鱗粉をまき放射能を吐き廃墟と変える……と、なかなかすごい事態となります。
異形をとおざけるためにやったこと(島の吸血植物に襲われたのでサイレンを鳴らしたこと)が、偶然にも摩訶不思議な事態を引き起こし、この――一度しか、そして自分しか遭遇していないうえに、その内容も同郷人から正気を疑われるような――異常事態から法則を見出して(音に小美人が呼び寄せられたと仮説を立て、検証する)意図的に再現できる条理とし、そこからさらに神秘の島インファントの言葉を解読していくことで、異形をまねきいれる呪文を自身も輪唱するに至る言語学者・中条。
派手なのでこの最後の部分に注目してしまいますが、劇中サクッと流される序盤も注目で、ハプニングに対し学者らしく仮説・検証で対応する中条の立ち回りは地味にすごい。
▼怪異の存在を訴えるも無視される作品/されない作品ふりかえり
小説内にも劇中世界がかつてゴジラに襲われた地であると明記されていますが、その『ゴジラ』が影響を受けたと知られる『原子怪獣現わる』(’53)なんかそうなんですけど、劇中独自ガジェットである怪異に遭遇した生き残りが、怪異の存在を訴えるも無視される展開がそれなりの尺を占める作品ってそれなりにあるんですよね……。
『原子怪獣現わる』だと、0:10:23に怪獣の全体像登場。第一目撃者は驚いた拍子に崖から転落・雪崩に巻き込まれ死亡、主人公は生存するも精神異常扱いとなり(目撃した経緯は水爆実験直後にセンサー異常が確認され、実地見回りに出て。カメラは不携帯)、行く先々で精神異常扱いされつつ(上映時間の1/4※)、0:46:35になってようやく怪獣発見のための海底調査について沿岸警備隊将校らと話し合う席が設けられます(席が設けられるだけで、怪獣の社会的認知はもう少しさきです)。
{※1/4の内訳は、[0:16:55~0:46:35(精神科医のカルテ~沿岸警備隊の人と交えて会議)]-[0:19:54~0:21:15(漁船vs怪獣)]-[0:42:51~0:44:33(灯台vs怪獣)]=26分37秒}
『世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す』('56)にも、想像を絶する存在に主人公(や近しい人)が遭遇する→かわいそうなひと扱いされ信じてもらえず上が動かない…というくだりがあり。
こちらでは怪異の実在が信じられるのに0:46:40までかかります。
{観た当時のメモを読むと、ぼくがやきもきした点として、宇宙人「艦の轟沈座標を教えるぞコレで地球人の上層部もUFOの実在を信じるはずだ」→(56日後)主人公「どうして信じてくれないんです」上層部「いやたしかに艦の通信はそこで途絶えたけど、沈んだかどうか確認取れてないから…」みたいな展開があったらしい。細部が思い出せないけど、メモ通りの内容だとすると、案外作り手はある種のコメディをえがこうとしてたのかもしれない}
昔の怪獣映画を観はじめた当初に前述2作を連続で観て、「う~ん、怪獣・モンスターが観客にとって珍しかったから、劇中独自現象を現実のものとして信じさせるためにこうした描写が必要とされたのかな……?」みたいに思ったんですけど、ほかの作品を見ていくとどうにもそうとも限らないんですよね。
たとえば『ゴジラ』(’54)の、漁船が襲われ(2:28 ただし観客が知り得る情報としては、爆発音をともなう海面の発光現象としてえがかれる。)SOSが無線され(2:49)、無線局が海難無線をとらえ(3:05)救助船が出て(4:23)――同時に船の管理会社の管理者と、船員家族が事態把握のためかけつけ、管理者が困惑顔で確認し――、複数の新聞記者が電話で状況を本社に報道し(5:46)――同時に船員家族が声をあらげて詰め寄り5:50――、難破者が発見・救助され6:25生存者が「いきなり海が爆発したんだ!」と証言していると救助船もまた大破し(5:20)、漁村では夜でも篝火を焚き海岸線にそって人々が並んで目を凝らし8:07、ついに生存者を発見・救助する(9:47)――後日の日中、雑魚一匹かかりゃしない不漁もえがかれる10:12――それを聞きつけた都会からヘリで記者がかけつけ取材をし(10:50)、太古の言い伝えによる呉爾羅をしずめる神楽をし(11:26)、いよいよ島でのゴジラ被害が出ると(12:38~14:46)、被災島民がバスなどをチャーターし(14:53車体に架けられた「大戸島災害陳情團」の横断幕!)国会へ陳情し(15:08「大山委員」「破壊家屋17、死者9名、次の項の"その他家畜"とありますが、その内訳はどういうことになっておりますか?」「大戸島村長、稲田君」「申し忘れました、牛が12頭の、豚が8頭であります」)、科学者が採寸尺や放射線計をもって調査にくる(17:02)……と、ある劇中独自現象(=ゴジラ襲来)にたいする社会の動きをとらえた群像ドキュメンタリー然とした作劇や。
あるいは『放射能X』(’54)の、怪獣のすがたが映画にお目見えする0:28:13までの間に、怪獣による被災現場(だと当初わからない、怪事件の現場を)粛々と調査していき〔①頭部のこわれた赤ちゃん人形をかかえた少女が呼びかけに応えず荒野をひとり歩いてる怪事件(1:39~4:36)・②キャンピングカーもぬけの殻事件{4:47~8:59。「人気がない」との無線連絡を受け向かうと、オープンカーも泊まっている。後ろを回り込むとキャンピングカーには巨大な破壊があり、室内は乱れ、散乱物を精査し、食べかけの食器皿のしたに札束がそのまま放置されていることや(5:44=つまり強盗ではない)、付着してから10~12時間は経っただろう血のついた衣類があること(5:37=暴力沙汰らしい)、拳銃があるけど硝煙の臭いはしないこと(6:14。手で触らず、ペンで銃をすくう手つきが良い)などを確認し、キャンピングカーの崩壊の方向をしらべ、車のそとに足跡がのこされていないか確認する}・③近隣物件への聞き込み{10:20~。キャンピングカー以上にひどい惨状。ひしゃげている猟銃を確認し(11:53=つまり人間業ではない。ハンカチごしに銃を持ち上げる手つきがよい)、建物の崩壊の方向を確認し、レジスターの中身も確認し……と、つまり順序は微妙に異なれど、身に沁みついた現場検証を粛々とおこなっているのだ。}〕そこから着々と重要な要素をとらえていく主人公の地方警官の手並みを描くことで影が真っ黒に落ちたフィルムノワールとして一本立ちしている作劇など……
……劇中の怪異が劇中現実のできごとであると確定するまでをテキパキとさばいたうえで独自のカラーを打ち出した作品は、怪獣映画の早期から存在しているんです。
{下種な勘繰りなんですけど、一部の怪獣・モンスター映画で、ああいう「怪異を見た→ありえないよ、気のせいだよ」みたいな問答に尺をかけるシーンがなぜ生まれてしまうかというと、それなりの上映時間を確保するための水増し的シーンを入れざるを得なかった……みたいなところがあったりするのかな~? なんて邪推します。
逆に、"怪異に主人公が襲われる→周囲に言うも信じてもらえず、信じてもらえるまでに尺が費やされる"映画のなかでも、時代はだいぶ下りますけど『狼男アメリカン』('81)なんかは(当時の鑑賞メモをみかえしたら49分くらいかかったらしい)、ある種の倒叙モンスター映画みたいな感じでその長さがその土地の異様さにつながるし、また主人公が真相を訴える人物も多彩でしかもそれぞれが別個に考えをもってそれぞれ動く群像劇然としたところがあるので、まったく退屈しない良い映画だったりします}
『発光妖精とモスラ』は、直近に挙げた傑作怪獣映画2作とおなじくここらの処理が優れてますね。
***
怪獣の破壊描写について。
モスラは原作の時点で糸を吐いたり(繭にくるまり変態するため)、鱗粉をまき散らしたりしますが(ジェット機とかに多大な悲劇を与えたらしい)、映画でゴジラを糸でくるんで攻撃したみたいなことはしないし、鱗粉でいかな破壊を起こしているのかは判然としません。
ただ、モスラが世界をはばたく巨大な蛾であるということと、インファント島のちいさな妖精ということ、この彼我のサイズの違いが十二分に活かされた、怪獣の暴力性とあわせて聖獣の慈愛性とを描いてみせたシーンが小説にはあります。これはなかなかせつない。
サクサクと展開していくけれど、べつに雑に語り落としているからではなく、切に語りきっているからそうなっている、そんな手つきをも感じさせる作品でした。
円谷一編『円谷英二 日本映画界に残した遺産』読書メモ
それは何ですか;
『ゴジラ』『ウルトラマン』などで知られる円谷英二氏とその映画製作にまつわる写真集・ゲスト寄稿集です。
読んでみた感想;
野次馬記事を書くためにゴジラ関連のお話を求めて読んでみた(※ただし脚本を担当する円城氏が読んでいたわけではない。)のですが、それ以外のところもとても面白かったです。
飛行機乗りとしての円谷氏のエピソードがあれこれあって、飛行機好きとして興味深かった。
須賀川第一尋常高等小学校尋常科時代(15歳ごろ)、飛行機の発動機の製作で、タンクの給油機の口をはんだ付けしていたとき、「空気が漏れるかも」と口でふいてみたらまだ熱くって唇をやけどしたとかp.28。
戦前、日本人飛行家の思い出話とか{たやすく墜落した時代の乗り物なので、乗り手は信心深いひとが多く、ゲン担ぎがいろいろ多かったとか(四つ足のものは食べないとか、仏滅は飛ばないとか)}。アート・スミスの来日と曲芸飛行に感化された話とか。
家族の反対をおしきり、多大な学費をおさめてもらって羽田の日本飛行学校に入学するも、練習機はおんぼろで、格納庫はヨシズ張り(相羽有校長提供の写真p.31を見るに、比喩でなくまじでヨシズなのでおどろいてしまう)、潮が引かなければ飛行機は飛ばせず、引いたところでエンジンがなかなかかからない。ようやく廻り出したころにはまた潮が満ちてきているから慌てて格納庫にしまうp.30……と、なかなかの訓練模様。
映画製作については、スペクタクル映画の製作裏についてと映画作家円谷英二についての2軸から成っています。
作品ごとの製作四苦八苦もおもしろくって、本多猪四郎監督の『ゴジラ』にまつわる寄稿では、ゴム着ぐるみ第一作の可動域のせまさとそこから映画撮影用の着ぐるみへのブラッシュアップや、破壊対象である都市ミニチュアの"映画のための"完成度についてなどが語られていて興味深かったです。
『ゴジラ』第一作において見事に再現された東京のランドマークは、本物と見まごうばかりの精緻さでしたが、一方で、見た目のクオリティ重視で作りすぎて、"こわすモノ"としては二流だった。ゴジラをかぶった着ぐるみ役者さんがいくら格闘しても建物がなかなか壊れなかったと云う。
この寄稿とはべつに章立てられた、世界が沈没したりする特撮映画『妖星ゴラス』の撮影風景をまとめたページでは、ウェハースなどでつくられた都市ミニチュアが紹介されており、特撮映画の技術史としての経糸がうかがえました。
円谷氏の言としては、海外映画の特撮についてさまざま語った対談記事が掲載されており、「あれだけすごい破壊が描けたのは、世界の表現と切磋琢磨する嗅覚も牙も持ち合わせてこそなんだなぁ」と思いました。
破壊描写のために都市を練り歩きロケハンしたさい「知らない人が自分たちの会話を聞いたらどう思うか」と不安がる(不安的中、じっさい職務質問をされたらしい)ところは、業界と歳月はなれて『Methods―押井守「パトレイバー2」演出ノート』で、深夜の紀伊国屋書店などをカメラ携えロケハンした制作さんが「知らない人が自分たちを見たらどう思うか」と不安がるところを思い出しました。歴史はくりかえす。
この本には、衣笠貞之助氏による松竹時代(衣笠映画聯盟)の円谷氏の思い出p.38なども載せられていて、これがまた読んでいて自然とほほがゆるむような追想なのでした。
割ったガラス瓶をレンズ前にあて「なにか面白い画面効果がうまれないか」と、あるいは予告編を撮影をまかされて天井のライトの横でカメラをかまえて当時めずらしい大俯瞰を試みたりと実験する円谷青年の姿がまぶしい。
howardhoax氏がいつぞや、撮影所システムが日本で成り立っていた時代の厚みについて触れられていたのを思い出したりもしましたが、『円谷英二 日本映画界に残した遺産』では、撮影所システムの難しさみたいなものも語られています。
前述したガラス瓶をアイリスにつかった凝り方や映像技巧。
これについては複数の再録文章にも登場しているんですが、それぞれちょっとニュアンスがちがうんですよね。
毎日新聞掲載の稲垣浩による記事『ひげとちょんまげ』p.44では、スタア役者の顔を写実(リアル)に黒く写したためにB級作品の撮影班へおとされてしまった円谷が、セットもライトも制限されたなかで映画を立派に見せるため「グラスワークや合成ということを考え出したのだった」*1……と記されています。
逆に円谷氏じしんの言では、郷土の画家や浮世絵画家への関心が語られていて。
映画にホリゾントをつかったり、ミニチュアに凝り出したきっかけであるという作品については――ちょっと時系列的にちがうのかもしれませんが。衣笠映画聯盟『稚児の剣法』撮影時のはなしか? これはだいぶ大きな作品っぽい――「運よく実験的作品の担当を命じられた」*2ので、広重の江戸名所図会の「しみじみとした江戸時代のロマンが画面いっぱいにただよった」*3「両国橋の夜景をえがいたもの」*4(どの絵か不明。これとかだろうか?)を映画の上に表現してみたくて張りきったのだといいます。
かたや縦社会の歯車として弊害をこうむりつつも独自の活路を見いだした苦労人、かたや目新しい新技術に凝るオタクな映画青年、かたや古典で得た感動を別メディアでも再現したりする豊かな素養とバックボーンを有した芸術家……さまざまな円谷像がたのしい一冊でした。
1014(水)
宿直日。
1015(木)
宿直明け日。
■社会のこと■
現実のスポーツの世界に『喧嘩稼業』金田的活躍する将来を見てしまう
大坂なおみ選手のBLM支持のための活動へさまざまなされたときに、
「スポーツマンへ政治思想的に無主張であることを求めるひとのなかには、ナチスなどスポーツと政治動員の反省からだったりするのではないか?」
と呟かれている人を見てナルホドと思ったものですが、何をやるにしても社会性が無視できない世の中だなぁと思いました。
こういうニュースを聞くと、こう、正攻法で挑むよりもルールをハックするような手段に出るコミュニティが現れないかとワクワクしてしまいますね。
芽が出るか分からない未来の金メダルの卵を育成支援・指導するよりも、ライバル選手へとにかくハニートラップしかけるみたいなことが費用対効果の高い戦略になったりしないかなぁなんて思います。オリンピック委員会に献金をするとか。
1016(金)
■社会のこと■
シンエヴァ公開日決定とおらがムラ根性のこと
来年1月公開とのことが、映画館のあの映画の上映前予告で発表されたそうですね。楽しみ~。
近所ではCOVID-19が広まりそうな場での陽性反応が確認され、それがあの映画を観に行きそうな層だから、難儀な時代だなぁと思いました。ある意味タイミングよかったかもしれませんが。自粛みたいになるのがつらいところ。(※10/21現在、おらが隣街の映画観でも平日でさえ毎回満席レベルで埋まっており、そういうアレはそんな無いのかもしれません)
ぼくがあの年代のころは過剰なほどに気を利かせすぎてしまったし、今の時代のひととなれば尚のことでしょう。
あの年頃のこの季節、受験勉強のため、映画館のある駅にある塾のスゴイデカイ支部に行って集中勉強した帰り、友達と箱根そばを立ち食いしたり、たま~に映画館にいくのがあの頃のぼくの楽しみだった。ワサビ入れすぎて鼻が死んだり、友だちが床に置いたリュックを取って立ち上がった拍子にカウンタに頭をぶつけて血を流したりしたことは今でも覚えている。
あの日映画館に行った子らとはもう映画を観に行ったりはしないものの、年一、二くらいで会ったり会わなかったりする程度には縁がつづいてる、数少ない友達です。
ぼくの得られたような機会が、いまの時分の彼らから損なわれてしまう……そう思うと難儀だなぁって感じてしまいますけど、まぁ、それは若き老害・懐古厨の目線で、いまの子からすればいまはいまで別様な付き合いがうまれ積みあがっていることでしょう。
1017(土)
■ネット徘徊■
vtuber『【 #にじさんじ御茶会 】初めてのお客様を招いて、オフラインでお茶をいただきましょう♪【 #月ノ美兎 / #エリーコニファー / #シスタークレア / #にじさんじ】』をリアタイ視聴しました。
いちから社の運営するバーチャルYoutuber団体にじさんじに所属する配信者さん3名が午後のお茶会をしていたので観ました。
ホストであるシスター・クレアさんエリィ・コニファーさんのおもてなしに対するゲスト月ノ美兎委員長とのやりとりがもう、格式ある富豪高校に闖入した庶民生徒のソレで面白かったです。(有識者のコメントを読んで「なるほどw」となりましたが、冒頭、クレアさんとコニファーさんをそれぞれキョロキョロしてとりあえず微笑んどく委員長がかわいい)
かぐわしい紅茶を飲んで委員長が一言、
「わたくしがいつも飲んでるのとやっぱり違いますね味が!! ……なんか美味しい! おいしいバスロマンを飲んでるような感じがなんか……」18:00
と珍妙なことを言う委員長に対して、「ウフフ……」と受け止める配信です。
京都のツッコマニアの世界で生きる委員長リスナーにとって、新鮮な時空間でよかった。
(まぁぼくは下賤の民なので、
「ちょっとお待ちください」
「ハイ……。現場の月ノです。おふたりがいま給仕をしてくださっていますが……
イヤイヤイヤこれはね? (わたくし)ゲストですから」27:40みたいな場持たせ芸も心休まったりするんですが笑)
との委員長の質問から、3人それぞれが紅茶についてのなれそめを語ることに。
「わたくしはファミリーのかたがたにお紅茶をお淹れするのが本業ですので……」19:54
とコニファーさんがお花の妖精としての日々を話すと、
とクレアさんが言い、それに同意するかたちで委員長も家族経由で紅茶を知った心温まる想い出を披露します。
「わたくしもおばあちゃんがティーカップをいっぱい持ってるんですよ。で、学校を……なんて言えばいいんだろうな……おサボリになるときに、昼の明るいなかに、ティーカップにその紅茶を淹れて飲むとめちゃめちゃ気持ちがよかったんですよね! そういうバイアスというか、サボりバフ、のようなものが……」20:50
いろんな家族のかたちがあって良いだろ!!
{委員長と紅茶の、好い体験が事物への好印象とむすびついている関係は、プルースト効果というやつなんでしょうかね。(ぼくで言えば、風邪をひいた昼間に見ていた印象がつよいために、『ざわざわ森のガンコちゃん』に楽しさと後ろめたさがついて回るみたいなもんか?)
20世紀初頭のフランスとマドレーヌなら絵になったものだろうに、ふしぎなもんだ}
「素敵ですねどんな入り口からでも色々と楽しめるのが良いですよね~」21:34
「あるいみ特別な時間に飲んでるっていうのが美味しく、フフフ(笑)」21:44
とコニファーさんクレアさんがつづけてましたが(全肯定、清楚の呼吸!)よくよく振り返れば、クレアさんコニファちゃんの"受け"の姿勢と、委員長の――ストリップ劇場に行ったり、ラブドールレンタル業に取材してみたり、丸呑み性癖体験店に行ったり――珍妙体験レポもまた、自分と異なるものを拒むのではなく受け入れるという点では、通底しているようにも思えます(そうか?)(本当にそう思っているか?)
***
「紅茶ってどのくらいの時間かけて飲むのがベストなんですかね? お店とかでだいたい2杯くらい飲めるじゃないですか、ひとつのポットで。そうなるともう2杯目シブシブじゃないですか?」12:44
「"挿し湯をお願いします"って言うと、薄めるようのお湯を用意してもらえるので~」
「チャイを入れるコップて、なんかこ~クレイアニメに出てくる感じの~ニョロンとした手作りっぽい感じのぉ、薄茶色いザラザラしたコップに入ってるイメージがすごいあるんですよね」28:56
「器具がすごいそろってるんですよね! ケーキを切るやつとか~フォーク置きみたいなやつとか~ わたくし庭園で飲むの夢だったんですよね。あの段になってるやつあるじゃないですか、鳥カゴみたいなやつ※に持ってって」32:38 {※のちのトークもあわせると、ガゼボ(西洋あずまや)のことを言ってるみたい。なるほど}
紅茶ビギナーだけど、言語能力がたかく事物の表現が的確で、そして飲んでみたときの率直な実感をかたる委員長が、ふたりに日常習慣としてのお茶飲みについてを聞いていくような配信となっていて、
「なるほどな~敷居が高いと思ってたけど、飲んでみようかなぁ?」と思う下賤の民はぼくだけじゃないはず。
面白い配信でした。
vtuberにじさんじ『月ノ美兎と一緒に受けるイラストレーターねづみどしのN高イラスト授業』
イラストレーターねづみどし氏が、学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校(通称N高)にて、イラストについての公開授業をされていたので観ました。
ねづみどし氏は、いちから社の運営するバーチャルYoutuber団体にじさんじに所属する月ノ美兎委員長などのキャラデザインを担当されてもいて、今回は司会として当の委員長も登壇。
前半は、中盤は委員長をモデルに20分間ドローイング実演、後半はN高生徒さんの投稿作をもとに添削講義というかんじでした。
とにもかくにもねづみどし先生の腰の低さですよね。
添削の講評でも、「あくまで一案」であることを強調されていて、聞いてて心臓にやさしい講義でよかったですね。
もっとも添削イラスト自体はがっつり「ねづみどし先生ならどうするか?」と提示されていて、聞いていてキチンと勉強になりました。
にじさんじリスナーとしても、いちから製アプリのテスター/宣伝者であったにじさんじ発足当初と現在のゆるい業務形態と現在のギャップ、その当時ならではの配信者~キャラデザイナーとの関係などの話をうかがえて、興味ぶかかったです。
▼『月ノ美兎と一緒に受けるイラストレーターねづみどしのN高イラスト授業』タイムスタンプ
冒頭Q&A
0:05:00「イラストレーターは普段どんな仕事をしているのか?」
0:05:49「イラストレーターになったきっかけは?」
0:07:00「何歳から活動を?」
0:08:00「最近の活動は?」
0:08:48「にじさんじでのお仕事は?」
*:**:**「どうオファーがあった?」
0:10:00「どこまでデザインの指定があった?」
0:12:40「どんな学生生活を?」
高校で授業も部活も美術は取ったりしなかった。(空手部)
仕事実作紹介/自作解説
0:14:30初音ミク×ドンキホーテコラボ『ねずみ年ミクの宴!』・メインビジュアル
納品画像のサイズが大きかった。
0:15:50アンソロジーコミック『まんが DE 絶唱しんふぉぎあ』3表紙
0:17:18にじさんじ2020年度カレンダー表紙
いちど提出したラフに満足いかず、完成版作業時にリテイクさせてもらった。
0:18:28「デザイナーの異なるキャラを描くうえでの注意点は?」
0:19:38「別デザイナーのキャラでむずかしかった人は?」
絵柄が違うように思えるジョー・力一さんなど濃いキャラは逆に苦ではない。
エルフのえるさんは装飾品のバッグで手こずる。
月ノ美兎を題材に20分ライブドローイング(21:00~43:00まで)
0:21:08「月ノ美兎がだんだん幼い見た目になっているのはなぜ?」
描いているうちに「委員長はこうじゃないな」と繰り返したら『ワンピース』チョッパー理論でどんどん頭身が下がっていった。
0:22:03「どこから描き始める?」
イラストによってバラバラ。たとえば手を前に出した構図などは、手から描くと大胆な構図がとれる。
普段なら下書き⇒ラフ⇒ラフの清書⇒線画と踏む。線画になってから考えたくない。
0:24:20「話しながら描くのは大変ですよね?」
普段の作業は電話で高校時代の友人と食っちゃべったり、歌ったりしながらするのでむしろ自然。
同業のイラストレーターさんと作業通話しながらやったりは、ねづみどし氏はほとんどしない。(にじさんじ別キャラのデザイナー竹花ノート氏などと経験があり、勉強になった)
0:26:10「月ノ美兎などにじさんじキャラのデザインはどの辺まで指定が?」
いちからから言われたのは色くらいで、髪型などもねづみどし氏が創造。
0:27:00「わたくし(月ノ)は、いちからからイメージカラーを言われたことはなく、ある時期に"決めて下さい"と言われた。『にじさんじ一期生人狼』のあたりで自分たちで決めたカラーから影響を受けている」
0:28:10「わたくし(月ノ)のヘアピンの色って何色ですか?」
「ピンクですね」「実はニコ生の企画でどピンク&白のヘアピンを見て、わたくしが"赤じゃなかったんですね~?"と言ったら赤で用意し直されたということが(笑) どっちなんだろうとずっとモヤモヤを抱えていたんですが、ピンクなんですね~!」「いや赤っすね……」「ぎゃはははは(笑)」
0:29:25「ぼく(ねづみどし氏の想定)は、"白ウサギとピンクっぽい目"というイメージ(でヘアピンを配色した)」
0:30:25「正面顔は片側を描いたら反転コピペとかするの?」
しない。人の顔をまるきりシンメトリーに描いてしまうと逆に違和感が出ちゃうので。画像全体を左右反転してバランスは確認します。
0:33:30「にじさんじアプリ(Live2D)の仕事をするさいの戸惑いとかはありますか?」(キズナアイさんの衝撃から波及した話題)
もともと会社員時代にLive2Dを触れていたので大まかな想像図はえがけていた。
0:37:30「いちから社員とは会う?」
ほぼ会わずに仕事している。ニコニコ超会議でCCO岩永さんと、コミケでにじさんじブースを出していた運営さん2人と会ったくらい。
0:40:30当時と現在の配信者~キャラデザイナー間の意思疎通について
現在は運営を仲介せずに直接やりとりするのはNG。
当時は(樋口楓発案で)母の日にリレー動画を贈ったりもした。
0:44:30「趣味で絵を描くけど迷い線が多くなる。ねづみどし氏のように細く、簡潔に仕上げるコツは?」
量をこなして経験を積むしかない。
イラスト添削(0:45:20~)
「秋×キャラクター」というテーマに投稿してもらったイラストを添削。
0:46:57『アンダーテイル』の二次創作。笑顔がほほえましい、ほっこりする絵。
元イラストの二人の格好がハート型に見えたので、『アンダーテイル』もまたハートを大きく扱う作品なので、いっそ背景自体も(丸ではなく)ハートにしてみるのも面白いかも。
おなじく『アンダーテイル』では黄色い花が印象的だったので、思い切って黄色だけにするのもよいかも。
指きりしている手同士を近づけて、よりハッキリ見せると。
0:51:33金髪・獣目の青年がほほえみ紅葉をカメラに向けた絵。背景の紅葉・イチョウがあざやか。
見ている受け手側にアクションを起こしているかのような情感あるイラスト。
ネイルやイヤリングなど細かいところまで注力していて良い。
元絵では青空が見えていたけど、暖色で統一するなら夕陽がよいかも。影も暖色で。
着物は、もう一枚はおっていると秋の涼しさが出るかも。
光源をつくって、キャラクターが存在する空気感を出すのもよい。
0:55:50『#コンパス』ルルカの二次創作。皿・トレイに載せたケーキをもった女の子のイラスト。かわいい。
もう少し身体を入れたフレーミングで、キャラに動きをつけてみる/見せるのも良いかも。それに合わせリボンやフリルに動きを。
コントラポストを意識するとよいかも。
0:59:41木の幹をせもたれに、本と紅葉をそれぞれ持って座る女の子。
光源も意識されていてクオリティが高い絵です。
明暗もあるけど全体が暗いので、もっと光らせてメリハリをつけるとよいかも。
顔つきなども温かみがあるので、ライティングも暖かくしてあげてもよいかも。
1:01:49ベンチに座り、両手で缶をもつ赤マフラーの女の子。
待ち合わせしている、存在しているかのような、雰囲気ある良い絵。
体格を調整するとよいかも。
光源をより強めてあげるとよいかも。
舞ってるもみじが主張がつよかったので、小さくしたり、ボカしたりするとよいかも。
ベンチによる反射なども考えてよさそう。
1:04:36黒猫を抱きかかえたケモ耳巫女。かわいい。アニメのセル画系の塗り。
裾を丸い筒であることを意識して、立体的に。
猫を抱く手と胸のあいだに空間を出すとよいかも。ネコを消したエアー状態でも"持ってる"感が表現できると。
全身を入れる構図に挑戦してくれて嬉しい。
人体のアスペクト比の調整。
立体感を出す方法として、影にメリハリをつけ、スカートに"ここが前""ここは後ろ"とパッと差別化。
1:10:50目が印象的な、オシャレなキャラデザのイラスト。
背景とキャラの色とかぶりすぎてたので変えてみるのもよいかも。
黒い帽子にも、影をつけてあげると立体感がでる。
前景で隠れる構図でも、下書きでしっかり骨格を描いておくと。
1:13:34秋の葉々が舞うなか、左手をあげて取ろうとしているかのような青年の絵。pixivランカーって感じ。
雰囲気があってめちゃくちゃカッコいいイラストです。
全体の色にたいしてピンクめの影で暖色でまとめつつ、背景の灰色もメインを邪魔しない良い配色。
身体に奥行きをだしてもよいかも。パースを意識した背格好に。(上着の下裾を、元絵ではキャンパスに水平だったのを、目や肩の俯瞰的なラインに合わせてナナメに)
1:16:43女の子と散歩しているイラスト{秋になりはじめ想定(だから緑の葉がある?)}
キャラの表情もゆたかで、雰囲気があるイラストです。
色使いが独特で、それがそのかたの作家性みたくなってる(月ノ)
一案として、より"秋"感を出してみるとか。
暖色のキャラクターを描くのであればぜんぶ暖色でまとめてみるとか。
vtuber『【#にじ宇宙人狼】深夜に裏切り者を探す会【にじさんじ/月ノ美兎】』を観ました。
いちから社の運営するバーチャルYoutuber団体にじさんじに所属する配信者さん8名が『Among Us』を実況プレイしていたので観ました。
ぼくがリアタイしたのは月ノ美兎委員長視点。
コメント欄に「この視点、早めに幽霊になるので全体像を把握するにはオススメです。」と書かれているとおり(笑)、委員長は前回同様はぐれがちで、インポスターの餌食になりがちでしたね(笑)。
それが毎度おなじみの展開になり他プレイヤーの反応がにぶくなったところで、「(わたくしが即退場するのが)日常茶飯事すぎて誰も反応しなくなってる……!」との旨を草葉の陰からツッコミ入れたりして、始終たのしく視聴できました。
(負けたり失敗するとぼくなんかは「次回こそは長生きしよう」やら「反省会をしよう」やら、そういう方向に意識が向かうものですが、それはそれとして「負け自体をマイナスのものではなくプラスにとらえよう、現状の面白さをとらえよう」とできるひとってスゴいよなとなる)
じぶんの面白がりどころを振り返ってみると、ぼくが実況プレイに求めているのは、陣内智則さんのソロコントみたいな感じなのかななどとも思う。
今回のプレイも不破さんがめちゃよかったですね。個人配信も見ていきたい。
前回のコラボ配信ではインポスターになった局面で、ボイスチャットの場で目に見えて挙動不審となってしまって、委員長をはじめ参加プレイヤーから「インポスターでしょ」と詰め寄られてしまう場面も複数回あったのですが、今回はそういったこともなく、冴えた姿を見せてくれて、人狼ゲームとしてより一層面白かったというのもありますし。
(船員側でも推理が冴えていてカッコよかった !)
前回の配信自体も、その辺の挙動不審さが逆に面白いというか、そうじゃないときのふんわりしたキャッチボールもふくめて(不破「これはねぇ、ポンピマン(がインポスターで吊るということ)でおれは行っていいと思います」本間ひまわり「え!? でも、ひま違うけどね、一人にいつのまにかなってただけで」不破「マジかわいそうだと思うソレほんとに……」)、愛嬌あるひとだなぁとにこにこ観られたんですけど、今回はその味がより一層感じられた配信でした。
(さきほど取り上げた、冴えた推理を見せた場面でも、「夜見さん! あなたが犯人です」とビシっと決めた直後に「それふわっちにも言えると思います」と槍玉にあげられた夜見ではなくほんひまさんから言われて即「ほんまそれなんすよどうしよ……」とシュンとしぼんだり、いちいちふんわり柔らかいオチがつく)
今回のプレイでは、他プレイヤーがボイスチャットのミュート先をまちがえて、「キッキッキ」と、明らかインポスターをロールプレイした笑いを――自然にでたなら正気を疑われる笑いを――全プレイヤーに聞かせてしまう局面があったんですね。
事故はどんな経緯でも「ああぁ……」て感じで、何とも居たたまれない気分になっちゃうものですが、直近のボイスチャットでほかの異常事態をつたえるプレイヤーにたいして「なるほど……それはさすがにキッキッキだ」と(他人のミスをあげつらってイジる方向ではなく、だからといって一緒に苦笑いする感じの茶化す方向でもなく)なんてことない調子で言っていて、場を一気になごませていたんですよね。
いくつかの局面をまたいだ後に、事故ったひとらが「キッキッキのときと一緒のチームだったからね」と自称したりもできる空気になったのは、不破さんの一言があってこそだよなぁと思いました。
配信終わりに、だれが切り出そうかお見合いしながら、ふんわりと「この8人でまたなんか別ゲーとかやるつもりです」といった旨の告知がありました。やったね。いくらでも観られるのでまたやってください!
(最初こそ、繋がりがなさそでありそうな~でもなさそうな~ワカラン8人だったので、「もしやこれ、"しのごの"関係なのかな?」とか思ったんですが、そこは違っていた)
1018(日)
■読みもの■
香山滋著『ゴジラ』読書メモ
それは何ですか;
2004年ちくま文庫より再録出版された、香山滋氏による怪獣小説集の一編です。
同名の映画『ゴジラ』の原案を香山氏が手掛け(同文庫収録「G作品検討用台本」)、映画が公開されたあと、その完成版台本(クレジットは村田武雄&本多猪四郎)をもとに香山氏が島村出版の少年文庫用に書き下ろしノベライズしたものがこちら。
シナリオ形式だと云う『怪獣ゴジラ』(未読)とは別作で、ツイートでまとめられているかたの評を読むに、内容もかなりけっこうに異なりそうです。
読んでみた感想;
擬音をつかうことを恐れず、ゴジラの動きを描いていました。(気づいたらヌーッと現れるのがゴジラのトレンドマークらしい) はたしてこれは掲載メディアに合わせた文体なのかどうなのか? 香山作品をぜんぜん読んでないのでよくわかりません。
文庫版解説で竹内博氏が触れているとおり、映画版の主役である南海サルベージの尾形氏{香山ノベライズ版における東京湾水難救済会(サルベージ)尾形}が脇役になり、大戸島のゴジラ被災遺族・新吉少年が主人公となっています。
これは視点を変えたというだけでなく、新吉少年が映画版尾形の役割をになっているという感じで、冒頭で古生物学者・山根博士の娘恵美子と日比谷公会堂へ音楽を聴きにいく予定をたてていたり、大戸島で逃げる途中でこけた恵美子を抱きかかえたり、恵美子から秘密を聞いて天才・芹沢博士と鼎談したりするなどは、みんな新吉少年の役目となっています。
実録調に幅広い視点でテキパキとまとめた映画版にくらべるとドラマ部分が多くなり、良くも悪くも、各人の顔がよりハッキリしました。
「沖縄でシケをくったときは、おっかなかったなア、ググッ……と山のてっぺんまで持上げられたかと思うと、ズズ……っと隊底へひっぱりこまれるような気がして、フッと見るってえと屏風のような大波が今にもおっかぶさるようにつっ立っているだろう、俺(おら)アもうだめだと思ったよ」
筑摩書房刊(ちくま文庫)、香山滋著『ゴジラ』p.9、「海底の怪熱光」より
冒頭のゴジラに襲われる船(映画版でいう2:13~)からしてすでに違います。
船乗りらしい挿話が描かれていて、船乗りの歌も(映画ではギターとハーモニカによるインストゥルメンタルであったところに)「幾年ふるさと来てみれば――」と故郷をなつかしむ『故郷の廃家』の歌詞が載せられています。
(この辺は作家性のちがいではなく、メロディだけで切なく郷愁を誘える映像作品と、そういう風に形容で書くとともすればダサくなる小説という、媒体のちがいによるものかもしれない)
「……もしもかわいい一人娘が殺されたとしたならば、先生はどう思いますか!?」
筑摩書房刊(ちくま文庫)、香山滋著『ゴジラ』p.94、「殺してはならない」より
新吉少年を主人公にした意味をつよく感じた部分は、ゴジラを生かし・水爆に耐えるその神秘を解き明かし人類発展につなげようと訴える山根博士にたいしてゴジラ被災で兄母を失った遺族として「あなたは娘を亡くしても同じことが言えるのか」と対決するノベライズ版独自シーン。
映画『ゴジラ』主役陣の居どころは、山根博士宅も芹沢邸も浮世離れした豪邸で、破壊される日本の村や都市とは別所にあるところに思えましたし(『バットマンビギンズ』のスラム街+都市のゴッサムと、野っ原にあるゴシック洋館なバットマン=ブルース・ウェインほどではないにせよ、それに近いものを感じる)、かれらの関心事にしたって山根博士も芹沢博士も視点が遥か高みでした。テレビ中継される鎮魂の歌がそうした距離さえも貫くところにグッと来るわけですが、すべてが文字の小説ではそうも言ってられないでしょう。
また、新吉少年がいる以上、そういう声はもちろん発せられてしかるべきでもあります。
老いの目にいっぱい涙がたまって、
「きみと同じように悲しみます」
筑摩書房刊(ちくま文庫)、香山滋著『ゴジラ』p.94、「殺してはならない」より
香山氏のノベライズでは、ふたりが直接対決することで、新吉少年のホストファミリー的な山根博士の人間味もえがきつつ……
「しかし、古生物学者としての私の考えは、ちっとも変らないだろう」
筑摩書房刊(ちくま文庫)、香山滋著『ゴジラ』p.94、「殺してはならない」より
……と、よりいっそう踏み込んだ、科学者の業ぶかさを描いていきます。
「(略)
お前の兄はゴジラに殺された。しかし、これは理由があってのことだ。
(略)
我等の主領大ゴジラさまは、明夜ふたたび東京に現われ、腰抜日本人どもに、活を入れてくれるであろう。
東京ゴジラ団!!」
筑摩書房刊(ちくま文庫)、香山滋著『ゴジラ』p.111、「東京ゴジラ団」より
ノベライズ版で書き足された、ゴジラによる破壊を福音ととらえ、怪獣被災とその死者を意味ある犠牲と唱える文書を関係各所や市街にひろめる「東京ゴジラ団」の存在をふくめ、ゴジラをめぐるひとびとの声をより一層えがいた作品だと思いました。
ぎゃくに「面倒くさい場面になったな」と思ったのが、怪事件がおきて郷土の踊りですさぶる化生を鎮めようとする大戸島の人々(村の老人や、ゴジラ被害からの生還者・政次)のゴジラ語りにたいして、島を訪れた部外者の記者が小ばかにしたりしたところ。
Prime videoで本多監督『ゴジラ』の当該シーンを確認してみましょう。政次との会話は……
政次「たしかに生物(いきもの)だ。やつぁ今でも海ん中で暴れ廻ってる。だから雑魚一匹とれやしねえや」
記者「だけどそんな大きな生き物はキミ…」
政次「だから俺は話すのイヤだって言ったんだ。いくら正直に話してたって誰も信じてくれねぇんだ」
記者「きみ、きみきみ!」
「嘘じゃあねえ、たしかに生物(いきもの)だ。やつは今でも海の中で暴れ廻っているだ。だから小魚一匹とれやしねえ……」
やわかなそうな子草に腰をおろして、頭の繃帯にそっと手をふれながら、政次は恐ろしかったあの瞬間を思い出しているのか、おびえたようなまなざしで萩原にいう。
「だがね……そんな大きな生き物が……」
萩原はうすら笑いを浮べながら、君はあの時の怪我で頭が変になっているんだ、といわぬばかりに、
「……この世界に生存しているなんて、そんなばかな……」
政次は急にムカッとしたらしく、顔からサッと血の気がひいた。
「だからおらあ、話すのはいやだといったんだ」
新吉がハッとして兄の顔を見ようとしたとき、自分の方を見てニヤッと笑った萩原の顔に気がついた。
(略)
「どうせ正直に話したって、誰も信用してくれねえんだ。新吉――いこう」
(略)
「きみ、きみ!」
萩原は、あきれたように、右手を上げておしとどめようとしたが、目の前に立った新吉の、ギラギラ輝いた瞳ににらまれてシュンとなってしまった。
(略)
「ちぇッ! 三題噺にもならねえや」
萩原は鉛筆でゴシゴシ頭をかきながら、ちょッ、と舌を出した。
筑摩書房刊(ちくま文庫)、香山滋著『ゴジラ』p.39~40、「不気味な大戸島」より(略、太字強調は引用者による)
……こんな感じで、村の老人とのシーンは……
記者「ゴジラ?」
村の老人「ええ。恐ろしくデケぇ怪物でしてね。海のを喰いつぶすと、今度ァ陸へ上がって来て人間までも喰うそうだ。
昔ぁながく不漁(しけ)のつづく時にゃ若ェ娘っこを生贄にして、遠(とおぉ)い沖へ流したもんだ。ええ。今じゃ、そんときの神楽が、こうやって、厄払いで残っているだ」
記者「そうなんですねぇ…」
村の老人「ええ。ええ」
「ゴジラってなんだい?」
「うん? 恐しくでっけえ怪物で、海の魚喰いつくすと、今度は陸へ上って来て人間まで喰うってこった。昔は不漁(しけ)の続くときにゃあ、若い娘をゴジラの犠牲(いけにえ)にして沖へ流しただが……いまじゃあ、そのときの神楽だけが、厄払いにこうやって残ってるんだよ」
「ウーン、ゴジラねえ――」
不精ったらしく、ポケットに手をつっこんで、靴の先でポンと砂利を蹴った、萩原は、この不可思議な神楽と、祈るような漁夫たちの真剣な姿が、西部劇のインディアンに見えて、ばかばかしくてたまらないのだ。
(略)
一方萩原は、村人たちが真剣になればなるほど、おかしさが胸にこみ上げて来た。
「ウフフ……」
すばやく手でおさえようとしたとき、
「ばかやろう!!」
ギックリと胸にしみる、鋭い叫び!! ひれふした老人たちの中から、パッと立ち上がったのは新吉であった。
筑摩書房刊(ちくま文庫)、香山滋著『ゴジラ』p.43~44、「不気味な大戸島」より(略、太字強調は引用者による)
■観たもの■
にじワイテ人狼RPG10月第1夜を観ました。
いちから社の運営するバーチャルvtuber団体にじさんじの面々と、実況者グループ・ワイテイルズのかたがたが、『マインクラフト』におけるワイテイルズさんのオリジナルルール「人狼RPG」をコラボ実況プレイ配信をされていたので観ました。
4月におこなったのが1回目で、今回が2回目ですかね?
視聴先は伏見ガクさん視点。
第1夜はワイテイルズからはNakamuさんが参加。もともと事前に練習プレイなども行なってくれていたようなのですが、本番でも墓場や幕間でアイテムの仕様や戦術について解説・講義をしてくれていて、初見リスナーであるぼくにとってはもちろんのこと、参加配信者さんにとってもこのおもてなし精神はありがたかったんじゃないでしょうか~。
ガク君視点でとくにおもしろかったのは第4試合で、ワイテ人狼RPGでは対人戦最強一撃必殺の武器として斧と弓矢があり、斧は当てやすいし当たるまで何度も振れるけど当たれば音が鳴る、弓矢はミスればそのまま矢を失うけど、当てても音が鳴らない玄人向けの武器。
「もしかして弓で倒した方がいいのでは? 音鳴んないし」1:13:38
と第1夜から武器えらびを考え直したガクくんの考えがどうなるか? その真価は第3夜の日昇まぎわから徐々に頭角をあらわし、4日目の白昼で如実になりました。
また第4試合は、先述のとおり戦術選択の面白さもあったと同時に、バックグラウンドが透けている配信者同士の対戦である面白さも十二分にあじわえた試合でした。
配信者同士の人狼ゲームは、ある種の人読みが入ってしまうところが見所だったりもするなと思います。
試合巧者は人狼でも村人でもとりあえず怖いので吊っておきたくなりますし。あるいは、ゲームプレイでは黒(人狼/共犯者)でも、ふだんの人柄でなんか親しみを覚えちゃったり、ぎゃくに白でもゲームで提示された情報以上に胡散くさく見えちゃったりもする。
第四試合の4日目昼……
「ちょっと肉(回復アイテム)もらっていいっすか? 戦いに行くのにちょっと……」1:23:14
とガクくんがまんまと後輩のういはさんや不破さんから肉を譲り受けているところなんて、その色がよく出ていた部分だなぁと思いました。
ゲーム下手のポンコツ扱いされがちな葉加瀬さんが「いやまだ人狼ひとり分かっただけですよね!?」と切れ者で冷静な見解を言うのもよかったし(じっさい葉加瀬さんの見識はただしい)、次いでNakamuさんが「ぼくにも肉を」と言ったところ(葉加瀬さんの言が利いて)みな警戒モードで、Nakamuさんが「じゃあぼく自分で稼ぎます(それで自分で肉を買います)」と折れたところへ「ちょっ切ないじゃないっすかソレ! 上げてください……」と救いの手を差し伸べ、配信の空気をピキピキさせることなくしかもゲームにおいても村人が所有していた肉を共犯者だろうひとへ流すよう誘導するところとか、キツネらしさが光っていました。
見事なだましっぷりで、 試合後も「Nakamuさんに肉あげなきゃよかったー!」「おれもガッくんに肉あげなきゃよかった!」と大合唱、「おいしかったっすよ二人の肉!」とワイワイ良かったっすね。
にじワイテ人狼RPG10月第2夜を観ました。
いちから社の運営するバーチャルvtuber団体にじさんじの面々と、実況者グループ・ワイテイルズのかたがたが、『マインクラフト』におけるワイテイルズさんのオリジナルルール「人狼RPG」をコラボ実況プレイ配信をされていたので観ました。
4月におこなったのが1回目で、今回が2回目ですかね?
視聴先はニュイ・ソシエールさん視点。
にじさんじVALTZの3人がおなじ夜にそろった第2夜は、甲斐田長尾の2名のナチュラル狂人ぶりがひかる夜でした。
第4試合は、マイクラ人狼RPGならではの味をあじわえて面白かったです。
2日目の昼、複数人から人狼認定がでたあと、そのひとを狩ろうと村人がうごきます。しかし……。
早々に人狼バレしたきりやんさんはもちろん、潜伏したもうひとりスマイルさんもどんどんと村人を狩っていくパワームーブ。討論だけでなくて戦闘力だって勝負を左右するシステムならではの展開ですね(笑)
ぼくとしては「なるほどこれがマイクラ人狼RPGでしか見られないやつだな!」と興奮しました。
雪山人狼『Project Winter』でも、人狼だと露見したプレイヤーが装備をそろえて立ち回りで逆転する……という試合があったりするじゃないですか。こういうシステムのゲームの醍醐味というかんじがします。
(一夜目同様、アイテムの仕様やゲームの基本的なセオリーは、ワイテイルズのかたがたが逐一解説してくれてましたから、ふつうにフェアな内容だと思いました)
最終的にこの試合は、ひとり残された村人・弦月さんを人狼ふたりが追いかける『逃走中』的シチュエーションという別ゲーにきりかわるわけですが、マイクラでアスレチックをけっこうやっているらしい弦月さんがパルクールをします。逃げる側は逃げる側でプレイングスキルが高い!
パルクールの果てに弦月さんはステージの穴をぐうぜん見つけて、本当は入れない想定のところに立ち入ってしまい、墓場は大盛り上がりでした(笑)
1020(月)
宿直日。