事故調査委員会のまじめな報告と、まじめに検討した末の結論として出てくる「サッカースタジアムがたけし城じゃないのが悪い」という話が門外漢には面白かったという日記です。
平和のためにはペットボトルの蓋を外させましょう、という身も蓋もない人間観
かなり興味ぶかかった。
天皇杯・名古屋グランパスvs浦和レッズ試合後におきたサポーター同士の衝突とグラウンド侵入についての事故調査の続報ですね。
サポーターの多数の意見を分析にかけて区分けして、(法力・実力・財力・知力による)行政学的コントロールが具体的対策としてあげられるAチーム報告。
複数人にしぼった意見から、日本品質管理の父・石川馨考案の「特性要因図」を作成、対策を練るBチーム報告。
ABの検討をうけたCチームによる「教育・啓発活動という側面、もう1つはスタジアムの環境、それから構造面、そして法的整備というハード面に関わる側面」からの報告から成る3本立ての発表です。
事件当時、浦和レッズ側から「名古屋のスタジアム(CSアセット港サッカー場)の設備・設計が悪い」って声が出ていたことについて、門外漢であるzzz_zzzzはいまいちその意図をつかめていなかったんですが……
[Bチームによるご報告]
【山本 浩委員】(略)
試合後の判断。強化スポーツダイレクターの対応はどのようなものであるべきだったのか。『屋外でのやり取りでなく屋内の方が良かった』という指摘もありました。一方で『ピッチは神聖、降りるはずはない』ということを口にする方が複数ありましたが、もし降りるはずがないのであれば、埼玉スタジアムになぜあのような大きな溝とも言えるような飛び込めないような段差を作るのか。これは降りる人がいるから作っているんではないかと私には思えるんですね。
浦和レッズオフィシャルウェブサイト(2024年2月17日掲載)、『浦和レッズサポーターによる違反行為について(第十二報)』、Bチーム山本浩委員による報告(略・太字強調は引用者による)
……これ、「うち(浦和)は3m級の段差をもうけることで、観客のグラウンドへの侵入を物理的に防いでますけど?(名古屋さんはやってないですよね?)」というお話だったんですね。なるほどなるほど。
早ければ6月8日のナビスコ杯名古屋戦から今回1000席分だった緩衝地帯を、倍の2000席分にする。藤口社長は「本当はしたくない」と、前置きをした上で「ある程度ハードな態勢が必要な時期にきたのかもしれない」とし、簡単に倒された柵の強化や、人的な増員も検討。また、G大阪サポーターがスタンドから約4メートル下の溝に転落したことを受け、「すぐには解決できないが、スタジアム側と考えていく必要がある」と、今後の改修も示唆した。
日刊スポーツ(2008年5月19日9時22分 紙面から)、『浦和安全確保で埼スタ緩衝地帯倍増2000席』
かつては他チームサポーターの転落事故もおき、「すぐには解決できないが、スタジアム側と考えていく必要がある」とレッズ社長がのべたこともある3mの溝。
これが実は、事件をふせぐための必要悪だったなんて!(実際まぁ「侵入ふせぐ以外にこんな浮島みたくする理由ないだろ」って造りだ)
「こういうところをちゃんとしているゲームは、いまどきなかなかないんだよねぇ」と宮本茂さんにほめられたことがあります。
シリーズ最初の『星のカービィ』は、ゲームボーイ用ソフト。ゲームを始めるとすぐ、カービィが"飛行"しないと越えられない高いカベが出てきます。飛行とは、カービィが風船のようにふくらんで空を飛ぶこと。これでカベを超えるわけです。このカベは、飛行の操作がわからないとき、狭い空間で少し迷えば、カベを超えるための工夫をするだろう、と考えて配置したもの。狭い空間で行く手を妨げられることで、自然なチュートリアル、つまり操作説明をふまえていたのです。
エンターブレイン刊、桜井政博著『桜井政博のゲームについて思うこと2 Think about the Video Games』kindle版68%(位置No.152中 104)、「教えてくれるな」より
「自然にひとのしそうなことを(ゲームデザインに織り込んで)、(ゲーム本編プレイを)やりながら(プレイヤーにこのゲームの仕組みを)ちょっとずつ教えていって」2:35
『スーパーマリオブラザーズ』やら『星のカービィ』では、迫りくるキノコを避けることを物理的に禁止するブロック列やら浮遊する以外それ以上進められない高いカベなどを意図的に設定することで、ゲームのルールを説明文無しに自然とプレイヤーに学んでもらう工夫があれやこれやとなされているわけですけど、サッカーの観客暴動問題にも、そういうアーキテクチャー単位で誘導・解決するアプローチが実はとられていたらしいとは!
好悪の感情や倫理にうったえかけたり、刑罰を設定・厳罰化したりして心理的に(ソフト面で)抑止するのは限度があって、かといって、金銭的ハードルを設定するなどして「若くて暴れそうな」ひとへ入場制限をかけるという方法も……
『財力』で言うと、クラブの制裁。こちらはですね、サポーターに対して財政的な負担を掛けるとか、このタイプ(の対応を)はとってはいませんけれども、例えば海外のサッカークラブやプロスポーツにあるように、チケットの料金をグンと上げることで、いわゆる若くて暴れそうな中途半端にサポーターが入場できないよう、経済的に誘導するようなことが海外の事例では行われていますが、それが決していいわけではなくて、
『浦和レッズサポーターによる違反行為について(第十二報)』、Aチーム高橋義雄委員による報告
……それはそれでどうか? どこまで有効か? というところはあって。
そうなってくると「物理的に(ハード面で)ふせぐべきだ」というのはなるほどたしかにその通りですね。そういう方面の解決でいえば……
クラブがとった対応についても分析してみました。
例えば、具体的な対策について言うと、ルールの厳格化という点ではまさしく最初の飛び降り禁止に始まり、ペットボトルの対応、蓋を外しなさいというような細かい対応なども、いただいた文書から確認することができました。
『浦和レッズサポーターによる違反行為について(第十二報)』、Aチーム高橋義雄委員による報告(太字強調は引用者による)
……ペットボトルの蓋をはずすよう義務化するのも、たとえば「学生運動の最中はレンガ敷きの舗道がなくなった(レンガのままだと投石の武器に転用されるから)」というおはなしを思い起こさせるもので、ここも興味ぶかかった。へぇ~!
それはそれとして、金銭による参入障壁を設けようとか物理的障壁でどうにかする(べき)とかいうおはなしは、人間の知性・倫理観とか成長を信じておらず、人間は単なる動物だという身も蓋もない確信が覗けて(じっさい衝突が起こってるわけで妥当な判断かもしれませんが)、非常にゾクゾクしますね。