すやすや眠るみたくすらすら書けたら

だらだらなのが悲しい現実。(更新目標;毎月曜)

日記;08/01~08/31

 9/21にまとめて更新した日記④です。5万3千字。

 7月にひきつづきにじさんじ甲子園に夢中になったり、さぼっているあいだに『Wardle』が消えたりした月でした。

 色々抜けも多いですが、とりあえず夏まではこれでふり返れたぞ。qntm『Lena』を訳した9月前半の日記や、英検3級記事を今秋でさらに増やせるかは今後のがんばり次第だ……!

 

 

0801(月)

 ■自律神経の乱れ■

   「浮世離れした天才」は浮世になじんだ「ふつう」の暮らしをしてないか?

 創作について才気を発揮されているみかん氏のツイートを読んでいたら、気になるリンクが。東大院数理学研究科の河東泰之教授の備忘録にかんする話題でした。

 門外漢からすれば数学などは、紙とペンさえあればどこででも行なえる、自分の頭のなかだけで完結する孤独な世界のように思えてしまうのですが、数学者のかたの手記を読むと、

「さまざまなところに赴き、さまざまな流派の知見を学んだり、対話をして刺激を受ける、身体が資本の学問なのだなぁ」

 と考えをあらためさせられます。

(いや、どこででも行なえるからこそ才人が点在しているのか? ワカラン……)

 理数系の論文を書いてきたかたらしい語り口ではあるけれど、さまざまなことを記憶されているかたで、細部は詳細で肉感的

 理系のポスドクからSF作家となった円城塔(作品)にも通じるような語り口で、円城氏はちょっと浮世離れしたひとというようなイメージや評判があったと思うのですが、河東氏とおなじく、ふつうに知人がいて、ふつうに家庭をきずいているかたであり、コラムやインタビュー、登壇の会話のなかにそんなようすが身辺雑記としてちらほらにじんだりもする。

 

 ひるがえって自分のblogはどうかといえば、話題にしているのは"にじさんじ"を中心としたvtuberとvの配信、ネットで話題になった(ものの、すでに旬を過ぎて二次三次と話題にするひとがくだった)ネットゴシップ、マンガアニメ小説ゲームだけで、人との交流はほぼ出てこず(出たとして高校からの友人A氏やT氏、ごくまれにS氏と「こんなLINEを交わしてあんなマンガやゲーム、vtuber・vの配信を紹介してもらった」というレベルだ)土地や故郷の話は皆無である。仕事の話だってほぼしてないですよね。これは守秘義務とかプライバシー意識とかは無関係に、外へ出歩かず人と会話せずにいるから書けることがマジで無いためこんな話題構成になっています。

「河東氏や円城氏のほうが、よほど浮世にいるのではないか?」

 と思ったりもするんですよね。

 ネットのいたるところにいる量産型の、いかにも""浅い""オタクなぼくのほうが、よっぽど孤独であり、社会とかかわりがないように思えてならない

 もちろん天才には、凡人にはわからない天才ならではの孤独もあるでしょう。

 あるんでしょうけど、誰からも底が透けて見えるくらいうすっぺらく誰とでも代替可能である(し上位互換が無数にいる)がために、だれにとっても重要ではなく気にする人もとくにいないというタイプの下流の孤独のほうに、いまは関心が向いています。

 

 

0804(木)

 ■ネット徘徊■終わった話■

  『虹色ほたる』が期間限定無料公開されていることをblogで話題にしました

 宇田鋼之介監督『虹色ほたる』が8/13まで期間限定で無料公開されとる!

 ビデオはDVDしか出てない作品がHD画質で!! おお~!!!

www.youtube.com

 というエントリを当時書きました。

 

 

0805(金)

 ■ネット徘徊■

  『健常者エミュレータ事例集』おもしろいが、このおもしろがりかたは良くない気がする

 なんか存在だけは知っていた『健常者エミュレータ事例集』、小噺のまとめみたいな具合でダラダラ読んでしまいました。

healthy-person-emulator.memo.wiki

飲み会で鯨肉が提供された際、シーシェパードの話題を出してはいけない - 健常者エミュレータ事例集 やってはいけないこと

 これとかオタクのわるいところが全部でていて最高。

 この文章だけ読むかぎりではただ単につまらないネタを言ったから場が凍っただけだろうと思われちゃうんですけど、"「同調・結束感を高めて集団でオキシトシンを分泌すること」が目的"である"対健常者との飲み会の場"*1でブラックジョークを言ったために場が凍った、と変換して報告されているのが面白い。

(健常者にとってブラックな話題がダメであるなら、どうしてゴシップ誌が栄えてるんでしょうね?)

 この記事の語り手が”ブラックジョークは気心のしれた身内間の使用に留めるべきだった”と言っているとおり、健常者の集まりもまた「同調・結束感を高めて集団でオキシトシンを分泌すること」が楽しみなわけじゃないですか。

{たとえば「(※勝手知らない人との)飲み会ってダルいけど、型にしたがえば結構やり過ごせるもんですよ」……くらいのお話を、借金玉師が「(健常者の)飲み会とは、部族の祭礼である」とブチあげるところとか、そのレッテルにウケる(同調する)クラスタの結束感を高める素敵なオキシトシン分泌じゃないですか?

(※借金玉師がべつに飲み会・人と関わること自体が嫌いでない人であることは、というかふつうに好きな人であることは、無数にあるオフ会情報・「遊んだ」情報から否定しようがない。

 借金玉師にかぎらずネットの非健常者、だいたい俺よりもネット上でもアナログでも人付き合いが良くて普通にコミュニティを形成・参加しているので、あのかたがたがなぜそういう自認をされているのかが正直よくわからない。

 そもそも「飲み会だり~」とか「飲み会で失敗したわ~」とかそのほかのすべての人間関係のゴタゴタって、飲み会に誘われたり誘ったり人間と関係したりしていないつまりコミュニケーション皆無な人間には生じないコンフリクトじゃないですか。まえに図示した「非モテ」にかんする認識差みたいなものが、ここにもある気がする)

 単にじぶんがサムかっただけのことを上記のように、異なる文明同士の衝突として変換してしまう、例外化して低位な集団には理解できない「「「本物」」」のジョークを放り込んでしまった失敗談とする……。

「おれの精神構造をめちゃくちゃうまくエミュレートしてくれてるじゃん。反面教師として気をつけよう」

 と反省せざるをえないようなサイトでした。すごい。

 

***

 

 上述のような楽しみかた/こわがりかたをしたのですが、つまり、受験生である息子の教育についてポリティカルに極端なことを言うネタアカウント「○○くんママ」(うろ覚え。そんな感じのアレです。)などのような運用がなされているサイトだとてっきり思ったのですが、サイト執筆者がほんとうに体験したことを素朴に正直に感じ思ったことを書いているサイトだったらどうしよう……。

 

***

 

 上でちょっとふれた、「非モテ」にかんする認識差は以下です。

 好き合った人数、頻度(期間)、そして一度でも好き合ったか否かなどの基準がいっしょくたになって「モテ・非モテ」という言葉であらわされるから、「お前のどこが非モテじゃふざけんな」という声が、おなじ「非モテ」自認のひとやあるいは「非モテ」自認者のパートナー(※)から出るという問題。

(※図でいうところの、中間2つどちらかのつもりで言っている「非モテ」自認者にたいして、「自分のことをモテないとあなたは言うしコンプレックスを抱いているみたいだけど、その際、そんなあなたと現に付き合っている・婚姻関係を結んでいるわたしのことを考えたことはあるのか?」とパートナーがモヤモヤする事例がある)

 

 

0806(土)

 ■観た動画■

  vtuber『ひとり旅してたらカカシだらけの里に迷い込んだよ』

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 エニーカラー社の運営するバーチャルYoutuber団体にじさんじに所属するバーチャル学級委員長・月ノ美兎さんが動画をアップしていたので観ました。

 なんと旅vlogです!

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 vtuberさんによる実写取材動画だと、アズマリム氏が旅vlogerとなって久しかったり、未来の話をすると……

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 ……にじさんじの周央サンゴ氏が志摩スペイン村を取材したりというのが印象的ですが、委員長もかつてバーチャルカフェを現場でカメラをまわして取材したりしてました。

 委員長は丸呑み性癖体験やら云億円トイレで便所飯体験やら斧投げ体験やら前世療法体験やら、さいきんだと迎賓館お茶会体験やらのルポ報告配信をさまざまこなしてきた配信者さんです。

 covid-19による外出自粛によってそういったお話が激減してしまっていましたが、(沈静は全然してないし蔓延する一方ですけど)ワクチンにより症状軽減化してきたり何かよくわからないけど世間が「(もう社会が回ってかんから?)もうよくね?」ムードになったりしてますから、こういう動画や配信がもっと増えてくれるかもわからんなぁとうれしくなった配信でした。

(ぼくじしんの行動基準やライフスタイルとはちがうけど、ひとさまにとやかく言うものでもないでしょうし、今となっちゃ少数派になった気配があります。データを見ずに「それっぽい」動きをするだけの、願掛け・呪いの領域になってきた自覚はある。

 まぁ以前の闘病レポ配信みるにCOVID-19と委員長は相性よくなさそうだし、あんま無理してほしくないですけどね

 

 

0810(水)

 ■考えもの■

  「(特定の表現媒体)として上手い・面白い」は、わりと「(媒体を問わず)上手い・面白い作品」と読んだほうがすっきりする場合が多い気がする

 (10/04)いろいろ書いたのですが、「なんだぁこいつ? エラそうにぶつぶつとよ~!」と過去の自分にむかついたので消しました。

 

 

0811(木)

 ■観たもの■

  ジョン・フォード監督『騎兵隊』鑑賞メモ

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 それは何ですか;

 『騎兵隊』は、北軍ベンジャミン・グレアソンによる襲撃作戦(Grierson's Raid)をモデルにしたハロルド・シンクレア氏による同名の小説『The Horse Soldiers』を原作とする、ジョン・フォード監督による騎兵隊映画(1959年公開)です。そのものズバリなタイトルであるにもかかわらず、いわゆる騎兵隊3部作とは別作品{そちらは『アパッチ砦』(1948)、『黄色いリボン』(1949)、『リオ・グランデの砦』(1950)を指す}

 あの有名な索者』(1956。リンク先佐藤哲也さんのレビュー)や。パイロットとして世界レースに参加した牧歌的でカラフルな若者時代と、パイロットの顔など見えない彩度の低い記録フッテージを組み合わせたWW2の指揮官時代とを相の子にした夢と現実をえがいた鷲の翼』(1957)以後の作品。

 

 観てみた感想;

 大傑作でしたね。

 モデルとなったグレアソンによる襲撃作戦は、テネシー南部ラグランジュからミシシッピー州をへて北軍占有のルイジアナ州バトンルージュへたどりつくというもので、グレアソン氏らはこの600マイル(970km)におよぶ道程を16日間ほどでやりとげました。つまり単純計算で一日37.5マイル(60キロメートル)を進まにゃならん行程で、『騎兵隊』劇中で一日60マイル進む~みたいなセリフが出てくるのはこういった事情なのでしょう。

 グレアソンの襲撃作戦中にくりひろげられたミシシシッピ州ニュートン駅の戦いはもちろん『騎兵隊』のなかでも一大事として登場しますが、ほかにも南軍将軍の命令によりヴァージニア州軍事学校の)学徒動員がなされたニューマーケットの戦い的状況もおおきく扱われるなどニューマーケットの戦いはグレアソンらがすすんだテネシールイジアナの旅程からはずれた北東、ヴァージニアにてグレアソンらの作戦の翌年1864年におこなわれた、場所も舞台も異なるできごとです。なので(?)『騎兵隊』劇中では、ジェファーソン陸軍士官学校の生徒がかりだされている}南北戦争や当時のひとびとのようすを作戦遂行中の北軍士官視点でパノラマする一大絵巻・ロードムービーとなっていて、かなりグロテスクでした。

 

 予告編では綿花のブロック袋を盾にしたひとびとと、横倒しとなった馬車を盾にしたひとびとが撃ち合っているかのような編集がなされているのですが、よく見てもられば分かる通り実はどっちも同じ北軍です。

 「南軍兵」とは言い条、赤地に青いX字の南軍旗をかかげた茶色い私服のひとびとが街路をまっすぐ走るが、進行方向には防備をかためた制服の北軍が待ち構えており、上述の「南軍兵」は四方八方から撃たれて、きちんとした「戦い」らしい戦いになるまえに倒れ伏していく……というのが『騎兵隊』でえがかれるニュートン駅の戦い。

 そうなるまでには色々な察知や機転などもあったわけなのですが、『騎兵隊』でえがかれる南軍は、茶色い私服(が銃をかかえて走ってくるだけ)だったり、楽隊にあわせて乱れぬ行進をする汚れひとつない白い制服の子供兵だったり(こちらは号令に合わせて斉射する。しかし北軍側はあわてふためく様子はあれども、死傷描写はない)……と、精神的にこたえる存在であることが少なくない。

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 『風と共に去りぬ』などでも有名な、南部白人所有の農園を接収するようすや。

 南北戦争での情勢不安により起こったのかもしれない混乱(老保安官をとらえて納屋に籠城する南部のならず者)。捕縛した南軍の士官が北軍士官の顔見知りであり、かつてインディアンとの防衛戦争で共にした戦友であった過去。

 行軍・戦傷の治療中、助けを求める民間の声に誘われ医官が行ってみたら、掘っ立て小屋でくらすアフリカ系家庭のひとびとが沈痛な面持ちで立っている……などなどのさまざまな諸相が、行軍をつうじて入れ替わり立ち代わりあらわれる。

 

 filmarksをめぐってみると、

「いくら何でもパワハラが過ぎる大佐とか、何かもう価値観が違いすぎるよな、とフォード作品の時にいつも思うやつが今宵もまた繰り返されるのであった。。。むしろこの価値観を共感できる現代日本人がいるならお会いしたいレベル。」

「上から目線のヤンキーをやってるときのフォードはそんなに心に響かないかも。がさつさに甘えてるのはカッコよくない」

 といったタイプの感想をいくつか見かけます。

 たしかに『騎兵隊』にパワハラ将校は登場しますが、でもべつに映画のなかでそれが肯定されているわけでは全然ありません

主人公側の気持ち悪さをわかっているからこそ、南部の街を占領した北軍将校である主人公が「この金で南軍兵士へ酒をふるまってくれ」と言うのに対して、「言われなくてもそうするに決まってるだろ」と酒場の店主が返すといった、「ヒロイズム」に冷や水を浴びせる展開がでてきたりするんでしょう)

 ジョン・ウェイン氏演じる労働者階級出身の北軍士官ジョン・マーローを主人公としながら――『捜索者』が主人公側の非道さや不気味な面をフォーカスしていたのと同じように――その偏屈さ、かれをふくめた制服を着た「官軍」の不遜さ・暴力性・視野狭窄を描くような恐ろしい作品となっています。

 ジョン・マーローはアフリカ系家庭の求めにこたえる医官を怒るのはもちろんのこと、医官{医療物資が枯渇してきたのもあるのでしょう(前段の戦闘後シーンで、麻酔用だろうアヘンを助手へ求めるも「もうないです」と返される場面がある)苔による湿布を貼るのを見て、それがインディアンから学んだ非標準医療だと知るとやっぱり馬鹿にします。

 

 とりわけ印象的だったのは、がさつだけど気のよい年配歩兵が「毒味」と称して酒を私的にあおるといった、「ジョン・フォード作品的」と言ってよさそうなコミカルなスケッチ。

 これが、(召使のアフリカ系女性とふたりきりでいた前段では低い声をしていたのに)北軍と一緒にいるときだけは笑顔をうかべ猫撫で声をつくってしゃべる(具体的にどれと言えるほど映画を観ていないのでアレなのですが、いかにもヒロインヒロインした声色や顔をつくってしゃべる)南部農園の女主人らとのヒリヒリとした会話劇のなかで登場すると、その「がさつ」の部分が強調されて怖い。

ニュートン駅が攻略されたのは明白です」

   ジョン・フォード監督『騎兵隊』1:28:13

 学徒動員の場面もいたたまれない。

 いかめしい建物にてヒゲ面の南軍兵が戦況報告する、その次にでてくるのが寝間着のおじいちゃんであること、しかもその横に並んだ兵士も寝間着が大半なうえ背格好が小さく、ふくふくとした顔つきの子供であることに気づいた時の気持ち悪さったらない。

「バークスデール候補生」

「サー」

「招集命令だ」

「全員で?」

「全大隊だ」

「2名 おたふく風邪です」

   ジョン・フォード監督『騎兵隊』1:28:48

 映画のOPクレジットのように音楽にあわせてマーチがなされていく学徒動員場面は、上述のようなハシゴ外しがあってカッコがつかないけれど(出兵する彼らのようすを、学校関係者が無言で見送る「いかにも」な描写もあるのだが、上に引用したセリフに出てきたおたふく風邪2名が見送り手であったりする)、逆にそれがそんなとぼけた日常の住人・子供たちが本当に駆り出されているエグさを強調して、観ていてかなりつらい気持ちになってくる。

 

 ジョン・ウェイン氏演じるジョン・マーローの差別意識は主人公だから目立つというだけで、だれであろうと持ち合わせているという具合になっていて、上述のとおり歩兵は接収・襲撃地で私欲のままに酒をあおるし、苔湿布を貼られた歩兵は「かゆいから」と外してしまうし。

 戦闘時に北軍兵がそこらの物を盾として転用するさい、台車のうえでアフリカ系の市民が居眠りをしていても(日常、という感じで素敵な書き込みだ)、気にせずそのままひっくり返してしまう……

 ……戦争にまつわるアクションのなかに当時の諸相がすべて盛り込まれているかのような、経済効率のよすぎる映像。この2時間はあまりにこってりと濃密です。

{さまざまな混沌をえがきつつも、やり返さず撤退して尻たたきでおわる少年兵のくだりのように「フィクション」らしくサクッと終わりにしてみせたりする作品でもあり(逆に、主役同士がステゴロのタイマン決闘をはじめるというお約束的展開をしようとしたら別の問題がおこって中途で終わったりもするのだが)、そこを「甘え」と取るかたはいるでしょう。

 でも混沌の収め方は、前述の通りあまりに「お話」「お話」しすぎて「現実はこうじゃない」と暗に主張しているようで(じっさいニューマーケットの戦いに参加した少年兵のうち23%となる47人が負傷し、その中のさらに10人は戦死するか後日亡くなる致命傷をおったかしたのだと云います)、むしろ不気味に思えました}

 

 個人的にいちばん興奮したのは、南部白人家庭でのディナーの席

 卓上のランプで煙草をそれぞれ点けながらしゃべった冒頭の作戦立案・説明シーンのように、卓上の燭台のロウソクに兵士たちが煙草を近づけ火を点け、主人である白人女性もそんな様子を見てろうそくを差し出したり、あるいはストーブの準備などをして(0:33:03)もてなすのだが主人公に「いや いい」などと不遜に断られる。それでも笑顔を浮かべ直しつづける……という、観ていて辛くなるシーンなのですが。

 実は、たんに腕力をもつ人々⇌持たない人々の非対称的な関係がかもしだすイヤ~な空気感をえがくだけじゃない、複線的な構成のシーンであったことが後に分かって感動しました。建物や小道具の使い方がうますぎる島田荘司の館ミステリとか好きな人は今作も好きだと思います。

 

 『騎兵隊』はいろいろな事物が相対化されてゆく、けっこうに虚無的な印象をあたえてくる作劇で。それが如実にうかがえるのが、ニュートン駅の戦いのあと、南軍の兵站を阻害させるために線路を破壊し列車を爆破するくだり。レールを外し枕木を取り払い、燃やした枕木でレールを熱し、線路に並走する電信柱にレールを押し当てて両端を押すことで曲げて使えなくしていく段取りに、もと鉄道敷設作業員である主人公マーローは一ミリも加わらず(※)、酒場でただただ機嫌をわるくします。

 モデルとなった実在人物ベンジャミン・グレアソンのもとの職業は音楽教師だったので、この無常感が意図された創作であることが確認できます。

 

 そうした虚無感は幕引きでピークをむかえます。

 移動不可能な負傷兵の看病のため南軍領土内にのこった医官とヒロインが、後追いしてきた南軍兵と接敵するも丁重にあつかわれる場面でエンドマークをむかえ、いっぽうの主人公マーローたちはかれらと別れ作戦を続行、傷つきながらもバトンルージュへ向かい、その後の姿は杳として知れない……という今作の終わり方は、いいかんじの劇伴音楽とは裏腹に、「えっこれ、この後どうなるんだろう……作戦は成功するんだろうかしないんだろうか……?」と感情を宙吊りにされて、腹のおさまりがなかなかわるい。

 英語版ウィキペディアによれば、もともとはバトンルージュへ到着するまでを映すつもりだったそうなのですが、スタントマンであるフレッド・ケネディ氏が撮影中に落馬・骨折・死去したことで監督が「意気消沈」、現行のかたちになったのだと云います。

 それだけ読むと「妥協の産物なのか?」って思えてしまうでしょうけど、実際観てみると伝記作家の記述ほど悪い印象を抱かない、というかむしろ、この結末だからこそ素晴らしいと思いました。

 たとえば川を挟んだ奥側に南軍がマーチし、手前側で北軍が隠れ・捕虜にした南部民間人が助けを求めようとするも川を越えられない、とか。あるいは列車を爆破するくだりでも、その前景に水たまりができて、そのようすを反射している、とか。

 水辺におけるシーンが多い作品の帰結として、橋を壊して川の奥側と手前側を分断しておわる……というのは非常にきれい。

 きれいだけど、であるがゆえに? こわいんだよな。

 ジョン・ウェイン演じる主人公ジョン・マーローは最後、filmarksの映画好きが不自然というくらいの流れでもって、捕虜にした南部の婦人と仲良くなる。

 いまにもキスをしそうなくらいに顔を近づける、が、戦局にまつわる音を聞いたマーローは彼女からはなれて作戦の続きを遂行すべく出発する。

 二人はその後、再会することはあるだろうか?

 観客にわかっているのは、橋のこわされた川が、ふたりの間に流れていることだけだ。

 

(※)この辺の、キャラのバックグラウンドを汲んだうえでの(というか筋が一本とおっているようにかんじられる)描写がうまいなぁとなりました。

(以下は、いまはなき『鑑賞メーター』に記した感想をこのblog用に調整のうえコピペしたもの。映像の記憶じたいは忘却のかなたに消えてしまった)

 

   ▼エドワード・ズウィック監督『グローリー』鑑賞メモ

 エドワード・ズウィック監督ローリー』(1989)でぼくが不満・疑問をいだいたのが北軍の横暴描写にかんする物語的不可解さで。

 『グローリー』のなかで大きくあつかわれる部隊として、きまじめな白人主人公が指揮するまじめな黒人部隊のほかに、モンゴメリという世渡り上手の白人将校がひきいる黒人部隊があるんですよ。

 このモンゴメリとその部隊が悪い奴らでして。

 住居に不法侵入するわ{そのさい黒い雌鶏が蹴られ画面右に逃げる(1:06:05)・発砲し窓を割り木壁に穴を開け木枠を落とすわ(1:06:18)、外灯を落とす(1:06:30)、茶色い布袋や鶏を抱え五又の燭台モンゴメリを使う親玉の室内にある四又のもの(1:16:08)とは違うようだ}など金物を掲げ盗むわ(1:06:35)・泣く民間人女性を押しのけ殴り食器棚を盗むわ{棚は外れナイフ等が落ちる。底の水色が美しい(1:06:53)・隊員殺しをするわ、火をつける命令をだし主人公隊を悪行に加担させるわ(1:08:17)……

 ……とにかく悪行のオンパレードをかさねていきます。

〔このシーンでは白い綿花が画面に何度も映される。

 街に訪れたファーストショット{1:05:46}から暗灰の倉庫のまえに置かれて鎮座ましまし存在を主張し、悪行のはじまりでは綿花倉庫に向かうさまが映され{1:06:03}、上述した家々で強奪する集団を映したショット{1:06:35}では手つかずの白い綿花が背景に陣取り、べつのショット{1:08:46}では綿花そのものに火をつけ二階の空いた戸へたいまつを放り投げる様子がアップで映され{ちなみにこのへんは撮影した素材に多少の混乱が見られ、この後のモンゴメリが町を去る姿を前景に捉えたヒキの画(1:08:52)では、前段で火をつけた筈の綿花倉庫が無傷のままで、たいまつをもつ隊員が近づくようすが映されるさまが再放送されている}、隊が去るときには白い建物はもちろん、綿花倉庫も真っ黒に焼けたさまが背景として映される〕

 モンゴメリ隊は、兵士としては練度が低いし下品なのでしょう。

 なのでしょうが、その一方、{のちに(主人公から取引の材料として利用されるかたちで)そうであることが明かされる(1:16:30)とおり}モンゴメリ隊は綿花密輸等で銭稼ぎしてるプロの強盗団でもあるはずなんですよ。

 上で言った悪行オンパレードシーンは、ぼくにはそういう悪者としての厚みが感じられず、ただただ下品であることを見せる以上の機能をはたしていないように思えちゃうんです。

 もしモンゴメリ隊が綿花密輸のプロであるのなら、大切な商品を燃やす・燃え移してしまうようなリスクを犯さずしっかり収穫してから火をつける……というほうが自然な行動だろうし、そういった行動をとってくれたほうが『グローリー』という物語としても{先述の取引の伏線となったり、あるいは不服そうだがけっきょく命令に従っただけに見える主人公がじつは黙々と後の取引につかう証拠集めをしていたとなれば(パニクって何もできなかった映画冒頭との対比となって)かれの成長も描けたり(ただ、そうした成長の様子はこのシーンの次に待つ7月16日の初実戦模様で描いているから、ここで描いたら足踏み感はある)}、前後で連関をつくれて良さそうだとzzz_zzzzには思えます。

{さらにこの悪行シーンについて言えば、ズウィック監督らしい立派な絵巻になっているんだけど。いっぽうで、せっかくそこに存在する(ないし、用意した)ものを活かさずに、大枠の筋書きどおりにただ撮っただけという感があって、そこも不満でした。

 白い建物の壁面に張り出た"胸元の開けた赤いドレスの女体像"が、銃で撃たれもしなければ燃えもしないし。大きなハープが庭に出された家で取っ組み合いの格闘・発砲があっても、人が動いたさいにソレに当たって不快音をがなり立てたりしません。劇中舞台にある楽器は立ちんぼする一方で、劇中舞台の外から後からつけられた劇伴音楽は「悲惨ですよ」というメロディを弦楽器で奏でてしまう。

 あと、これは別に"個"が際立たなくてよい場面だから、そうする必要はありませんが……

 ……黒人ならず者と食器棚を引っ張り合う白人女性や彼の背を引っ張る老婦のすがたも、ただただ悲惨なかわいそうなものとして撮られていて。

 彼女らはナイフ含む食器類が落ちようと金物の音がたとうと見向きもせずに、女性はただただ殴られ、つづいて矢面に立つ老婦もまたただただ素手で水平にビンタし男から水平に殴り返される存在として存在するんですよね。

(しゃがみ、誰かの大切にしていた物を手にし、立ち上がり、代りにその物を振り上げ背の高い敵へと歩を進める可能性だって持ちえる、確固たる個はこれっぽっちも窺わせません)

 この一連のくだりの締めくくりとなるモンゴメリに撃たれたあとのショットは、"白人と黒人がそれぞれ並んで倒れている"という、ラストを彷彿とさせるショットであるというのに、ことさら印象にのこりませんでした}

 

   ▼セシル・B・デミル監督『海賊』(1938)鑑賞メモ

 『グローリー』にたいするぼくの不満は、おなじく南部を舞台にしたセシル・B・デミル監督賊』(1938)を観たことで癒されたんですが、『騎兵隊』でもキャラや物語にぴったりはまった描写の大切さを改めて覚えた次第でした。

(われわれ世代でゴシップ好きな映画ファン的には、デミル監督って蓮實重彦御大が紹介する逸話のなかの悪玉というかんじだと思うのですが、ふつうに面白いしすごい映画を撮る人だなぁと『海賊』とかを観て思いましたね)

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 『海賊』はすばらしい映画で、帆船での戦いこそ無いけれど、資金繰り・官憲をかいくぐり・英国側からも米国側からも企みをうける海賊の生活描写が楽しい。

 映画冒頭、お尋ね者の張り紙があるなかで、海賊市場のチラシを配る者もいれば{そこでチラシを受け取った上流階級の人がさらっと目を通してすぐに地に捨ててしまうのも素敵だ。(捨てた婦人は海賊の恋人だという物語的な伏線張りもあるのだろうけど、そのくらい誰もが開催場所を知っている公然の秘密なのだということだろう)、出航する船の積荷に目を光らせる海賊も潜んだりもするニューオーリンズからして素敵なんですよ。

 スパニッシュモスの垂れる沼地で開かれた海賊市場は、香具師の売り口上など楽しいし見応えタップリだし。切り株のうえにボートを乗せて、商品陳列棚にしたりする。なのでそのままボートを運んで湿地(バイユー)に浮かばせるだけで、すぐに逃走が整う体制だ。(ふつうにすれば、商品をしまい、棚を片付けて、船に乗せる…と複数の手順を踏むところだが、上のやり方なら一息で済む。プロだなあ)

 『ヤンキー・ドゥードル』を歌い奏で{歌えない奴には歌詞と発音を教授し、歌わない奴は大男により逆さにされ頭を砂地にどんどんされる。この大男による動きは(時代は前後しちゃうけど)ちょっとリブの海賊』アニマトロニクスを見ているような牧歌的な感じがある}砂浜に刺したサーベルの間を素足の女が踊る海賊アジトの喧噪もたのしい。(これはチェンバロの響く貴婦人ヒロイン宅シーンや、男女ペアで社交ダンスする屋敷のシーンとの対比でもあるし。このシーン単体として見ても、強襲のなか逃げる船員にヴァイオリンを踏み壊されるシーンがあり完結してる)

 映画後半の、戦闘の前線に向かう海賊らを映したショットでは、オールを天秤棒にして銃を運ぶさまが映されていたり。

 欲深で粗暴でありながら、いっぽう習慣的な仕事はしっかりプロらしく簡略化効率化がなされており、外に出れば身軽で省エネなところもうかがえる……この海賊の立ち振る舞いはすごい。

 

 戦闘シーンも海戦こそないものの……

 ①帆船による海上から大砲・マスケット銃斉射vs浜にアジトを構える海賊

 ②英国戦列歩兵vs綿花袋等で壁を作るジャクソン将軍ら連合軍

 ……と二度ある地上戦が、すっごく充実しているんですよ。

 ①は浜を漕ぎ出したボートが縦に回転して飛び、丘の砲が砲兵を下敷きにし男衆は誰も助けず(ヒロインが助けようとテコを入れるがどうにもならない)アジトの金品を抱えて逃げるのに必死で、アジトは船首像ふうの建材が砕け、ヤシの葉の屋根が崩れ落ち、シャンデリアがきらきらジャラジャラと揺れ、燃える。海賊船長が前に出て合衆国旗をふると棒が折れて水に浸かる

 砲台のよこで海賊のボスが「撃つのをやめろ 私たちは味方だぞ」と叫ぶ臍上ショット(1:07:15)では、その前を何かを持った船員が横切り、その後景ではアジトの屋根が崩れ落ち、二階から人が飛び降りたりしていて、何とも賑やか。

 波打ち際に死体、というのは、浜辺を戦地に選んだ映画では少なからず出てくるものなのではないかと思うのだけど、そこへ満ち引きで動くモノを死体に当るように配置する、という辺りの騒がしさが凄い。

 ②では、騒がしい諸要素を盛り込みつつもしっかり文脈だてられ美しい。

 こちらの締めくくりが旗なのはもちろんのこと。そして、英国軍による侵攻が、もっぱらロケットの音やバグパイプの音や一斉に着剣する音を響かせる音楽として現れるのもまた、もちろんのこと。

 『ヤンキー・ドゥードル』を歌う海賊たちにより、馬により牽引される大砲が、先行く人びとにより倒木をどかした後の道を進むも、凸凹地面に片輪をとられ車軸を外され落ちるが、テコの力や男衆の力で復帰し戦列に戻る、というシーンがある。

 遮蔽物にもちいた南部の綿花ブロック袋が、被弾し動いて守り手を地に倒し、被弾箇所については弾けて内容物の綿花を雪のように舞わせる(守り手は延焼しないように水をかける……という、この地この状況ならではの描写も素晴らしい。

 

 

0814(日)

 ■観た配信■

  vtuber『【 #にじさんじ甲子園 2022 】決勝』リアタイ視聴しました

www.youtube.com

 エニーカラー社の運営するバーチャルYoutuber団体にじさんじの面々が『eBASEBALLパワフルプロ野球2022』大会を開いていたのでリアタイ視聴しました。

 企業非所属の個人vtuber天開司さんとにじさんじの椎名唯華さんの対決から紆余曲折をへて、にじさんじseeds出身舞元啓介さんが借り受けるかたちで発展し、ことしで3年目となる人気企画『にじさんじ甲子園』。

 8人の監督が同じにじさんじvtuberをドラフトで指名したりルーレットで選出したりして野球部をつくり、『eBASEBALLパワフルプロ野球』の「栄冠ナイン」モードでゲーム内時間3年間そだてたうえで対決するこの企画も、今日でついに本大会最終3日目、決勝・順位決定戦をむかえました。

 日記にすべて書けては無いですけど、zzz_zzzzはリゼ監督ひきいる静岡ヘルエスタ高校を中心として、他の高校の育成配信もだいたい見ながらのぞみましたが、どこが勝っても嬉しいし、どこが負けても悔しい、そんな2022年になりました。

 すべての試合がおわっての各監督、実況の田中さん(すごかった!※)、運営陣によるコメントは、一リスナーである自分さえ涙腺を刺激されたので、そりゃあ現場で実際にがんばってきた当人らは……と納得でした。

 そこでも椎名さんと笹木がうまいことなごやかな空気にしてくれていて、さくゆいの二人はにじさんじに無くてはならないキープレイヤーだなぁと思いました。

 

(※)

 実況の田中さんは、もともとパワプロのプロプレイヤーを目指していたもののアナウンサーへの転向をKONAMIさんから打診されそちらの道へ進んだかたであるそうで、パワプロ(の仕様、特殊能力の細かい数値など)や野球の知識をお持ちでした。そこまでは「そりゃあそうだ」という感じで、すごかったのが、にじさんじライバーにかんする知識が潤沢であったこと!

 各高校の育成配信の内容や『にじさんじ甲子園』での各ライバーの謎の個性から、育成配信外の本物の各ライバーの異名や個性まで、ひろく細かく網羅していて、先日のVtuber最協決定戦Season4』(で『マリカにじさんじ杯』の口上をうまく別ゲー『APEX』の戦況にあてはめてみせた)の大和アナ同様、「アナとしてご飯を食べているかたがたはここまでやるのか……!」と圧巻の実況でした。

 

 決勝は、ヘル高vs神速高。

 ヘル高は、静岡の片隅ヘルエスタにある学校で、にじ甲2020からのリベンジ参戦。

 全投手中トップの能力である★573のエース・月ノ、強力な特殊能力「投手威圧感」をゆうする控え投手・卯月という頼もしいピッチャー陣と、守備職人奈羅花、ひろい外野を走力を活かして守り・出塁すれば「かく乱」で敵チームをかき乱すンゴなど、それぞれのポジションに合うかたちで能力を尖らせた、「王道野球」の自称にふさわしいチーム。春のセンバツ甲子園を優勝するなどもしました。

 神速は、個人勢からにじさんじゲーマーズへスカウトされた吸血鬼系vtuber葛葉さんが監督する高校で、にじ甲2021に引き続きリベンジ参戦。

 パワプロ育成のガチ勢が重用している走力重視育成が大成功、秋の神宮大会出場・春のセンバツ夏の甲子園優勝と華々しすぎる飛躍を遂げた高校です。

 その実績だけで「は~攻略ってすごいっすね」となってしまったり「どんだけポケモン剣盾でドラパ、『APEX』でヴァルワト見かけたことか。収斂進化してくのつまんな」と言ったりするひとも見かけたんですけど、でもセオリーにならうだけで結果が出るならみんな今頃イチローや大谷選手になってるわけですよ。

 神速の育成方針は大枠こそ去年と同じですが、前回は思うようにいかなかったり。今年でも(葛葉くんとvtuber最協決定戦でチームを組んだ、ゲーム巧者である)イブラヒム監督ひきいるにじ甲初出場・コーヴァス帝国高がおなじく走力重視をするも色々あって思うようにいかなかったり……と、「堅いのは堅いんだろうけど、バカでも出来るわけではないし」「うまく進められたとしても、"絶対"なんて無い」と思うには十分な過程がありました。

 転生プロでもなければ天才でもない、むしろ入部当初の★数は下位だったのにこの3年間の野球生活により大エースとなった。大当たりの転生プロ源田選手の身体・才覚をさらに伸ばしたバケモン内野手LUKA。去年の世界線では代走要員というかにじ甲本戦での「舌戦」対象・お笑い要員だったのに、今年の世界戦では名実ともに立派な部長となった黒井しばなど、走力以外も圧倒的となった布陣で神速は決勝にのぞみます。

 月ノは153km/h、コントロールA総変化量12+α(第二ストレート/ムービング・ファスト有)という選手。ステータスや特殊能力によって査定される★の数は、にじさんじ甲子園2022出場投手としては最高の★573

 神速は本当にボスラッシュで――全体バフである「ムード○」(各選手にミート+5などを恒常的にかける)を加味した数値でいうと――……

 1番・黒井(★356)ミート89(Sに1足りないA)で、ミートがストライクカウント*4で上昇していく「窮地○」が最大限に発揮されれば97まで上がり。

 2番・あまみゃ(★414)ミート95(S)なうえ、ランナーがいなければ「チャンスメーカー」が発動して100MAXとなります。

 3番・星川(★402)89(Sに近いA)でランナーが2塁以上にいれば「チャンスA」が発動して100MAX

 4番・ルカ(★598)ミート96(S)「チャンスメーカー」が発動すれば100MAX

 5番・アルバーン(★219)72(B)で、「チャンスA」となれば87(A)

 6番・物述(★394)87(A)

 7番・山神(★329)「対エース○」*2が月ノや卯月相手に常時発動して88(Sに近いA)

 8番・プティ(★351)70(B)「チャンスB」が発動すれば78

 ……9番ピッチャーを除けば全員ミートB以上(A後半~MAX)と、打線に切れ目がないんですよね。

 そんな強力打線を7回1/3・合計21人を月ノは相手にしました。その間ゆるしたヒットは5本、被打率2割3分8厘。(ピッチャーと相対した2打席を抜いても2割6分)

www.youtube.com

 月ノはミートSどころかMAX相手に空振り三振をもぎ取ってもいるという……。

 ミートA以上の選手のうちあまみゃと山神は無安打(みゃは3打数、山神は2打数無安打)で、他のA以上の選手は3割3分3厘。ミートB勢はアルバーンが3打数無安打、プティが2打数1安打の5割バッター。

 その場その時のブレもふくめれば、「現実的なバランスかなぁ」という気がします。(もっと打てても良い気がするけど、投手側が上振れた結果かもしれない)

 現実のプロ野球のデータを見てみますとSportsNaviによる打率トップ3が8/16現在、セリーグが.325・.321・.320、パリーグが.355・.323・.299。

 投手の防御率トップ3がセ1.39・2.19・2.44、パ1.70・2.05・2.40。

 にじさんじ甲子園の先発(実力的にも各チームのエース)トップ3が1.59(ヘル高/キャチャ・2.18(神速/キャチャB・3.48(パンパカ/キャチャ){で、4.40(にじ高/キャチャ)・7.36(加大/キャチャB)・7.63(まめ)・10.03(帝コー)・11.32(チョモ)とつづく}

 打撃「ふつう」他「めちゃつよ」という設定を聞くとどうしても投高打低である印象をいだいてしまいますけど、これが妥当・この設定でもなお印象に反して打高かもしれない。

 チーム打率は最上位でも.255(最低で.238の)プロ野球よりもはるかに高く、チーム防御率になるとプロ野球のほうが(トップ2こそにじさんじ甲子園のほうが低いけど)安定して低い

(こういう言い方はあれだけど、得点がおおきなものになりやすかった下位3校をぬかした、トップ5の直接戦闘の打率・防御率を比べたほうがより分かりやすいかもしれない)

 

 

0817(水)

 ■ネット徘徊■

  「心臓の弱い人は見ないでください」と注意書きが(偶然)ついて、「たしかに」と納得した漫画

 いやこの組み合わせはさすがにスクショ取っちゃいますって。(08/17、Google chromeシークレットモードで閲覧)

 ※(09/06追記)「心臓の弱い人は見ないでください」にウケ、ほかについてはスルーしてしまったが、「エロすぎて心臓に悪い」とかそういう風にも取れてしまうか。

 zzz_zzzzが美女とかスタイル抜群な図像に対してどれだけ無頓着かという記録でもありますな。

 

 

0820(土)

 ■ネット徘徊■ゲーム■できなかったもの■

  さぼっているあいだに『Wardle』が消えた

zzz-zzzz.hatenablog.com

 ウクライナのNGOであるWe Are Readyさん作成による『Wordle』派生ゲーム、Wardle』を久々にプレイしようと思ったらアクセスできなかった。

Website wardle.com.ua not configured on server
Website wardle.com.ua is not configured on the hosting server.

Domain address record points to our server, but this site is not served.
If you have recently added a site to your control panel - wait 15 minutes and your site will start working.

How can I fix this?

 とのこと。直るのかどうなのか、よくわからない。

 『Wardle』ってどんなゲーム?

『WARdle はゲーム「Slovko」の軍事版です: 戦争の準備にどのように役立つか』

 WARdle – воєнна версія гри "Словко": як вона допомагає підготуватися до війни

 

 ウクライナでは、国民が軍事作戦に備えるのに役立つオンライン ゲーム WARdle が作成されました。

 これは、ゲーム Wordle (ウクライナ語で「Slovko」) の新しいバージョンであり、ボランティア組織 We Are Ready と広告代理店 McCann Kyiv によって開発されました。 

 このアイデアは、国境付近の状況が緊張し始めた約 2 週間前に生まれました。  

 このゲームの目標は、より多くの人々が戦闘環境での振る舞い方を学ぶことです。

В Україні створили онлайн-гру WARdle, яка може допомогти населенню підготуватися до військових дій.

Це нова версія гри Wordle (українською – "Словко"), яку розробила волонтерська організація We Are Ready спільно з рекламною агенцією McCann Kyiv. 

Ідея виникла близько 2 тижнів тому, коли ситуація біля кордонів почала напружуватися.  

(略)

 

ゲームのルール

 Правила гри

(略)

「一意の 5 文字の単語を推測する試みは 6 回ありますが、間もなく開始される可能性のある軍事行動に備えるための試みは 1 回だけです。

 したがって、WARdle では、今日の言葉は常に推奨事項の重要な部分であり、トレーニングを行い、起こりうる緊急事態に備えるように設計されています。言葉を当てて、知識を得る」とゲームのルールは言っています。

 エンターテイメントはウクライナ語と英語で利用できます。 

"У вас є 6 спроб вгадати унікальне слово з п'яти букв. Але лише одна спроба підготуватися до військових дій, які можуть початися незабаром.

Тому у WARdle слово дня – завжди ключова частина рекомендацій, які покликані тренувати вас і підготувати до можливих надзвичайних ситуацій. Вгадуйте слово – отримайте знання", – мовиться у правилах гри.

Забава доступна українською та англійською мовами. 

 

戦争に備える言葉

Слова, що підготують до війни

ネタバレ: 2 月 22 日の今日の言葉は「備蓄」です。推測した後、買いだめするものに関する推奨事項が画面に表示されます。

  • 生鮮食品(お粥、春雨、シリアル、缶詰、乾燥野菜、果物、お茶、塩など)の在庫、
  • 飲料水と工業用水の供給、
  • 水フィルター、
  • 応急処置キット、
  • 毛布、
  • 消火器。

Спойлер: 22 лютого слово дня – "запас". Після відгадування на екрані виринає рекомендація про те, чим необхідно запастися:

  • запас продуктів, що не псуються (каші, вермішель, пластівці, консерви, сушені овочі, фрукти, чай, сіль тощо)
  • запас питної та технічної води,
  • фільтри для води,
  • аптечку,
  • ковдри,
  • засоби пожежогасіння.

 避難の可能性がある場合の非常用スーツケースの詰め方については、資料「非常用スーツケースの詰め方: 一人、子供と一緒、車または徒歩の場合」を参照してください。

 ボランティアは、Wardle の主な目標は、できるだけ多くの人々が万が一の事態に備えてパニックにならないようにすることだと付け加えました。

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健康と健康的なライフスタイルについてもっと知りたいですか?グループママに参加してください、私は帽子をかぶっています!Telegram と Facebookで。

Детальніше про те, як зібрати тривожну валізку на випадок ймовірної евакуації, можна дізнатися з матеріалу "Як зібрати "тривожну валізу": якщо ви самі, з дітьми, на машині чи пішки".

Волонтери додали, що головною метою Wardle є залучення якомога більшої кількості людей, які зможуть підготуватися до будь-якого перебігу подій і при цьому не панікувати.

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Хочете дізнатися більше здоров'я та здоровий спосіб життя? Долучайтеся до групи Мамо, я у шапці! у Telegram та Facebook.

   引用者により一部省略し、一部について原文にない太字強調もくわえた。日本語文はGoogleChromeの翻訳機能による(「запас」だけ「株」と出たところを「備蓄」とした)

 

 じぶんが解いたぶんをまとめておきましょう。

正解! きょうのことばは「メディア」でした。

 Right! The word was: MEDIA

 非民間のたしかな情報源(ラジオ、TV局、ウェブサイト)からの情報だけを信じるようにしましょう。たとえばwww.dsns.gov.uaや、www.npu.uawww.mil.gov.uawww.moz.gov.uなどです。

 Trust information only from reliable non-private sources (radio, TV channel, web-sites), such as www.dsns.gov.ua, www.npu.ua, www.mil.gov.ua, www.moz.gov.u

 

より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
 The more words you guess – the more ready you are.

正解! きょうのことばは「サイレン」でした。

 Right! The word was: SIREN

 「みなさんご注目」という緊急信号を聞いたさいは即座に政府のメディアへ切り替えて、次の指示を聞きましょう。あわてることなく次の段階にしたがいましょう。

 When you hear the emergency signal "Attention everyone" you need to turn on governmental media immediately and listen for further instructions. Follow the steps without panicking.

より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
 The more words you guess – the more ready you are.

正解! きょうのことばは「ワンちゃん」でした。

 Right! The word was: DOGGY

ペットを大事にしましょう。動物用パスポートと五日分のドライフードを安全バッグにいれましょう。愛猫ないし愛犬が必要な予防接種をすべて受けているかどうかを確認してください。

 Take care of your pet. Have your veterinary passport and 5 days’ worth of dry food in your safe bag. Make sure that your cat or dog has all the necessary vaccinations.

より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
 The more words you guess – the more ready you are.

 正解! きょうのことばは「パニック」でした。

  Right! The word was: PANIC

 パニックも不安も、潜在的危険にたいするふつうの反応であることを覚えておいてください。以下の簡単な3ステップにまとめます:緊急事態にたいしてどうしたいか家族で話し合いましょう、そして安全用バックパックを準備しましょう、ニュースの消費に制限をかけましょう。

  Remember that panic and anxiety are normal reactions to potential danger. Take 3 simple steps to minimize them: discuss with your family what to do in case of an emergency, prepare safety backpacks, limit news consumption.

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
  The more words you guess – the more ready you are.

 正解! きょうのことばは「写真」でした。

  Right! The word was: PHOTO

 敵意をむける軍人の写真や映像を取らないでください、挑発と取られかねません;ウクライナの軍事組織のフッテージもまたSNSに投稿しないでください――わたしたちの軍事兵站(ロジティクス)を害する情報となります。

  Don’t take photos or videos of hostile military men, it can provoke them; don’t post any footage of Ukrainian military units on social media - it gives the enemy information about our military logistics.

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
  The more words you guess – the more ready you are.

 あなたは正解できませんでしたが、それでもわたしたちはこのことばを知ってほしいです。きょうのWARdleは「避難所」でした。

  You didn’t guess it, but we want you to know it anyway. The wardle was: HAVEN

 最寄りのシェルターやそのほか安全な避難所を探してください。そして利用可能かどうか出来るだけ早くチェックしてください。

  Find the nearest shelter or any other safe haven and check its availability as soon as possible.

 明日はまた別の知識のかけらを得る機会があります。
  Tomorrow is another chance to get another piece of knowledge.

 正解! きょうのことばは「紙」でした。

  Right! The word was: PAPER

 書類や紙幣といった重要な紙を防水カバンへ詰めこみ、そして自宅を離れる必要性が生じた場合にそなえて持っておきましょう。

  Pack important papers, documents and money in a waterproof bag and have it ready in case you need to leave your home.

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
  The more words you guess – the more ready you are.

 あなたは正解できませんでしたが、それでもわたしたちはこのことばを知ってほしいです。きょうのWARdleは「論争」でした。

  You didn’t guess it, but we want you to know it anyway. The wardle was: ARGUE

 街路で敵と論争しないでください。そしてどんな犠牲をはらおうといかなる挑発も避けてください。

  Don't argue with enemies in the streets, and try to avoid any provocation at all costs.

 明日はまた別の知識のかけらを得る機会があります。
  Tomorrow is another chance to get another piece of knowledge.

 正解! きょうのことばは「医薬品」でした。

  Right! The word was: PILLS

  ご家族のために医療キットを用意しましょう、そして防水カバンに入れてください。緊急事態における基本的な医療キットはこちらのPDFで確認できます。

  Prepare a medical kit for your family, and place it in a waterproof bag. You can find a basic medical kit for emergency here https://drive.google.com/file/d/19ZmPaV9nkM2g-Xuy-_ZbIXaZgGPhGY2t/view?fbclid=IwAR1-UVeYlWl1OvoEN0UPpd-rdJsIjQkejwbg91yTK5kcv-gqpuQcO4khPCE

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
  The more words you guess – the more ready you are.

 正解! きょうのことばは「電話」でした。

  Right! The word was: PHONE

  すべての重要な電話番号をべつべつの紙に書き留めましょう。その紙をほかの書類と一緒にしまいましょう。あなたが携帯電話をなくしたときのために備えるのです。

  Write down all important phone numbers on a separate sheet of paper and place it with the other documents in case you lose your phone.

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
  The more words you guess – the more ready you are.

 正解! きょうのことばは「階段」でした。

  Right! The word was: STAIR

 爆発音や危険な信号を聞いたなら、その建物から出来るかぎり速く離れてください。階段やホールに居残ってはいけません。エレベーターは使わないように。

  If you hear explosions or have any kind of danger signal, try to leave the building as soon as possible. Don't linger on the stairs or in the building halls. Do not use the elevator.

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
 The more words you guess – the more ready you are.

 正解! きょうのことばは「照明」でした。

  Right! The word was: LIGHT

 停電のさい代わりに使える光源を用意しましょう。:ろうそくや懐中電灯、電池類もお忘れなく。

  Prepare alternative light sources in case of power outage: candles, flashlights and any necessary batteries.

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
  The more words you guess – the more ready you are.

 正解! きょうのことばは「溝」でした。

  Right! The word was: DITCH

 もし街路で砲撃に見舞われたら――地面に伏せて*3、穴がないか探してください。砲火がやむまで堀や溝で待ちましょう。

  If the shelling caught you on the street - fall to the ground and try to find a hole, trench or a ditch to wait it out.

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
  The more words you guess – the more ready you are.

 正解! きょうのことばは「食器」でした。

  Right! The word was: PLATE

 野営(キャンプ)用のお皿と食器を家族やじぶんのために準備しましょう。

  Prepare a set of camping dishes and cutlery for your family and yourself.

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
  The more words you guess – the more ready you are.

  正解! きょうのことばは「音」でした。

  Right! The word was: SOUND

 もし軍事行動がおこったら、音に気を配りましょう。サイレンは差し迫った緊急事態について指し示してくれます。爆発音が聞こえたら建物から離れて最寄りのシェルターを探してください。

  In case of military actions you should pay attention to the sounds. A siren indicates an impending emergency situation. If you hear sounds of explosion, you need to leave the building and find the nearest shelter.

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
  The more words you guess – the more ready you are.

 正解! きょうのことばは「水」でした。

  Right! The word was: WATER

 非常時にそなえて飲用も非飲用の水も大量に準備しておきましょう。

  Prepare plenty of drinks and technical water supplies in case of emergency.

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
  The more words you guess – the more ready you are.

 正解! きょうのことばは「家」でした。

 Right! The word was: HOUSE

 どんな事態がきてもいいよう、家のなかに十分な供給できるだけの食糧や飲料、薬を備蓄しましょう。窓にテープを十字に貼りましょう。

 Prepare your home for whatever may come- you should have a sufficient supply of food, water and medicine. The windows must be cross-taped.

 より多くのことばを推測すれば――それだけより多くの準備ができるのです。
 The more words you guess – the more ready you are.

 あなたは正解できませんでしたが、それでもわたしたちはこのことばを知ってほしいです。きょうのWARdleは「メディア」でした。

 You didn’t guess it, but we want you to know it anyway. The wardle was: MEDIA

 非民間のたしかな情報源(ラジオ、TV局、ウェブサイト)からの情報だけを信じるようにしましょう。たとえばwww.dsns.gov.uaや、www.npu.uawww.mil.gov.uawww.moz.gov.uなどです。

 Trust information only from reliable non-private sources (radio, TV channel, web-sites), such as www.dsns.gov.ua, www.npu.ua, www.mil.gov.ua, www.moz.gov.u

 明日はまた別の知識のかけらを得る機会があります。
 Tomorrow is another chance to get another piece of knowledge.

 こんな問題が出ていました。

 

 

0821(日)

 ■読んだもの■書きもの■

  グレッグ・イーガン「無限大から逆に数えて」

 イーガン氏へのインタビュー「無限大から逆に数えて」収録の『SFマガジン』を読み、ブログの過去記事へ追記しました。

 記事に活かせていないところとしては、このインタビューではイーガン氏の口から、自作に対する英語圏メディアの各種レビューがまとめられていて、そのうちdigってみてもよいかもわからんと思いました。

 未訳の長編『Terranesia』のあらすじ紹介もつけられていて、「へぇ~!」って感じでした。

 

 

 ■聞いたもの■ネット徘徊■

  『こんなん読みましたけど』3回4回「究極の10冊vs至高の10冊」編

 大森望さんのコラム『現代SF観光局』を先日ひさびさに読みかえして、

「そういえば海の向こうのポッドキャストでは、テッド・チャンがイーガン作品について長く語ったりしているらしいんだよな。せめて英語ができればなぁ」

 と思っていたんですが、

「いやそもそも、じぶんの第一言語でおこなわれているファンダム・プロダムの四方山ばなしをぼくはそこまで追えているのか?」

 みたいな疑問もわきました。

 日本語(圏)においてもプロアマチュア問わず――Youtubeであったりツイキャスであったりスペースであったりポッドキャストであったり媒体は色々ですが――さまざまな四方山ばなしがなされています。

anchor.fm

 今回聞いたのは🐳*4鯨井久志さん🛸*5空舟千帆さんによるポッドキャストんなん読みましたけど』

 おふたりはいつぞやこのblogで感想文を書いた京大SF幻想研+αさんによる女終末旅行トリビュート』の寄稿者・編集者氏で、商業誌の世界でも『SFマガジン』などでレビューを寄せているかたがたでもあり、両氏の創作はカクヨムやnoteなどでいくつか読むこともできます。{※各作については次の項で紹介します(紹介というか感想というか。zzz_zzzzの力量不足で、ふつうに最後までネタを割っちゃった、ふつうの感想文もアリ……)。ぼくのイチオシは『点灯』で、『姫の門出の日に寄せて』『医療大国・満州とその歴史、及び大陸浪人柳川二十三について』もオススメですね

 

 第4回をまず聞いて、それとセットになる前編・第3回を聞く……というテケトーな順番で配信を消化しました。第3回は「オタクの暗黒面が出てきたな~」と思ったところで終盤それをネタとして転がし相対化していて、バランス感覚にすぐれたポッドキャストだなぁと思いました。

anchor.fm

 空舟氏による究極の10冊。

0:00~主旨紹介

3:48🐳「海外文学と国内で半々ぐらいなんかな?」

  🛸「そうっすね!」

6:10🐳「現実から遊離している作品が多い?」

  🛸「そうっすね!」

   →より具体的には、「こっちの世界とあっちの世界が両方ある話」

12:55🐳「『木のぼり男爵』『奇術師』はカルヴィーノ・プリーストそれぞれの"初読者に薦めるならこの作品"て感じなの?」

  🛸「妥当なとこだと思いますけど……」

    →作風の変遷がある作家なので、プリーストならSF色が強かった時期・SF読者なら『逆転世界』から読むのもアリだし。

    →カルヴィーノなら初期のネオ・リアリズモ路線、後期のメタフィクション路線と色々あり、『見えない都市』とか『冬の夜ひとりの旅人が』とかを最初に読むってひとも多いと思う。

14:30🐳「読んでるものが違うのであまりかぶらないですよね。かぶるとしたら『ハーモニー』くらい?」

15:30🛸「鯨井氏はボルヘスなら何が好き?」ボルヘス談義

17:38🐳矢部嵩作品/鯨井フェイバリット『〔少女庭国〕』について(ネタバレもあり)

21:10🛸『魔女の子供はやってこない』。文章のへんてこさについて。

21:35🛸「十一階」について。あまり詳しい話はなし。

22:20🐳「この十選でさいきん読んだ作品は? "入れ替えるのムズいよな"て思った」

   →🛸十選となると生半可な気持ちでは決められない。「のめりこんで読めた」というだけでは選び難い。

23:38🛸「ラノベなどを入れてもよかったかもしれない。『魔女~』のかわりに<ブギー・ポップ>シリーズの『ブギーポップ・リターンズ VSイマジネーター』とか」

   →最初のTVアニメ版『ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom』の話題。(その独特の空気について説明していくうちに、サントラにまで話題はおよぶ)

25:50箸休めタイム。悪いオタク雑談。

🐳「この十冊が空舟くんの"名刺代わりの十選"ってことでいいですか?」

 →🛸「ちょっと~! ……これは配信まえに話していたことなんですが。ワードチョイスに戸惑いがあるんですよ」

  →小学生時代に流行った「プロフ帳」くらいの気楽さのものだろうと思うので、そのくらいの看板でやっていただけてたら、そんな違和感は……。

   →これや"ファインダー越しの私の世界"には、そう言うひとのサブカル自意識を感じてしまって抵抗感がある。

    →🐳「でもこういうのって往々にして、やってる人ではなくそれにたいして悪口言ってるひと自身に当てはまることだったりして。言いたいことはわかる。こういう強い看板で、浅いラインナップだったりするとぼくも"ちょっとなぁ"って……」

     →🛸「"浅い"ってたとえば何ですか?」🐳「言わせないでよ! こわいな~」

www.lmaga.jp

31:28🐳「好みの傾向はある程度知っているつもりではいたけど、こうして具体的に十選として見せられると"やっぱりそうやったんやぁ"と」

   →「幻想の色濃いところはとっつきにくくて苦手な部分もある。じぶんは『ドラえもん』を読んで育ったので、ドラえもんという異質なものがあったとしても、地べたの日常がある――そんな肌感覚が身についてしまっている」

    →🛸「前座でふれた"幼少期にファンタジーをどんくらい浴びたか?"という話も関係あるかもしれないですね」

34:30🛸「『未来の文学』全レビュー本製作時、鯨井氏がジャック・ヴァンス作品レビューを他の人に振ったさい、こう振り返ると……」

   →🐳「前提として要求されるものが多すぎるとワケわからなくなっちゃって、"入りません"ってなっちゃうんだよなぁ」

 

36:49🐳「好みが微妙にちがうというのは良い点でもあり悪い点でもある。そんなこともふまえつつ、次回は鯨井編ということでまた十選えらんでね……」

   →🛸「かもがわGブックス主宰の鯨井氏はいったいどんな~」

    🐳「なんでそんなこというの」

    🛸「~どんな深みのある~」

    🐳「なんで"浅い"とか言ったんやろ~? 深いと思われる~」

    🛸「~もしくは浅くも深くもない、絶妙なバランスなのか!?」

    🐳「"バランス見繕って選んでる"と思われたらめっちゃはずかしいな……」

     →「でもまぁいいですよ、"また来週きてください。本物の十選ていうのを見せてあげますよ”

      🛸「(鯨井士郎)"この十選はできそこないだ、食べられないよ"

         いやすぎるな~。至高の10冊と究極の10冊を対決させるような海原雄山と山岡くんみたいな人がいて……"このアンソロを編んだのはだれだ!"

      🐳「それはでも思うけどな? たまに思う!」

 

anchor.fm

 鯨井氏による至高の10冊。

(旧十選からout→エリアーデ『ムントゥリャサ通りで』、エリクソン『黒い時計の旅』、筒井康隆「将軍が目醒めた時」、小林恭二『ゼウスガーデン衰亡史』。

 今十選でin→クーヴァー『ユニヴァーサル野球協会』、筒井康隆『虚航船団』、伊藤計劃『ハーモニー』、石川博品耳刈ネルリ〉シリーズ)

05:20🐳選定してみての鯨井氏の好みについて。

07:35🛸「鯨井氏はコルタサル『南部高速道路』が好きじゃないですか? そこを補助線にすると、この選集は……」

10:00🛸フィリップ・K・ディックが漏れちゃいましたね

10:20🛸「『都会と犬ども』はどんな作品? 選定理由は?」

12:35🐳『虚航船団』の第3部はじつはここで挙げた選定作家の別作のオマージュ

16:00『ハーモニー』について

16:29🐳『黒い仏』の話

18:40🐳<耳刈ネルリ>シリーズの話

21:30🛸「選定作家のうち、迷った作品は?」🐳「筒井康隆の最高傑作は短編の……」

24:45🐳『ユニヴァーサル野球協会』の話

26:40🛸「以前の十選に入っていた(けど今回漏れた)作品は……」

27:30🛸「ウルフは『ケルベロス第五の首』が選ばれたが、これが決定版? 対抗はない?」

28:40🐳『クラッシュ』の話(作品の描写と、当時勉強していたこととがリンクして妙な読み味を得た思い出がおもしろかった)

31:18🐳『ロデリック』の話

32:45🛸「話を聞いてて思ったのが、作家がその才能を過剰性や遊戯感に注いだ作品が多いのかな? と」

 →33:20🐳「そこで行くと、『夜のみだらな鳥』も……」

34:30🐳『ロデリック』『クラッシュ』『ケルベロス』の共通点

36:20🐳「オールジャンル十選はむずかしい」

    →だからといってジャンル十選も、読みきれてないジャンルはむずかしくね?

     →🛸「非リアリズム文学・ラノベ縛りとか、きびしいかもしれないけどそれくらいの縛りがあったほうがはどうか」

     →🐳「『竜馬がゆく』はどうする。そのくくりに入れていいのか?」

37:55🐳「ということでね、至高の10冊。(究極の10冊と)対決ぅ……」

  🛸「対決なぁ」

  🐳「審査だれがするんだという。

    "これに比べれば空舟さんの十冊はカスや"みたいなことを言ってくれる批評家がいてくれるわけでもなく……」

  🛸「『美味しんぼ』だと新鮮さとか、手を加えてないことが評価軸となりますが……」

  🐳「じゃあ10冊対決は、自意識のうすさが評価軸に……?」

  🛸「『美味しんぼ』はでも自意識の塊みたいな話ですし……」

39:35🐳「これをお聞きのかたもご自分で10選を編んでいただいて、"こういうのあるよ"と教えてください」

  🛸「マシュマロに投げていただけると、鯨井くんが"まぁ、なかなかやるやないか……"などと……」

  🐳「なんでそんな腕組みしてんのよぼく。十選評価人。柏手とか出るかもしれん」🛸「ちがうマンガちがうマンガ」

41:37読書会の告知。

  🐳「ぼく(鯨井)積ん読を崩そう」という読書会。ホセ・ドノソ『別荘』の読書会を8月28日10時30分からやる予定です。ご興味あればディスコードのリンクなどをツイッター(やspotify概要欄)に貼ってありますので……

 

   ▼実在したの!?

 

   (2023/08/29追記▼『ロデリック』の作者の長編が、鯨井氏の訳によって出版されたぞ!)

www.takeshobo.co.jp

 鯨井氏が10選にあげていた『ロデリック』の作者ジョン・スラデック。氏の長編『Tik Tok』が、鯨井氏の訳により竹書房から邦訳版される運びとなりました。価格的・本のサイズ的・市場流通的にまずはこちらから手を出してみるのもよいのかもわかりませんね。

 

   ▼ネットで読める鯨井氏の小説

 『漫才「落語」』『失われた色・物』『医療大国・満州とその歴史、及び大陸浪人柳川二十三について』の3作がネットで公開されています。

 京大SF幻想研+αの『少女終末旅行トリビュート』に収録された鯨井氏の小説は、原作の隙間をうめるような二次創作「終末には向かない職業」、独特の舞台によるスポ根漫画的な「終末少女と八岐の球場」の2作でしたが、それらに比べるともっと硬い語り口の作品ですね。

 ブログ『機械仕掛けの鯨が』で書かれた、魔術的リアリズム小説の作風を確認しながらいくつかの現代漫才についてレビューした記事群「漫才の中の魔術的リアリズム――Aマッソ「新しい友達」より」や「家に発電所を作り、世界の輪廻に取り込まれる――奇想小説ファンに勧める現代漫才3選」は、今回話題にする3作の副読記事になるかもしれません(ならないかもしれません)(なんにしても面白いエントリなのでおすすめです)

    ▽われた色・物』

 (noteにて発表)

 4000字までのSF掌編をつのり、審査員選考の大賞と読者選出の読者賞をきめるかぐやSFコンテスト。『失われた色・物』はその第二回応募作で選外佳作です。

 コンテストでは最終候補として各審査員が10作をピックし(審査員同士でダブる場合もアリ)、そのなかから大賞などが選出されるわけですが、選外佳作は「最終選考10作からこそこぼれたけど優秀だったもう10作」。

 ほかの作品賞の落選作にも言えることですが、n次選考・最終選考に残るってだけでもたいへんな倍率を勝ち抜いた作品であり、今作も総計384作のうちのベストアバウト20

 さすがに4000字ですからここでゴニャゴニャ御託を聞いてもらうよりも本文を読んでしまったほうがはやいし面白いでしょう。

 『失われた色・物』は、色物あつかいされている落語界のレジェンドが未来のとあるラジオ番組で第三者の口から紹介された放送回の書き起こし……というていの小説で、あつかう題材や関心事などから以前ブンゲイファイトクラブに応募された才「落語」』をブラッシュアップしたかたちと言えましょう。

 異能と異形(欠損)が結びついたSFはいろいろあるかと思いますが(『日本SFの臨界点』にも一作のってましたね)、近年ですと宮内悠介上の夜」('10年第1回創元SF短編賞山田正紀賞『原色の想像力』初出)が名高いですね。あちらは文量もありますし、奇想を史的なパースペクティブに載せる手腕なども輝いています。

 他方で『失われた色・物』が独自に打ち立てたもっともらしさ・魅力はあり、それが今作の起点であり本題である「もし異能が異形によるものであるとすれば、ほかの人でも同じ経緯をたどれば同じような能力が花開くのではないか?」というコピーキャットの出現。

魔法の効力は、その行為者に依存する。魔法は、だれでもおなじようには使えない。天賦の才を持つ人間にしか使えない魔法もあれば、長年の研究によって魂を浄めた人間にしか使えない魔法もある。正しい心を持つ人間にしか使えない魔法もあれば、使う人間の善悪によって違うふうに作用したりもする。

 科学では、こういうことはまったく起きない。銅線のコイルに磁石を通せば、あなたがだれだろうと、あるいは心の善悪にかかわらず、電流が流れる。

   早川書房刊、『SFマガジン 2008年1月号』p.46、テッド・チャン著「科学と魔法はどう違うか」より

 (略)SFでは、宇宙の法則が個々の人間を識別することはない。宇宙はある人間を区別しないし、人間と機械を区別しない。ファンタジーでは、宇宙の法則は、人間の個性という概念を認識している。ほかの人間にとってだけではなく、宇宙自体にとって特別な個人が存在する。

   早川書房刊、『SFマガジン 2008年1月号』p.47~48、テッド・チャン著「科学と魔法はどう違うか」より(略・太字強調は引用者による)

 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『メッセージ』の原作『あなたの人生の物語』で知られる作家テッド・チャン氏はSFとファンタジーの違いをこんな風に言ってましたが、その意味で今作は……

ⅰ)恐怖新聞を読むと、一回ごとに百日寿命が縮む(らしい)。

ⅱ)恐怖新聞が見える人と見えない人がいる。

ⅲ)恐怖新聞は毎回、窓ガラスを突き破って届けられるわけではない。

ⅳ)場所にではなく、特定の人物のところに届く(修学旅行先などにも届く)。

   幻冬舎刊(幻冬舎単行本)、円城塔田辺青蛙著『読書で離婚を考えた。』kindle版60%(位置No.333中 200)紙の印字でp.195、「恐怖新聞通信」より

  ……あるいはSF作家の円城塔さんが往復書簡型読書コラム『読書で離婚を考えた。』で、『恐怖新聞』の「科学者が思考する方向」*6における読み方として、恐怖新聞の特徴を4つに分類し、それを一つ一つさらに検討。いわゆる心霊現象が科学的に捉えることが困難なのは再現性にとぼしいからで、繰り返し発生する恐怖新聞は研究しやすい。なので……

 これはもう、迷わず実験に取り組むべきで、たとえば鬼形君を、カミオカンデに放り込んでみるとかですね、あるいは宇宙に打ち上げてみる、などでもよいです。もしかすると、この恐怖新聞現象が科学的に解明されて、新たな力が見出されて、素晴らしい性質が見つかったりするかも知れません。

   『読書で離婚を考えた。』kindle版61%(位置No.333中 202)紙の印字でp.197(太字強調は引用者による)

 ……と、提案。そうして何が発見されうるか? なんて考察をすすめて創造されていましたが、その意味で今作はまごうことなきSFなのです。

 

    ▽療大国・満州とその歴史、及び大陸浪人柳川二十三について』

 (カクヨムにて公開)

 ある人物・事件を中心として、劇中世界で記録された証言・言及を渉猟していく劇中世界資料ブリコラージュ小説です。文量は1万3千字くらい。第12回創元SF短編賞1次通過作で、語り口などから同賞第十回の日下三蔵賞受賞作・谷林守著ハリン社会主義共和国近代宗教史料』(二〇九九)抜粋、およびその他雑記を思い起こすかたもいらっしゃることでしょう。

 歴史的なビッグネームの劇中世界における立ち位置、劇中世界の変わりようなどもおどろかされますが、もっと驚いたのが劇中の記述のうえでは真名解放シーンがない――「この人はあの人です!」と明言した文章がないということです。(もっとも明かされていなくても分かるレベルに、そのビッグネームに関連した事象は終盤へ向かうにつれてアレコレ出てくるのですが)

 医療大国となった満州と、立役者である柳川二十三。その発展や死をめぐって、劇中歴史書や新聞、フィルム、主要人物――柳川の愛人・李香蘭などの証言が渉猟されていきますが、事件にまつわる話は二転三転していき、(おそらくさまざまな参考文献に支えられているであろう)満州のキナ臭さが立ち込めていきます。

 丁寧なことに「作品梗概(ネタバレあり)」という劇中世界の細かい時系列まとめがあるのですが、これを読まなくても各陣営がどう考えてどう動いたかは本編だけで伝わりました。錯綜する語り口に対して、語られた実際じたいはスッキリしているからぼくみたいな読者でも素朴にサスペンスを楽しめるのがうれしいところ。

(複雑な実態について錯綜する語り口で描かれると、ぼくなんかは「な、なんかすごいことが起こってるらしいが、複雑すぎてなんかどうでもよくなってきたぞ……!」となりがちなんですよね。今作はそういうかなしい読み味になりませんでした)

 

 病跡学という研究をご存じでしょうか。

 あるひとについて自他にかんする記述を紐解き、なにかしら病気・症状の痕跡がないか読み解いたりする研究ですね。

 論じる対象はもちろん論じること自体にしても、デリケートに扱わないとなかなかこわい話題ですが、そうして提示される視点は興味ぶかい。

 たとえば精神神経学雑誌122巻1号へ掲載された風野春樹らだでしかないじぶん:癌患者としての伊藤計劃と創造』は、(伊藤氏が『ポストヒューマニティーズ』と題された批評集などで論じられていること、伊藤氏自身が現代のテクノロジーなしでは成長はおろか生まれることさえ叶わなかった「サイボーグ」、「テクノロジーの子供たち」のひとりであると自認していたことを導線として)既存のポストヒューマンSFと伊藤氏の違いはなにかを言及していく論考です。

{16年6月に行われた日本病跡学会での発表と同タイトルの論文です。精神神経学雑誌公式サイトにて抄録が無料で・通販サイトにて本文を有料で読むことができます(読むのに必要なのは多少のお金だけで、とくに専門的な資格を必要とされないのがありがたいですね)……と思ってたんだけど、現在は全文無料公開中?}

 『SFマガジン』15年10月号に掲載された風野氏の「創作と病」同様、この論文でも伊藤氏自身のうつに対して処方された安定剤体験を引き、更にはうつ状態で精神が不安定となった自身を振り返る筆致(その知識量ゆえに「ああ、これは脳の各機能がそういう感情をジェネレートしやすい方向に傾斜しているのだな」と捉えられる。生理学的な機序を頭で理解していてもしかし、それでも感情の乱れを止められない)も紹介します。それを引いて比較検討するさきは、日本で非常に評価のたかい現代海外SFの巨匠のとある短~中編小説。

 重度のうつである主人公がSF的なガジェットによるある種の安定剤を体験するそのポストヒューマンSFとはなにか? 伊藤氏作品との違いとは? ……本人自身「プロの病人」を自称した伊藤氏のオリジナリティを、諧謔なしにながめることは、ネガティブなイメージを抱かれやすい「病人」に対する印象を変えてくれるかもしれません。

 あるいは日本病跡学雑誌89号へ掲載ののち補遺をくわえて信州大学SOARにてウェブで公開された高橋 徹氏&松下 正明氏家「伊藤計劃」 : 病と創作』

 こちらの論考では、癌患者の心理状態について、キューブラー=ロス氏とシュナイドマン氏の論考などを紹介しつつ、ストレス心理学ノレンーホエクセマ原文ママ氏の研究「考え込み型反応」「気晴らし型反応」から、伊藤氏の創作姿勢とその独自性がひもとかれていきます。

 ある病にかかった人の多くがそうであるように伊藤氏もある悩みを抱えていたけれど、伊藤氏の文筆を読むと余人とは違った部分もまた見られる。病と共にあらざるをえない当人にとって、創作をすることが病に対するうえでじつは重要な位置を占めていたのではないか? ……それについて確かめようとすることは、今後おなじ悩みをかかえるだろう誰かにとって、なにか意味があるかもしれない。

 ぼくは伊藤計劃ファンなので氏にかんするお話しか存じ上げませんが、こういう考えかたは大なり小なり重要なようで、たとえば2010年にひらかれた第104回医師国家試験では、ある文学の記述をもとに「文中の「僕」の症状から最も考えられる疾患はどれか」回答する問題が登場したりもするんだとか。

 

 劇中現実の史料をブリコラージュする趣向の小説のうち「『サハリン(略)(略)で谷林氏が現地へ取材したさいの土地の細部を盛り込んだのに対して、『医療大国・満州と~』で鯨井氏が盛り込むのは、そうした病跡学的なディテールです。病にたいする普遍的なおそれです。

 柳川さんが自分の発狂に怯えていた、というのは恐らく本当だろうね。身内の遺伝病というのもそうだし、大陸浪人時代から売春宿には絶対に近寄らなかったんだ。

 ある時訳を尋ねたら、

「昔友人が梅毒に罹って発狂したのを知っているから、僕は絶対に女は買わない」

(略)

「梅毒に罹っているのなら、子にもそれは遺伝するのだろう。僕は大丈夫だったから、その心配はない」

 柳川はそんなことを言います。ここに関してはべつの場面でもっと掘り下げがなされるのですが、ぼくはここで、以前よんだ團伊玖磨氏のコラムを思い起こしたりしました。

 童謡『ぞうさん』などを手がけた名作曲家である團氏は、『パイプのけむり』などの長期連載をもつ名コラムニストでもあり。そのコラムのなかには、色覚少数者である自身について語ったものもいくつかありました。

いろいろな事をして暮らして来たが、そろそろ年をとって来たせいか、このごろはしきりにひとのためになることをしようと思うようになって、その一つとして、僕が死んだ時には、眼球をアイバンクに寄贈しようと考えついた。ところが僕は色盲である。僕の眼球を移植した人が、突然世界が変な色になっちゃったなどと言って怒り出すと大変だと思って聞いてみたら、色盲は視神経の異常だから眼球は関係無く、ご心配のようなことは起こりませんということなので、やはり寄贈を決めた。

   朝日新聞社刊、團伊玖磨パイプのけむり(文庫版)p.47「色盲」より

 何がどうなるのかなんて分からないものですが、それでもできるだけ悪いものはもらわず良いものだけ受け継いでもらいたいのが人のさがでしょう。

 たとえば團氏の友人はさまざまなゴシップの末に自殺した父の遺品であるSPレコードを聞いたり兄弟でストラヴィンスキーの音楽を歌ったりして育ち、日本を代表する音楽家のひとりとなりました。『八甲田山』や『八つ墓村』を観ればその友人――芥川也寸志の名がクレジットされているはずです。

 誇大妄想的にこちらの世界からおおきく道をたがえていく『医療大国・満州と~』が、それでもなお荒唐無稽と鼻で笑えないのは、その道がこうした身近な感情を土台にしているからでしょう。

 

 ただしがっつり「医療ミステリでござい!」みたいな作品ではありません。

 参考文献として挙げられた本を(電子版が出ていて入手しやすいものからひとつ)読んでみて、柳川の死にかんして「そういった方向で事態が二転三転していったら、経糸もつよまって面白かったろうな」とは正直おもいました(※1)

 そういう道を取らなかった理由はいくつか考えられます。「"参考"にとどまらない"いただき"となってしまうおそれを危惧したのかも」やら「別のなまぐさい話題をあつかった参考文献を参照したのかも」やら、あるいは字数に限りのあるコンテスト応募作だったので、それをまじめに扱おうとすれば紙幅が足りないとか。

 いちばんはそういう消極的な理由ではありません。

「いやこれがこうなった一番の理由は、劇中で話題にされた作家・作品との共鳴を考えてなのか!?」と(※2)

 

{※1 ネタを割るので白字で隠しておくと、参考文献として挙げられたの中の家——芥川自死の謎を解くは、芥川が服毒した薬がなんだったのか(ベロナールとジアールを主として、読売新聞など一部メディアは「コカイン剤を服用」したとも書かれる。「共同記者会見による警察発表がまだ定着していなかった」時代の面白いブレだ)、それはどんな薬なのか(劇薬だ)、だれが処方したのか(かかりつけ医の下島勲だろう)、なぜ処方したのか(下島は、芥川の最近の作品から、かれの死が近いのではないかと案じていた)などなどを複数の資料をひもとくことで逆に混迷きわめていく(「下島は「死の時」を「案じていた」。案じていたからには睡眠薬を「多量に処方するはずがない。まして近所に住むのだから、病状に応じたきめ細かい対応ができるはずである」)面白い本です。これに作品の筋も寄せれば「初報の記述と実際のズレ、そこから真相をこう推測できる……」スタイルであれば、もっと作品について経糸の興味をもてたり、各章の繋がりがつよまったりするのではないか? という}

{※2 (※1)の観点からすれば上のように思ったとはいえ、芥川の小説藪の中』やそれを材にした黒澤映画羅生門』は、各人の「証言」によってそれまでの世界がガラリと変わっていくタイプの物語であり、柳川二十三の名前の参照元である河童』もまたそういう狂人第二十三号がしゃべるって聞かせる「お話」である。そして、かれは知識に深く理知的で、この「お話」は語り口も語られた内容もみょうちくりんながらもそれ自体が妙な存在感をゆうしている……

 ……「医療ミステリ」は面白い。たしかに、さまざまな「お話」のなかでもブレない手がかりを見つけ、それを頼りにその下にひろがる確固たる真相/深層を探りあてるそういう作品は、すっきり楽しい。でも、面白いもの凄いものはそれ以外にもいろいろとあるんじゃないか?

 また、面白くなかったとして、なにが問題なんだ? 商業的に完成された「オーソドックスに面白い」作品以外にも出会いたいからこそ、ぼくはインディーズを潜っているんじゃないのか? というかそもそも、その「オーソドックス」て過去未来永劫にかわらないものなのか?

 『医療大国・満州とその歴史、及び大陸浪人柳川二十三について』はそんな疑問に対する一つの答えとなるかもしれません(たとえどんな奇抜なものであっても、「そうだ」と語られれば、読み手は「そうか」と受け入れざるを得ないお話」それ自体がもってしまう独特の存在感・不思議についてぼくはちょっと考えたりしたのでした)}

 

 

   ▼ネットなどで読める空舟氏の小説

 カクヨムにて詩や掌編短編中編いろいろ投稿されているほか、SF 的文芸によって重力からの解放を目論む秘密結社・反-重力連盟による SF アンソロジー同人『圏外通信 2022』(¥1,000)にて業暗化の女王」を発表されています。 

 京大SF幻想研+αの『少女終末旅行トリビュート』に収録された空舟氏の小説は、日々生活していて感じる息詰まりを描いた「もや」、未来が舞台ながら勘所としては登場人物の関係性や心の機微が「もや」同様に面白かった「少女通学旅行」の2作でしたが。

 リンク先の他作を読んでみると、上述2作より文量は少ないのにディテールの細かいものもあれば、寓話的なものなどさまざまあって、「あの2作は色々やれるうちの一端でしかなかったんだなぁ」とか思います。

 こんかい読めた範囲では、大群をなす巨大な(そしてしばしば平板な)システムのなかからこぼれれたり潜んだりしている余剰、みたいな話題をわりあい見かけるかんじです。

 そういったところから、不透明な「空気」にまつわる作品(「もや」『点灯』『新しい日 / Newdays』「工業暗化の女王」)が多くなるんでしょうかね。

 またそういった結構ゆえに「科学の進歩によって物事が計数されていく一方、それでも割り切れない自然があるのではないか」という伊藤計劃トリビュートのような匂いのただよう作品もあり、このblogにいらっしゃるかたはたいてい伊藤ファンだろうからお気に召すやもしれません。

 

 ほかには「(このような)小説であること」に自覚的な作品も多い気がします。

 掌編でも、あるいは読みはじめて「エッセイでもよさそうだけど……?」と感じる内容でも、語り手の存在意義や「なぜこのようなかたちで語らなければならないのか?」が劇中で最終的に明かされたり論じられたりして、そういう意味では実は、ただ単に現実に近い舞台・人物を扱っただけで「この作品がなぜ存在するのか?」(たぶん文学理論とか創作論・芸術論の世界では端的に表せるタームとかコンセプトがあるんでしょうけど、無知なんでじぶんの言葉でいうと、「さまざまな人物や事物について細かく/大雑把にあるいは無骨に/比喩まじりに語るこの文章はいったい何なんだよ? その比喩や説明や情報の取捨選択は、誰がどんな基準で誰に対してどんな経緯でしてるんだよ?」問題)についてエクスキューズのない作品よりもとっつきやすいのかもしれません。

 

    ▽『身』

 (カクヨムにて公開)

 2012年執筆の2千字の掌編。

 一度必要なものを頭の中でリストアップしてみる。着火剤とライター、七輪、ガムテープ、他のものは別に用意したから、これで間違いないはずだ。

 ホームセンターで買い忘れがないか気にする「俺」が家に帰ってすることとは……? というお話です。

 ネタバレをおそれずぶっちゃけてしまえば「俺」の行動のゴールは不穏な品目とおりのものなのですが、カギカッコの会話など全くなしに黙々と行動していく指標は「いくつかのサイトを回って調べた」ものと劇中で説明され、つまり知識の埒外の事物も他者へ直接たずねることなくネットで仕入れられてしまう現代社会だからこそ可能になった類いのものかもしれません。

 職もなければ友もいない「俺」の所業は誰にも止められないどころか関知だってされないわけなのですが、それでも「待った」がかけられるんですよ。

 え、どうやって?

 大家やインフラ業者が家賃や公共料金の支払いを催促しに来たとかそういうあれではありません。

 「俺」が走りだしたのとおなじく足踏みしたのも現代社会ならではのもので、そこが面白い作品でした。足踏みしたさきには、『こんなん読みましたけど。』で話題にされたような関心も見えてくる……そこも面白い作品でした。

 

    ▽『灯』

 (カクヨムにて公開)

 2千字の掌編。執筆年代不明。

 いまだ目覚めぬ都市の大気は藍染めだ。手の中でクサをくるくるまわすと、ほそく出たケムリがおれたちの頭上に、読めない文字をいくつも描いていく。

「そろそろ、もぐったほうが、いいんじゃないかなあ」

 「おれたち」が寝どこへ帰ろうとしたところ、灰色のビルディングをとおるパイプのなかはやたらと暗い。電燈が切れかかってチカチカしている。「どうだ、おれたちにも直せないのかな」と近づいてみることにした……というお話です。

 「藍染め」の早朝の「灰色」のビルディングのなかの「うす緑」の電燈といった淡い色彩や、提案はするけど言うだけ言って動かない相棒などの人物や会話やひらがなにひらきがちな言葉づかいがかもす、ぼんやりほんわかした雰囲気。

 これが、強い色彩がさしこんだ途端にゴチャゴチャ画数の多い漢字やらで使わざるを得ない具象があらわれ、空気の一変するコントラストが楽しかったです。

 

 最後に一言サゲが発せられる作品で、しっかり「終わった」感のある読み味であることもうれしいところですが。

 もう一味、混沌にたいして第三者(妙ちくりんながら、なるほど納得の)カニズムの説明をしたうえで事態の収拾をつけたのをただ由とせず、それを受けてぼんやかした人々がぼんやかしたじぶんたちの世界との接点を見出した一言としてzzz_zzzzのなかでは響き、いっそう美味しかったです。

 この一言でもって、かれらはチカチカした世界の不調を直してみせたのだ、みたいな感慨を勝手にいだきました。

 

    ▽『Windows, Mirrors, and The Doors

 (カクヨムにて公開)

 2014年執筆の1万6千字の短編で、第6回創元SF短編賞一次選考通過作。

 きっとやつらはほほえんで、あいもかわらず絡みあい、狩りにいったりするのだろう。瞼を閉じたおれはいま、膜の外へと意識をむける。

 そして想像する。まだ太陽が照らす前の原野に描かれた、ひそやかに吹く風の姿を。高空をわたってゆく鳥の整然たる隊列を。崩落した高速道路を住処としてねむるヒトの末裔。その安心しきった寝顔。いずれにしても結果はおなじことなのだという囁きが、存在しないおれの鼓膜をふるわせ、想像するにしたってもっとましなことはないものかと問いかける。

 そうしてしゃぼんの外へむけた眼(センサ)を閉じていても、視界は暗闇とはほど遠い。依然としてしゃぼんが放つ光が、そこかしこをやかましく満たしている。

 このしゃぼん球なるものが果たして何なのか、本当のところをおれは知らない。

 無数のハイテク感覚オペレータ「しゃぼん」を操る「おれ」が、荒廃した星を孤独に探索するお話です。

 発表年代としては若いんですけど、前後の空舟作品でわりあい見かける要素がジャンルSF的なガジェットでもってそれなりの文量で説明される作品でもあるので、最後に読んでもいいかもしれません。

「世界はかつてどのような世界であり、今どのような世界であるのか? おれはかつてどのようなおれであり、今どのようなおれであるのか?」

 長い探索は、冒頭で俯瞰されたひとつの文明の興亡史をあきらかにしますが、500年後の「おれ」のモノローグとして語られて冒頭とおなじく静的な雰囲気をおび、そこからさきの現在進行形のできごともまた同じ語りのなかで消化されていきます。

 「おれ」の語りのゆらがなさが印象的で、それゆえ山あり谷ありのはずの道中がなだらかに見えるところはあるものの、今作を読み後えて湧く感情はこうした「おれ」の存在感があってこそのものだと思いもします。

 

    ▽『火』

 (カクヨムにて公開)

 2015年執筆の1万4千字の短編。

「ある時代、ある国の、小高い丘の上に城がそびえていました――」

 昔ながらの王と宮廷道化師の物語が火焔となって少年の口から発せられ、薄暗い電灯下の部屋を赤々と染める。その火を視て〈調律師〉は、必要事項をリストに書きつけてゆく。左端に品詞の総覧が列を作り、斜行し重なり合う線を辿ると右端の発火表に行きつく。

 表と照らし合わせて描かれた図形――固有構成は、そのひとの語彙や視座、感覚質や思考であって、それを検めることはいまや日常と化していた。

「なにも心配はございません、立派な構成をしておられます」

 検心を終えた<調律師>は少年の両親にそう声をかけ、母親が差しだす謝礼に頭をさげて、<相棒>の運転する車に乗る。時間のかかったその仕事ぶりを刺してきた<相棒>に、<調律師>は<調律師>で心配を返す。

「おまえ、次は難しいと聞いたが」

「らしいが、別にそうかからんだろう。だいたい、おれが選ばれたのは難しいからだ。そうでないなら、あんたでも務まる」

 四角四面に整備された住宅地を抜け、「次」の家へたどり着く。芝の飛び石を踏んだ玄関の向こうには、巨大な不定形のカンバスがあった……

 なにかを語らせることによってそのひとの思考や感覚を、共感覚的な仮想によって具体化し分節化できるようになった世界で、ひとびとの検心をして回る<調律師>たち。ある日おとずれた検心相手は、ちょっと様子が違っていて……というお話です。

 <調律師>と<相棒>二者の仕事をつうじて、劇中独自アクションである同調・調律の仔細を書いていくテキパキとした手つきが良いですし(上の序盤のあらすじでも採った通り、検心仕事のなかには出向いたさきで謝礼を渡されるといった「訪問仕事あるある」――日常と接する細部も端的に盛り込まれて素敵です)、先述作『Windows, Mirrors, and The Doors』や後述作『都市の指』的な都市論・文明論めいた内容になってもいて興味ぶかい。

 『W,M,aTD』が数百年間活動する「おれ」の強固なモノローグによって包んだものを、今作は被検心者や調律師が(劇中ガジェットとからめて)それぞれ異なる語り口の世界(世界観)を現在時制で展開させる……もっと多視点的でグツグツとしたかたちで提示するスリリングな作品となっています。

 

    ▽『市の指』

 (カクヨムにて公開)

 2017年執筆の3千字超の掌編。一足さきに事件現場へ到着した/現場から帰る刑事の、沈思黙考です。

 劇中独自仕事の仔細を中心に描かれた先述作『発火』とは正反対に、『都市の指』の語り手は刑事だけど現場での仕事はスッパリ省略され、観察と思考のほかにこれといったアクションをしない存在。語られる内容としては都市のスケッチや都市に関するエッセイに近しいのですが、たとえば、

「珊瑚礁、蟻塚、蜜蜂の巣……。延長された表現型という表現が彼の胸中に浮かんだ。けれど人間は、昔からこんなふうに暮らしてきたのではなかった。」

 とScene1で思った刑事が、

「樹上からサバンナ、洞窟と穴ぐらと集落を経て、我々は大勢で暮らすことを覚えた。都市は間違いなく、人類史上の発明のひとつだったはずだ。」

 とScene2で考えを進めたりなど、静的な語り口のなかにも確かなリズムがあり、読んでて楽しい。

 そうして読み進めていったさきに、こういう語り口である意味が浮かび上がる末尾が面白かったです。(ここについて「でも、そうして意味が見出せたこと自体は良いかもわからんが、見出したその立ち位置は当人にとってどうなの?」と思われたかたは、他作を手に取ってみると、そうした観点からの掘り下げに出会えるかもわかりません)

 

    ▽『じ窓』

 (カクヨムにて公開)

 2018年執筆、1万1千字の短編です。

「子爵の館は知ってるだろ、ほら、いつも森を通る時に見る」

 行ってみようぜ、度胸試しだ。ウルシュの興奮した面持ちと上ずった声に、僕はなんだかわけもなく焦ってしまう。突然そんなことを言われても困るのだし、そもそも追い返されるのが関の山だろうと思うけど、そうやって考えているうちに、さっきみたく口なしだなんだと沈黙を揶揄されてはたまらない。

 新月の夜におこなった度胸試しは、塀の角を曲がった先にいた警備兵の光を浴びて散り散りになった。ウルシュ兄妹とべつの方角へ逃げ、背の高い茂みに隠れた僕は、妙なことに気づいた。行き止まりのはずの塀の向こう側から、こちらへ向けて空気が流れているのだ。下部にあいた空洞を通って塀をくぐりぬけた僕は、月明かりにぼんやり照らされ浮かぶ、屋根窓(ドーマー)や勾欄(パラペット)が作るリズムを見上げた。

 ウルシュに自慢できる土産話をさがして館周辺を物色すると、二階の隅に開いた小窓から、微かに光が洩れるのを見た。木をのぼって中を覗く。

 すると、窓向こうで小柄な人影が、銀色の髪をさっと振り散らかすのを僕は見た……

 ……作者がつけたであろうタグによれば「ボーイミーツガール」の「異世界ファンタジー」。友達といっしょに飛び出た「僕」が、村はずれの子爵の館への度胸試しで、銀色の髪の少女と出会い、忘れられないひと夏の思い出をつくるお話です。

 湿った土の臭いが充満する暗いトンネルでの「0」から、薫る風とともに春が通り過ぎた初夏の野外での「1」へ。湿⇒乾・不快⇒快などコントラストのつよい場面転換で軽快にすすめた作劇は、本編となる「僕」らによる大人の目をかいくぐるジュブナイルな冒険・交流の模様をじっくり追いかけつつも、風景描写を対比させたりなどして、なおも小気味よく展開していきます。

 そんな口当たりのよい冒険の端々には、たとえば帰ってきた大人たちのうち魚みたいに血の気をなくした友達の父の死に顔など、村の外や夏以外の季節のものごとが消化しきれずにゴロついてもいて。「少女と逢瀬を重ねていくということは、それだけ時間が過ぎていくということでもあるのだなぁ」と読み進めて思ったりもします。

 終盤でわかる今作の世界情勢(=<口なし>コミュニティが精神感応能力によるネットワークを築くことで他を圧倒していて、口あり達は対抗策を細々と練っている)から「じつは今作も"大群をなす巨大なシステムのなかからこぼれれたり潜んだりしている余剰"」のひとつと読めそうなところですが、最後に明かされる事実「僕」が密会をつづけたのは、少女を自分勝手な枠にはめこみ(世間知らずなお嬢さまに、農家のせがれである自分が外に広がる世界を教えるという)じぶん勝手な物語(紋切型のボーイミーツガール的な)を演じることが楽しかったから}も合わせてみれば、「精神感応者のネットワークも排他的で暴力的らしいのだが、ではひるがえって、他者を勝手な枠にはめ込み特定の"物語"をこのむ非精神感応者のわれわれはどうなのか?といった疑問もうまれ、「巨大で大群をなすシステム同士の衝突」といった匂いも感じられます。

 

    ▽『しい日 / Newdays

 (カクヨムにて公開)

 2019年執筆。

「〈雪〉に触れたかどうかなんてことはちっとも重要じゃないのよ。とにかくあれが通り過ぎたあとでは、なにもかもがきっと変わってしまう」

 新しいなにかの到来にたいする漠然とした嫌悪を、具体的にえがいた掌編。

 普段なにげなくおこなう所作をつうじて、夫婦間の溝が露わになる「日常の一コマ(スライス・オブ・ライフ)」という感じのスケッチですが、ちょっと違うのは家の外で世界は特異な現象にみまわれていること。そしてさらには、この物語がこのようなかたちになった大きな法則もまたあるらしい……

 ……つまり三題噺だと云うことですね。

 作品紹介や『カモガワ遊水地』の作品コメントによれば、空舟氏はひとからお題をもらって創作をされていた時期があるようで、ここで紹介した作品もおおくはそんな経緯でうまれたみたい。『新しい日 / Newdaysがそれらと違うのは、作品最後に3つのお題が提示されているところ。

 外部から舞い込んできた異物に対する違和感をナチュラリスティックに描いたこの物語のなかで、マジの外部から舞い込んできた異物(さんだい)はなんだったのか?

 配置の妙をおもしろがったり、クイズとして読んだりするのもまた一興なんじゃないでしょうか。(はたして君はときあかせるか、このさんだいもんだいを!?)

 

    ▽『の門出の日に寄せて』

 (カクヨムにて公開)

 2020年発表。4000字までのSF掌編をつのり、審査員選考の大賞と読者選出の読者賞をきめるかぐやSFコンテスト。今作は「未来の学校」をテーマにした第1回コンテストへの応募作で、受賞こそ逃したものの選外佳作。

 『かぐや姫』であろう「あなた」、にまつわる科学・発明・生命史が、虚実や過去未来ないまぜになって寄せ集まったお話です。

 二人称による私的な語り口と、歴史のビッグネームが出てくる堅い地平とが一体となったコントラストが面白いうえ、とっつきやすい作品でした。

 集まった断章たちのそれぞれで挙げられたものの実際の史実(との差異)を追うもたのしいですが、切れ端の一端一端それ自体がぎゅっと情報が詰まって高カロリーで、それ(ら)自体だけで十二分に満足できる引力があります。とくに終盤の一言の、圧縮力の高さと言ったら……。

 

    ▽「業暗化の女王」

 (今作を収録した同人誌・反‐重力連盟『圏外通信2022』はBOOTHにて販売中)

 2022年発表。ざっとかぞえて3900字前後くらいの掌編です。

 <おはなしの小路>に住む物乞いは、誰でも自分だけの物語を持っている。

 たとえば換気塔から湧き出した煤煙がすべての幹を同じ褐色に染め上げ、そこにとまる虫たちもまた同じ身を包んだ町をでて、夢に見た白い蛾をさがしに旅をはじめた採集家。

 あるいは代わり映えのしない屍体を捌くのに飽き、病棟を出て墓地へ出て珍妙な屍体をもとめてさらに外へ目を向ける病理医。

 ことばはいくつもの喉をわたり歩いて、こうしてきみの耳にまでたどりつく。

 タイトルの工業暗化とは、とある地域が工業化によって大気や周囲が煤などで暗く染まったのにあわせて、その地域にすんでいたとある蛾もまた暗い色の個体が主流となったことを指します。市で進化する生物たち』を読むと、1980年代から2010年代の30年間のあいだで翼が5ミリメートル短くなった(一方、交通事故死は90%減った)ツバメ*7や、カビの生じたナッツや種に発生する菌である有毒物質アフラトキシンを中和したり高脂肪食を処理したりする遺伝子をもつセントラルパークのネズミ*8など、いろいろな動植物のさまざまな都市適応とおぼしき事例が出てきます。

 業暗化の女王」は、<おはなしの小路>、採集家、病理医のおはなしなどが並行して進んでいき、交わったり分かれたりする寓話的な小説です。

 色彩設計やら盲人やら「まぁなんかあるだろ」と思ったものが落ち着くべきところに落ち着いていく構成美で、過去作がたのしめたかたは今作も期待してお金を投じてくれて良いと思います。

 それはそれとして(あるいはだからこそ?)「***」でかぞえて7区切り目、「暑く、永遠に続きそうな昼下がりのこと」で始まるくだりが好きだし、新たな一面がおがめた気分。

 3・4区切り目でさらっとぼくが読み流した設定・バックグラウンドからすれば当然の発展なんですけど、とくにアクションを起こす主体となるなんて思ってなかった端役(ととらえていたもの)が場を動かしたのでびっくりしました。こういう場面があると物語が活き活きして感じられて楽しい。

 

(09/21追記)

 上で話題にした作品のいくつかは、こんどの同人に収録されるようです。発行にさいして仕舞われることはない気もしますが、当該イベントへいらっしゃるかたはそちらのスペースへお寄りになるのも面白いんではないかと思います。

 

 

0827(土)

 ■見たもの■

  エロゲの名曲で一発ブち上げ、総理大臣賞を獲れ

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 NHKBSの大曲花火大会の中継を見ていたら、聞き覚えのある曲が流れてびっくり。IR』の「夏影」だ!

 信州煙火工業さんの創造花火「紫陽花の咲く頃」での一幕でした。見直してみると、かなりしっかり音ハメしてる感じがする。すごい。

 世代交代が進んでいるんだなぁとしみじみしましたが、もうひとつ歳月の流れにびっくりしたことがあって。

 上の文章はTV視聴当時のぼくの心境をとらえたものではないんです。

 実際にはこう。

「えっ『AIR』? いや、まさか……『菊次郎』のほうじゃないさすがに? それとも『トトロ』? あ、あれ、そもそもどういう曲だっけ……?」

 学校の昼食タイムに電波ソング初音ミクがかかると、イントロ段階で大変むずがゆい思いをし、家にかえれば『ニコニコ組曲』を再生して『鳥の詩』を国歌と沸き立つコメを平常心で見送ったぼくは、三十路をすぎて自分のホームグラウンドを見失うようになってしまった。

 飛行機雲どころかすべてがかすみがかっていく年月のなかで、まじめに修行し、そしてこうやって大輪を咲かせた信州のオタクもいるんだな。『AIR』だって人生なんだわ。

 

 

0828(日)

 ■観てる配信■

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 Mリーグで戦うプロ雀士の監督+(監督がドラフトで選んだABCと実力のことなる)配信者3人から成る4人×4チーム合計16人によるオンライン麻雀大会『神域ストリーマーリーグ』が面白い。

 債務者系vtuber天開司さん主催の企画で、節が終わるごとに天開氏ファンの切り抜き職人「田舎者」さん受注による公式ハイライト動画もつくられていて、これがまた素晴らしい。

 オンライン麻雀ゲーム『雀魂』をもちいた対戦のもようは、プロ雀士とゲストによる俯瞰的な実況解説配信がなされるほか、雀卓についた4人は個々に配信枠をとるし、さらにはチームメイトが同時視聴・応援配信(4枠)をとるし……と、ここですでに9つの視点で眺められるわけですが、さらには後日、牌譜検討配信などで振り返えるチームも多々あるので、合計配信時間は莫大になります。

 試合中に選手がリアルタイムで表情を千変万化させたりするのは、アナログ世界の麻雀でも拝めることでしょう。

 神域リーグが面白いのは、音声や映像などを個々にべつべつに配信枠をとっていることで選手が「これを狙いに行きたいのでこれを切ります」と意思や思考を言語化したり「わかんないわかんない!」とパニクった言動をしたりするさまがより分かりやすいかたちで拝めるところにあります。

 前述のとおり周辺の配信もいろいろとあるのでさらにドラマは同時並行展開されていくわけですが(上の動画なら、解説の松本プロは緑のチームヘラクレスの監督であり、ゲストの青森りんこ氏は別のチームの選手とコラボをよくしていて、プロレスとしてそれぞれがそれぞれの選手にちょっと肩入れしたようなやり取りがあったりとか)、上にリンクを張ったハイライト動画は、各視点を丁寧にザッピングしたうえで字幕を漫画風フキダシにすることで「動くマンガ」といったていにまとめていて、非常に見ていて楽しい。

 

 

0824(水)

 ■ネット徘徊■社会のこと■

  「そうなんだ」と信じちゃう、日本に浸透したロシアの現代情報戦

nou-yunyun.hatenablog.com

 リンク先の記事のまけ。寿司の美登利の看板デマ」がおそろしかったです。

 どういったものかというと、ロシアのメディアのデマ記事のうち「ヘイト主張の看板広告」が町中に複数あって複数のアカウントが写メってSNSで発信した」というていのフェイク画像・偽スクショ画像が流布されたものを情報源とするものがある……というお話です。

 リンク先で当該画像が拝めますけどコレはすごいですよ、①その偽のヘイト主張広告自体は変なんです。文章は直訳調だし、主人公である日本の寿司職人の見た目が、アジアンヘイターがえがく見た目になってるとか。

 でも、②その看板を収めた風景写真、というもうひとつのフェイク加工はすごく自然なんです。

 おそらく現実にあるだろう都市の写真、そのパースペクティブや光源・撮影者のカメラの画質にきっちりフェイク情報が合わせてあって、ハメコミ画像感はぜんぜん無い

 

 あくまで③風景写真ツイート(のフェイク切り抜き)というていなので、(③の文脈では副菜だけど、デマ発信者がいちばん伝えたい部分である=)フェイク看板のへんてこさが、(③の文脈ではメインの事物であり関心事である=)②その看板が存在するフェイク風景の実在感によって覆い隠されていて、ぼくはこの画像・ツイートが無数のツイート・画像と並んだら偽物と気づけない自信があります。こわい。

www.otaru-journal.com

www.asahi.com

 「外国人お断り」は裁判沙汰になって数十年経った現在でもなお見かけますから、そもそも「そういう主張が日本の街角に存在していてもおかしくない」と思えてしまうからこそなわけで、そこからどうにかせにゃイカンですね……。

 

 

0827(土)

 ■買ったもの■

  ・トム・マッカーシー監督ティル・ウォーター』AmazonPrimeビデオ4K字幕版

 都市システムとそれに対して探偵する個人の映画として面白かった『スポットライト 世紀のスクープ』監督・脚本(共同脚本)のトム・マッカーシーマサノブ・タカヤナギ撮影監督による最新作。

{いちいち通知とばすのがためらわれるので各自おググリいただきたいですが、上述の作品の上述部分についての魅力については、『忘れないために書きます』さんの記事「トム・マッカーシー『スポットライト 世紀のスクープ』」がまとまってて良いです

(ただまぁ、ネタバレかもわからんですが。というか、記事に惹かれて『スポットライト』を観て「けっこうネタバレだったな」とぼくは思った。そしてそれ以上に、「あの記事を読んだことでこの作品を観られてよかったな」とも思った)

 プライム会員限定で500円セールだったので。itunesは2500円だけど特典映像がつくらしい。お好みで)

 

 

  ・トッド・ダグラス・ミラー監督・製作・編集ポロ11[完全版]』配信版

youtu.be

 500円セール中だったから買った。AmazonPrimeビデオはもちろん、商品ページの表記はHDしかないitunesも実際には4KHDR対応みたい。

 でもitunesの字幕は酷いのでオススメしません。

 というのもitunesのいくつかのビデオは――ググると不満がちらほら出てくるとおり――どうにも世界共通のフォーマットへ無理くり嵌めこむかたちでローカライズされているらしいんですよ。

 だから、英語字幕用の表示位置・タイミングに日本語字幕を全部押し込んでいくような仕様に『アポロ11[完全版]』もなっていて――すでにインターネットでさまざま批判を聞いてきた、英語字幕の表示に合わせるせいで日本語字幕が改行位置や文字数に対する表示時間が短い/長い……という問題のほか――画面に中間字幕(=「発射まであとn時間」とか「今回のミッションの船長ニール・アームストロング」とか、テロップで表示されるやつっす)と音声が同時に展開されるシーンでは、音声を訳した字幕群のあいだに中間字幕が挿し込まれる……という、たいへん混乱をまねく表示になっています。

 

 『アポロ11[完全版]』の中身について。

 アポロ11号の離陸から月着陸、地球への着水帰還までを、無数のフッテージを蔵出しして映したドキュメンタリーです。

 とにかくフッテージが素晴らしい。すげえパッキリした画質の、かっちょええ映像が拝めてとても良い(上の動画で03:03のところとか)。コンソールを弄る手のアップがインサートされたりなど、劇映画的な自由度のある場面もある。

 ボーマンが作業を中断して、眼下を通り過ぎていく陸地の名を挙げていった(3)。フロリダ、ケープコッド、アフリカ。すべてを同時に見ることができた。彼は地球をひとつの球体として初めて目にした人類となった。アンダーズは、地球が月の向こうから昇るという、それまで誰も見たことのない光景を写真に収めた。

 地球が小さくなり、月が大きくなるにつれて、あらゆるものをカメラに収めるのが難しくなっていった。地上の管制官は、宇宙飛行士にもっと単純なテクノロジーを使ってもらう必要があると気づいた。言葉で語ってもらうのだ。「できれば、詩人になったつもりでなるべくたくさん細かく描写してくれませんか(4)

   早川書房刊、マーティン・プフナー(塩原通緒&田沢恭子訳)『物語創生 <ハリー・ポッター>まで、文字の大いなる力』kindle版2%(位置No.8147中 128)、「はじめに 地球の出」

 上に引用したのはアポロ8号のお話なのですが、アポロ11号もまた一大イベントなのでずっと実況しているメディアがいる(っぽい)し、とにかく大きいし多いセクションが同時進行するプロジェクトなので、発射場やスペースシャトルでは無数の報連相やらなにやらがなされており、だから「映画用に後付けナレーションをつける必要がない」(らしい)というのが面白かった。

 そうして言語化されるのは、われわれが思う「ふつう」と違っていて、そこが興味ぶかい。

 たとえばリフトオフ時の心拍数などがリアルタイムでモニタリングされている・報告されるもようが映されたあとのシーン。地球から月へむかう途中、とある作業をおえた一日のおわりに、現状報告を求められる場面があるのですが……

アポロ11号 就寝前にクルーの現状報告を」

放射線レベルを報告する

 アームストロング 11002

 コリンズ 10002

 オルドリン 09003

 健康状態は問題ない 以上だ」

   トッド・ダグラス・ミラー監督『アポロ11[完全版]』0:35:15

 ……そこで聞かれるのは心拍数などではなく放射線レベルであったりする。

 

 まじめな空気の映画なのですが、ごくたまに、劇的な様相がにじむ/個の「顔」が立ち上がることがあり、不意に現れるそんな瞬間にハッとさせられました。

「マイクに頼みがある 胸郭下部の両側にある2つの電極を確認してくれ」

「特に問題はないようだ」

「接続していれば 反応があるはずだが――変動が見られない」

「もし息が止まったら 知らせるよ」

(一同爆笑)

   トッド・ダグラス・ミラー監督『アポロ11[完全版]』0:39:56

 

 そんな具合にフッテージはすばらしいんだけど、無数にフッテージがある(だろう)からこそ、監督のセンスが浮き彫りになる気もしました。

 途中途中の編集や(上の動画で5:05あたりのノリ)、ノーラン監督作品みたいなテンションの劇伴音楽は……うーん、何だろうなぁこれ……。

 映画のなかに、フィルムの粒子を介さない静止画・写真がぽんと出てくると・それも微ズームする~みたいなのが出てくると、ぼくは途端に安っぽいスライドショー味を感じてしまうようです。監督の趣味とじぶんの趣味との間にあるギャップを埋めることができず、ぼんやり観てしまった時間が多少あります。

 

 いろいろな様子が映されているのですが、そして現状についてこまかな実況報告が挿入されたドキュメンタリーなのですが、なんかぬるっと始まってぬるっと終わってしまった印象はあって「具体的にどんな仕事を(今)していて、あれをやったからああいう成果が得られた」みたいな手ごたえは案外うすめ。

(「これだけ無数にひとがいる巨大な区画で、けっきょくこの人たちはそれぞれ何をやっているんだろう?」、みたいな疑問はうかぶ)

 尺は倍はあっても良い気がしましたが、それって枠からハミ出る余剰がほしかったからぼくはそう感じたのであって、「このノリでまとめたところで、そういう余剰はべつに増えないんじゃないか……?」という疑問はいなめません。

 

 

  ・オリヴィエ・アサイヤス監督ルロス』三部作itunes版

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 日本赤軍のテルアビブ空港乱射事件で武器調達をしたり、OPECを襲撃したりその他にもとにかく色々した実在のテロリスト、イリイチ・ラミレス・サンチェスの半生をえがく実録映画です。

 まぁセールでもなんでもない普通のお値段なのですが、itunes以外で取り扱いが終了しているっぽいから買いました。Blu-Rayは持ってるけど、あまりに所蔵がテケトーすぎて、探すだけで1日2日平気でもってかれるので。データで得られるならデータを得たい)

 5時間30分という尺にピッタリ、最高の労働・生活としてのテロリスト映画だと思う。

兵站報連相のための使いっ走らされる下っぱ構成員から、暴力をふるいまくる実働員、中間管理職などなど……立身出世するカルロスをつうじて、テロリストの上下階層を描ききる百科全書・パノラマ的な楽しみもありますし。

 その細部についても、目のつけどころがすごく良いんですよ。

 たとえば9.11以後「おなじみの光景」として広まってしまった感のある「飛行機を一機、テロの対象にする」。この事象ひとつとっても、今作は一筋縄でいかない多彩な雑味があってすばらしい。

カルロス

「ロイター? "ブディア決死隊"のスポークスマンだ

 今回のは警告だ

 次もユダヤのエルアル航空が標的だ。

 ……!」

カルロス

「ロイターに連絡したら――すでに犯行声明を受けたと」

ドイツRZ(革命細胞)員

「誰?」

カルロス

「"クロアチア独立運動" ユーゴ機を撃ったな」

   オリヴィエ・アサイヤス監督『カルロス 第1部 野望篇』0:42:26

 せっかく空港に車を複数台経由して駆けて待ち伏せして、飛行機をロケットランチャーで落としたのに、衝撃で乗ってる車の窓は粉々になるし*9なんとか追っ手をまいて犯行声明の電話をかけたら、じつは撃った飛行機は目当てのものではなかったこと、しかも墜ちた飛行機・乗客と関係がある第三者が手柄を横取りして声明を出したあとであることが分かってトホホ……となったりするんですよ。

 

 ちょっとしたスケッチめいた飛行機テロでさえそんなかんじなので、記事上でも話題にした、カルロスが主役としてがんばったOPEC襲撃のもようだとか、日本赤軍の仕事ぶりまで『カルロス』ではじっくり描かれて素晴らしい。

 そしてそこにはやっぱり、飛行機テロシーンのような――それ以上の――多面性がある。

 『カルロス』に登場するOPECの建物は(スーツのお歴々と書類が集まっているとか、立派な建築であるなど)見た目的に墜としがいのある「格」のあるモニュメントではないんですよ。いやそういう一面もあります。

 でもそれ以上に、給湯室や休憩スペースもそなえている普通の(現実のそれがそうであるような、さまざまな側面・雑味を有した)オフィスであり。

 そしてカルロスたちの行動も、一言に「襲撃」と言っても、場合によっては多くの人手や長い時間をかけざるをえないできごとなんだというのがまじまじ分かる、面倒くさい実態がある。かかわった当事者は気を張るし疲れるし、長引けば生き物である当然として腹も減るし眠くもなる

 襲撃・人質をとって籠城したカルロスたちは、銃撃戦をおえると給湯・休憩スペースに入室、椅子にすわって、テーブルの灰皿のシケモクを吸ったり(『カルロス第二部』0:07:42~)。あるいは交渉で手に入れたサンドイッチを食べようとして*10、手を止めたりする。サンドイッチの中身がハムだったのだ――イスラム教にとって、自分にとって御法度の豚肉だった。(『カルロス第二部』0:28:18~)

 暴力でもって社会に問いかけるテロ――自分と意見の異なる外部にたいしておこしたはずのアクションは、いつの間にか、自分じしんを天秤にかけ揺さぶるリアクションとなってしまったりもする。この多面的な世界で展開される5時間30分はぜんぜん長くない。

 

 ■買ってもいいのではと思うもの■

フレデリック・ワイズマン監督ストン市庁舎』アマプラ版

 サブスクのu-nextで視聴可能になったと思ったら、気づいたらビデオと配信が出ていた。しかも数ヶ月まえらしい。

 itunesはいまだに取り扱いナシ……となるとさすがにもう、itunesには来ないのではないか。ポチってしまっていいのではないか。

 

フレデリック・ワイズマン監督リ・オペラ座のすべて』アマプラ版

 シネフィルWOWOW プラス会員限定の配信ビデオで、8/31に公開終了する。DVDはもってるし、いま半額で買えるからお持ちでないかたはオススメですが、なんだかんだで2013年販売だから、どこまでDVDが持つんだろうか、という疑問もあります。

 めちゃくちゃ面白く、かっこよい。

 多声的で雑多で、だから俗っぽい日常もあれば、あまりに複雑なので黒沢清監督作やトビー・フーパー監督作がふと迷い込む異界もぽんと出てくるし(都市の屋上でおこなわれる養蜂、『オペラ座の怪人』みたいに建物の地下に満ちる水)、背筋が凍るほど崇高な瞬間もある。

 

 

 

*1:まじで「対健常者との~」って書いてある。

*2:球速148km/hコントロールC変化球総変化量8以上の投手を相手にするとミート+10,パワー+10。

*3:「fall to the ground」は「失敗する」とか「転ぶ」とかが主な意味らしい。それだと文章がよくわからないので「地面に伏せて」としたが、じっさい訳はなんなんだろう。

*4:この注がある本文左にはクジラの絵文字があります。

*5:この注がある本文左にはUFOの絵文字があります。

*6:幻冬舎刊(幻冬舎単行本)、円城塔田辺青蛙『読書で離婚を考えた。』kindle61%(位置No.333中 203)紙の印字でp.198、「恐怖新聞通信」より。

*7:草思社(2020年9月25日電子版発行)、メノ・スヒルトハウゼン著(岸由二&小宮繁訳)『都市で進化する生物たち』kindle版37%(位置No.4831中 1739、340ページ中 126ページ)、「chapter 10 都市生物の遺伝子はどこから来たのか」

*8:『都市で進化する生物たち』kindle版44%(位置No.4831中 2088、340ページ中 149ページ)、「chapter 10 都市生物の遺伝子はどこから来たのか」

*9:飛行機への弾着描写は(一瞬のショットとはいえ、それでも「うーん」てなる程度に)バリバリのCGで安っぽいけど、車のフロントガラスが割れるのは真実(現物)なのが良い感じ。あっちよりもこっちのほうが一大事だよね、という必然性があるというか。

*10:最初この記事を書いたとき、上のシケモクのくだりと記憶がゴッチャになって、てっきりサンドイッチも休憩スペースで手に入れたものだと思ってた。